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ウィルと一緒にサラおばさんの元へ鍵を返しに向かうと、待っていてくれたのか、外でウロウロとしていた。
「サラおばさん、鍵ありがとう!」
「あぁ、アンナちゃん!もう、いいのかい?」
「えぇ、十分よ!あれって……私が見てきた水車よりずっとか、改良されていてすごいわね!」
「そうだろ?領地に水車というものを作るから、時間がある大工たちが寄せられたんだけど……最初、変なものを作って……ってみんなが困惑してたんだ。大工たちは、設計図を見て、子どものように目を輝かせていたけど……」
「そうだったの?実際出来上がってみて、どうかしら?」
「とってもいいね!あの水車を使うようになってからは、うちで粉を挽くとどうしてもざらざらとしている感じがするよ!」
「じゃあ、大成功ね!私も食べたケーキやパンが、いつもよりふわふわと舌触りもよかったから、増設はもう決まりね!」
ふふっと笑うと、また作るのかい?とちょっと呆れたような顔をしているサラおばさん。
貴族は、美味しいものに目がない。例えば、葡萄酒だって、領地では飲まれなかったけど、貴族たちは美味しいと競って手に入れたがっているくらいだ。付加価値のあるものなら、コレクターというのもいるが、舌の肥えた貴族を満足させられるものが出来ているだろう。
「お茶飲んでいくかい?それで、待っていたんだけど……」
「えぇ、いただくわ!」
「汚い家だけど……」
「そんなことないわよ!私の執務室の方が汚いわ!」
「えぇ?」
「書類が山のようにあるの……侍女たちが、片付けてくれているからいいんだけど……たまにどうしても触らないで欲しいときとか……」
「獣道ができる!」
「ウィル!」
きょとんとしていたが、サラおばさんは、私の部屋を想像したのだろう。豪快に笑い始めた。サラおばさんが笑うのを見ると、あぁアンバーに帰ってきたなといつも思う。
「サラおばさんは、私の第三のお母様ね!」
お茶を入れてくれている後ろ姿にそう話しかけると、何を言っているんだい?貴族の娘さんがと笑う。
「だって……私にはすでに生んでくれた母がいて、ジョージア様のお母様がいて、そして、アンバー領のお母さんって感じがする。サラおばさんの笑う姿を見ると、あぁ、帰ってきたなって気がするもの」
「調子がいいこと言ってくれるね?」
「そうかしら?」
顔を見合わせて笑いあう。本来なら、私でなく……本当の娘とこうして笑いあう日々もあったんだと思うと胸がギュっと苦しくなるが……それでも、サラおばさんは、特別だった。
「あの子が生きていたら、こんな感じで実家に帰ってきて笑っていたのかもしれないね。アンナちゃんが、お母さんだと言ってくれるなら……私はとても嬉しいよ」
「ごめんなさい……勝手なことを」
「いいや、アンナちゃんがいてくれたからこそ、こうして家族が身を寄せ合って生きていける。カルア……娘には悪いけど、あの子もあの子なりに、自分の道を選んで行ったんだ。応援はとてもできることではなかったけど、アンナちゃんが生きていてくれて、またアンジェラちゃんが、この領地にいてくれることはみんなの希望なんだよ」
「ありがとう……」
机に置いていた手をギュっと握られる。おばさんの手は農家さんらしい手の皮が厚いものだ。農具を持って働いているては、ざらざらでごつごつしている。
私もおばさんの手を握り返した。
「ところで、他にも行く場所があるんだろ?」
「うん、養豚所?をしているらしくって……そこを見に行ってくるつもり!」
「そうかい、そうかい。アンナちゃんがこの地に来てから、どんどん変わっていくね」
「急すぎるかしら?」
「いいや、遅すぎたくらいだから……今の速度でちょうどいいさ!暗くなるといけないから、出発だね!今日は、寄ってくれてありがとう!」
「こっちこそ!サラおばさんの元気そうな顔を見れてよかったわ!近いうちにまた、計画があるから、よろしくね!」
ごちそうさまと席を立ち、ウィルと次なる場所へと向かう。
この後は、ウィルが先導してくれることになっているので、私は、ついて行くだけだ。
レナンテに跨り、私はゆらゆらと揺れていた。
「次は、養豚場だよね?」
「その前に、少し寄りたいところがあるんだけど?」
「どこに寄るの?」
「行けばわかるさ!」
パカパカと馬の蹄の音を聞きながら、初めてアンバー領に来たときを思い出す。本当に酷かった……目を覆いたくなるような惨状といっても過言ではなかったし、臭いもすごかったな……人も、死んだような目をしていたし……そんなことを思いながら、今の光景を見ると、見違えるようだった。
行きかう人々の目は、希望に満ちている人、笑いあいながら歩いている人たち、ちょっと血気盛んで揉め事に発展しそうな人たち……あの頃に比べると、俯いて歩いている人がいないことが、嬉しかった。
そんな様子を見ながら、馬を歩かせていたので、蹄の音が変わり驚く。慌てて下を見ると、石畳の街道がずっと先まで続いていた。
「ウィル!石畳の街道がこんなところまで?」
「あぁ、昨日、リリーから報告があって、姫さんが視察に出るなら、見せて欲しいって。俺も聞かされたときは、驚いたけど……作業速度、早くなってない?」
「早いってものじゃないわ!だって……1ヶ月経っても石切りの町すらできてなかったのに……私がいなかったのって5ヶ月くらいよね?」
「あぁ、それで、ここまで出来てるなら……いよいよ、近衛たちが土木工事のコツを掴んだのか……」
「体が、作られたのかのどっちかね?」
「なよなよしてたもんな……おっさんほどとは言わなくても……せめて、なぁ?」
「ふふっ、今から合流しましょう?ちょうど、お昼どきじゃないかしら?」
じゃあ、行こうか!とウィルと二人で、昼ごはんを食べているであろう土木工事をしている近衛たちの元へと急ぐ。なんだか、私の計画していたところが、少しずつ形になってきていることが嬉しく、思わず笑みがこぼれるのであった。
「サラおばさん、鍵ありがとう!」
「あぁ、アンナちゃん!もう、いいのかい?」
「えぇ、十分よ!あれって……私が見てきた水車よりずっとか、改良されていてすごいわね!」
「そうだろ?領地に水車というものを作るから、時間がある大工たちが寄せられたんだけど……最初、変なものを作って……ってみんなが困惑してたんだ。大工たちは、設計図を見て、子どものように目を輝かせていたけど……」
「そうだったの?実際出来上がってみて、どうかしら?」
「とってもいいね!あの水車を使うようになってからは、うちで粉を挽くとどうしてもざらざらとしている感じがするよ!」
「じゃあ、大成功ね!私も食べたケーキやパンが、いつもよりふわふわと舌触りもよかったから、増設はもう決まりね!」
ふふっと笑うと、また作るのかい?とちょっと呆れたような顔をしているサラおばさん。
貴族は、美味しいものに目がない。例えば、葡萄酒だって、領地では飲まれなかったけど、貴族たちは美味しいと競って手に入れたがっているくらいだ。付加価値のあるものなら、コレクターというのもいるが、舌の肥えた貴族を満足させられるものが出来ているだろう。
「お茶飲んでいくかい?それで、待っていたんだけど……」
「えぇ、いただくわ!」
「汚い家だけど……」
「そんなことないわよ!私の執務室の方が汚いわ!」
「えぇ?」
「書類が山のようにあるの……侍女たちが、片付けてくれているからいいんだけど……たまにどうしても触らないで欲しいときとか……」
「獣道ができる!」
「ウィル!」
きょとんとしていたが、サラおばさんは、私の部屋を想像したのだろう。豪快に笑い始めた。サラおばさんが笑うのを見ると、あぁアンバーに帰ってきたなといつも思う。
「サラおばさんは、私の第三のお母様ね!」
お茶を入れてくれている後ろ姿にそう話しかけると、何を言っているんだい?貴族の娘さんがと笑う。
「だって……私にはすでに生んでくれた母がいて、ジョージア様のお母様がいて、そして、アンバー領のお母さんって感じがする。サラおばさんの笑う姿を見ると、あぁ、帰ってきたなって気がするもの」
「調子がいいこと言ってくれるね?」
「そうかしら?」
顔を見合わせて笑いあう。本来なら、私でなく……本当の娘とこうして笑いあう日々もあったんだと思うと胸がギュっと苦しくなるが……それでも、サラおばさんは、特別だった。
「あの子が生きていたら、こんな感じで実家に帰ってきて笑っていたのかもしれないね。アンナちゃんが、お母さんだと言ってくれるなら……私はとても嬉しいよ」
「ごめんなさい……勝手なことを」
「いいや、アンナちゃんがいてくれたからこそ、こうして家族が身を寄せ合って生きていける。カルア……娘には悪いけど、あの子もあの子なりに、自分の道を選んで行ったんだ。応援はとてもできることではなかったけど、アンナちゃんが生きていてくれて、またアンジェラちゃんが、この領地にいてくれることはみんなの希望なんだよ」
「ありがとう……」
机に置いていた手をギュっと握られる。おばさんの手は農家さんらしい手の皮が厚いものだ。農具を持って働いているては、ざらざらでごつごつしている。
私もおばさんの手を握り返した。
「ところで、他にも行く場所があるんだろ?」
「うん、養豚所?をしているらしくって……そこを見に行ってくるつもり!」
「そうかい、そうかい。アンナちゃんがこの地に来てから、どんどん変わっていくね」
「急すぎるかしら?」
「いいや、遅すぎたくらいだから……今の速度でちょうどいいさ!暗くなるといけないから、出発だね!今日は、寄ってくれてありがとう!」
「こっちこそ!サラおばさんの元気そうな顔を見れてよかったわ!近いうちにまた、計画があるから、よろしくね!」
ごちそうさまと席を立ち、ウィルと次なる場所へと向かう。
この後は、ウィルが先導してくれることになっているので、私は、ついて行くだけだ。
レナンテに跨り、私はゆらゆらと揺れていた。
「次は、養豚場だよね?」
「その前に、少し寄りたいところがあるんだけど?」
「どこに寄るの?」
「行けばわかるさ!」
パカパカと馬の蹄の音を聞きながら、初めてアンバー領に来たときを思い出す。本当に酷かった……目を覆いたくなるような惨状といっても過言ではなかったし、臭いもすごかったな……人も、死んだような目をしていたし……そんなことを思いながら、今の光景を見ると、見違えるようだった。
行きかう人々の目は、希望に満ちている人、笑いあいながら歩いている人たち、ちょっと血気盛んで揉め事に発展しそうな人たち……あの頃に比べると、俯いて歩いている人がいないことが、嬉しかった。
そんな様子を見ながら、馬を歩かせていたので、蹄の音が変わり驚く。慌てて下を見ると、石畳の街道がずっと先まで続いていた。
「ウィル!石畳の街道がこんなところまで?」
「あぁ、昨日、リリーから報告があって、姫さんが視察に出るなら、見せて欲しいって。俺も聞かされたときは、驚いたけど……作業速度、早くなってない?」
「早いってものじゃないわ!だって……1ヶ月経っても石切りの町すらできてなかったのに……私がいなかったのって5ヶ月くらいよね?」
「あぁ、それで、ここまで出来てるなら……いよいよ、近衛たちが土木工事のコツを掴んだのか……」
「体が、作られたのかのどっちかね?」
「なよなよしてたもんな……おっさんほどとは言わなくても……せめて、なぁ?」
「ふふっ、今から合流しましょう?ちょうど、お昼どきじゃないかしら?」
じゃあ、行こうか!とウィルと二人で、昼ごはんを食べているであろう土木工事をしている近衛たちの元へと急ぐ。なんだか、私の計画していたところが、少しずつ形になってきていることが嬉しく、思わず笑みがこぼれるのであった。
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