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いつもこんな気持ち?

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「水車だぁ!」


 私は、思わずレナンテから飛び降りて駆けていく。後ろからは、おなじみのため息が聞こえてくるが聞こえない。

 だって、目の前に水車があるのだから!


「姫さん、待てって!馬っ!」
「レナンテ、お疲れ様!ちょっと、行ってくるから大人しくしていてね!」


 言葉の意味がわかるのか、鳴くレナンテにさらにため息を重ねた。


「これが、我が領の水車ね……確かに見たものとおんなじだぁ!」


 すごいすごいと子どものように飛び跳ねて、水車の周りをウロウロしていた。


「誰だい!怪しいっ!」
「むぅ、怪しいって、私のこと?」
「他に……って、アンナちゃんじゃないかい!」
「サラおばさん!久しぶりね!」
「まさか、領主が水車を見て飛び跳ねてるだなんて思いもしなかったよ……」


 残念な者でも見たというふうなサラおばさんに、失礼ね!と笑うと、仕方ないだろ?と笑われた。
 相変わらず、豪快な笑いで、一緒に大笑いする。私のあとを馬をおいてやってきたウィルが、顔を出す。


「これは、どうなっているの?」
「私、怪しい人だって!失礼だと思わない?」
「……妥当な話だと思うけど?」
「えっ?ウィルもそう思うの?」
「当たり前だろ?ここは、領主主導の実験場なんだから、違う領地から調査に来ている場合もあるし……ちょっと、危機管理足りなくない?」


 そうかしら?と首を傾げると、私たちの様子をみて、また、サラおばさんは笑う。


「あんたたちは、ここに来た日からずっと、そうだね?いっそ夫婦なのかと思っていたくらいだったけど……」
「何々?身分さの恋ってやつ?ウィルくん、そこのところどうなの?」
「どうなのって言われても、どうもないけど?」
「なんだ、つまらない……」


 空笑いするサラおばさんとあのさぁ……と呆れるウィル。
 私が振った話ではないので、もう自然消滅させておこう。


「ところで、サラおばさん!この水車どう?」
「これかい?」
「そう、これ!よその領地で見つけてきたんだけど……使い勝手とかどうかなって……」
「あぁ、よその領地からの取り入れ品かい。これは、とても画期的だね!私たちが、冬の間小麦をひいていたんだけど……人間がすることには、どうしても粗が出るからね?その点、川の水で一定の早さでするもんだから、いつも以上に綺麗な粉で、とても驚いていたところさ!」
「だよね?私も、ついこないだ視察に出たときに見つけたんだけど……こんな画期的なものがあるなんて、知らなかったの!」
「姫さん、俺も見てきていい?」
「いいよ!私も、中を見に行こうと思ってるから!」


 ウィルに声をかけると、サラおばさんがちょいとお待ちと待ったをかけた。


「どうしたの?」
「ここの管理は、常に見ている人がいないから、鍵をかけてあるんだ」
「そうなんだ?上質な粉だからね……欲しい人は欲しいようで。店で売るんだろ?」
「うん、そのつもり!昨日、この粉で作ったケーキを食べたんだけど……ふわっふわで!貴族向けに売れるよう、量産したいな……なんてね?」
「量産ね……小麦を2期から3期にするってことかい?」
「それも考えたけど……畑を休ませる時間もいるでしょ?」
「あぁ、もちろん。この前、話をしていたんだけどね、2期の畑と3期の畑をわけて作ったらどうかって。それなら、畑の休まるときもまちまちになるからいいんじゃないかって」
「なるほどね……いいかもしれない!ここだけの話……結構いい値で輸出が決まったの。その分をどうしようか悩んでいたんだけど……」
「今年から、その試みをしてみようって話をビルさんたちともしてたんだ。あの、なんだっけ……女の子と……」
「クレア?」
「そう、あと一人……」
「スキナね!」


 そうそうと微笑むサラおばさん。年を取ると……と笑ってはいるが……私も言われるまでちょっと忘れていた。


「あのクレアっていうお嬢さんは、本当に農業のことをよく知っていて、こっちが驚かされるわ!長年、麦農家をしていたなんて、恥ずかしくて言えない程……農業のことならなんても知っていてすごいわね!」
「それが、クレアの仕事だからね!研究職だから……」
「新しい植物も植えたって聞いたけど……それは、どうなっているんだろうね?」
「そうね?収穫は終わっているはずだけど……まだ、昨日、私がアンバーに着いたばかりで聞いていないのよね……」


 鍵を取りに歩いてサラおばさんの家に向かっている途中、ここ数ヶ月の話を聞いた。アンバー領には、長雨の影響はなく、例年通りであったことを教えてもらえたら、よかったと自然と笑みがこぼれた。


「じゃあ、これが鍵だ。見終わったら、返しに来てくれるかい?」
「えぇ、わかったわ!じゃあ、借りていくから!」


 私とウィルは、元来た道を戻り、念願の水車の中へと向かう。私は、中を見たことがあるが、ウィルのほうは、外も中も初めてだった。


「俺、こんなの見たの初めて!」
「ワクワクしない?」
「するかも……姫さんってさ、何にでもこんな気持ちなわけ?」
「ふふっ、そうよ!何にでも興味があって、楽しくて仕方ないの!」


 なるほど、初めて姫さんの気持ちがわかったよと微笑むウィルに今日は私が苦笑いをする。
 鍵をあけて中に入ると、水車の歯車によって回されている石臼が音を立てて回っていたのであった。
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