ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
667 / 1,513

いつもこんな気持ち?

しおりを挟む
「水車だぁ!」


 私は、思わずレナンテから飛び降りて駆けていく。後ろからは、おなじみのため息が聞こえてくるが聞こえない。

 だって、目の前に水車があるのだから!


「姫さん、待てって!馬っ!」
「レナンテ、お疲れ様!ちょっと、行ってくるから大人しくしていてね!」


 言葉の意味がわかるのか、鳴くレナンテにさらにため息を重ねた。


「これが、我が領の水車ね……確かに見たものとおんなじだぁ!」


 すごいすごいと子どものように飛び跳ねて、水車の周りをウロウロしていた。


「誰だい!怪しいっ!」
「むぅ、怪しいって、私のこと?」
「他に……って、アンナちゃんじゃないかい!」
「サラおばさん!久しぶりね!」
「まさか、領主が水車を見て飛び跳ねてるだなんて思いもしなかったよ……」


 残念な者でも見たというふうなサラおばさんに、失礼ね!と笑うと、仕方ないだろ?と笑われた。
 相変わらず、豪快な笑いで、一緒に大笑いする。私のあとを馬をおいてやってきたウィルが、顔を出す。


「これは、どうなっているの?」
「私、怪しい人だって!失礼だと思わない?」
「……妥当な話だと思うけど?」
「えっ?ウィルもそう思うの?」
「当たり前だろ?ここは、領主主導の実験場なんだから、違う領地から調査に来ている場合もあるし……ちょっと、危機管理足りなくない?」


 そうかしら?と首を傾げると、私たちの様子をみて、また、サラおばさんは笑う。


「あんたたちは、ここに来た日からずっと、そうだね?いっそ夫婦なのかと思っていたくらいだったけど……」
「何々?身分さの恋ってやつ?ウィルくん、そこのところどうなの?」
「どうなのって言われても、どうもないけど?」
「なんだ、つまらない……」


 空笑いするサラおばさんとあのさぁ……と呆れるウィル。
 私が振った話ではないので、もう自然消滅させておこう。


「ところで、サラおばさん!この水車どう?」
「これかい?」
「そう、これ!よその領地で見つけてきたんだけど……使い勝手とかどうかなって……」
「あぁ、よその領地からの取り入れ品かい。これは、とても画期的だね!私たちが、冬の間小麦をひいていたんだけど……人間がすることには、どうしても粗が出るからね?その点、川の水で一定の早さでするもんだから、いつも以上に綺麗な粉で、とても驚いていたところさ!」
「だよね?私も、ついこないだ視察に出たときに見つけたんだけど……こんな画期的なものがあるなんて、知らなかったの!」
「姫さん、俺も見てきていい?」
「いいよ!私も、中を見に行こうと思ってるから!」


 ウィルに声をかけると、サラおばさんがちょいとお待ちと待ったをかけた。


「どうしたの?」
「ここの管理は、常に見ている人がいないから、鍵をかけてあるんだ」
「そうなんだ?上質な粉だからね……欲しい人は欲しいようで。店で売るんだろ?」
「うん、そのつもり!昨日、この粉で作ったケーキを食べたんだけど……ふわっふわで!貴族向けに売れるよう、量産したいな……なんてね?」
「量産ね……小麦を2期から3期にするってことかい?」
「それも考えたけど……畑を休ませる時間もいるでしょ?」
「あぁ、もちろん。この前、話をしていたんだけどね、2期の畑と3期の畑をわけて作ったらどうかって。それなら、畑の休まるときもまちまちになるからいいんじゃないかって」
「なるほどね……いいかもしれない!ここだけの話……結構いい値で輸出が決まったの。その分をどうしようか悩んでいたんだけど……」
「今年から、その試みをしてみようって話をビルさんたちともしてたんだ。あの、なんだっけ……女の子と……」
「クレア?」
「そう、あと一人……」
「スキナね!」


 そうそうと微笑むサラおばさん。年を取ると……と笑ってはいるが……私も言われるまでちょっと忘れていた。


「あのクレアっていうお嬢さんは、本当に農業のことをよく知っていて、こっちが驚かされるわ!長年、麦農家をしていたなんて、恥ずかしくて言えない程……農業のことならなんても知っていてすごいわね!」
「それが、クレアの仕事だからね!研究職だから……」
「新しい植物も植えたって聞いたけど……それは、どうなっているんだろうね?」
「そうね?収穫は終わっているはずだけど……まだ、昨日、私がアンバーに着いたばかりで聞いていないのよね……」


 鍵を取りに歩いてサラおばさんの家に向かっている途中、ここ数ヶ月の話を聞いた。アンバー領には、長雨の影響はなく、例年通りであったことを教えてもらえたら、よかったと自然と笑みがこぼれた。


「じゃあ、これが鍵だ。見終わったら、返しに来てくれるかい?」
「えぇ、わかったわ!じゃあ、借りていくから!」


 私とウィルは、元来た道を戻り、念願の水車の中へと向かう。私は、中を見たことがあるが、ウィルのほうは、外も中も初めてだった。


「俺、こんなの見たの初めて!」
「ワクワクしない?」
「するかも……姫さんってさ、何にでもこんな気持ちなわけ?」
「ふふっ、そうよ!何にでも興味があって、楽しくて仕方ないの!」


 なるほど、初めて姫さんの気持ちがわかったよと微笑むウィルに今日は私が苦笑いをする。
 鍵をあけて中に入ると、水車の歯車によって回されている石臼が音を立てて回っていたのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...