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準備を整える話
しおりを挟む「今日の謁見は、ここまででいいですか?」
「普通、謁見の終わりはこちらからいうものだと思うが……いいだろう。謁見というより対策会議であったな……」
「対策会議ですか?こんなの対策会議のうちに入りませんよ?」
「はっ?」
「えぇ、こんな感じじゃないですよ……もぅ、完膚なきまでにされますから……」
「アンナリーゼがか?」
「当たり前です!うちには、優秀な頭脳の持ち主が二人もいるのですよ!生半可なアイデアなんて持っていったら……コテンパンにされますよ!最近は特に……」
セバスの方をちらりと見ると、どうしましたと微笑む。その微笑みは、最近恐怖でしかない。
「このアンナリーゼがなぁ……俺より若いのに、結構いろいろな経験をして、導き出している領地運営だと思っていたが……」
「領地運営歯、一人では出来ませんよ。それぞれがそれぞれを補いながら、やっと健全な領地となるのです。最底辺からの成り上がり領地ですからね!自由にできることで、いい人材が集まっている……そう思えますよ!公は、しがらみが多いですからね?削ぎ落して差し上げたはずでも、公妃が1番の足枷でしょう?」
「姫さん、それは言っちゃダメなやつね?」
「……思わず出てしまったわ」
「思わずとか思ってもないことをいうものじゃないなぁ?足枷か……確かに、この国で影響力があるものは、筆頭公爵のアンナリーゼではなくゴールド公爵だろうな」
「トカゲのしっぽ切りばかりされるから、なかなか引きずり下ろせないんですよね!無駄に公妃とかに娘がなっちゃってるから、さらに、人が集まりやすい。第三妃擁立も、糸をひいていたのは、ゴールド公爵なのでしょうね?娘には知らせずに」
「はぁ?娘に知らせずにどうやって……公世子妃にいじめられる可哀想な第三妃という肩書が欲しかったのでしょう。強かにこの国を狙っているのですから」
「確かに、血筋から行けば、ゴールド公爵家も並ぶことは可能だが、それほどまでになりたいものか?」
「それは、本人に聞いてみてはいかがですか?私は、興味もありませんけど!それよりかは、自由に遊びまわれる領地でとことん遊んでいたいです!」
ニッコリ笑いかけると、気楽でいいな……とため息をつかれたが、私も統治者として、そこまで気楽なわけではない。
「さて、雑談はここまでにして、屋敷に戻りますわ!アンバー領へ帰る準備をしないと行けませんから!」
「帰るのか?」
「私の領地へ帰るのに、公の許可が必要ですか?領地で私のことを待っていてくれる人がいるのです。新しいことをする予定ですし、忙しいのですよ?」
「薬は、どうするんだ?」
「すでに、ハニーアンバー店へ薬を運ぶ手配は整っています。公との交渉が済まないと事が進みませんから……それに、私の役目は、ここまでです」
では……と席を立つ。隣に座っているレオも倣って立ち上がった。
行きましょうかとレオの手を取り、歩き始めた。
部屋を出る直前に、そうそうと振り返る。
「後の話はセバスに伝えてあるから、パルマ、引継ぎをしてもらいなさい!しっかり、爵位の取得と公に大きな恩をできるだけたくさん売ってきてね!」
「わかりました!期待に添えるように頑張ります!」
「ではっ!」
「アンナリーゼ!」
「公、1日も早いローズディアの回復を!」
淑女の礼をとり、私は部屋を退出した。いつまでいても、きっと、変わらない話にいつまでも付き合ってはいられない。
「アンナ様?僕の書いたメモを見てもらってもいいですか?」
「えぇ、いいわよ!馬車の中で見せてちょうだい!」
ちゃんと、見せるようにともってきてくれたようだ。あの場で、公の採点はしなかったが、殆ど筆が止まっていたので何も書けてはいないだろう。
「今日の謁見は、普通のとは違ったんだけど……どうだったかしら?」
「……いつもアンナ様たちが領地で意見を言い合っている様子と同じでした!」
「そうね。本来、この城でも同じような話合いの時間は作られるべきなのだけど……公とそういう議論をしたい人物が少なすぎるのよ!あと、今回は、いろいろと後手に回っているから、領主との信頼関係を取り戻すことが大変ね。そのあと、国民との信頼関係をって話だけど……そこまで、回るかしらね?」
「アンナ様はいつも領民の方を向いて話をしましょうというのは、領民との信頼関係を築くためなのですか?」
「えぇ、そのつもり。領民の話ばかりを聞いてしまうと、うまくいかないこともあるけど、誰のために、何のためにが明確でなければ、いけないと思うの。結局、私たち貴族を支えてくれているのは、他の誰でもない領民なの。領主は、まず、税での利益を追うのだけど……間違ってはいないわよ?ただ、その利益は貴族に還元されるのではなく、領民の生活が豊かになるように還元されないといけないの」
「それが、街道整備とか農地改革とかですか?」
「そうね!ハニーアンバー店もそのうちのひとつよ!」
馬車に乗り込み、屋敷までの間に話をする。繰り返しになる子ともあるだろう。ウィルに聞いたこともあるだろうし、先生をしているセバスに教えてもらったこともあるに違いない。
元々レオは、男爵家の次男だ。長男を支える立場にはあったので、勉強することもあったかもしれない。
ただ、今は、一代限りの伯爵であるウィルの子どもだ。爵位を引き継ぐことは出来ないが、こうして身に着けて置くことは、今後を考えても必要だろう。
百聞は一見に如かず。今日の変な謁見も、レオの人生に役立ててほしいと、レオの頭を撫でた。
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