上 下
662 / 1,480

進む話

しおりを挟む
 660. 進む話

 さて、パルマが話に入ったところで、情報共有を始める。


「あの、僕、途中から入ったので、殆どわからない状態なのですが……」
「今から説明をするわ!えっと、誰からにする?」


 周りを見渡すと、自分じゃないという顔をする公と全部は把握しきれていないので言い出しにくそうしている宰相とアンバー領へ帰ることが決まっているセバスがお見合いをしている。


「はぁ……、こういうときにこそ、率先して、公から話すか、公が指名するのがいいと思いますよ?まさかと思いますが、誰がどれだけ把握しているかしらないとか、ないですよね?」
「そんなことは、ない。宰相、アンナリーゼとパルマに説明をしてやれ」
「……トライド、説明出来ますか?」


 結局、セバスが説明するよう言われているので、私は、領地で話をするようにしましょうと提案する。
 主に話をするのは、私とセバス、パルマだけだろう。


「公は、何もしないのなら、書記をしてください!」
「いや、それは、もっと下の者がするべきではないか?」
「そうですか?手があいているのが、公だけなのですから、それくらいしてください。書くことで頭にも入るでしょうから!」


 私は、公に少々いらだってもいた。
 そんな私の服の袖を引っ張るレオにどうしたの?と問うと、自分もやってみたいと言い出した。やってみたいことは、進んでやらせるべきだ。紙とペンを渡してやる。


「公、どちらが上手に聞き取りが出来たか、あとで比べましょう!」
「はい、アンナ様に褒めてもらえるよう頑張ります!」
「頑張り屋のレオはいつでも褒めてあげるわ!」


 ニコニコと笑いかけると、ひくっと公が引きつっているのが、目の端の方で見えた。
 見なかったことにして、私は話を進めて行く。


「じゃあ、いつものようにいくわね?今回、問題になっているのは、伝染病ね。コーコナ領でも一部の村と町で流行ったの。原因は長雨らしいんだけど……それだけじゃないと、ヨハンは考えているみたい。
 そこで、今回の議題ね。南の領地の方でも同じような伝染病が流行っているの。原因はオークションによる人身売買」
「オークションって、あの赤い涙とかを売っていたところですよね?」
「そうよ、パルマ。でも、私が選んでいるところは、ちゃんと裏の裏まで見ているから、裏オークションみたいなものには、手を出していないの。一応、投資も含めて考えているから調べに調べてはあるのよ!」


 なるほどとパルマは頷いた。


「それで、人身売買って、どこから人を連れてきているのですか?」
「インゼロね。今回の伝染病は、人身売買で連れて来られたうちの誰かが、患っていたのよ。それが、知らずに同じ場所の人にうつり、買われた先でうつり、人の移動で広がって行ったっていうのが、現状。今のところ、この地図を見て、南に近いところで感染者が出ていない場所は、セバスが事前に知らせていたところなの」
「どうして他のところには連絡が行っていないのですか?」
「それは、公から説明あるわ!」
「……それが、トライドからの情報を見逃してしまって……」
「こんな人の生き死にがかかっているようなこと、何をおいても1番最初に手をかけるべきものでは……はっ、出すぎた真似を……」
「いいのよ!もっと言ってやって!」


 私はパルマを煽るようにいうと、ウィルに睨まれる。一言多いと言っているのだろう。


「こ……コホン。それで、人身売買については、私の預かり知らぬところではあるので、伝染病の方の話ね。
 さっきも言った通り、コーコナ領でも同じものが流行ったのよ。それで、ヨハンが対処してくれているのだけど……この伝染病、子どもにしかうつらなかったんだけど……変異して、今は、大人にもうつるの。その感染力も半端なく……うちは幸い、町と村を隔離してなんとかなったけど……」
「ここまで広がっていたら、もう、どうなるかわからないよね」
「そうなの。セバスが言う通り。これは、報告を受けて作られたものだから、実際はもっと進んでいると思っていいいと思うわ!国内の感染病ではないから、抗体もないし、薬もない。だから、この倍に広がっていると見てちょうだい」
「それで、どうするつもりですか?」
「まずは、医師の派遣ね。ヨハンには言ってあるから、何人か助手を回してくれるわ!他にもこの国にいる医者でなんとかしてもらわないと!その要望を公に承認してもらう。
 あとは、薬なんだけど……これは、うちの店で独占販売させてもらうことになったから!」
「では、その薬を配る人員の確保と医師や薬を作った後等の後方支援をする人が必要ですね。でも、そんな病気が蔓延しているような場所へ進んで行ってくれる人はいるでしょうか?」
「いないわね!だって、どう見ても、公に人望があると思えない!」
「あ、アンナリーゼ?」
「本当のことなので、黙っていてください。そうすると……私の名前で動かす分けには行かないから、領主たちに協力を得るのよ」
「わかりました。手紙については、宰相様どうされるのがいいのか一緒に考えてください」
「わかりました」
「あと、どうしても必要な人物がいますね。セバス様やイチアさんがいてくれればいいでしょうが……そういうわけにもいけないでしょうし……」


 パルマはセバスを見て、ため息をついたが、逆にセバスは微笑んだ。


「パルマが行けばいい。若いとはいえ、アンバーで十分鍛えられている。だいたい、アンナリーゼ様の要望に応えられるものが優秀でないわけがないんだから!行って、公に恩を売って、アンナリーゼ様を支えるんだ」
「わかりました!そういう考えもあるんですね!」
「パルマ、ここでひとつ、公にお願いしておきましょう!」
「嫌な予感がする……」
「無事、伝染病が収まったら、パルマにも爵位をあげてください!危ないところへ向かうのですから!」


 ほらきた!と言う顔をする公だが、素直に頷いてくれる。公の犯した過ちを正しにいく若者に、ご褒美は必要だろう。
 約束を取り付けたところで、詳細へとうつっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄の場に相手がいなかった件について

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。 断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。 カクヨムにも公開しています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...