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進む話

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 660. 進む話

 さて、パルマが話に入ったところで、情報共有を始める。


「あの、僕、途中から入ったので、殆どわからない状態なのですが……」
「今から説明をするわ!えっと、誰からにする?」


 周りを見渡すと、自分じゃないという顔をする公と全部は把握しきれていないので言い出しにくそうしている宰相とアンバー領へ帰ることが決まっているセバスがお見合いをしている。


「はぁ……、こういうときにこそ、率先して、公から話すか、公が指名するのがいいと思いますよ?まさかと思いますが、誰がどれだけ把握しているかしらないとか、ないですよね?」
「そんなことは、ない。宰相、アンナリーゼとパルマに説明をしてやれ」
「……トライド、説明出来ますか?」


 結局、セバスが説明するよう言われているので、私は、領地で話をするようにしましょうと提案する。
 主に話をするのは、私とセバス、パルマだけだろう。


「公は、何もしないのなら、書記をしてください!」
「いや、それは、もっと下の者がするべきではないか?」
「そうですか?手があいているのが、公だけなのですから、それくらいしてください。書くことで頭にも入るでしょうから!」


 私は、公に少々いらだってもいた。
 そんな私の服の袖を引っ張るレオにどうしたの?と問うと、自分もやってみたいと言い出した。やってみたいことは、進んでやらせるべきだ。紙とペンを渡してやる。


「公、どちらが上手に聞き取りが出来たか、あとで比べましょう!」
「はい、アンナ様に褒めてもらえるよう頑張ります!」
「頑張り屋のレオはいつでも褒めてあげるわ!」


 ニコニコと笑いかけると、ひくっと公が引きつっているのが、目の端の方で見えた。
 見なかったことにして、私は話を進めて行く。


「じゃあ、いつものようにいくわね?今回、問題になっているのは、伝染病ね。コーコナ領でも一部の村と町で流行ったの。原因は長雨らしいんだけど……それだけじゃないと、ヨハンは考えているみたい。
 そこで、今回の議題ね。南の領地の方でも同じような伝染病が流行っているの。原因はオークションによる人身売買」
「オークションって、あの赤い涙とかを売っていたところですよね?」
「そうよ、パルマ。でも、私が選んでいるところは、ちゃんと裏の裏まで見ているから、裏オークションみたいなものには、手を出していないの。一応、投資も含めて考えているから調べに調べてはあるのよ!」


 なるほどとパルマは頷いた。


「それで、人身売買って、どこから人を連れてきているのですか?」
「インゼロね。今回の伝染病は、人身売買で連れて来られたうちの誰かが、患っていたのよ。それが、知らずに同じ場所の人にうつり、買われた先でうつり、人の移動で広がって行ったっていうのが、現状。今のところ、この地図を見て、南に近いところで感染者が出ていない場所は、セバスが事前に知らせていたところなの」
「どうして他のところには連絡が行っていないのですか?」
「それは、公から説明あるわ!」
「……それが、トライドからの情報を見逃してしまって……」
「こんな人の生き死にがかかっているようなこと、何をおいても1番最初に手をかけるべきものでは……はっ、出すぎた真似を……」
「いいのよ!もっと言ってやって!」


 私はパルマを煽るようにいうと、ウィルに睨まれる。一言多いと言っているのだろう。


「こ……コホン。それで、人身売買については、私の預かり知らぬところではあるので、伝染病の方の話ね。
 さっきも言った通り、コーコナ領でも同じものが流行ったのよ。それで、ヨハンが対処してくれているのだけど……この伝染病、子どもにしかうつらなかったんだけど……変異して、今は、大人にもうつるの。その感染力も半端なく……うちは幸い、町と村を隔離してなんとかなったけど……」
「ここまで広がっていたら、もう、どうなるかわからないよね」
「そうなの。セバスが言う通り。これは、報告を受けて作られたものだから、実際はもっと進んでいると思っていいいと思うわ!国内の感染病ではないから、抗体もないし、薬もない。だから、この倍に広がっていると見てちょうだい」
「それで、どうするつもりですか?」
「まずは、医師の派遣ね。ヨハンには言ってあるから、何人か助手を回してくれるわ!他にもこの国にいる医者でなんとかしてもらわないと!その要望を公に承認してもらう。
 あとは、薬なんだけど……これは、うちの店で独占販売させてもらうことになったから!」
「では、その薬を配る人員の確保と医師や薬を作った後等の後方支援をする人が必要ですね。でも、そんな病気が蔓延しているような場所へ進んで行ってくれる人はいるでしょうか?」
「いないわね!だって、どう見ても、公に人望があると思えない!」
「あ、アンナリーゼ?」
「本当のことなので、黙っていてください。そうすると……私の名前で動かす分けには行かないから、領主たちに協力を得るのよ」
「わかりました。手紙については、宰相様どうされるのがいいのか一緒に考えてください」
「わかりました」
「あと、どうしても必要な人物がいますね。セバス様やイチアさんがいてくれればいいでしょうが……そういうわけにもいけないでしょうし……」


 パルマはセバスを見て、ため息をついたが、逆にセバスは微笑んだ。


「パルマが行けばいい。若いとはいえ、アンバーで十分鍛えられている。だいたい、アンナリーゼ様の要望に応えられるものが優秀でないわけがないんだから!行って、公に恩を売って、アンナリーゼ様を支えるんだ」
「わかりました!そういう考えもあるんですね!」
「パルマ、ここでひとつ、公にお願いしておきましょう!」
「嫌な予感がする……」
「無事、伝染病が収まったら、パルマにも爵位をあげてください!危ないところへ向かうのですから!」


 ほらきた!と言う顔をする公だが、素直に頷いてくれる。公の犯した過ちを正しにいく若者に、ご褒美は必要だろう。
 約束を取り付けたところで、詳細へとうつっていった。
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