ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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人命救助

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 泥だらけになった私を見て、アデルが慌てる。


「アンナ様、それは!」
「いいの!気にしてないわ!それより……巻き込まれた家の住民なんだけど……」
「今、調べているところですが、アンバーと違って住民票がないので、わからなくて……」
「コットンが協力してくれるわ!あと、聞いた話だけど、八名ね!今、大人男女一名ずつと子どもが
 一名救助されたわ!計算すると、残り五名になるけど……他の住民にも、いない人がいないか確認
 取ってほしいの!」
「わかりました。では、こちらで。救護された方々は、今どこに?」
「コットンの家に運び込んだわ!そこを救護施設と仮にさせてもらいます」


 私は、コットンから了承得て、助かった三名を運んでもらった。
 そこに、リアンやヨハンの助手を配置する予定である。


「リアンは、来たかしら?」
「リアンさんが、こられるのですか?」
「えぇ、来るわよ?不都合?」
「いえ、そういうわけでは……」
「炊き出しやヨハンの助手のお手伝いもしてもらわないといけないし……人手が必要よ!」
「あっ、そうだ!炊き出し!」


 アデルの声に、私も準備をしていないことに気が付いた。仕方がない……領地の各地から、集める人材もいる。


「人が足りない!」
「いつも人手不足ですね……炊き出しに関しては、なんとかしてみます。それより、救助についてです
 けど……どうしましょうか?」
「今、とりあえず、人海戦術で、掘り起こしてもらっているけど……あと五人。無事に救出されて
 ほしい……人も替え替えじゃないと、さすがに疲れてしまうから、昼と夜の部に分けて、半分ずつ
 休んでもらいましょ!事故も起こりやすいし、暑いからね……何といっても」


 汗を拭う。


「ここに作業している人たちを集めるから、割り振りしてくれる?夜の作業は危ないから、十分気を
 付けるよう伝えてくれる?」
「アンナ様はどうするのです?」
「私は、今から、叫びに行ってくる!」


 そういって駆けていく。呼び止めようとしたアデルには見向きもせず。


「誰か!誰かいませんかぁ!いたら音を出して!」


 スコップを持って災害現場を歩き回る。広範囲である中で五人を見つけないといけない。今は、夜だし雨も続いている。
 微かにカタッという音がした。聞き間違い出ないことを願いながら、もう一度耳を済ませる。
 次の音は、聞こえない。


「誰か、誰かいるの!どこ?音出して!」


 微かに聞こえる、カンカンという音が聞こえた。


「救助者いるかも!誰か、手伝って!こっちよ!」


 アデルの話を聞いて、また作業に戻ってきた人たちに声をかけると、走ってきてくれた。


「どこですか?領主様!」
「ここらへんだと思うんだけど……」


 ときたま聞こえるカンカンという音。その音もなんだか弱々しい。


「急ぎましょう!」



 そういって音のするところを掘り進めた。するとお腹が見えた。圧迫されているのか、とても苦しそうにしている。


「いたわ!」
「手伝ってくれ!」


 埋まっている人を傷つけないように慎重に掘り進める。
 顔の回りの土を取ったとき、ふぁああ!と大きく息をする。何度も何度も……空気が少なかったらしい。家具と家具の間に体が挟まってはいたが、擦り傷だけで済んだようだ。それより、酸素が足りなくて、藻掻いてらしい。
 男性が救出した少年を背中におんで、救護施設に駆けて行ってくれた。


「アンナリーゼ様!」
「どうしたの!」
「一人発見できました」


 ただ、誰もそれ以上の言葉を発しようとしない。恐る恐る向かうと、土の中、静かに眠るように横たわっていた。


「息をしていません!」
「わかったわ、救護施設の方に連れて行ってくれる?」


 わかりましたと担ぐ。
 お年寄りであった。逃げ遅れたのと、酸素不足で亡くなったのだろう。

 ……助けられなかった。あんなに準備をしていたのに……あんなに……

 自然と拳はきつく握る。

 悔しい。領民の命を守ること、産業を守ることを一番に考えて準備していたのに……


 手のひらに爪が食い込んでいく。


「領主様、自分を責めちゃいけねぇ!領主様は、よくやってくれたんだ。領主様が指示をしてくれれて
 いなかったら、死者も行方不明者ももっと出ているはず」
「そうね!まだ、見つかっていない三名もいるのだもの!手を抜けないわ!」


 俯きそうになった私に声をかけてくれた領民に奮い立たせてもらい、重い足を動かした。

 とにかく、私は声を張り上げる。ただ、それに反応する声や音はなかった。
 どこに埋まっているかわからないので、上から掘り起こすという話になったのだが、10人程は下から進めることになった。
 私は、そちらに混ざり、泥だらけになりながら、スコップを動かく。ときどき、叫んで反応がないか確認をしても、やはり、帰ってくる返事はなかった。

 夜通し掘り進めていたが、日が昇り始めたのか薄暗い中でも明るくなってきた。
 あれから、誰も見つからない焦る気持ちがあるが……こればかりは、時間がかかる。


「そろそろ、交代ね!夜動いてくれた人は、上がってちょうだい!」


 叫ぶと、一番奥から「発見っ!」の声が聞こえてきた。
 亡くなった老人ぶりの発見に急いで向かう。


「発見されたって……」


 私の泥だらけの格好を見て、みな疲れた顔をしていたが、顔が引き締まる。領主であり、女である私が、一晩中、声をかけていたこともスコップ持って動き回っているのも知っていた。


「あぁ、領主様。生きてますぜ!慌てて箪笥の中に入ってしまったらしいんだ。ひっくり返った箪笥
 から出られなくなったらしい。傷ひとつない!」


 女性が箪笥の中から出てきた。少し恥ずかしそうに……


 残るは、二人……その前に、夜間動いてくれていた人たちの電池がきれそうであった。
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