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大人しく寝てください!

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 コンコンっとノックされるので、しばらく黙っている。

 ちょっと、今、見られたらまずい……

 返事がなかったことで、心配させたのであろうリアンが入ってきた。


「アンナリーゼ様、大丈夫……で……すか?」
「……あっ、はい……大丈夫です」


 寝室に入ってきたリアンは、目を見開き私を見た。その目は、驚きからだんだんと子どもを叱る母のような鋭い目つきに変わっていく。


「アンナリーゼ様!」
「……はい」
「今日は、ゆっくり休むようにとみなが言いましたけど、何をなさるつもりだったんですか?」


 夜着にガウンを羽織ろうとしたところで見つかってしまったので、中途半端な状態だった。
 何をしようとしていたのか……それは、ダドリー男爵が残した手記でも読もうと思い、執務室へと向かう準備をしていたところだった。


「退屈だから、本でも読もうかと思って……」
「それなら、言ってくださったら、私が取りに行きます」
「でも、隠し部屋……」
「私を誰だと思っているのですか?ダドリー男爵は私の元夫でしたし、隠し部屋については、メイドで
 あった私は知っています!どこに何があるのか……男爵が残したものの中で、デリアが動かしてない
 ものなら、わかりますから!」
「……さすがね。じゃあ、頼むわ!」
「その前に、パン粥を持ってきましたので、食べてお薬を飲んでください!回復されているようです
 けど、今日だけは絶対にダメですからね!」


 はい……と肩を落として大人しくベッドへと戻った。
 お盆に乗せられたパン粥を渋々、口に運ぶ。


「アンナリーゼ様は、パン粥があまりお好きではないですか?」
「うーん、実はね。でも、疲れているときは、出来るだけ胃に優しいものを食べるようには言われてる
 から食べるわ!」
「では、それが食べ終わった後のお口直しに」


 リアンがポケットから取り出したのは、美味しそうなスコーンであった。


「……?」


 スコーンを見て、リアンを見つめると、内緒ですよといたずらをする幼子のように笑う。いつもは、お母さんとして、私の子どもや自身の子どもを見ていたが、少々可愛らしい。


「えっ?もしかして、リアンの?」
「はい、デザートでした。でも、アンナリーゼ様は、それだけじゃ物足りないかと。リンゴもカレン様
 からいただいたのを持ってきてありますから、剝きますね!」
「リアンのポケットは、不思議ポケットね!何でも出てくる」


 ふふっと笑いあう。
 私は、パン粥を流し込み、スコーンに手をつけた。半分に切りリアンへと渡すと一緒に頬張る。
 そのあと、リンゴも切り分けられ、シャリシャリと食べる。
 食欲は、あるようだった。おでこに手をあてがわれると、とても気持ちがいい。


「熱は……うーん、まだ少しありますね。やはり、今日は安静にしておいてください」
「わかったわ。ごめんね……世話かけて」
「それが、私の仕事ですから、大丈夫です。それより、お薬を飲んで、もうひと眠りしてください。
 その間に、本を持ってきますから!」


 わかったといえば、よく見知った試験管を渡された。


「ヨハンが着ていたのね……」
「伝染病を調べに来てくださっていると、昨日伺いました」
「そうなの!お願いしたことを進めてくれているようで嬉しいわ!」


 あとは、あの変態的な研究さえなければ……とも思ってしまう。
 その研究のおかげで、いろいろと助かっていることもあるので、何も言えずにいたが、どう考えても……毒の研究で、自身を実験台にしてしまうヨハンはどこかおかしいのだろう。
 助手たちには好かれているので、いいらしいが、なんとも食えない男であることは間違いないだろう。


「何か言っていた?」
「私には何も……診察も兼ねて夕方には戻ってきてもらいますから、そのときに伺ってください。
 では、アンナリーゼ様も薬を飲んで、お休みください」


 いつもの万能解毒剤のごとく、ごくっと飲んだら、目をむくほど苦かった。


「何これ!すごく苦い!」


 お水、お水!というと、リアンが慌てて水差しから持ってきてくれる。
 ゴクゴク飲んでも、まだ苦かったが、リアンへ持ってきて欲しい男爵の手記をお願いして眠りにつくことにした。
 口の中が苦すぎて、寝れないところころしていたけど、いつの間にか、ぐっすり眠ってしまったようである。


 ◇◆◇◆◇


 ザァーザァーという雨の音で目が覚めた。部屋は仄暗く、雨の音だけが部屋に聞こえてくる。
 むくりと起きると、脇机にはお願いしていた男爵の手記が置かれていた。


「ダドリー男爵の夫人だったんだなぁ……」


 呟きながら、手記を手に取る。
 暗いので文字は見えないため、明かりをとるために蝋燭へと火を入れた。

 かざごそとしていた音に気が付いてくれたのだろう。
 リアンが部屋に入ってきてくれた。


「起きられましたか?」
「えぇ、今起きたわ。雨、すごいね……?前より、雨量が多い気がする……」
「ノクトさんが言うに、やはりそうみたいです。作業が遅々としていると昨日言ってましたから」
「やっぱりそうなのね……晴れの間にせめて綿花の摘み取りが終わってよかったわ……リアンも手伝って
 くれてありがとう!」
「いえ、まさかでしたが、お役に立てたのならよかったです!そういえば、コットンさんが、明日伺って
 もいいかと連絡が来てましたけど……どうなさいますか?」
「明日になら大丈夫だと思うから、会うわ!ごめんね、返事書いておいてくれるかしら?」
「わかりました。あとは、こちらが公都からの手紙になります」


 10通ほどある手紙を見て、1番分厚いものに手を伸ばす。
 たぶん、ジョージアからのものだろう。その中には、きっと、アンジェラとジョージの読めない手紙が入っているに違いない。
 そんな些細なことすら、今の私には心をほっこりさせるものになるので、早速開くことにした。
 リアンが無理はなさらないでくださいよ……と心配気なのが申し訳ないなと思いながら、私は封筒の中から手紙を出した。
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