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せっかく、コーコナにいるのだから!Ⅳ

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 私は空を見上げた。日が傾き西側の方は赤く燃えているように見える。
 キリがいいところだろう。私は、あれから4枚の畑をちょきちょきして回ったのだが、それでも向こうの方を見ると、まだまだ、白い綿花が見えた。


「アンナリーゼ様、そろそろ夕方ですから上がりましょうか?」
「えぇ、今行くわ!」


 コットンが呼びに来てくれ、私は荷馬車の方へ向かう。収穫した綿花を積んだ荷馬車は、何往復かして、加工場へ持って行っていたらしい。最後の最後の便ですと荷馬車に乗り込んだ。アデルが御者をして、私は隣に座る。
 その後ろから、コットンとリアン、他の奥さまがたは別の荷馬車に揺られていた。


「アンナ様、お疲れさまでした!」
「うん、アデルもね!たくさん運んでくれたでしょ?腕とか大丈夫?」
「アンナ様には、鍛えたりないと言われてますけど……これでも、鍛えてはいるので……」


 苦笑いをしながら、アデルは答えてくれる。そういえば、たまに見かけなくなっていたのだが、もしかして加工場に運ぶ仕事も担ってくれていたのだろうか?


「アデルは、加工場も何往復かしてくれたの?」
「よく気が付きましたね?土木工事のほうの方々が来てくれたあたりで、荷馬車の運搬が間に合わなく
 なったので、そちらも少々手伝っていましたよ」
「そっか、ごめんね……こんな仕事押し付けちゃって……」
「いえ、役に立てるなら、大丈夫です。奥さまがたにはいいようにされてしまうので……ちょっと
 苦手ですけど、リアンさんのおかげで上手く、作業も出来ましたから」


 少し頬を緩ませているアデル。頬が緩んでいるよと言ってやろうかと思ったが、やめておいた。私が何か言うより、アデルがどんなふうに消化するのか見守ろう。
 たぶん、リアンのことを気にしているような素振りを見せている。
 気の利くうえに美人なリアンのことだ。子どもはいても、人気は高いだろう。頑張ってと心の中で応援しておいた。


「アンナ様、そんなに見つめられると、恥ずかしいのですが……」
「ごめんごめん。ところで、明日もこっちで私は作業することになるんだけど、アデルはどうする?」
「そうなると、アンナ様のいるところにいるのが、護衛の役目でもありますから……一緒にお供します」
「わかった。私、今晩は、こっちに泊めてもらえるところがないか、コットンにお願いしようとして
 いるんだけどね……?」
「リアンさんは、どうしましょうか?」
「どうだろう?後で聞いてみるわ!屋敷に戻るというなら、送って行ってあげて?」
「……離れてしまいますけど」
「ノクトがいるから大丈夫。たぶん、私がこっちにいるって言ったら、残る気がするの。お酒も飲んで
 みんなとわいわいしたいでしょうしね!」


 ハハハ……と空笑いするアデルに、ため息をついた。
 アデルは、ちょっと豪快すぎるノクトのことが苦手なようだ。気のいいおじさんだというより、インゼロ帝国の元王弟と常勝の将軍の肩書に恐縮していまうらしい。


「アデルは、ノクトとうまく付き合っていく気はないの?」
「……そんなことは、ないです。これから、アンナ様の護衛をすることになるのなら、ノクトさんとも
 連携を取らないといけないでしょうし、ウィル様とも……あとは、イチアさんですよね……」
「あれ、みんな苦手?」
「そういうわけでは、ないんです。そういうわけでは……みなさんすごすぎて、自分の小ささや弱さが
 はっきりわかってしまう」
「弱さか……でも、それがわかるからこそ、強くなれるもんだと思うよ!自分は強いんだ!って確固
 たるものがあったとしても、結局のところ独りよがりだったり、実はそんなに強くなかったりする
 んだよね。弱さがわかれば、強い人を目標に出来るでしょ?そういうのは大事だよ!」


 ニコッと笑いかける。少し、悩んだような顔をしてしまったアデル。
 私の言葉は、アデルに響かなかったようだ。


「アンナ様はお強いですから、あまり自身の弱さと向き合うことがないのかもしれませんね。目の
 当たりにすると、とても怖いのです」
「……強くなんかないよ。私も目標としてる人がいるの。決して強いわけじゃない。
 アデル、弱さを知っている人こそが、強くなるために努力ができるのよ。努力次第でウィルたちと
 肩を並べることもできるかもしれない」
「もし、出来なかったら?」
「できなくても、努力をしつづける。いつか、何かのとき、それが役に立つ日がくるかもしれないから。
 アデルの場合は、近衛だから、戦争や国どおしの小競り合いなんかに借りだされることもあるでしょ?
 本格的な争いは、今は起こっていないけど、いつか、もし、いつか、起こったときに、あなたは、
 守るべき人のために剣を抜くことになる。
 そのいつかは、来ない方がいいのだけど……もし、来てしまったとき、無駄にならずに誰かを守れる
 ようになっているかもしれないわね」


 誰かを守るために……アデルは、自身の右手を見つめていた。きっと、その手が、誰かを守ることになるだろう。愛する人なのか、見ず知らずの誰かなのかはわからないが、力なく奪われてしまいそうな誰かを守るために努力は続けて欲しい。


「さぁ、見えてきたよ!」
「本当ですね!それでは、ここに停めますので」


 私は、アデルに言われ、荷馬車から降りた。私をエスコートしようとしていたらしく、あぁ……とアデルが後ろで声を漏らしていた。
 振り返ると、手を伸ばしている。その手をギュっと握った。


「アデル、強くなりたいと願いなさい。その願いを叶えるのは、他の誰でもない、あなた自身なの。
 生きて行く中で、誇れる自分になれるよう、努力なさい。私も、ウィルもノクトも、あなたが、強く
 なることを待っているわ!」
「……アンナ様」


 いきましょう!と声をかけ、私はコットンのところへ駆けていく。今晩の泊まる場所の提供をお願いしに行った。
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