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デリアに叱られ母娘

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 休養日を挟んだことで、子どもたちだけでなく、ジョージアたちにも少し余裕が出来た。
 それでも、私はニコライに連れられ、あちこちと回っているところではあったのだが、概ね予定していたところは、回れたようだ。


 カレンの実家がある領地へきたことで、私たちも宿でのんびり過ごしている。
 リンゴの産地でもあるこの領地は、なんだか甘づっぱいような匂いがした。夏の初めごろからとれる種類もあるらしく、宿の窓から山の方を見れば、収穫しているところが見えた。


「もう、リンゴの収穫時期なのね?」
「えぇ、そうですよ!」
「甘づっぱい匂いが、なんだか、お腹を刺激するわ……」


 振り向くと、ジョージアが苦笑いしているのが見えた。アンジェラも言葉にはしていないが、お腹をさすっているっていうことは、そう言うことだ。


「母娘で同じことを考えるなんて……」
「とても、いい匂いだと思いませんか?あまぁーい香りにほんのり酸味が乗って……美味しそうな
 匂い!」


 そこに、すごく甘い匂いが漂ってきた。


「「アップルパイ!」」


 甘い食べ物目がない母娘が、同時に匂いの元を叫ぶ。


「ふふっ、焼きたてのようですね!もらってきますよ!」
「お願いできる?」
「えぇ、待っていてください」
「ニコライさん、私も手伝いますわ!」
「えぇ、お願いします。デリアさんが入れるお茶はとっても美味しいですから!」
「褒めても何も出ませんよ?」


 二人笑いながら部屋から出ていく。ネイトは、私の膝の上にデリアが置いて行った。
 手を叩いて喜んでいるネイトにアンジェラが駆け寄ってきて、一緒にパンパンとしている。
 見た目が、全然違う姉弟ではあるのだが、仲はよさそうだ。お姉ちゃんをしたいらしいアンジェラは、たまにネイトを構いに来ることがある。


「ママ、ネイトもアップルパイ食べる?」
「ネイトは、まだダメだよ?」
「どうして?」
「アンジェラみたいに、まだ歯がないから」
「じゃあ、アンの歯あげる!」
「ふふっ、ネイトにもしばらくしたら生えてくるから、アンジェラのはアンジェラが大切にしなさい。
 じゃないと、アップルパイ食べれないよ?」


 それを聞いて、慌てて口元を押さえて隠す。そんな仕草が可愛らしくて仕方がない。


「お待たせしました!今、焼きたてだったみたいです!」


 デリアが、持ってきてくれたアップルパイは湯気が出ていた。本当に焼きたてらしいが、アンジェラたちには熱いのだろう。


 お茶を入れるので、待っていてくださいね!というデリアの後ろについて行って、服を引っ張るアンジェラ。いつの間にか、移動して、待っているようだ。


 しばらくして、切り分けられたアップルパイと紅茶がテーブルに並ぶ。もう、待ちきれないとばかりにソファによじ登っているアンジェラが、さっきからせわしなく動くなと見ていた。
 ジョージアに抱えられ座らされると、アップルパイをもらう。切り分けたものでは、アンジェラやジョージにはまだ大きいので、こっそり、さらに半分にわけられていた。


「アンジェラ様、熱いので気を付けてくださいね!」


 デリアに注意され、コクコク頷きフォークでさす。子どもたちの分は一口大にすでに切り分けてくれてあるので、それを口に運ぶ。
 少し冷やしてある紅茶ももちろん付けてあるが、まずはアップルパイを食べたいアンジェラは、デリアに叱られる。私も口にほりこもうとしていたので、思いとどまって良かった。


「まずは、紅茶を飲んでくださいね!アンジェラ様もアンナ様も!」


 デリアには心の内はバレていたようで、私の名前も呼ばれることになった。それを聞いてノクトは大笑いする。


「2歳の子どもと一緒に叱られるって……」
「失礼ね!まだ、叱られるようなこと、していないわよ!」


 ノクトを睨むと、フォークを持っている時点で、黒だからと言われれば、ぐうの音も出なかった。


「はぁ……一応、アンナリーゼ様も公爵ですし、アンジェラ様も次期公爵なのですから……まず、
 毒見が必要です。特にアンジェラ様は、毒耐性をつけてらっしゃらないのですから、気を付けないと
 いけないんですよ!」
「「ごめんなさい」」


 アンジェラも自分が叱られているのがわかったようで一緒に謝る。


「まずは、お茶を一口飲んでください。万が一があってはなりませんが、解毒剤を入れてありますから。
 アンジェラ様もジョージ様も。少し温めにしてあるので、飲めますよ!」


 デリアに言われて、カップを持ちコクンと飲んだ。


「アンナリーゼ様も、みなさんもまずは飲んでくださいね!」
「デリア、もしかしなくても、今までもこうやって……?」
「ジョージア様、私はアンナリーゼ様専属ですが、今に限っては、みなさまの命を預かる立場にあり
 ます。私の不注意ひとつで、公爵家に何かあっては、私の命だけでは拭いきれない。
 特に、アンジェラ様は、私たちにとっても、特別な方なのです」
「……ハニーローズだから?」
「いいえ、それだけではありません。アンナリーゼ様の生きる理由ですから……」


 目を細め、おいしそうにアップルパイを頬張るアンジェラを優しく見つめるデリア。
 全てを話してあるデリアには、アンジェラはどんなふうに映っているのだろう。


 私は何も言わず、お茶をもう一口飲む。
 万能解毒剤は、無味無臭であるから入っていてもわからない。この度の間、ずっと飲むものに関しては、全てデリアが用意したものしか口にしていないことを思えば、デリアが、きちんと私たちの命を預かってくれていたことは必然的にわかる。


「デリアは、本当によくできた侍女だね?」
「そうですね!デリアは、いつも私たちを陰から見守ってくれています」
「陰からというより、いうことを聞かない妹を窘める姉のような感じだな!」


 ノクトの一言で、笑いが漏れる。
 とんでもありません!とデリアがノクトに抗議するが、年齢的に言ってもそういうこともあるかもしれない。
 私は、デリアと出会えて、デリアが側に侍ってくれて、よかったと心から思う。


「デリア、美味しいお茶をもう一杯お願いできるかしら?」


 喜んで!と微笑むデリアは、少女のように可愛らしく笑ったのであった。
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