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アンジェラへのお土産
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「まさか、領主様がこんな遠くまで?」
「その、まさかです。こっちで用事があったので、よらせてもらいました」
「いや……それより、本物ですか?」
ちょっと待ってくださいね!とスカートを捲り、ケースに収納されているナイフを見せる。
これはアンバー公爵家筆頭執事のディルにもらった身分証明だが、それを確認して、店主はひれ伏した。
「あぁ、そういうの、なしでお願いします!私、そんなふうにされるようなものではないですから!」
「いえ、領主様といえば、雲の上の人ですから……」
「雲の上?ニコライ、そうなの?」
「普通の領地なら、領主になんて会えないよ。アンナさんが、特殊なんだ」
「そっか、でも、そんなふうに頭を下げられるのは、好きじゃないわ!だって、私、領地では普通に
領民に混じって、お掃除したり種まきしたりってしてるくらいだもの」
「……本当ですか?領主自らが?」
「特殊って言われたから、特殊なんでしょうけどね!」
にっこり笑いかけると、私の顔をじっと見てきた。
まぁ、普通に考えて、領主がのこのことこんな小さな店まで、まず、来ないだろう。
「今日は、視察なの。お店の看板、つけてくれてありがとう。正直、お店の一角に置いてもらえていた
のも、かなり嬉しいわ!」
店主が柔らかく笑う。
「こちらこそ、ありがたい。店が、立ち行かなくなってきたときに、ニコライに声をかけてもらって……
半信半疑で話を受けさせてもらったら、うちの店もみるみるうちに元に戻った。なにより、砂糖を
商売品として、安く売れることが嬉しい」
「まだ、砂糖は試験段階で、売り物としては少なすぎるから……申し訳ないわ!」
「それでも、他国から輸入していろいろな業者を介して仕入れるより、ずっと安くて、身になる商品で
助かっていますよ。砂糖と美味しい小麦粉のおかげで、この店は立ち直りましたから!」
にこやかに笑う店主に私は少々ホッとする。
思いつきで始めようとした事業だ。ニコライたちが、実用的につめてくれているとはいえ、本当に成り立っていくのかは、不安でしょうがなかった。
「確か、何件か先はドレスのコーナーを作っている店があったと思いますけど?」
「そっちは、これから向かう予定だよ!アンナさんには、いろいろ見てもらおうと思っていますから!」
「ドレス?」
「えぇ、ドレスです。服屋なんですよ!だから、服を始めドレスも置かせてもらっています」
「そこも、えらく繁盛しているとか……」
「看板が功を奏したようですね!」
「おもてにあったものね!」
ニコライがはいと答える。
あれは、こういったお店と契約した証として、つけてもいいと渡している物らしい。最初は知名度もなく、ただの看板くらいにしか、売り手も買い手も思っていなかった。
公都で、ハニーアンバー店が大々的に貴族からの支持を受けたら、少しずつ地方にも流れていって、あの看板があるお店は、信用度も高く、いい品質の物を扱っている、それに、ハニーアンバー店の一部商品が置いてある店だと高評価もらっているらしい。
「今では、うちにも看板をと言ってくる店主が後を立ちませんけどね……断られた店は、こちらから
お断りしています。今も、店の開拓はしていますけど……信用第一ですから、自分の目で見て、看板を
置いてもらう店は選んでますよ!」
ニコライの説明に、私は頷く。ちょっとしたお店の対応がまずかっただけで、その店だけでなく、看板を渡しているハニーアンバー店への評価も下がる可能性があるので、慎重にお願いしているところだったが、ニコライの目に狂いはなさそうだ。
目の前の店主を見ていれば、それがわかった。
「そういえば、アンジェラにお土産を買って行かないといけないの。何かいいものがあるかしら?」
「アンジェラ様だけというわけには……」
「それも、そうね。2歳の男の子と女の子が喜ぶものってないかしら?」
「ぬいぐるみとかぱずるですか?」
「見せてもらえるかしら?」
私は子どものおもちゃが置かれているところに行くと、見たことがないものがあった。
積み木ともちがうしっと見ていると、店主が教えてくれる。
「これは積み木の一種です。同じ形のものを選んではめていくのです。この地域の木から出来ています。
こどもおもちゃですからね!口に入れても危なくないモノになっていますよ!」
「なるほど……立体なのがいいわね!うちに積み木はあるんだけど、文字を覚えたり積むだけなん
だけど、これは立体のところに……これ、いただくわ!あとは、ぬいぐるみね。同じものを色違いで
2つください」
「うさぎさんのぬいぐるみをピンクと水色のでいいですか?」
「うん、いいよ!お金お金……」
「お金は、結構です!」
店主に断られてしまう。でも、そういうのは、よくない。売り物なのだから、私はいくら?と聞くと、本当にもらってもいいのかとニコライに視線で尋ねていた。
「店主、もらってください。アンナさんは、そのへんはきっちりしてますから!」
私は言われた値段を渡し、両脇にぬいぐるみを抱え、ニコライが積み木を持ってくれた。
たぶん拗ねているアンジェラが、これで、機嫌を直してくれたらいいんだけど……そう思って、店を出る。
他にもニコライに店を案内してもらい、あちこちで買い物をして、どっさりしてしまった。
「ねぇ、ニコライ……」
「なんでしょうか?」
「こういう出先の店は、袋を渡さないの?」
「ハニーアンバー店はありますからねぇ……今度、提案してみます!」
お願いね!といい、ニコライと二人、両手に荷物を抱えて宿屋に帰る。
帰って早々、アンジェラは積み木に興味を持ち、ずっと遊んでいるし、うさぎのぬいぐるみを気に入ったらしいジョージも嬉しそうだ。
今日の視察も、概ねいい感じに終わった。そう信じておこうと思った。
「その、まさかです。こっちで用事があったので、よらせてもらいました」
「いや……それより、本物ですか?」
ちょっと待ってくださいね!とスカートを捲り、ケースに収納されているナイフを見せる。
これはアンバー公爵家筆頭執事のディルにもらった身分証明だが、それを確認して、店主はひれ伏した。
「あぁ、そういうの、なしでお願いします!私、そんなふうにされるようなものではないですから!」
「いえ、領主様といえば、雲の上の人ですから……」
「雲の上?ニコライ、そうなの?」
「普通の領地なら、領主になんて会えないよ。アンナさんが、特殊なんだ」
「そっか、でも、そんなふうに頭を下げられるのは、好きじゃないわ!だって、私、領地では普通に
領民に混じって、お掃除したり種まきしたりってしてるくらいだもの」
「……本当ですか?領主自らが?」
「特殊って言われたから、特殊なんでしょうけどね!」
にっこり笑いかけると、私の顔をじっと見てきた。
まぁ、普通に考えて、領主がのこのことこんな小さな店まで、まず、来ないだろう。
「今日は、視察なの。お店の看板、つけてくれてありがとう。正直、お店の一角に置いてもらえていた
のも、かなり嬉しいわ!」
店主が柔らかく笑う。
「こちらこそ、ありがたい。店が、立ち行かなくなってきたときに、ニコライに声をかけてもらって……
半信半疑で話を受けさせてもらったら、うちの店もみるみるうちに元に戻った。なにより、砂糖を
商売品として、安く売れることが嬉しい」
「まだ、砂糖は試験段階で、売り物としては少なすぎるから……申し訳ないわ!」
「それでも、他国から輸入していろいろな業者を介して仕入れるより、ずっと安くて、身になる商品で
助かっていますよ。砂糖と美味しい小麦粉のおかげで、この店は立ち直りましたから!」
にこやかに笑う店主に私は少々ホッとする。
思いつきで始めようとした事業だ。ニコライたちが、実用的につめてくれているとはいえ、本当に成り立っていくのかは、不安でしょうがなかった。
「確か、何件か先はドレスのコーナーを作っている店があったと思いますけど?」
「そっちは、これから向かう予定だよ!アンナさんには、いろいろ見てもらおうと思っていますから!」
「ドレス?」
「えぇ、ドレスです。服屋なんですよ!だから、服を始めドレスも置かせてもらっています」
「そこも、えらく繁盛しているとか……」
「看板が功を奏したようですね!」
「おもてにあったものね!」
ニコライがはいと答える。
あれは、こういったお店と契約した証として、つけてもいいと渡している物らしい。最初は知名度もなく、ただの看板くらいにしか、売り手も買い手も思っていなかった。
公都で、ハニーアンバー店が大々的に貴族からの支持を受けたら、少しずつ地方にも流れていって、あの看板があるお店は、信用度も高く、いい品質の物を扱っている、それに、ハニーアンバー店の一部商品が置いてある店だと高評価もらっているらしい。
「今では、うちにも看板をと言ってくる店主が後を立ちませんけどね……断られた店は、こちらから
お断りしています。今も、店の開拓はしていますけど……信用第一ですから、自分の目で見て、看板を
置いてもらう店は選んでますよ!」
ニコライの説明に、私は頷く。ちょっとしたお店の対応がまずかっただけで、その店だけでなく、看板を渡しているハニーアンバー店への評価も下がる可能性があるので、慎重にお願いしているところだったが、ニコライの目に狂いはなさそうだ。
目の前の店主を見ていれば、それがわかった。
「そういえば、アンジェラにお土産を買って行かないといけないの。何かいいものがあるかしら?」
「アンジェラ様だけというわけには……」
「それも、そうね。2歳の男の子と女の子が喜ぶものってないかしら?」
「ぬいぐるみとかぱずるですか?」
「見せてもらえるかしら?」
私は子どものおもちゃが置かれているところに行くと、見たことがないものがあった。
積み木ともちがうしっと見ていると、店主が教えてくれる。
「これは積み木の一種です。同じ形のものを選んではめていくのです。この地域の木から出来ています。
こどもおもちゃですからね!口に入れても危なくないモノになっていますよ!」
「なるほど……立体なのがいいわね!うちに積み木はあるんだけど、文字を覚えたり積むだけなん
だけど、これは立体のところに……これ、いただくわ!あとは、ぬいぐるみね。同じものを色違いで
2つください」
「うさぎさんのぬいぐるみをピンクと水色のでいいですか?」
「うん、いいよ!お金お金……」
「お金は、結構です!」
店主に断られてしまう。でも、そういうのは、よくない。売り物なのだから、私はいくら?と聞くと、本当にもらってもいいのかとニコライに視線で尋ねていた。
「店主、もらってください。アンナさんは、そのへんはきっちりしてますから!」
私は言われた値段を渡し、両脇にぬいぐるみを抱え、ニコライが積み木を持ってくれた。
たぶん拗ねているアンジェラが、これで、機嫌を直してくれたらいいんだけど……そう思って、店を出る。
他にもニコライに店を案内してもらい、あちこちで買い物をして、どっさりしてしまった。
「ねぇ、ニコライ……」
「なんでしょうか?」
「こういう出先の店は、袋を渡さないの?」
「ハニーアンバー店はありますからねぇ……今度、提案してみます!」
お願いね!といい、ニコライと二人、両手に荷物を抱えて宿屋に帰る。
帰って早々、アンジェラは積み木に興味を持ち、ずっと遊んでいるし、うさぎのぬいぐるみを気に入ったらしいジョージも嬉しそうだ。
今日の視察も、概ねいい感じに終わった。そう信じておこうと思った。
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