575 / 1,513
始まりの夜会Ⅱ
しおりを挟む
デリアによって公爵として全て整え終えたのは、もう夕方であった。
軽くお菓子をつまみ、空腹を満たしてから、私室に迎えに来てくれたジョージアと馬車に乗り込む。
「今日の宝飾品は、青薔薇たちではないんだね?」
「えぇ、私は青薔薇たちが好きですけど、今日は公妃も出席する夜会になる予定なのだから、公爵らしく
時代の最先端にしましょうと言われ、新しい宝飾品を何点かとお兄様にいただいたアメジストのネック
レスをつけています」
「確かに、あまり見ないネックレスだと思っていたよ」
「私の卒業祝いにくれたものですわ!」
私の瞳と同じ色をしていて綺麗だと褒めてくれるので、とても嬉しい。
このネックレスを中心に、宝飾品を揃えることになったのだが、元々ティアの実家の宝飾品店で買ったものであったので、ティアが上手に合わせてくれた。
ジョージアがくれたサファイアの青薔薇たちに対して、さしずめ、アメジストの紫薔薇と言ったところだろう。
今日は、ルビーの真紅の薔薇のチェーンピアスも青薔薇たちも、宝石箱の中でお留守番となっている。
「ドレスもアンナにぴったりだね?」
「ありがとうございます。今回の流行として、胸元や背中を大きく開いたデザインとなっているんです
けど、これもナタリーの戦略のひとつらしいですね!」
「ナタリーの?アンナの胸元は、背中もレースがあしらわれているよね?」
「はい。それも込みで、ナタリーの戦略ですよ」
「ナタリーは、どこまで考えているんだい?」
「わかりません。ただ、今回のデザインに関しては、このレースを流行の最先端にしたいようなのです。
クーヘンという編み物の上手な女性が、フレイゼンから来たことで、ドレスのデザインの方向転換を
したみたいですね。大きく開きすぎる胸元は、豊満な方とか若い令嬢なら、目を引くでしょうけど、
妙齢の女性が露出が過度にあれば、着にくいですよね。今、流行の最先端であるハニーアンバー店の
ドレスは着たいけど、諦めてしまうご婦人向けにってことみたいです」
「なるほど、レースで隠してしまえば、見え隠れする部分があり、それも魅力のひとつに変えるって
ことかな?」
そうです!とジョージアの気づきに手を打ち、さすがですと褒めると、照れていた。
「俺の奥さんにも、過度な露出は控えてもらいたいからね。確かに、そう考えると、過度に肌を出して
いるより、レースを使って見え隠れする白い肌が逆に艶めかしかったりもするよね?」
そうは思わない?というジョージアに、よそでは言わないでくださいね?とニコッと笑いかけた。
「もちろん、アンナ以外には言わないよ。さて、着いたようだね。行こうか!」
ジョージアは、私の手を取り、馬車から降ろしてくれる。
正面玄関は、他にも貴族たちがぞくぞくと集まってきており、騒然としていた。
私とジョージアが、馬車から降り立つと、その前がパッと開く。
大広間までの道が出来、私はジョージアへ微笑みながらエスコートされてゆっくりと向かうのであった。
◇◆◇◆◇
大広間へ入る前、控室に私たちは向かう。
爵位が上がれば、それぞれ控室が用意され、夜会の始まりの直前に大広間へ向かえばいいようになっている。
「そういえば、サシャ……ソルトはもう着ているの?」
「えぇ、もうどこかにいるはずですよ!ザワザワと人だかりができているところにいるかと」
「あぁ、黒の貴族が人気だからね。女性たちの嫉妬に悩まされなければいいけど?」
「そうですね!でも、お兄様程整った女性はいないですから。それにカレンを彷彿させるような女性に
ちょっかいかける女性は、この国にはいないでしょ?」
「なるほどね!」
「ミネルバには事情を連絡済みですから、うちのお兄様と過ちがあったという噂が出回ることはあって
も、笑い飛ばしてくださいと言ってあります」
根回しをすませていたのかとジョージアは感心しているが、普通の話ではあった。謀をするとなれば、誰かには迷惑かけることがある。こちらの味方にかける迷惑を考えたうえで、先に知らせられるものなら、教えてしまっても構わないので、今回、ミネルバには連絡した。
国も違うし、ミネルバがこちらの社交界に出張ってくることもないので、知らせたまででもある。
ある程度、ひとつの波を俯瞰的に見ていないとなかなか先を考えて動けない。
ジョージアには、その部分がまだ、できていないのだ。ずる賢い貴族とやり合わないといけないのだから、これくらい簡単なものはわかるようにしないといけない。
今回の顛末をジョージアに説明をしているところで、控室の扉がノックされた。
そろそろ始まりの夜会が、始まるのだろう。公より遅く大広間へ入るのは失礼なので、ジョージアにエスコートされ大広間へ入っていく。
ここでは、爵位が上の者に関しては名前を呼ばれて入るので、誰が大広間へ入るかわかるため、扉が開いた瞬間から、注目の的ではあった。
「相変わらずだね?」
「私だけのことだと思いますか?ジョージア様ももちろん、ご婦人たちの注目の的ですよ。ほら、見て下さい!」
そういって、ジョージアに黄色い声をあげようとしている独身女性たちに、私は流し目ひとつで黙らせる。
うちの旦那様に何か御用かしら?と視線を送れば、すごすごと人ごみに消えていく。
ソフィア程の度胸がある令嬢は、もう、この国にはいないのかもしれない。
ジョージアだけなら、若さで押し倒せるとでも思っているのだろうか?私の目の届く所では令嬢たちが決してジョージアにちょっかいかけて来たりしないのだ。
まぁ、だいたいそんなことをすれば、どうなるか令嬢たちの親たちは知っているので、気が気ではないだろうけど、私は、怖い顔ひとつせず、微笑むだけに留める。
私が公や他の貴族と話をしているうちに、ジョージアに群がるのはわかっていても、こういうちょっと牽制はしておかないといけない。
何かあれば、責任はきっちり取ってもらう。ジョージアではなく、相手側の方に。
そうそう、バレてないと思っているかもしれないが、生憎、私に聞こえてこない話などないことだけは伝えて置かないといけないことだ。
それも、令嬢たちの親たちなら、みなが知っていることなのだが。
ただ、ジョージアの隣で微笑んでいるだけの夫人ではないことだけ、多くの貴族が身をもって知っている。
私たちが所定の場所についたころ、大広間がざわざわとした。
公が来るのだろう。ジョージアに合図して公を向かえる準備を始めた。
軽くお菓子をつまみ、空腹を満たしてから、私室に迎えに来てくれたジョージアと馬車に乗り込む。
「今日の宝飾品は、青薔薇たちではないんだね?」
「えぇ、私は青薔薇たちが好きですけど、今日は公妃も出席する夜会になる予定なのだから、公爵らしく
時代の最先端にしましょうと言われ、新しい宝飾品を何点かとお兄様にいただいたアメジストのネック
レスをつけています」
「確かに、あまり見ないネックレスだと思っていたよ」
「私の卒業祝いにくれたものですわ!」
私の瞳と同じ色をしていて綺麗だと褒めてくれるので、とても嬉しい。
このネックレスを中心に、宝飾品を揃えることになったのだが、元々ティアの実家の宝飾品店で買ったものであったので、ティアが上手に合わせてくれた。
ジョージアがくれたサファイアの青薔薇たちに対して、さしずめ、アメジストの紫薔薇と言ったところだろう。
今日は、ルビーの真紅の薔薇のチェーンピアスも青薔薇たちも、宝石箱の中でお留守番となっている。
「ドレスもアンナにぴったりだね?」
「ありがとうございます。今回の流行として、胸元や背中を大きく開いたデザインとなっているんです
けど、これもナタリーの戦略のひとつらしいですね!」
「ナタリーの?アンナの胸元は、背中もレースがあしらわれているよね?」
「はい。それも込みで、ナタリーの戦略ですよ」
「ナタリーは、どこまで考えているんだい?」
「わかりません。ただ、今回のデザインに関しては、このレースを流行の最先端にしたいようなのです。
クーヘンという編み物の上手な女性が、フレイゼンから来たことで、ドレスのデザインの方向転換を
したみたいですね。大きく開きすぎる胸元は、豊満な方とか若い令嬢なら、目を引くでしょうけど、
妙齢の女性が露出が過度にあれば、着にくいですよね。今、流行の最先端であるハニーアンバー店の
ドレスは着たいけど、諦めてしまうご婦人向けにってことみたいです」
「なるほど、レースで隠してしまえば、見え隠れする部分があり、それも魅力のひとつに変えるって
ことかな?」
そうです!とジョージアの気づきに手を打ち、さすがですと褒めると、照れていた。
「俺の奥さんにも、過度な露出は控えてもらいたいからね。確かに、そう考えると、過度に肌を出して
いるより、レースを使って見え隠れする白い肌が逆に艶めかしかったりもするよね?」
そうは思わない?というジョージアに、よそでは言わないでくださいね?とニコッと笑いかけた。
「もちろん、アンナ以外には言わないよ。さて、着いたようだね。行こうか!」
ジョージアは、私の手を取り、馬車から降ろしてくれる。
正面玄関は、他にも貴族たちがぞくぞくと集まってきており、騒然としていた。
私とジョージアが、馬車から降り立つと、その前がパッと開く。
大広間までの道が出来、私はジョージアへ微笑みながらエスコートされてゆっくりと向かうのであった。
◇◆◇◆◇
大広間へ入る前、控室に私たちは向かう。
爵位が上がれば、それぞれ控室が用意され、夜会の始まりの直前に大広間へ向かえばいいようになっている。
「そういえば、サシャ……ソルトはもう着ているの?」
「えぇ、もうどこかにいるはずですよ!ザワザワと人だかりができているところにいるかと」
「あぁ、黒の貴族が人気だからね。女性たちの嫉妬に悩まされなければいいけど?」
「そうですね!でも、お兄様程整った女性はいないですから。それにカレンを彷彿させるような女性に
ちょっかいかける女性は、この国にはいないでしょ?」
「なるほどね!」
「ミネルバには事情を連絡済みですから、うちのお兄様と過ちがあったという噂が出回ることはあって
も、笑い飛ばしてくださいと言ってあります」
根回しをすませていたのかとジョージアは感心しているが、普通の話ではあった。謀をするとなれば、誰かには迷惑かけることがある。こちらの味方にかける迷惑を考えたうえで、先に知らせられるものなら、教えてしまっても構わないので、今回、ミネルバには連絡した。
国も違うし、ミネルバがこちらの社交界に出張ってくることもないので、知らせたまででもある。
ある程度、ひとつの波を俯瞰的に見ていないとなかなか先を考えて動けない。
ジョージアには、その部分がまだ、できていないのだ。ずる賢い貴族とやり合わないといけないのだから、これくらい簡単なものはわかるようにしないといけない。
今回の顛末をジョージアに説明をしているところで、控室の扉がノックされた。
そろそろ始まりの夜会が、始まるのだろう。公より遅く大広間へ入るのは失礼なので、ジョージアにエスコートされ大広間へ入っていく。
ここでは、爵位が上の者に関しては名前を呼ばれて入るので、誰が大広間へ入るかわかるため、扉が開いた瞬間から、注目の的ではあった。
「相変わらずだね?」
「私だけのことだと思いますか?ジョージア様ももちろん、ご婦人たちの注目の的ですよ。ほら、見て下さい!」
そういって、ジョージアに黄色い声をあげようとしている独身女性たちに、私は流し目ひとつで黙らせる。
うちの旦那様に何か御用かしら?と視線を送れば、すごすごと人ごみに消えていく。
ソフィア程の度胸がある令嬢は、もう、この国にはいないのかもしれない。
ジョージアだけなら、若さで押し倒せるとでも思っているのだろうか?私の目の届く所では令嬢たちが決してジョージアにちょっかいかけて来たりしないのだ。
まぁ、だいたいそんなことをすれば、どうなるか令嬢たちの親たちは知っているので、気が気ではないだろうけど、私は、怖い顔ひとつせず、微笑むだけに留める。
私が公や他の貴族と話をしているうちに、ジョージアに群がるのはわかっていても、こういうちょっと牽制はしておかないといけない。
何かあれば、責任はきっちり取ってもらう。ジョージアではなく、相手側の方に。
そうそう、バレてないと思っているかもしれないが、生憎、私に聞こえてこない話などないことだけは伝えて置かないといけないことだ。
それも、令嬢たちの親たちなら、みなが知っていることなのだが。
ただ、ジョージアの隣で微笑んでいるだけの夫人ではないことだけ、多くの貴族が身をもって知っている。
私たちが所定の場所についたころ、大広間がざわざわとした。
公が来るのだろう。ジョージアに合図して公を向かえる準備を始めた。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。


とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。

公爵令嬢の白銀の指輪
夜桜
恋愛
公爵令嬢エリザは幸せな日々を送っていたはずだった。
婚約者の伯爵ヘイズは婚約指輪をエリザに渡した。けれど、その指輪には猛毒が塗布されていたのだ。
違和感を感じたエリザ。
彼女には貴金属の目利きスキルがあった。
直ちに猛毒のことを訴えると、伯爵は全てを失うことになった。しかし、これは始まりに過ぎなかった……。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる