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始まりの夜会
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アンバー公爵家は、朝から慌ただしい。いや、この国の貴族たちは、みな、朝から……昨晩から慌ただしいことだろう。
今晩開かれるローズディア公国の始まりの夜会に向け、それぞれが準備をする。
「アンナ様、お風呂行きますよ!」
「アンナ様、そこでマッサージしますからね!」
アンナ様……アンナ様……とデリアの声が屋敷中に響き渡る。
デリアが名前を呼ぶたびに、屋敷の侍女やメイドだけでなく、ありとあらゆる人たちが慌ただしく屋敷中を駆けまわっていた。
その中でも、比較的に暇そうにしているジョージアが、子どもたちと遊んでいてくれているようだが、朝からの騒ぎに当の娘さんはソワソワし始めたようだ。
「ママ、忙しいの?」
小さいながら、屋敷中のばたつきに何かがあるのだと考えたようだ。
私室で一息入れているところだったので、おいでと呼び寄せると、とたとたと駆けてきて足に抱きついた。
すっかり重くなったアンジェラを抱きかかえ、おぼろげながら、私も母に同じようにしてもらった記憶があった。
私には、その傍らには兄がいて、母の周りをウロウロとしている私に常についてきていたのを思い出しクスっと笑う。
アンジェラを抱きかかえたまま、ソファに座る。すると、膝の上で座るかと思っていたアンジェラは隣に座り直し、足をぶらぶらとさせている。
「今日は、ママもパパも夜になったらお出かけするから、今は準備中よ!」
「アンも連れて行ってくれる?」
「アンジェラは、まだ、ダメよ」
「どうして?どうして、ダメなの?」
足をぶらつかせるのにも飽きたのか、私を見上げて我儘を言いたそうである。
そんなアンジェラの頭をクシャッと撫でると目を細めていた。
今、こうして来ているということは、寂しいのだろう。領地にいるときは、執務をしていても、執務室で遊んだりもしていたし、何よりレオもミアも側にいてくれた。
公都に帰ってからは、二人もサーラー子爵家で教育を受けたり可愛がられたりしているので、なかなか会えない。
私も、こちらに帰ってきてから、なかなか子どもたちとの時間を取ることができないでいた。
もちろん、私はこっそり一緒に寝たり、執務終わりの夜中に顔を見に行ったりしていたので、子どもたちとの時間はあったが、起きている間に一緒に遊んだという記憶がないことに寂しさを感じているのだろう。
「そうね、アンジェラは、まだ、大人として認められていないからね」
「大人?」
「そう、もっと大きく成長して、心も体も美しい女性になれたら、アンジェラにも、お城から招待が
されるわ!今日は、パパとママの二人だけが招かれているから、アンジェラは行けないの」
しょぼんと肩を落とすアンジェラを抱きしめて、そっと耳元で囁く。
「アンジェラは、大人になったら、この国1番の美人なお姫様になるわ!誰もが手を差し伸べたくなる
程の。パパが心配するくらいね!」
すると、俯いていた顔が少しだけ上がる。
私と一緒で意外と単純なのと、ジョージアのことを実はとても好きなことも最近知った。
ウィルは、アンジェラの中で優しいお兄さんだと認識できるようになり、受けきれない程の愛情を注いでくれているのがジョージアであることに気づいたのだ。
ミアが、お父様というウィルは、アンジェラに対してではなく、ミアに対してジョージアが自分にしてくれることと同じことをしているとなんとなくわかってきたみたいである。
「ママとナタリーが、じっくり時間をかけて、綺麗なお姫様にしてあげるからね。
今日は、まだ、アンジェラのお披露目の日じゃないのよ。その日が来たら、ママが盛大にお披露目会
するからね!約束よ!」
微笑みかけると、ジョージアと同じ蜂蜜色の瞳が、細められた。
小指を出して約束をすると、手で口元を抑えて肩を震わせて笑っているアンジェラは、嬉しいのだろう。
「二人だけの秘密だからね?」
そう伝えると、さらに嬉しそうして、秘密の約束と頬をほんのり赤くしていた。
「アンナ様、もうあまり時間がありませんからね!」
デリアが部屋に入ってきて、私と一緒に並んでクスクスと笑っているアンジェラを見て驚いていた。
「アンジェラは、ここにいる?」
準備を再開する私よう促された私はソファから立ち上がり振り返ると、ソファから覗き込んでコクンコクンと頷く。
「では、アンジェラ様もアンナ様がお姫様になるところを見ていてくださいね!」
「デリア、残念ながら、もう、お姫様という歳ではないわ……」
「では、女王様ですかね?」
イタズラっぽく笑うデリアは、私を着飾ることが大好きなので、少々はしゃいでいる。
「女王様って感じでもないけど……」
「公妃様と並び立っても見劣りしないようにいたしますわ!腕によりをかけて」
張り切りすぎるデリアを多少窘め、私を着飾り始める。
ナタリーが作ってくれた青紫薔薇のドレスを身にまとう。1度試しで着てみたが、やはり胸元と背中が大きく開いたデザインで少々恥ずかしい。
それを感じたのか、デリアが少しお待ちをと用意していた箱を開いた。
中に何が入っているのかと覗くと、紺糸で作られた薔薇のレースである。青紫薔薇に負けず、とても美しいそのレースにため息をつく。
聞いてはいたが、これをどうするのだろうか?
ただ、その前に、この美しいレースをアンジェラに見せてあげたくなった。
「アンジェラ、いらっしゃい」
私がアンジェラを側に呼ぶと、デリアが止めようとする。笑顔でかわし、見せてあげることにした。
「アンナ様!」
「そんなに怒らない。繊細なものだってことは私にだってわかるけど、これは、アンジェラにも見せて
あげた方がいいものよ!」
「ママ、これは?」
その場にしゃがみ込み、アンジェラと同じくらいの視線になった。箱を手繰り寄せ、アンジェラの前に置くと、目を輝かせ、わぁっ!と声を出し喜んでいる。
見せてあげてよかった。すごく喜んでいるのがわかる。
「ママ、これ……何?」
「レースっていうの。ママのドレスにもついているでしょ?」
ほらとドレスを広げると、青紫の薔薇が咲き誇っていて、それをきつめの印象ではなく優しい雰囲気をもたらすためにレースが使われている。
「ママ、綺麗ね!」
「ありがとう。アンジェラもいつかこんな素敵なドレスを着るのよ!」
「約束?」
「そう、約束ね!」
嬉しそうにするアンジェラを遠巻きに少々ハラハラしながらデリアが見ていた。
「そういえば、このレースはどこに使うの?」
「それはですね、アンジェラ様、少しだけ下がってください」
そういってレースを持ち上げ胸元にあてがう。
襟ぐりのところに留め具がついていて、そこにつけていった。
開いていた胸元が、レースで覆われる。白い肌が、紺糸で作られたレースの下からチラッと見え、それはそれで色気を演出させた。
「うん、いいですね。これは、ナタリー様に報告しないと。鏡見てみますか?」
デリアが姿見を持ってきてくれる。それに映った私を見て、確かにこのレースはいいなとドレスに見惚れる。
背中の分もあるようで、つけてくれた。
「着脱出来る上に、レースの高さも変えられるので、同じドレスでも印象が変えられるらしいです。
今期の目玉として扱うらしいですよ!だから、敢えて胸元と背中を大きく開いたものを始まりの
夜会に流行らせたらしいです」
デリアがナタリーの考えているドレスを売る戦略をかなり熟知しているのか、教えてくれる。
私を着飾ることに関しては、二人はかなりの協力体制をひいているといってもいいだろう。
アンジェラに褒めてもらい上機嫌な私は、次なる着飾りにいそしむのであった。
今晩開かれるローズディア公国の始まりの夜会に向け、それぞれが準備をする。
「アンナ様、お風呂行きますよ!」
「アンナ様、そこでマッサージしますからね!」
アンナ様……アンナ様……とデリアの声が屋敷中に響き渡る。
デリアが名前を呼ぶたびに、屋敷の侍女やメイドだけでなく、ありとあらゆる人たちが慌ただしく屋敷中を駆けまわっていた。
その中でも、比較的に暇そうにしているジョージアが、子どもたちと遊んでいてくれているようだが、朝からの騒ぎに当の娘さんはソワソワし始めたようだ。
「ママ、忙しいの?」
小さいながら、屋敷中のばたつきに何かがあるのだと考えたようだ。
私室で一息入れているところだったので、おいでと呼び寄せると、とたとたと駆けてきて足に抱きついた。
すっかり重くなったアンジェラを抱きかかえ、おぼろげながら、私も母に同じようにしてもらった記憶があった。
私には、その傍らには兄がいて、母の周りをウロウロとしている私に常についてきていたのを思い出しクスっと笑う。
アンジェラを抱きかかえたまま、ソファに座る。すると、膝の上で座るかと思っていたアンジェラは隣に座り直し、足をぶらぶらとさせている。
「今日は、ママもパパも夜になったらお出かけするから、今は準備中よ!」
「アンも連れて行ってくれる?」
「アンジェラは、まだ、ダメよ」
「どうして?どうして、ダメなの?」
足をぶらつかせるのにも飽きたのか、私を見上げて我儘を言いたそうである。
そんなアンジェラの頭をクシャッと撫でると目を細めていた。
今、こうして来ているということは、寂しいのだろう。領地にいるときは、執務をしていても、執務室で遊んだりもしていたし、何よりレオもミアも側にいてくれた。
公都に帰ってからは、二人もサーラー子爵家で教育を受けたり可愛がられたりしているので、なかなか会えない。
私も、こちらに帰ってきてから、なかなか子どもたちとの時間を取ることができないでいた。
もちろん、私はこっそり一緒に寝たり、執務終わりの夜中に顔を見に行ったりしていたので、子どもたちとの時間はあったが、起きている間に一緒に遊んだという記憶がないことに寂しさを感じているのだろう。
「そうね、アンジェラは、まだ、大人として認められていないからね」
「大人?」
「そう、もっと大きく成長して、心も体も美しい女性になれたら、アンジェラにも、お城から招待が
されるわ!今日は、パパとママの二人だけが招かれているから、アンジェラは行けないの」
しょぼんと肩を落とすアンジェラを抱きしめて、そっと耳元で囁く。
「アンジェラは、大人になったら、この国1番の美人なお姫様になるわ!誰もが手を差し伸べたくなる
程の。パパが心配するくらいね!」
すると、俯いていた顔が少しだけ上がる。
私と一緒で意外と単純なのと、ジョージアのことを実はとても好きなことも最近知った。
ウィルは、アンジェラの中で優しいお兄さんだと認識できるようになり、受けきれない程の愛情を注いでくれているのがジョージアであることに気づいたのだ。
ミアが、お父様というウィルは、アンジェラに対してではなく、ミアに対してジョージアが自分にしてくれることと同じことをしているとなんとなくわかってきたみたいである。
「ママとナタリーが、じっくり時間をかけて、綺麗なお姫様にしてあげるからね。
今日は、まだ、アンジェラのお披露目の日じゃないのよ。その日が来たら、ママが盛大にお披露目会
するからね!約束よ!」
微笑みかけると、ジョージアと同じ蜂蜜色の瞳が、細められた。
小指を出して約束をすると、手で口元を抑えて肩を震わせて笑っているアンジェラは、嬉しいのだろう。
「二人だけの秘密だからね?」
そう伝えると、さらに嬉しそうして、秘密の約束と頬をほんのり赤くしていた。
「アンナ様、もうあまり時間がありませんからね!」
デリアが部屋に入ってきて、私と一緒に並んでクスクスと笑っているアンジェラを見て驚いていた。
「アンジェラは、ここにいる?」
準備を再開する私よう促された私はソファから立ち上がり振り返ると、ソファから覗き込んでコクンコクンと頷く。
「では、アンジェラ様もアンナ様がお姫様になるところを見ていてくださいね!」
「デリア、残念ながら、もう、お姫様という歳ではないわ……」
「では、女王様ですかね?」
イタズラっぽく笑うデリアは、私を着飾ることが大好きなので、少々はしゃいでいる。
「女王様って感じでもないけど……」
「公妃様と並び立っても見劣りしないようにいたしますわ!腕によりをかけて」
張り切りすぎるデリアを多少窘め、私を着飾り始める。
ナタリーが作ってくれた青紫薔薇のドレスを身にまとう。1度試しで着てみたが、やはり胸元と背中が大きく開いたデザインで少々恥ずかしい。
それを感じたのか、デリアが少しお待ちをと用意していた箱を開いた。
中に何が入っているのかと覗くと、紺糸で作られた薔薇のレースである。青紫薔薇に負けず、とても美しいそのレースにため息をつく。
聞いてはいたが、これをどうするのだろうか?
ただ、その前に、この美しいレースをアンジェラに見せてあげたくなった。
「アンジェラ、いらっしゃい」
私がアンジェラを側に呼ぶと、デリアが止めようとする。笑顔でかわし、見せてあげることにした。
「アンナ様!」
「そんなに怒らない。繊細なものだってことは私にだってわかるけど、これは、アンジェラにも見せて
あげた方がいいものよ!」
「ママ、これは?」
その場にしゃがみ込み、アンジェラと同じくらいの視線になった。箱を手繰り寄せ、アンジェラの前に置くと、目を輝かせ、わぁっ!と声を出し喜んでいる。
見せてあげてよかった。すごく喜んでいるのがわかる。
「ママ、これ……何?」
「レースっていうの。ママのドレスにもついているでしょ?」
ほらとドレスを広げると、青紫の薔薇が咲き誇っていて、それをきつめの印象ではなく優しい雰囲気をもたらすためにレースが使われている。
「ママ、綺麗ね!」
「ありがとう。アンジェラもいつかこんな素敵なドレスを着るのよ!」
「約束?」
「そう、約束ね!」
嬉しそうにするアンジェラを遠巻きに少々ハラハラしながらデリアが見ていた。
「そういえば、このレースはどこに使うの?」
「それはですね、アンジェラ様、少しだけ下がってください」
そういってレースを持ち上げ胸元にあてがう。
襟ぐりのところに留め具がついていて、そこにつけていった。
開いていた胸元が、レースで覆われる。白い肌が、紺糸で作られたレースの下からチラッと見え、それはそれで色気を演出させた。
「うん、いいですね。これは、ナタリー様に報告しないと。鏡見てみますか?」
デリアが姿見を持ってきてくれる。それに映った私を見て、確かにこのレースはいいなとドレスに見惚れる。
背中の分もあるようで、つけてくれた。
「着脱出来る上に、レースの高さも変えられるので、同じドレスでも印象が変えられるらしいです。
今期の目玉として扱うらしいですよ!だから、敢えて胸元と背中を大きく開いたものを始まりの
夜会に流行らせたらしいです」
デリアがナタリーの考えているドレスを売る戦略をかなり熟知しているのか、教えてくれる。
私を着飾ることに関しては、二人はかなりの協力体制をひいているといってもいいだろう。
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