ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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まともですね?

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「では、行ってきます」


 私室に籠っていたジョージアに声をかけると、あぁとだけ返事が返ってきた。たぶん、昨日のことからさっきのことまで、怒っているのかもしれない。
 私のことを想ってくれているからこそなのだが、私がジョージアを慮れていないことがよくわかった。
 このまま、二人の溝が深まるようなことだけは避けたいけど、どうすればいいのだろうか?
 正直な話、私が好き勝手したつけが、今、まさに私へ戻ってきている。『予知夢』でみたような未来であれば、ジョージアに干渉されることなく、自由に気ままにしたいことをしていればよかった。
 ソフィアにうつつを抜かし、ジョージアがダメな公爵であれば……ため息ひとつで見限ることもできたのだ。

 少しずつ未来が変わってきたおかげで、幸せな日々を過ごせていたことももちろん、私を気にかけてくれ、自分も変わろうとしてくれているジョージアを置いてけぼりにしている現実はよろしくないのだろう。
 心の病を起こす可能性もある。支えるべく私に寄り添ってくれているジョージアをこれ以上蔑ろにはできないなと考える。次なるは、ジョージア改革か。
 折しも社交の季節。できることから、探していこう。


「お待たせしました、行きましょうか?」
「あぁ。それより、アンナ、どうしたの?」
「どうといいますと?」
「うん、微妙に顔が強張っているような気がするから」


 そうですかと答え、馬車に乗り込み、今朝から今までのジョージアの話をした。兄はそれを聞き、目を輝かせている。


「お兄様が、喜ぶようなお話でないと思いますけど?」
「いや……これ程、おもしろい話はないぞ?我が妹は、銀髪の君の心を本当の意味で射止めたわけだ。
 アンナが側にいてくれることへの喜びとアンナの協力者への嫉妬だろうな。ジョージアは、よほど
 アンナを他の誰にも取られたくないようだ。例え、その相手が、僕だとしても。アンナとの話は、
 ジョージアを交えてすることにしよう。聞かれて困る話はないしね」


 兄の提案に頷き、私は今晩から兄との話し合いには必ず、ジョージアを誘うことに決めた。
 馬車が停まるので、私は馬車から降りる。兄にエスコートされて降りることも考えたが、どう考えても少々金持ちのお嬢様とお坊ちゃんを演出したい私たちは、貴族らしからぬことは避けた。

 堂々と店の中に入る。
 変装していても、私だと気づいたのは、他の誰でもないニコライだった。今日は、お忍び姿だったので、名前を呼ばないでくれるらしい。


「いらっしゃいませ、お客様」


 丁寧に挨拶をするニコライに、目深に被った鍔の拾い帽子の鍔を指先できゅっと握って感謝を伝える。
 すると、ではこちらにどうぞ!と店主自ら案内してくれ、他のものは、そんな私たちを見て、どこのお金持ちだ?というふうであった。
 最上級の応接室に通され、帽子を取る。


「アンナリーゼ様、お久しぶりでございます」
「本当ね……いつも忙しくさせて、ごめんね!」
「いいえ、私が忙しくできることは、商売繁盛だということで、アンバーの懐を温めていることです
 から、嬉しくて仕方がありません」


 言うようになったわね?とニコライを茶化すと、笑ってかわされる。
 私の隣に目を移し、ニコリと笑う。


「サシャ様も、お久しぶりです。トワイス店の開店時には大変お世話になりました」
「久しぶりだね、ニコライ。アンナからの指令でもあったし、僕は何も。全てはニコライの采配のおかげ
 だよ。あと、あの大きなおじさんもね」
「大きなおじさん?」
「ノクト様のことでしょう!」
「あぁ、大きなおじさん……他国にまで名声や二つ名が聞こえるような人が、大きなおじさんって。
 笑えるわね!」


 クスクス笑うと、立ち話もなんですからとニコライに席を勧められる。
 私は、そこで、エールに会う約束をしていると伝えると、わかりましたと席を外した。
 次に、キティが部屋に入ってきた。その瞬間、甘い香りがふわっとして、美味しいお菓子を連想させる。


「キティ!」
「はい、アンナリーゼ様。お忍びで来られているからとニコライさんから聞きました。給仕は私がします
 ので、お茶とお菓子を」


 兄は、そのお菓子に興味が湧いたのか、少し首を伸ばしてみていた。それが懐かしくて、また、クスっと笑う。
 甘いもの目がないのは、私より兄の方である。


「アンバー領の屋敷で料理人をしていたキティです。お菓子を作る才能があったので、こちらのお店に
 配属替えしたのですよ。キティの作るお菓子は、とっても美味しくて、優しい味なのですよ!」
「それは、楽しみだ!トワイスのお店とは、また違うお店なのも驚いたが、こうして、お茶やお菓子まで
 食べられるとなると……」
「結構な収益ですよ!心も懐も温かいですね!」


 やっぱりそうかと呟く兄に、ニコリと笑いかける。
 キティが用意してくれたお茶を兄と私の前へ置いてくれたところに、扉が開いた。
 ニコライがエールを伴って入ってきたのだ。


「アンナリーゼ様、お連れいたしました」
「ありがとう。エール、久しぶりね!」
「お久しぶりです。アンナリーゼ様。お手紙を頂き、参上いたしました」


 仰々しく、自分を演出するエールを見ていたが、それも含めてモテる要因なのだから、よくよく見ていた。
 やはり、エールは、自分を魅せるのが上手いと思わざるえない。


「今日は、同伴の方はいないのかしら?」
「えぇ、アンナリーゼ様からお手紙をいただいたので、控えておりました。それで、そちらの方は……
 アンナリーゼ様の兄上ですか?」


 ちらりとそちらを見て、少々値踏みをしていた。
 兄は、見た目は、髪以外目立ったものはない。話せば、どこに収納されているのか膨大な情報量を保有していることがわかるけど、私にはあまりその情報を必要とした話をしないのでわからないが、セバスやパルマは兄との会話を楽しんでいる。
 それに似合う情報量を二人が持っているからこそ、会話が成り立つのだろう。


「初めまして、バニッシュ子爵。アンナリーゼの兄で、サシャ・ニール・フレイゼンと申します。この
 度は、アンナリーゼの申出に賛同してもらい、ありがとう」
「初めまして、ご挨拶が遅れましたエール・バニッシュです。アンナリーゼ様には、たくさんの恩義が
 ありますから、少しでもお力になれるのなら、安いものです」
「そういってくれると、嬉しいわ!そうだっ!貝殻の提供、ありがとう。今、確実に私たちの領地は、
 助かっているわ!」
「いえ、むしろゴミを引き取っていただけたこと、ありがたく思っておるくらいですよ。ゴミ問題も、
 なかなかこちらの領地としても問題になってましたから」


 ハハハ……と空笑いしているエールに、へぇーっと兄は関心している。どこに関心することがあるのか、わからないが、何かあるのだろう。


「それにしても……アンナリーゼ様と違って、兄上はまともですね?」
「それは、よく言われるわね!お兄様」
「はぁ……アンナ、それは、褒められているわけではないんだよ?」
「ある意味誉め言葉ですよ。まともじゃないから、旦那様を押しのけて筆頭公爵になったのですから。
 慎ましやかな女性であれば、私はそもそもこの国の地で結婚などしていませんからね?」


 なるほどとエールは頷いている。そんなことより、始まりの夜会での打ち合わせをしないといけない。
 エールにも同じようにお菓子とお茶を置きキティが先に出ていく。


「ニコライ、後で話があるから、この話が終わったら来てちょうだい」


 かしこまりましたと残し、ニコライが部屋を出ていく。
 扉が閉まるのを待って、三人が改めて向き合うのであった。
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