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トラブルの真ん中Ⅳ

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 私に頭を撫でられ、水を差されたジョージアは、デリアに向き直ってさぁ、どっからでも話してくれ!というふうであった。
 なんというか、当主なのにいろいろと残念なことになっているジョージア。
 義父からは、そういう引継ぎは無かったのだろうか?
 私が何故知っているかというと、ごく一般的に貴族には二面性がある。
 いわゆる表向きの華やかな部分と少々仄暗い裏向きだ。私生家であるフレイゼンにもそれは、もちろん存在していて、私が父から譲りうけたちゅんちゅんも仄暗いその一つであった。
 仄暗いと言えども、フレイゼンでは暗殺までは手にかけていない。精々国の機密事項の拝借が1番危ない橋ではないだろうか?
 兄は、フレイゼン現当主であるから、もちろんその存在を知っていて、国内外の情報収集を精力的にしている。
 この情報網を使って、父は1代で莫大な資産を手に入れたのであるが、それは、またの話。
 もちろん、兄は私の『予知夢』の最悪回避に向けて1枚も2枚もかんでくれていた。
 その情報交換を私とする機会がなかなかないので、今回、国の案件も兼ねてローズディアへ出向いてくれたと言うわけだ。


「で、どういうことなの?」
「まず、旦那様は公爵家のことをどこまでご存じですか?」
「うーん、王位継承の最果てと筆頭公爵。アンバーの瞳、あとは近寄りたくないほど、荒れ果てていた
 領地の領主くらい?」
「はぁ……」
「いや、だからね?」
「大体あってます、旦那様。所謂、それがアンバー公爵家の表向きの顔ですね」
「表向き?」
「えぇ、貴族には表と裏の二面性があります。一般的過ぎて……もう……」
「アンナは、知っているの?」


 ジョージアは、自分が知らないことを私が知っているのか気になったようだ。


「えぇ、もちろんです。私も貴族の一員ですから、情報収集をずっとしてきました。裏向きのお話の」


 私を見て、アンナなら知ってそうだねと納得顔のジョージアが次に質問したのは兄であった。
 同じ質問をすると、僕は当主だからねと苦笑いする。なんだか、敗北感を感じたのか、ジョージアは項垂れた。


「ジョージアが知らないのは、無理もないと思うけど。アンナがその情報を全部握っていた、そうじゃ
 ないの?確か、ジョージアは、本宅から1年近く出ていたはずだからね。その間に、公爵家の全権を
 アンナに握られたんだろ?」
「お兄様、全権を握っただなどと……ディルに子育てを協力してね?と言っただけよ!ねっ?ディル?」
「えぇ、アンナリーゼ様からは、アンバーでアンジェラ様を守ってくださるなら、私ども侍従の生活を
 守ってくださると約束してくださり、今日まで、それを違えたことはございません。
 だからこそ、アンナリーゼ様のお役に立ちたいと、みなが張り切るのですよ!」


 気のよさそう筆頭執事はいけしゃあしゃあと私にこじつけてくるので、確かに約束しましたね?と微笑む。


「ディルって、二重スパイだったものね?今は、私の忠実な飼い犬でよかったかしら?」
「えぇ、甘噛みひとつしない、忠犬でございます」
「アンナとディルの仲がうまくいっているというには、そういう関係性があったわけか」
「いいえ、旦那様。二重スパイのことは、大旦那様も知りませんでした。私、王家筆頭執事が父ですが、
 公には出していない情報ではありましたので……」
「はい?今日は、知らないことばかり、次から次へと話が出てくる」


 少々疲れた顔をしているので、デリアを呼び、お茶のおかわりを頼んだ。温かいお茶を一口飲むと、ジョージアからは長い長いため息が漏れた。


「知らないのは、いつも俺だけか……」
「ジョージア様は、大事に育てられたんですよ!ディルにしたって他のディルの子猫たちだって、とって
 も優秀ですからね。そっと、情報提供をディルが忍ばせてくれていたのです。それくらいは、気づいて
 いたでしょ?」
「あぁ、なんとなく、いつも必ずしっかりした情報提供があった。それが、ディルたちのおかげだった
 なんて……知らなかった」
「旦那様、もっと、回りに気を付けて見てください。アンナ様の周りだけでも、協力な情報提供者は
 十人もいるのですよ?そのうちのの一人になりたいとは、思わないのですか?」


 デリアに問われ、どう答えたらいいのか、完全に黙ってしまうジョージアに、情報の大切さ、怖さ、必要性をしっかり教えた方がいいのではないかという話になった。
 少しずつ、ジョージアにも母の教えを伝授していっていたが、性格ゆえか、身にならなかった。教えてくれとは言われているが、この社交の季節からではなかなか難しい。
 デビュタントのときから、そうでなければ、目立つのだ。大人しいジョージアが、いきなり社交界で誰彼構わず話をしだすと、怪しいと思われてしまう。
 そして、この容姿なので、聞く相手を間違えるとえらいことになる。第二夫人第三夫人となるような輩が虎視眈々と狙っているので、事があってもなくても出来る可能性もあるのだ。
 私は領地にかまけているから、ジョージアなら篭絡するくらいと息巻いている婦人たちも知っている。
 私としては、ジョージアに夫人が増えるような危険があるのに、今更何かをしてほしいわけではないのだが、これ程みなが協力的なのにジョージアだけがのけ者になっているような状況に、当の本人は落ち込んでいた。


「俺にも面子があるから、これからは本当に手伝わせてくれ!」


 ダメだとは言えず、ニッコリ笑いかける。


「一緒に頑張りましょう!ジョージア様なら、出来ますから。前も約束しましたしね?」
「あぁ、頼むよ。ダメさ加減を突き詰められたな……また」
「ジョージア、まだいいぞ?俺は、毎日小さいときから、アンナと比べ続けられて来たんだから。みなが
 言うほど、ポンコツアンナではないんだよ。両親のありとあらゆる知識が詰め込まれているんだから、
 優秀過ぎるからね。学園の勉強はからっきしだけど……」
「お兄様、それは、しぃーっです!しぃーっ!!」


 勉強ができないことは、ここではジョージアと兄しか知らないことであったのに、おおぴらに言われてしまい、さっきまでの勢いは萎んでいき、恥ずかしいと頬を染めて小さくなる。
 そんな私を見て、みなが笑う。
 兄なりのジョージアへの配慮だったとしても、これは恥ずかしい。


「これで、ジョージアの面子も保たれたかな?」


 のんきに言う兄に、もぅ!っと怒ると、さらに笑いを誘う。
 思いのほか、重苦しい話をしていたので、いいガス抜きにはなったようだ。
 小さくふぅっと息を吐くと、隣で笑うジョージアを見てホッとするのであった。
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