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トラブルの真ん中
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屋敷に帰り、アンジェラを子ども部屋に連れて行き、執務室へ向かう。
廊下を歩きながら、中庭を見る。
ここの庭は、私が初めて越してきたときと変わらず、見事な造りになっていて、思わず足を止め見ていた。
「私、いつも何かと戦っている感じね……ディルに生き急いでいるって言われてるけど、のんびりさせて
もらえないのよね。人にしても自然にしても、待ったがきかないからな……」
「アンナ?」
「ジョージア様!今から執務室へ集まるのですけど、一緒にいいですか?」
あぁ、もちろんだよと私の手を取り歩き始める。
ジョージアの手を握っていると、不思議と肩の力が落ちるようで心地よい。
私はただ、ジョージアの歩調に合わせてゆっくり歩いていく。
「そういえば、サシャは、無事に連れて帰ってこれた?」
「無事かどうかは、今からお話しますよ。あっ!お兄様は、すこぶる元気で私もアンジェラもどこにも
怪我とかはありませんからね!」
「そう、それが何よりだ。なんか、最近また物騒なことになっているってディルに聞いたものだから、
二人で城に行かせてしまったこと、心配だったんだ」
「大丈夫ですよ!私、強いので!」
「アンナが強いことは知っていても、力のない女性には変わりないんだから、あまり過信しすぎはよく
ないよ!それに、アンナが強いのを相手も知っているなら、生身への攻撃ではなく、馬車に細工とか、
馬に細工とかされる場合もあるんだ。アンナが預かり知らないところで、命を狙われることもあるん
だからね?」
……はいと大人しくジョージアの言葉を聞く。確かに私の預かり知らぬところで動かれる場合がある。だからこそ、今から集まって情報共有することにしているのだから、ジョージアの言っていることは、すごく正しい。
それに、心配してくれているというのが、声や繋いだ手からも伝わってくる。
「俺だけでなく、みんながアンナのことを頼りにしているし、大切に思っているんだ。自分だけならと
ならず、俺や子どもたち、領民のためにももう少し自覚してくれないと」
「肝に銘じます」
「いい意味でも、悪い意味でも、もっと公がしっかりして目立ってくれたらいいけど、今は、アンナの
方がローズディア公国に対して影響力が大きいからね。どんなときも、気を付けすぎてこしたことは、
ないよ」
いつもにも増して、心配をしてくれるジョージアに私は頷く。
執務室へ入ると、すでに呼んでおいた侍従たちが集まっていて、その真ん中でふんぞり返っている兄を見つけた。あまり似合っていない兄の様子にクスっと笑う。
「アンナ、僕もきかせてもらうよ?返って父上にも話をしないといけないからね?」
「えぇ、いいですけど……お兄様、あまりその恰好は……」
「ダメだったかな?」
「似合っていませんよ。いつもの優しいお兄様が私は好きです」
少しだけ照れたようにする兄に微笑み、兄の座る対面にジョージアと腰掛けた。
すると、デリアがお茶を運んできてくれる。
温かいそのお茶は、いつも飲むアンバーので高級茶葉ではなく、懐かしいフレイゼンでよく出されていた紅茶であった。
「お兄様が、この茶葉を持ってきてくださったのです?」
「ん?さすがだね。わかるんだ」
「もちろんです!我が家で飲まれてきたお茶ですよ!」
懐かしい味に舌鼓をしていると、ジョージアもおいしいと言ってくれた。フレイゼンでは、領民が領地の有効利用できない場所を何かしらの研究のために使っている。
私が生まれる前から始まっているのだが、このお茶も研究用に作られた茶葉であった。
いつも思うが、父の発想はとてもじゃないが真似ができない。
小規模なら、学都の中でも農耕栽培ができるのだが、大規模に作用されるかどうかの実験には、そういった場所を使うようにしている。
災害に弱い場所、例えば大水になると浸かるとかそういう場所だからこそ、空いている土地なのだが、研究者の手元には必ず苗や種は常備するよう伝えられ、元になるようなものだけは、学都内で栽培されている。
「まぁ、アンナは茶葉にもそこそこ詳しいんだったね。それで、一体どんなことになっているのかな?」
「そのことなのですけど、まだ、私も全容は掴めていません。私も領地に長らく引っ込んでいましたし、
私の友人たちもアンバー領とコーコナ領を忙しく飛び回っていましたから」
「ジョージアにその情報収集は頼めなかったのかな?」
少々嫌味っぽく言う兄に対して、ジョージアは面目ないと肩を落とした。元々情報収集には疎いジョージアだった。表面の情報は拾えていたとしても、私たちが扱うような裏の情報まではなかなかたどり着かないだろう。
今は、折しも社交の季節でもある。派手に動き回ったとしてもそれ程目立つことはないだろうとふんではいた。
ただ、私が動くと問題があることはあきらかであったため、誰か私の手駒が欲しいと思っていたところだ。
これも、私が忙しいと情報収集をサボっていたツケではあるのだが……目の前の人物がいれば、なんの問題もない。
「私の力不足です。みなに迷惑と危険なめに合わせることになるかもしれません。
まず、ディルとデリアは、この屋敷を含め、アンバー領コーコナ領の警備を考え直してちょうだい。
コーコナ領には、ココナとアデルがいるから、二人に連絡を。アンバー領だけど、今いるのは……
イチアとヨハン、あとリリーね。この三人なら、大丈夫だと思うけど、領地が広すぎるから心配ね?」
「アンナリーゼ様、発言をよろしいですか?」
「もちろん!」
「アンバー領には、私の子猫たちを向かわせましょう。みな、しっかり教育されているものたちです
から、それでなんとかなるかと。アンナリーゼ様が、アンバー領に戻られるまでの間だけでもその
方が安心でしょう」
私はディルに頷くと、次の議題へと移っていく。
次は、この屋敷の話をすることにした。
廊下を歩きながら、中庭を見る。
ここの庭は、私が初めて越してきたときと変わらず、見事な造りになっていて、思わず足を止め見ていた。
「私、いつも何かと戦っている感じね……ディルに生き急いでいるって言われてるけど、のんびりさせて
もらえないのよね。人にしても自然にしても、待ったがきかないからな……」
「アンナ?」
「ジョージア様!今から執務室へ集まるのですけど、一緒にいいですか?」
あぁ、もちろんだよと私の手を取り歩き始める。
ジョージアの手を握っていると、不思議と肩の力が落ちるようで心地よい。
私はただ、ジョージアの歩調に合わせてゆっくり歩いていく。
「そういえば、サシャは、無事に連れて帰ってこれた?」
「無事かどうかは、今からお話しますよ。あっ!お兄様は、すこぶる元気で私もアンジェラもどこにも
怪我とかはありませんからね!」
「そう、それが何よりだ。なんか、最近また物騒なことになっているってディルに聞いたものだから、
二人で城に行かせてしまったこと、心配だったんだ」
「大丈夫ですよ!私、強いので!」
「アンナが強いことは知っていても、力のない女性には変わりないんだから、あまり過信しすぎはよく
ないよ!それに、アンナが強いのを相手も知っているなら、生身への攻撃ではなく、馬車に細工とか、
馬に細工とかされる場合もあるんだ。アンナが預かり知らないところで、命を狙われることもあるん
だからね?」
……はいと大人しくジョージアの言葉を聞く。確かに私の預かり知らぬところで動かれる場合がある。だからこそ、今から集まって情報共有することにしているのだから、ジョージアの言っていることは、すごく正しい。
それに、心配してくれているというのが、声や繋いだ手からも伝わってくる。
「俺だけでなく、みんながアンナのことを頼りにしているし、大切に思っているんだ。自分だけならと
ならず、俺や子どもたち、領民のためにももう少し自覚してくれないと」
「肝に銘じます」
「いい意味でも、悪い意味でも、もっと公がしっかりして目立ってくれたらいいけど、今は、アンナの
方がローズディア公国に対して影響力が大きいからね。どんなときも、気を付けすぎてこしたことは、
ないよ」
いつもにも増して、心配をしてくれるジョージアに私は頷く。
執務室へ入ると、すでに呼んでおいた侍従たちが集まっていて、その真ん中でふんぞり返っている兄を見つけた。あまり似合っていない兄の様子にクスっと笑う。
「アンナ、僕もきかせてもらうよ?返って父上にも話をしないといけないからね?」
「えぇ、いいですけど……お兄様、あまりその恰好は……」
「ダメだったかな?」
「似合っていませんよ。いつもの優しいお兄様が私は好きです」
少しだけ照れたようにする兄に微笑み、兄の座る対面にジョージアと腰掛けた。
すると、デリアがお茶を運んできてくれる。
温かいそのお茶は、いつも飲むアンバーので高級茶葉ではなく、懐かしいフレイゼンでよく出されていた紅茶であった。
「お兄様が、この茶葉を持ってきてくださったのです?」
「ん?さすがだね。わかるんだ」
「もちろんです!我が家で飲まれてきたお茶ですよ!」
懐かしい味に舌鼓をしていると、ジョージアもおいしいと言ってくれた。フレイゼンでは、領民が領地の有効利用できない場所を何かしらの研究のために使っている。
私が生まれる前から始まっているのだが、このお茶も研究用に作られた茶葉であった。
いつも思うが、父の発想はとてもじゃないが真似ができない。
小規模なら、学都の中でも農耕栽培ができるのだが、大規模に作用されるかどうかの実験には、そういった場所を使うようにしている。
災害に弱い場所、例えば大水になると浸かるとかそういう場所だからこそ、空いている土地なのだが、研究者の手元には必ず苗や種は常備するよう伝えられ、元になるようなものだけは、学都内で栽培されている。
「まぁ、アンナは茶葉にもそこそこ詳しいんだったね。それで、一体どんなことになっているのかな?」
「そのことなのですけど、まだ、私も全容は掴めていません。私も領地に長らく引っ込んでいましたし、
私の友人たちもアンバー領とコーコナ領を忙しく飛び回っていましたから」
「ジョージアにその情報収集は頼めなかったのかな?」
少々嫌味っぽく言う兄に対して、ジョージアは面目ないと肩を落とした。元々情報収集には疎いジョージアだった。表面の情報は拾えていたとしても、私たちが扱うような裏の情報まではなかなかたどり着かないだろう。
今は、折しも社交の季節でもある。派手に動き回ったとしてもそれ程目立つことはないだろうとふんではいた。
ただ、私が動くと問題があることはあきらかであったため、誰か私の手駒が欲しいと思っていたところだ。
これも、私が忙しいと情報収集をサボっていたツケではあるのだが……目の前の人物がいれば、なんの問題もない。
「私の力不足です。みなに迷惑と危険なめに合わせることになるかもしれません。
まず、ディルとデリアは、この屋敷を含め、アンバー領コーコナ領の警備を考え直してちょうだい。
コーコナ領には、ココナとアデルがいるから、二人に連絡を。アンバー領だけど、今いるのは……
イチアとヨハン、あとリリーね。この三人なら、大丈夫だと思うけど、領地が広すぎるから心配ね?」
「アンナリーゼ様、発言をよろしいですか?」
「もちろん!」
「アンバー領には、私の子猫たちを向かわせましょう。みな、しっかり教育されているものたちです
から、それでなんとかなるかと。アンナリーゼ様が、アンバー領に戻られるまでの間だけでもその
方が安心でしょう」
私はディルに頷くと、次の議題へと移っていく。
次は、この屋敷の話をすることにした。
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