上 下
560 / 1,480

お迎えにかがりましてよ!Ⅲ

しおりを挟む
 セシリアを含め兄と談笑していると、門でのことを処理してウィルが戻ってきた。
 顔は疲れているところを見ると、少々揉めたのだろう。


「姫さんさ、門兵蹴り飛ばしたの?」
「うん、そうだね」
「えっ?アンナ、さすがにいい大人なんだからさ、少々のことで」
「うーん、うちの子を泣かすことに理由があるなら聞いて差し上げますわ!」


 私はアンジェラの頭を撫でると、まぁ、そりゃ仕方ないよね?と兄は呟いた。きちんとした確認もせず、服装だけで判断した若い門兵に非がある。
 ましてや、今日は歩いてきたわけではなく、きちんと紋章の入った馬車に乗ってきたのだから。
 それに、私やアンジェラの容姿は珍しい。ストロベリーピンクの髪は母方の一族だけが継承しているものだし、アンジェラの瞳はアンバー公爵家のみに発現するものである。
 見落とした門兵の知識不足や洞察力不足が招いたことでもあった。


「まぁ、姫さんの言い分もわかる。次期公爵に対してかなり無礼なことをしたことも、公爵に刃を向けた
 ことも事実だから」
「多少煽ってしまったところは、私謝るわ」
「ただ、今回のことは、大きく取沙汰されることになった。姫さんや嬢ちゃんが何かすることはない
 けど、公までこの話は行くことになる。門兵とはいえ、訪問予約のある公爵や次期公爵に対して刃を
 向けたことは、軽く済むことはないから、それだけは覚えておいて」
「えぇ、わかったわ!」


 ウィルの少々疲れた声に頷くと、ウィルが来たのが嬉しかったのかアンジェラはすぐにウィル?と小首を傾げている。
 厳しい声からいつもの飄々としたウィルでないことに少し不安を覚えたのだろう。
 どうした?嬢ちゃんといつもに戻ったウィルに頭を撫でてもらってアンジェラは目を細める。


「なんだか、アンナにも悪いことをしてしまったね?」
「いいんですよ!いつものことですから。気にしないでください。それより、私、お兄様を迎えに来た
 のですから、屋敷に一緒に帰りましょう!」


 あぁ、荷物持ってくるとさっきまでいたところへ兄は向かった。
 その間、私とウィル、セシリアは話をする。


「ウィルにも迷惑かけたわね?」
「それは、別にいいんだけど、ここ数日、城での話をきいたところ、ちょっと怪しい勢力が育ってきて
 いるらしい。姫さん、気を付けてくれ」
「さっきみたいな?」
「あぁ、あれは末端だな。地方貴族の姻戚の子どもってとこだ。姫さんが粛清した貴族の遠縁みたいな
 もん。うま味を享受してたのにって感じで逆恨みされている。最近、公が夜遊びしなくなったおかげ
 もあって、警護は城だけになっているんだけど、どうも、公も狙われているんじゃないかって話だ」
「その話は、近衛ではもちきりですね。公にはなっていませんが、実質命を狙われた事件がありました。
 公がアンナリーゼ様には伝えないよう言われるので、黙っていましたが……アンナリーゼ様も狙われる
 なら、話は別です」


 公も狙われているということは、私ももちろん狙われているのだろう。少々の暗殺者では私は死なないが、周りにもしっかり気を配っておかないといけないことに変わりはない。


「ウィル、悪いんだけど……」
「ナタリーとセバスには伝えてある。お茶会や夜会で出回ることも多いから、気を付けると。あとその
 へんの情報も仕入れてくるように言ってた」
「無理はしないでくれると助かるのだけど……」
「セバスはいいとして、ナタリーだよな……」
「あと、カレンも」


 好きそうだよなとため息を突くウィル。起きてもいないことに兵は出せないので、自己防衛しかないのだが、どうしたものか……
 おまたせと兄が荷物を持って戻ってきた。話は、ここまでだろう。


「ウィルも気を付けてね。ウィルだけじゃなくて、ウィルの家族も含めて」
「あぁ、おやじ殿にも言ってあるし、やばそうなことに首は突っ込まないでくれと、兄たちにも言って
 ある。どこまで聞いてくれるのかは、兄たちについては怪しいんだけどなぁ……」


 ぼそぼそっと言っている。
 兄の準備も整ったことで馬車に乗り込むと、じゃあ、またなと手を振るウィル。
 アンジェラは少し寂しそうに手を振り、私も手を振る。
 門を通るときは、一度馬車の検めがあるが、今度はいつもの門兵であった。


「今日は、お騒がせしてしまいさらにうちの者が、アンナリーゼ様に刃まで向けたこと万死にあた……」
「万死だなんて、大袈裟よ!私、あなたや他の門兵がいてくれないと、こっそり遊びに来れないじゃ
 ない?今日のことは、どんなふうになるのかは、近衛に任せてあるから、口出しすることは出来ない
 けど……あなたたちが死を賜るようなことがあれば、抗議するわ!」
「そのお言葉だけで……ありがとうございます、ありがとうございます!」
「お礼を言われるようなことは何も……」


 それじゃあと門を通り過ぎ、アンバーの屋敷へガタゴトと向かう。
 兄は気を使ってくれているのがわかる。


「お兄様が、気にすることなんて何もありませんよ!私が今までしてきたことに対する、ひとつの答え
 です。真摯に受け止めていますよ!」
「アンナには、いつも驚かされるね?」
「どうしてです?」
「いや、どんなことがあってもブレないというか……」
「ブレてばかりですよ。アンジェラがいなければ、私はとうに折れていたかもしれません」


 そうかと呟く兄にそうですよと呟く。
 屋敷についたのか、馬車が停まり扉が開いた。

 おかえりなさいませとデリアが向かえてくれる。


「デリアにも話があるわ。お兄様を客間に連れて行ってから、ジョージア様、ディル、リアンを執務
 室へ。あと、手紙を送ってほしいから後で渡すわね!」


 それだけいうと、デリアは兄を客間へ案内してくれる。
 私はアンジェラの手をひき子ども部屋へと移動するのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄の場に相手がいなかった件について

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。 断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。 カクヨムにも公開しています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

処理中です...