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あーん

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 お待たせしましたと、机の上に置かれたのは……生クリームが山のように乗せられたケーキであった。
 それをキラキラした目で見つめていたかと思うと、うっとりし始め、フォークを生クリームの中に埋もれさせたっぷり掬う。
 それを無遠慮に大きな口を開けてパクっとほおりこみ、空いている手を頬にあてながら、んん-っと悶えている母娘を目の前にし、ジョージアもジョージも呆気に取られていた。


 妻と2歳の娘が全く同じような動きをし、同じように目を輝かせ、同じように喜びを表している。
 これは、容姿こそ違うが、母娘と疑う余地がない程、同じであったとジョージアは、公へ最近驚いた話として話したそうだ。


「……パパ、ママとアンが……」
「ジョージ、見ちゃいけないよ。ほら、クッキーをあげるからね!」
「はぁ……生クリーム最高!」
「さいこう?」
「とっても、おいしいってことよ!」
「最高!」


 私はアンジェラに生クリーム美味しいねと言うと、満面の笑みでもう一回生クリームを口に運ぼうとしていた。
 たくさん掬って口に入れたのだろう。アンジェラの鼻の頭にクリームがついているので、紙ナプキンで拭いてやるとくすぐったかのか、くしゅくしゅすると鼻の頭を撫でている。


「アンナとアンジェラは、そんなに生クリームが好き?」
「クリーム好き!」


 フォークを軽く振り回しながら、ジョージアにクリームがおいしいとアンジェラは興奮して話している。
 そんな姿を見ると、昔、兄に同じようなことをしていたことを思い出し、思わずクスっと笑ってしまった。


「アンナは、何笑っているの?」
「いえ、アンジェラを見ていたら、昔、お兄様に生クリームのおいしさを語ったなと思いだして……」
「サシャも生クリーム大好きだよね?甘いもの全般が好きな感じだけど」
「お兄様が生クリーム好きなのは、私の影響ですよ!甘いものは、元々から好きでしたけど、今は、
 優しい甘さのものしか食べていないらしいですよ?この前来ていた手紙に書いてありました」
「優しい甘さ?それは、何故?」


 私はふふっと笑い、大好きな生クリームをたくさん食べられなくなった兄を想った。生クリームはたくさん食べられなくても、愛情たっぷりの優しい甘さのお菓子は子どもたちも含めたくさん食べているようだ。


「お兄様、生クリームより甘いものが見つかったから、なるべく絶ったそうです」
「生クリームより甘いもの?砂糖とか?」
「それは、そのままではないですか……答えは、エリザベスの作るお菓子です。子どもたちも大好き
 なんだそうですよ!」
「それはそれは……何より甘いお菓子なわけだ」
「そうですね。エリザベスがお兄様を想って、甘さ控えめだけどとっても美味しいものを作ってくれる
 らしいですから、私のようにこんなたっぷりの生クリームに頬を染め、大口開ける日は無くなった
 のです。ちょっと、わかちあえなくなったので残念ですね……」
「……まぁ、いいんじゃないかなぁ?さすがに、母娘二人で、生クリームをそんなに食べられたら、
 こっちが胸やけしそうだ」


 そうですか?と言いながら、私もまた生クリームを口に運ぶ。アンジェラは、3回目を口に運ぶところであった。
 さすがに、この量をアンジェラが食べるのは多すぎる。お腹を壊したらダメなので、私は仕方なく自分の大事な生クリームを軽く一口掬い、小さくため息をついた。


「アンジェラ、そんなに食べたらお腹を壊すから、ジョージに少しあげましょうか?」


 えっ?ありえない!という顔をアンジェラはこちらに向けてきたが、後でお腹いたいと騒がないといけない方が大変なので見本を見せる。


「ジョージア様、あーんしてください!あーん!」
「えっ?くれるの?」
「早くしてください!私も、食べたいんですから!」
「はいはい」
「あーん」


 ジョージアの口にフォークですくった生クリームを入れてあげると、甘さ控えめだね?といい、これならいけるかも!と言っている。


「アンジェラとジョージも交換したら、どう?」


 私はジョージアから少し苦めのクッキーをもらい、それにケーキを乗せてパクリと食べた。それを見たアンジェラは、同じことをしてみたくて仕方なかったようだ。
 私と違い、しっかりフォークに生クリームを掬ってジョージにあーんしている。ジョージは、大量の生クリームに戸惑いながら私を見てきたので、頷くと目を瞑ってアンジェラが差し出した生クリームを大きな口を開けて食べた。アンジェラもジョージも初めてしたあーんに若干の戸惑いを隠しきれていないが、二人共なんだかほわほわしている。


「ジョー、クッキーちょうだい!」


 食べることを思い出したようで、アンジェラがジョージにクッキーをとせがんでいると、おずおずとアンジェラにクッキーを渡しているジョージ。
 アンジェラに大盛りの生クリームをジョージは雑に口に入れられたため、口の周りにベッタリついてしまっているので、私は腰を少し浮かせ、ジョージの口元を紙ナプキンで拭き、その後ハンカチで再度拭き直す。綺麗になったところで、こっちを見てニコッと笑うジョージにジョージアが頭をくしゅっとした。


「ママ、ありがとう!」


 ちゃんとお礼を言えるジョージに成長を感じたと同時に驚いた。
 それにしても、この子たち、いつの間にかアンとジョーと呼び合っていて、姉弟として自分たちの立ち位置をつくっているようである。
 このまま仲良く成長してくれると嬉しいのだがと、私は二人の成長をただただこれからも見守っていくだけだなと二人の頭をクシャッと撫でるのであった。
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