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社交の準備!Ⅲ

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「姫さんはさ……」
「……ん?」


 私は、ウィルが何かいうことを身構えながら聞いているところだ。一体、私は何を言われるのだろうか?


「蝶みたいだよね?」
「蜘蛛の次は蝶?」
「そう。世界にはさ、世にも綺麗な蝶がいるんだって。見るものを魅了してしまうような」
「へぇーそれって、綺麗ってことだよね!」
「いや、その蝶の羽にある鱗粉は毒らしいんだけど、見目がいいからついつい見入っていて、羽ばたく
 ときに毒をばらまくから吸っちゃって苦しむ動物がっていうか、人がいるらしいってヨハン教授から
 聞いた」
「えっと……私、毒?」
「ウィル、それなら、薔薇に例えるほうがいいのではなくて?美しい薔薇には棘があるって言いますし、
 まさに青紫の薔薇の称号を持っているのですから」
「確かに、ナタリーの言う通りだな」


 ごめん、姫さんと謝られ、逆にポカンとしてしまった。
 えっ?どういうこと……?蜘蛛?毒を持った美しい蝶?薔薇?私って……


「アンナリーゼ様、深く考えなくていいと思うよ。ウィルは、たぶん……直感的に思っただけだから、
 そんなに深く考えてないはずだし」
「まぁ、そうかも」
「でも、僕もなんとなくウィルの言いたいことはわかる気がする。夜会に出るアンナリーゼ様は、別人
 だからね。綺麗な蝶と言われればなるほどと思うし、容赦ないところは、毒の鱗粉のようだよね?」
「私って、みんなにそんなふうに思われていたんだ……なんだか、落ち込みそう」
「褒めてるんだって。まぁ、ジョージア様だったら、棘のない青薔薇だと言ってくれるだろうさ。姫
 さんに青薔薇は似合わないけどな!」
「確かに……ジョージア様ありきでの青薔薇ですわね!」


 そんな……と不貞腐れると、いつでもアンナリーゼ様の青薔薇は側で誇らしく咲いているからいいではないですか!羨ましい。たおってしまいたいわ!とナタリーが鼻息荒く言い始めたので、ウィルとセバスが宥めている。
 青薔薇と比喩したのは、ジョージアのことだったようだ。


「謁見での話は大きくその2つね。ナタリーにもセバスにも迷惑をかけるけど、目にもの見せてあげて!」


 かしこまりましたと二人が返事すると、俺は何にもないんだよなぁ……と呟くウィルにニッコリ笑いかける。
 何を意味したのか、わかったらしく、社交がんばりまーっすと降参ポーズを取りながら言っている。
 わかってもらえて何よりだ。


「あと、コーコナに行った話をしましょうか?」
「そうだな。追加で100人の近衛を借りる予定なんだけど、とりあえず五十人をコーコナ領に送ることに
 して、残り五十人をアンバー領へと考えている。住む場所を急ごしらえで作ることになったもんで、
 人手が多すぎるのは困るそうだ。コーコナの視察も出来たから、あとは、現地で任せることにして
 いる」
「どのみち、資金はもっといるのよ……何か、儲けに繋がる何かを見つけることと、輸送のための人材
 確保でエレーナに会う約束をしてあるの」
「エレーナ様にですか?私も会いたいな……」
「えぇ、いいわよ!ジョージア様も行くと言っていたし」
「ジョージア様もですか?」


 すごく嫌な顔をしている、ナタリーにダメだよとセバスが声をかけた。
 まぁ、いつものことなので、苦笑いするだけでこの話は終わる。

 私たちは、今後のことを話し合って、とりあえず、社交の季節が始まる最初の夜会に向けてどんな情報が欲しいのか、どんな人と関わっていくのか、先に帰っていたナタリーやセバスから話を聞くことにした。


「それにしたって、公妃の謝罪が私楽しみです。ハニーアンバー店は、私にとっても大事な子どもと
 一緒ですから。その子どもたちをバカにされたようで、怒っていたのですよ!」
「ナタリー、公妃は、みなの前で謝らないよ。残念ながらね」
「そうなのですか?」
「そうね。公妃が、まず、夜会に出るのも正直渋っているでしょうね……なんたって、謁見の日に、
 どれほど公と公妃の夫婦喧嘩で待たされたか……ねぇ、ウィル?」
「確かに……まぁ、有意義な時間となったけどな。俺。宰相との話し合いは、聞いてておもしろかったし」
「なんですの?そのお話って……」


 私はナタリーとセバスにまだ話していなかった、次代の公世子についての話をした。
 公妃が焦っているのか、公世子に自身の子をと言っているらしい。まぁ、別にそこは好きにしてくれていいんだけど……公としては、公世子には後ろ盾が欲しいとのことだった。
 それを、アンバー公爵家にお願いできないかと話が出ていたので、きっちり断ってきたと話した。


「では、私も兄には後ろ盾の傘下に入らないことを進言しますわ!アンナリーゼ様に選ばれないので
 あれば……どちらも変わりないでしょうし、揉めごとにわざわざ首を突っ込んでいくのも、大変です
 からね……中立といたします」
「うちは、もう、決まってるからな……第一公子に。まぁ、僕自体が爵位持ちだから、僕はその傘下
 には入っていないけど、言われてはいるんだ。僕も入らないでおくよ」
「セバスのところは、第一公子か」
「ウィルのところは、第二公子のほうだって、聞いたよ。仲良くするのはやめてくれと言われたけど、
 ウィルも家とは離れて考えてもいいんだろ?」
「あぁ、そう思ってくれてていい。俺は、いつだって姫さんの味方だから、姫さんが見向きもしない
 間は、誰かにつく気はないよ!」
「みんな、そんなに私をかってくれているの?私は、たいしたことはないのよ……ただ、どちらもお姫
 様には……と思っているだけだし、『予知夢』のこともあるから、第一公子にだけはつくことはでき
 ないかしら」
「たしか、内乱を起こすんだったな?後ろについているのはインゼロだっけか?」
「憶測でしかないけど、公妃の実家がたぶん通じてると思うわよ!向こうも皇帝が変わっているからね。
 元皇太子が、我が家でウロウロしているくらいだもの」


 はぁ……とため息をつき、そういえば、見かけないなと考えていた。
 ナタリーがここにいるということは、きっと公都にいるはずで、この屋敷にいるはずなんだけど……と、なんだか、頭が痛くなってきたのである。
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