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社交の準備!Ⅱ

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 ナタリーへのお願いは快諾された。もちろん、相手の出方によっては、今後もいろいろ考えたいところではあるが、ドレスのサイズを渡すと、今日から早速ドレスを直してくれるようだ。
 薔薇のドレスだそうだが……少々毒々しい方がいいだろうと呟いていたので、程ほどにねとナタリーにいうと、とてもいい笑顔を返されてしまった。
 元々私用のドレスだったそうで、赤薔薇だそうだ。
 ナタリーは赤薔薇を纏うことが出来ないので、修正をするつもりだったらしい。社交の最終に私と揃えて着るつもりだったのだと頬を染めていた。
 この国で薔薇を纏えるのは、侯爵位以上でないといけないので、レースで隠す方法を考えていたのだが、公の前でどちらが高貴な方か思い知らせて差し上げますわ!と意気込みだした。
 いや、赤薔薇の方が、一応、高貴といわれるのだから……公妃でいいじゃない?とと思わなくはないが……銀髪の王子も本物の王子ではあるので、公妃と肩を並べることは、出来なくはない。むしろ、公の首をジョージアと挿げ替えることくらい、たいしたことではないのだし……と、そっと苦笑いをした。
 本人が望んでいないことはするべきではないし、ジョージアとのんびりアンバー領で過ごすことは、私にとって幸せな時間である。
 わざわざ今以上にジョージアを忙しくさせたいわけではないので、そっとしておく。今、忙しいのは、ジョージアでなく私の方ではあるのだけど……


「ナタリーは、本当に素敵なドレスを作るものね!公妃も虜にするくらいのドレスをお願いね!私は、
 ナタリーを始め、アンバーやコーコナの他のみんなの力も信じているから!」
「もちろんです!アンバー領やコーコナ領で一緒にドレスを作っている方々は本当に素敵な方々です
 よ!手も早く正確でとても綺麗ですもの!」


 私は、生き生きとするナタリーが、学生の頃よりずっと輝いていることを嬉しく思う。
 離婚して私を追いかけてきたときは、女性たちを守るために強くなっていた。今は、そのときより強く輝いていることを私だけでなく、他の友人たちも気づいていることだろう。


「ところで、次は僕の番かな?」
「えぇ、そうね!」
「さっき、パルマから少し聞いたけど……僕がいたときより城の状況は酷くなっているようだね?
 なまじ、パルマは仕事が出来すぎるから、僕より仕事を抱えていたみたいだね……いつになったら、
 是正されるのかと思っていたけど、変わらずかと思うと残念だよ」
「宰相も公と公妃のお守でそこまで回っていないようね……もう少し、公がしっかりしてくれたら……
 いうこと無いのだけどね?」


 苦笑いするセバスに無理じゃない?とナタリーの厳しい一言である。一緒に聞いていたウィルは深いため息をついていた。


「それで、僕は社交の季節の間は、城につめて改善策を提案し続ければいいの?」
「そう。助手としてパルマをつけるわよ!」
「それは、ありがたい話だね!しかし、それに上役が納得するとは思えないんだけど……」
「主導はあくまで宰相がすることになっているわ!セバスは、改善策と細かいところを宰相に報告して
 くれるだけでいいの。あとは、折り合いつけるのは公と宰相の仕事だし、パルマは城に残ることになる
 から、改善がなければ……それ相応の対応はさせてもらうつもりよ!若くて使える文官を潰すことだけ
 はしてはダメだからね。
 今いる人たちでなんとかしたい公や宰相の気持ちはわからなくもないけど……潰されると困る人材は
 城にもいるはずよ!」


 確かにとセバスは考え込んだ。
 文官は、近衛のような劇的な手柄をあげたり大幅な出世はありえない。コツコツと積み重ねて、上司から覚えめでたい人でなければ、出世はできないのだ。
 セバスは、アンバー領にいるから評価を私は公へ報告をしている。若い文官の出世頭となっているセバスではあるが、そんなセバスに対し、城で働いていないから不公平だという文官たちがいることも確かだ。
 実は、今回、アンバー領へ派遣されている使えない文官たちは、そういったものだったりする。セバスのアンバー領での仕事量に正直驚いていることだろう。
 宰相も驚く程の仕事量をしていたのだ。ただし、城の仕事と違うのは、やらされている誰かの尻ぬぐいのような大量の仕事ではなく、誇りを持って出来る仕事との差が出ている。
 私は、仕事量については何も言わない。休みはしっかり取るようにだけは、言っているが、イチアと言う自分より格上の人材がいるからこそ、セバスは挑み続けているようであった。


「僕は、アンバーにこれてよかったと思っているよ。仕事が苦でならなかったけど……領地での仕事は、
 全く違うからね。他領では地方官を嫌う貴族も多いと言うけど、地方官をもう少し置いた方がいい
 気がするね。アンバーには、実際、地方官はいなかったし」
「大領地は、爵位が上過ぎて、文官たちが物申せないというのがひとつね。あとは、地方官とも癒着が
 あるらしいから……そういう取り締まる役所が必要なのよ。
 この国には、まだ、ない仕事よね……同じ文官を裁くなんてって感じかしら?」
「トワイス国には、そういう部署があるの?」
「えぇ、部署というよりは、独立機関ね。何物にも染まらない心を持っていないと、やっていけない
 ようなところだよ?賄賂とか結構あるらしいし……それをどんな高位の貴族であっても跳ねのける
 くらいの人物じゃないと務まらないわ!」
「なるほどね……鉄壁の心が必要だね」
「というより、モノにもお金にも困っていなくて、自分にも厳しい人がいいわ!トワイスでは、確か、
 その機関の長を陛下の弟が勤めていて、長官の眼鏡に叶わない人は、まず、入官できないの。
 文官だけでなく、貴族も処罰対象となっているから、不正がバレると結構大変なのよね」


 私の話に耳を傾けるセバスに、ウィルが何か思いついたようだ。


「なぁ、あの、エレーナのときは、その機関は動かなかったのか?」
「あぁ、ワイズ伯爵の件ね……」
「そう、それって、結局、姫さんがことを起こしたんだろ?」
「時間がなかったからって話よ!動いてはいたと思うわ。ねぇ、?デリア。変な人に声かけられたり
 しなかった?」


 あのとき、実際に動き回ってくれていたのはデリアだった。そういうのは、本人に聞くのが1番である。


「えぇ、何回か、黒ずくめの怖そうな方々に声はかけられました」
「よくそれで無事だったよね?デリアも」
「私は、ただの平民ですから、危害を加える気はないと感じていました。まさか、伯爵家陥落させる
 ことを平然とするアンナ様の方が、正直末恐ろしいと思いますよ?」
「姫さんなら、余裕でそこに入れたな?お金も名誉も地位もあるから……」


 私は曖昧に微笑むと、余裕ありすぎだよねとウィルがボヤく。
 別にお金も名誉も地位も私のものではない。たまたま、フレイゼン侯爵家に生まれ、両親が秀でた人たちであっただけだ。
 恵まれた環境が、私を私として育てただけにすぎない。


「私は幸運な人間なのよ」
「幸運ね……どっちかって言うと、引き寄せるよね。自分のしたいようになるように。俺らもそうだし、
 デリアもそうだろ?まぁ、ジョージア様は自分からくっついてきた感じするけど……例えるなら、
 蜘蛛だな。罠を張って欲しいものをじっくりじっくり待ち構えている感じ……」
「……なんだかなぁ。そんな感じなの、私って」
「そんな感じですよ?」
「そんな感じですね!」


 セバスとナタリーは頷きながら、私に微笑む。
 あぁ、でもさと続くウィルの言葉を、私は何を言い出すのかと身構えたのであった。
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