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チーズが苦手

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 ガチャっという音と共に部屋の中をそろーっと覗くアンジェラの後ろ姿が、とても可愛くて仕方がない。
 私の部屋の中を伺っている。ぴょこぴょこしてジョージアとそっくりの銀髪を揺らしている姿がとにかく可愛い。犬のように尻尾がついていたら、ブンブン振り回していたことだろう。


「ママ、アンは何をしているの?」
「アンジェラは、中にいるパパを覗いているのよ!」


 こそこそっとジョージと話をしていると、ジョージアが覗いているアンジェラに気付いたらしい。


「そこで可愛らしくぴょこぴょこしているお嬢さんは、もしかしてアンジーかな?」


 見つかってしまったので、さっきまでブンブン振り回していた尻尾は落ち着いたように思うが、今度は、違う方向に向かったようだ。


「アンジーおいで!」


 ジョージアに優しく手招きされたらしく、アンジェラはとたとたと走って行き、パパ、おはようと声からしてジョージアに抱きついたようだ。


「さては、まだ、扉の後ろにジョージ坊ちゃんとアンナが隠れているんだろ?アンジー、教えてくれる?」
「うん、パパ!ママとジョージがいるよ!」
「じゃあ、早く出ておいで!出てこないと美味しい朝ごはん、アンジーと食べちゃうから!」
「やーパパ、全部食べたらダメ!」


 扉を慌てて開いて中に押し入るジョージにつられ、私も中に入った。
 芝居がましく、悔しそうに見つかっちゃったね……というと、残念そうにジョージは肩を落とした。


「ほらほら、二人共こっちにおいで!」


 ジョージアに手招きされ、二人でソファに向かうとそれぞれ座る。
 私の前にジョージアとアンジェラ。隣にジョージが座った。
 大人二人分の朝食しかないのだが、ジョージアに目配せして四等分にわける。
 2歳とは言え、アンジェラもジョージもしっかり食べる。実はよその子より大きいんじゃないかと思うくらい成長が早い気がしていた。

 コソッと様子を見に来てくれたエマにカップをふたつ追加でもらえるようお願いすると、厨房で追加の料理を持ってきてくれた。
 ジョージアは、朝あまり食べないので、実は足りるのだが、エマの好意に甘えて今日はたくさん食べる羽目になりそうである。


「エマもこっちで食べたらどう?」
「滅相もありません。私は、お茶の用意を……」


 そう言って、かちゃかちゃとお茶の用意をしはじめた。デリアに習ったのか、エマの淹れるお茶もかなり美味しい。
 私がジョージのジョージアがアンジェラの食事を気にしながら食べていると、アンジェラが妙にソワソワしはじめる。
 何かあるのかしら?とアンジェラのお皿を見ると、チーズが乗っていた。


「アンジー食べないの?」


 すると、いつもハキハキしている子が、首をふるふるしている。
 どうも苦手らしい。


「チーズ苦手?」


 コクンと頷く。
 急におとなしくなった子を見てどうしたものかと考えた。
 ジョージアは、基本的にアンジェラにはかなり激甘なので、きっと嫌いなら食べなくていいよって言うのだろう。
 あの手この手で食べさせる算段をしている私とは裏腹に、その言葉を今すぐにでも発そうとしている。
 いやいや、待って。それ、食べさせるから……!心の中で叫ぶ。


「アンジーは、なんでチーズが嫌い?」
「噛むのが嫌!」
「……噛むのが?」


 うーん、噛むのって……と思いながら、何か良くない印象があるのだろう。
 身に覚えがある私は、パンの上にアンジェラの皿の上のチーズをのせる。ジョージアは、小さくあっ!っと声を漏らしていた。


「エマ、このまま少しだけ、パンもチーズも炙ってくれる?」
「かしこまりました」
「アンジー、チーズの味は嫌い?」


 ふるふると横に首を振っていると言うことは食べられるのだろう。
 だったら、食感だけ変えたらいいのだ。


「アンナリーゼ様、出来ました」
「あっ、ありがとう!アンジー、これなら食べられるかな?」


 パンの上で溶けたチーズを見て、ん?となっているアンジェラ。
 まだ、食べたことなかったかしら?と考えながら、勧めるとパクっと嚙りついた。


 「ほいひぃー!」


 さっきとは打って変わって、美味しかったみたいで、はふはふしながら食べていた。
 ジョージもそれを見て欲しそうにしていたので、同じようにしてもらい渡すと、アンジェラとおんなじように美味しそうにしている。


「食感がダメなんだね。嫌なら食べなくていいよって言おうと思ってたのに、アンナはちゃんと食べ
 させるんだから、すごいな」
「そうでもないですよ!私も昔、触感がダメだったのは一緒だったので、母がそうしてくれたことを
 思い出しただけです」
「チーズ、嫌いなの?」
「今は好きですよ!昔、あの食感が苦手だったんですよね。何故か」
「さすが、母娘だね?じゃあ、アンジーもいつかは克服できるかな?
「そうですね?大人になると食べ物でもよほどのことがないと断れないこともあるので、好き嫌いは
 しないように育ててあげないと苦労するのは、子どもたちですからね」
「なるほど……勉強になったよ」
「子どもには子どもの栄養を考えた食事が用意されているのですけど、今日は、私たちと一緒のものを
 食べましたからね。そう言う日もいいと思いますが、小さいうちにいろんなものを食べて味覚を磨く
 ことも大事ですから」


 私は、殿下が食わず嫌いだったことを思い出す。
 5歳まで偏食だったのだ。口にもせず、見た目だけで食べていなかった。ハリーや私が美味しそうに食べているのを見て、初めて食べたときに、なんだ、美味いなと食べたことは今でも忘れない。
 王宮の料理はどれもこれも素材からこだわってあるのだ。作り手も国1番のもの。
 美味しくないわけがないのに、食べていなかったので、私たちのおかげで、偏食が治ったことに、料理長から涙ながら感謝されたこともあった。


「アンジー、あなたはなんでも食べられるのだから、いろんなものを食べて大きくならないダメよ!
 元気に遊びたいでしょ?」
「遊ぶ!」
「お腹がすいてたらいっぱい遊べないからね!たくさん食べて大きくなるんだよ?」
「ママ、僕は?」


 アンジェラに向かって言ってたので、心配になったのか覗き込んでくるジョージに、もちろん、ジョージもよ!と言うとニコッといい笑顔で頷く。
 お皿も綺麗なったところで、家族四人というか、もっぱらアンジェラが話しているのを三人でうんうん聞いていた。一生懸命話をしていたアンジェラは疲れたのか、糸の切れた人形のようにくたっと眠る。
 ジョージも船を漕ぎはじめたので、二人でそのまま抱き上げて子ども部屋連れて行く。
重くなっていくことに成長を感じるねと笑いあいながら、廊下を歩く私とジョージアの顔はさぞかし穏やかなものであったのではないだろうか。
 この子たちがいるから頑張れる、それは、私だけでなくアンバーに連なる誰もが心に置いてくれているように思うのであった。
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