ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
518 / 1,513

やっぱりいてくれないと

しおりを挟む
「やっぱり、アンナリーゼ様がいてくれないと……」
「話し合いにもなりませんね……」


 哀愁漂うアデルとリアノの背中に私はどうしたの?と声をかける。
 私に気づいていないのか、二人は背中を向けたまま、話始めた。


「いやね、この領地……ちょうど、見えているあのあたりで土砂崩れがあるって、アンナリーゼ様、
 領主様がおっしゃったんだけどね?70年生きているけど、そんなことになったこともないし、俺らが
 アンナリーゼ様から調査依頼や避難の話をしようとしてもアンナリーゼ様がそういったってと戸惑う
 ばかりで一向に話も聞いてくれないんだ」
「アルカの水質調査で、地盤が長雨に耐えられる状態でないことを調べあげられたのに……くそっ!
 領民が聞く耳を持たなかったら結局、何にもならないじゃないか……」
「アンナリーゼ様がいてくれたらな……」
「今は、社交の季節だから、無理だろ?アンナリーゼ様は、筆頭貴族だからな。公の顔を立てるためにも
 出ないといけないし……」
「アンナリーゼなら、あなたたちの後ろにいるわよ!」
「そんなバカな嘘を突くようなやつは、一体誰だ!任せられた任務なのに、顔向けできな……後ろに
 いる?バカなこと言っちゃダメだろ?」
「アンナリーゼっていう別人なんだろ?どうせ!」


 そういって、かなり御立腹のアデルと少々説明疲れのリアノがこちらを向く。ちなみにアルカは、水質や地質の調査をしているとかで、ここにはいなかった。


「……」
「ん?」
「「!!」」


 私を見るなり、驚いて目を見開いた二人。
 リアノは驚いてはいたが、社交さえ終わったらと思っていたらしい。アデルに関しては、完全にそんな気まで回っていなかったようで、驚きのあまり、怖いものでも見るかのようにわなわなと震えぺたんと座り込んでしまった。


「姫さん、人が悪すぎる。それと、アデル」
「ひゃい……」
「驚きすぎだ。これが奇襲なら、確実に死んでいたぞ?情報収集は常にしていないと……」
「ウィル、そこまでよ!アデルに、そこまで気の回るような気の付きけ方をまだ、期待していないわ!」


 はぁ……と、アデルに手を貸し、立ち上がれるようウィルは手を貸す。
 その姿を見ながら、私は微笑むと腰に手をあてて鼻息荒くレナンテから降りる。


「それで、どうしたの?」
「いや、あの……僕たちでは、その……」
「説得が出来なかったんだろ?」
「……お恥ずかしい限りです」
「見知らぬ誰かが来て、いきなり話をされて、はいそうですかって聞く人がいると思う?」
「まぁ……いないですよね?じゃあ、何故僕たちを?」
「うーん、私の指令が悪かったよね……まず、調査をしてほしかったの。この辺の土地のことって
 あまり知らないから。アルカの話では、地盤が長雨に耐えられないの?」
「聞いてらっしゃったんで?」
「えぇ、あまりにも背中に哀愁漂ってたから、声かけにくくって……」


 ねぇ?とウィルに話を振ると、目を逸らされた。絶対、私が二人を驚かせるために声をかけなかったんだと思っているようで、心外だなと頬を膨らませる。


「それじゃ、このまま、コットンのところへ行きましょうか!」
「今からですか?追い出されたばかりで……」
「私がいるのに、追い出されるの?どれだけ、高圧的な訪問をすればそうなるのかしら?」
「いえ、それは……」


 アデルとリアノが顔を見合わせるが、たぶん、アルカが何か言っちゃったんだろう。
 そして、自分の興味にまっしぐらで、勝手に調査を始めたというところじゃないかしら?と聞こえない程のため息をついたが、付き合いの長いウィルにはバレているらしく、肩に手がおかれ、まぁ頑張れと視線を送ってきた。

 私たちは、コットンの農場まで行くと、向こうから気が付いたのか、また、アイツらがきたのかと若干怒りの籠った歩き方で近づいてきた。


「コットン、久しぶり!」


 私は、あえて軽い言葉をコットンに投げかける。そのおかげか、私を認識してか少し驚いたように目を少しだけ見開いたが、すぐに表情が変わった。


「アンナリーゼ様、お久しぶりです。あの、こちらには?」


 後ろに控えているアデルとリアノを見て、何かばつの悪いような顔をするコットンに先に謝ることにした。


「コットン、ごめんね。いきなり、大事になるような話をしちゃて。面識もない人からだったから
 驚いたでしょ?」
「えぇ、かなり……あの、その後ろの方々は?」
「ん、ウィルは知っているよね?」
「はい、もちろんです!」
「あとは、こっちが近衛隊員で今、アンバーでお手伝いしてくれているアデルで、そっち
 が土木工事の研究者というか……現場監督っていうか設計者っていうか、ハニーアンバーの服の愛用
 者のリアノ」
「はぁ……すいませんでした。アンナリーゼ様のおつかいとは聞いていたんですけど……信じられ
 なくて……」
「えぇ、いいの。三人には先にこの土地の調査をお願いするつもりで、後から、私が来て説明しようと
 してたんだけど……先にしちゃったんでしょ?驚くよね」


 その……とコットンは、物凄く言いにくそうにしているが、こんな場所で立ち話でもなんだからと、家に招いてもらう。


 ごめんね、まず、今後の話をするわ!とコットンに、順をおって、綿花を収穫する頃に長雨になってしまうこと、綿花に黴が生えて使い物にならないものが多く出てしまうこと、それと何より大事な話である大規模な土砂崩れがあり何十人となくなるかもしれないことを伝えた。
 すると、コットンは信じられないと項垂れるばかりだ。綿花収穫が出来ないことは、産業が成り立たなくなるので困るが、それ以上に何人も亡くなるかもしれないことに衝撃を受けているようだ。


「どうすれば、いいですか?」
「これから、近衛を百人ここに呼び込むわ!そして、裏山に当たるここら辺に土砂崩れにならないよう
 手を打とうと思うの。被害があっても、人命にかかることのないように、したいのだけど……
 近衛だけでは到底無理だから、ここらでも人手をだしてほしかったりするんだけど……どうかしら?」


 私は、コットンの目を見ていうと、静かに考えながら、腕を組んでいる。
 このへん一体の農家を纏めているのだ。何かしら考えてくれるだろう。
 私はコットンの返事を待つのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

処理中です...