ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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女神だって?

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 しーんと静まり返る私たちが囲む机では、喧騒から取り残された。
 私がいうのはなんだが、女神は……ないわ。そう思っていたら、おじさんが、笑いだす。


「くふふ……女神だって?お嬢ちゃん、さっきの俺たちの話、聞いていたか?」
「えぇ、聞いていたわ!何がおかしいの?アンナリーゼ様……私は、会ったことがないけど、あの
 汚かった領地を蘇らせただけでなく、次から次へと新しく事業を起こしているわ!
 落ちぶれていた、アンバー領は今、急成長しているのよ!」


 そんなふうに評価をしてくれている人もいるのかと思うと嬉しいが、たぶん、ここでは、それは信じられないだろう。
 また、笑われてしまう彼女を申し訳なく思ってしまった。


「おじさん、そんなにおもしろいの?」
「あぁ、あの肥溜めみたいな領地が綺麗になって急成長?ありえない!」
「公都にも、領地主導の大きなお店もあるわ!」
「そんなの、掌の上で転がされている公や公爵に可愛くおねだりして作ってもらったんだろ?それで、
 使用人が店を切り盛りして、あたかも自分の手柄のようにしてんじゃないか?貴族って、ましてや、
 女なんてそんなもんだろ?俺だって、母ちゃんに可愛く鍋買って、服買ってなんてすっぽんぽんで
 言われたら、ちょっと考えるぞ?」
「ハハ、違いない!貴族なんて、さぞいい肌だろうな……」
「あなたたち、アンナリーゼ様に対して、失礼よ!」
「失礼も何も会ったことなんてないしな?雲の上の人のことだから、いいんだよ!それに、さっきから
 すっげぇー突っかかってくるけど、ねぇちゃんも会ったこと、ないんだろ?」


 蔑んだような笑いに、彼女は唇を噛みしめる。さすがに、私のことで可哀想になり、口を開こうとしたところに、ウィルが割って入る。


「俺は、あるぜ?アンバー公アンナリーゼに会ったこと」
「なんだ?兄ちゃん。どうやって会うんだ?公爵や公爵夫人だなんて、会えるわけねぇだろ?
 嘘、言っちゃダメだ!」
「あぁ、あのお姫さんな……そこら辺の公爵でもなければ夫人でもないんだわ。だいぶ、変わりもんで、
 1年の殆どを領地で過ごして、その間もしょっちゅう馬に乗って領地を駆け回ってる。アンバー領で
 人だかりが出来ているところは、だいたい、お姫さんが、視察に来ているときだな。
 まぁ、おもしろいお姫さんだよ!」
「まさか……そんなこと、あるわけないじゃないか?」
「あるんだよ!一度、行ってみるといい。あっ!今は社交のシーズンで、公都に戻って来ているはず
 だけど……あと、公はお姫さんに頭は上がらないぞ?」
「ほれみろ?やっぱり……」
「あぁ、違う違う。公はなんたって、断罪した貴族たちに公のだけでなく、家族も含めて命を狙われて
 いて、助けたのがそのお姫さんだからな。それに、お姫さんは、アンバー公爵にぞっこんだぞ?
 まぁ、アンバー公爵の方がべた惚れで手放さないって話だけど」


 ウィルが、私のことをおじさんたちに語っているのを見ると、恥ずかしくなって顔を抑える。きっと、赤いのか、頬が少しだけ熱を帯熱い。
 事実を淡々と話しているだけではあるのだが、よくみられている。


「よく知っているな?兄ちゃん」
「当たり前。俺、そのお姫さんの騎士だもん」
「自称か?」
「あぁ、たぶんな。でも、俺はそう思っている」
「自称じゃないわよ!兄ちゃんは、アンナリーゼの1番大事な騎士だよ!僕が、太鼓判押すから!
 おじさんたち、アンバー領までは、遠いからさ……2ヶ月後くらいに、コーコナ領へ行ってみなよ!
 きっと、泥だらけになって走り回ってるはずだよ!ねっ?」
「あぁ、たぶんな」


 ウィルに笑いかけると、ウィルも笑いかけてくる。それをポカンと見ているおっちゃんたちと彼女。


「そこの彼女も、アンナリーゼ様に会いたいなら、行ってみるといいよ!今年は、心配なことがある
 から、少し長めに滞在するつもりだから……あと……今年は、長雨に気をつけて!ここらへんにも
 結構なまとまった量が降るってアンナリーゼ様が言ってたからさ」
「雨なんて……」
「……そりゃ困るな。麦の生育に関わる……」
「麦の収穫が終わる頃からだから、1期は確実に採れるよ!」
「そうか……そりゃ、貴重な話をありがとよ!」


 私たちとおじさんたちと彼女は、それから遅くまで、アンバー領主アンナリーゼの話をした。本人目の前にいて、多少こっぱずかしいので、私は基本的に聞き役で頷いていただけだけど……女神だと繰り返し彼女に言われ続け、小さく小さくなっていく。

 有意義な時間を過ごした私たちは、お店が閉まる頃に店で解散した。
 おじさんたちは、おかぁに叱られる……とブルブル震えながら帰っていく後ろ姿は、ジョージアを彷彿させ、クスっと笑ってしまった。
 いつも、ジョージアが帰ってくるときは、アンナさん怒ってない?と伺いながら部屋に入ってくるのだから、どこも同じねと仕方ないと腰に手を当てた。


「それでは、また、会えるといいですね!」


 あんなに長く話していたのに、名前を聞くのを忘れてしまった彼女は、もうだいぶ向こうで手を振っていた。


「名前、聞いておくんだったな……」
「また、会えるさ!心配しなくても」


 そうだねと言って、私は部屋に向かう。ウィルは、いろいろあるらしく部屋の前で別れた。


「あっ!そうだ、ウィル!」
「ん?」
「いろいろあると思うんだけど……夜は、冷えると思うの。これ、持って行って!」


 そういって、薄手の毛布を渡すと、あぁ、ありがとう!と微笑む。
 おやすみぃーと、手を振りながら、毛布を持ってウィルは階段を降りていく。


「おやすみ、ウィル。すぐ、帰ってくるんでしょうけど……」


 後ろ姿を見送って扉を閉める。
 20分後、扉の前にウィルの気配を感じた。いろいろとは、私の部屋の前でずっといてくれることなのだ。
 部屋の中で休んでくれたらいいのに……律義に扉の向こう側で守ってくれるウィルに小さくおやすみと呟いてから、一人私はベッドに転がるのであった。
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