516 / 1,513
女神だって?
しおりを挟む
しーんと静まり返る私たちが囲む机では、喧騒から取り残された。
私がいうのはなんだが、女神は……ないわ。そう思っていたら、おじさんが、笑いだす。
「くふふ……女神だって?お嬢ちゃん、さっきの俺たちの話、聞いていたか?」
「えぇ、聞いていたわ!何がおかしいの?アンナリーゼ様……私は、会ったことがないけど、あの
汚かった領地を蘇らせただけでなく、次から次へと新しく事業を起こしているわ!
落ちぶれていた、アンバー領は今、急成長しているのよ!」
そんなふうに評価をしてくれている人もいるのかと思うと嬉しいが、たぶん、ここでは、それは信じられないだろう。
また、笑われてしまう彼女を申し訳なく思ってしまった。
「おじさん、そんなにおもしろいの?」
「あぁ、あの肥溜めみたいな領地が綺麗になって急成長?ありえない!」
「公都にも、領地主導の大きなお店もあるわ!」
「そんなの、掌の上で転がされている公や公爵に可愛くおねだりして作ってもらったんだろ?それで、
使用人が店を切り盛りして、あたかも自分の手柄のようにしてんじゃないか?貴族って、ましてや、
女なんてそんなもんだろ?俺だって、母ちゃんに可愛く鍋買って、服買ってなんてすっぽんぽんで
言われたら、ちょっと考えるぞ?」
「ハハ、違いない!貴族なんて、さぞいい肌だろうな……」
「あなたたち、アンナリーゼ様に対して、失礼よ!」
「失礼も何も会ったことなんてないしな?雲の上の人のことだから、いいんだよ!それに、さっきから
すっげぇー突っかかってくるけど、ねぇちゃんも会ったこと、ないんだろ?」
蔑んだような笑いに、彼女は唇を噛みしめる。さすがに、私のことで可哀想になり、口を開こうとしたところに、ウィルが割って入る。
「俺は、あるぜ?アンバー公アンナリーゼに会ったこと」
「なんだ?兄ちゃん。どうやって会うんだ?公爵や公爵夫人だなんて、会えるわけねぇだろ?
嘘、言っちゃダメだ!」
「あぁ、あのお姫さんな……そこら辺の公爵でもなければ夫人でもないんだわ。だいぶ、変わりもんで、
1年の殆どを領地で過ごして、その間もしょっちゅう馬に乗って領地を駆け回ってる。アンバー領で
人だかりが出来ているところは、だいたい、お姫さんが、視察に来ているときだな。
まぁ、おもしろいお姫さんだよ!」
「まさか……そんなこと、あるわけないじゃないか?」
「あるんだよ!一度、行ってみるといい。あっ!今は社交のシーズンで、公都に戻って来ているはず
だけど……あと、公はお姫さんに頭は上がらないぞ?」
「ほれみろ?やっぱり……」
「あぁ、違う違う。公はなんたって、断罪した貴族たちに公のだけでなく、家族も含めて命を狙われて
いて、助けたのがそのお姫さんだからな。それに、お姫さんは、アンバー公爵にぞっこんだぞ?
まぁ、アンバー公爵の方がべた惚れで手放さないって話だけど」
ウィルが、私のことをおじさんたちに語っているのを見ると、恥ずかしくなって顔を抑える。きっと、赤いのか、頬が少しだけ熱を帯熱い。
事実を淡々と話しているだけではあるのだが、よくみられている。
「よく知っているな?兄ちゃん」
「当たり前。俺、そのお姫さんの騎士だもん」
「自称か?」
「あぁ、たぶんな。でも、俺はそう思っている」
「自称じゃないわよ!兄ちゃんは、アンナリーゼの1番大事な騎士だよ!僕が、太鼓判押すから!
おじさんたち、アンバー領までは、遠いからさ……2ヶ月後くらいに、コーコナ領へ行ってみなよ!
きっと、泥だらけになって走り回ってるはずだよ!ねっ?」
「あぁ、たぶんな」
ウィルに笑いかけると、ウィルも笑いかけてくる。それをポカンと見ているおっちゃんたちと彼女。
「そこの彼女も、アンナリーゼ様に会いたいなら、行ってみるといいよ!今年は、心配なことがある
から、少し長めに滞在するつもりだから……あと……今年は、長雨に気をつけて!ここらへんにも
結構なまとまった量が降るってアンナリーゼ様が言ってたからさ」
「雨なんて……」
「……そりゃ困るな。麦の生育に関わる……」
「麦の収穫が終わる頃からだから、1期は確実に採れるよ!」
「そうか……そりゃ、貴重な話をありがとよ!」
私たちとおじさんたちと彼女は、それから遅くまで、アンバー領主アンナリーゼの話をした。本人目の前にいて、多少こっぱずかしいので、私は基本的に聞き役で頷いていただけだけど……女神だと繰り返し彼女に言われ続け、小さく小さくなっていく。
有意義な時間を過ごした私たちは、お店が閉まる頃に店で解散した。
おじさんたちは、おかぁに叱られる……とブルブル震えながら帰っていく後ろ姿は、ジョージアを彷彿させ、クスっと笑ってしまった。
いつも、ジョージアが帰ってくるときは、アンナさん怒ってない?と伺いながら部屋に入ってくるのだから、どこも同じねと仕方ないと腰に手を当てた。
「それでは、また、会えるといいですね!」
あんなに長く話していたのに、名前を聞くのを忘れてしまった彼女は、もうだいぶ向こうで手を振っていた。
「名前、聞いておくんだったな……」
「また、会えるさ!心配しなくても」
そうだねと言って、私は部屋に向かう。ウィルは、いろいろあるらしく部屋の前で別れた。
「あっ!そうだ、ウィル!」
「ん?」
「いろいろあると思うんだけど……夜は、冷えると思うの。これ、持って行って!」
そういって、薄手の毛布を渡すと、あぁ、ありがとう!と微笑む。
おやすみぃーと、手を振りながら、毛布を持ってウィルは階段を降りていく。
「おやすみ、ウィル。すぐ、帰ってくるんでしょうけど……」
後ろ姿を見送って扉を閉める。
20分後、扉の前にウィルの気配を感じた。いろいろとは、私の部屋の前でずっといてくれることなのだ。
部屋の中で休んでくれたらいいのに……律義に扉の向こう側で守ってくれるウィルに小さくおやすみと呟いてから、一人私はベッドに転がるのであった。
私がいうのはなんだが、女神は……ないわ。そう思っていたら、おじさんが、笑いだす。
「くふふ……女神だって?お嬢ちゃん、さっきの俺たちの話、聞いていたか?」
「えぇ、聞いていたわ!何がおかしいの?アンナリーゼ様……私は、会ったことがないけど、あの
汚かった領地を蘇らせただけでなく、次から次へと新しく事業を起こしているわ!
落ちぶれていた、アンバー領は今、急成長しているのよ!」
そんなふうに評価をしてくれている人もいるのかと思うと嬉しいが、たぶん、ここでは、それは信じられないだろう。
また、笑われてしまう彼女を申し訳なく思ってしまった。
「おじさん、そんなにおもしろいの?」
「あぁ、あの肥溜めみたいな領地が綺麗になって急成長?ありえない!」
「公都にも、領地主導の大きなお店もあるわ!」
「そんなの、掌の上で転がされている公や公爵に可愛くおねだりして作ってもらったんだろ?それで、
使用人が店を切り盛りして、あたかも自分の手柄のようにしてんじゃないか?貴族って、ましてや、
女なんてそんなもんだろ?俺だって、母ちゃんに可愛く鍋買って、服買ってなんてすっぽんぽんで
言われたら、ちょっと考えるぞ?」
「ハハ、違いない!貴族なんて、さぞいい肌だろうな……」
「あなたたち、アンナリーゼ様に対して、失礼よ!」
「失礼も何も会ったことなんてないしな?雲の上の人のことだから、いいんだよ!それに、さっきから
すっげぇー突っかかってくるけど、ねぇちゃんも会ったこと、ないんだろ?」
蔑んだような笑いに、彼女は唇を噛みしめる。さすがに、私のことで可哀想になり、口を開こうとしたところに、ウィルが割って入る。
「俺は、あるぜ?アンバー公アンナリーゼに会ったこと」
「なんだ?兄ちゃん。どうやって会うんだ?公爵や公爵夫人だなんて、会えるわけねぇだろ?
嘘、言っちゃダメだ!」
「あぁ、あのお姫さんな……そこら辺の公爵でもなければ夫人でもないんだわ。だいぶ、変わりもんで、
1年の殆どを領地で過ごして、その間もしょっちゅう馬に乗って領地を駆け回ってる。アンバー領で
人だかりが出来ているところは、だいたい、お姫さんが、視察に来ているときだな。
まぁ、おもしろいお姫さんだよ!」
「まさか……そんなこと、あるわけないじゃないか?」
「あるんだよ!一度、行ってみるといい。あっ!今は社交のシーズンで、公都に戻って来ているはず
だけど……あと、公はお姫さんに頭は上がらないぞ?」
「ほれみろ?やっぱり……」
「あぁ、違う違う。公はなんたって、断罪した貴族たちに公のだけでなく、家族も含めて命を狙われて
いて、助けたのがそのお姫さんだからな。それに、お姫さんは、アンバー公爵にぞっこんだぞ?
まぁ、アンバー公爵の方がべた惚れで手放さないって話だけど」
ウィルが、私のことをおじさんたちに語っているのを見ると、恥ずかしくなって顔を抑える。きっと、赤いのか、頬が少しだけ熱を帯熱い。
事実を淡々と話しているだけではあるのだが、よくみられている。
「よく知っているな?兄ちゃん」
「当たり前。俺、そのお姫さんの騎士だもん」
「自称か?」
「あぁ、たぶんな。でも、俺はそう思っている」
「自称じゃないわよ!兄ちゃんは、アンナリーゼの1番大事な騎士だよ!僕が、太鼓判押すから!
おじさんたち、アンバー領までは、遠いからさ……2ヶ月後くらいに、コーコナ領へ行ってみなよ!
きっと、泥だらけになって走り回ってるはずだよ!ねっ?」
「あぁ、たぶんな」
ウィルに笑いかけると、ウィルも笑いかけてくる。それをポカンと見ているおっちゃんたちと彼女。
「そこの彼女も、アンナリーゼ様に会いたいなら、行ってみるといいよ!今年は、心配なことがある
から、少し長めに滞在するつもりだから……あと……今年は、長雨に気をつけて!ここらへんにも
結構なまとまった量が降るってアンナリーゼ様が言ってたからさ」
「雨なんて……」
「……そりゃ困るな。麦の生育に関わる……」
「麦の収穫が終わる頃からだから、1期は確実に採れるよ!」
「そうか……そりゃ、貴重な話をありがとよ!」
私たちとおじさんたちと彼女は、それから遅くまで、アンバー領主アンナリーゼの話をした。本人目の前にいて、多少こっぱずかしいので、私は基本的に聞き役で頷いていただけだけど……女神だと繰り返し彼女に言われ続け、小さく小さくなっていく。
有意義な時間を過ごした私たちは、お店が閉まる頃に店で解散した。
おじさんたちは、おかぁに叱られる……とブルブル震えながら帰っていく後ろ姿は、ジョージアを彷彿させ、クスっと笑ってしまった。
いつも、ジョージアが帰ってくるときは、アンナさん怒ってない?と伺いながら部屋に入ってくるのだから、どこも同じねと仕方ないと腰に手を当てた。
「それでは、また、会えるといいですね!」
あんなに長く話していたのに、名前を聞くのを忘れてしまった彼女は、もうだいぶ向こうで手を振っていた。
「名前、聞いておくんだったな……」
「また、会えるさ!心配しなくても」
そうだねと言って、私は部屋に向かう。ウィルは、いろいろあるらしく部屋の前で別れた。
「あっ!そうだ、ウィル!」
「ん?」
「いろいろあると思うんだけど……夜は、冷えると思うの。これ、持って行って!」
そういって、薄手の毛布を渡すと、あぁ、ありがとう!と微笑む。
おやすみぃーと、手を振りながら、毛布を持ってウィルは階段を降りていく。
「おやすみ、ウィル。すぐ、帰ってくるんでしょうけど……」
後ろ姿を見送って扉を閉める。
20分後、扉の前にウィルの気配を感じた。いろいろとは、私の部屋の前でずっといてくれることなのだ。
部屋の中で休んでくれたらいいのに……律義に扉の向こう側で守ってくれるウィルに小さくおやすみと呟いてから、一人私はベッドに転がるのであった。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。

さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

婚約破棄の場に相手がいなかった件について
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。
断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。
カクヨムにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる