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さて、向かいますか!

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 警備隊の駐屯所から帰ると、もぬけの殻になったベッドを見て怒ったデリアが、玄関へお迎えに来ていた。


「アンナ様、かなり早朝からのお散歩、どこに行ってらっしゃったのですか?」
「警備隊の駐屯所よ!ちょっと、まずいことが起こるかもしれないのよ……」
「……まずいことですか?」
「えぇ、ここでは話せないから、執務室へ。もう、起きている思うから、ウィルを呼んできてくれる
 かしら?」


 私の言葉に何かを感じ取ってくれたらしいデリアは、わかりましたとウィルへ伝えに行ってくれる。
 私は、その足で執務室へ向かった。誰もいない静かな執務室に入ると、急に不安な気持ちになった。
 ただ、動き始めてくれたニコライやリリー、アデルを考えると、その不安も少しだけ和らぐ。


「姫さん、どうしたの?」


 部屋に入ってきたウィルに私は苦笑いする。その顔を見て何かを感じ取ったのかウィルのへらっとした顔つきが変わる。


「なんかあったの?それとも、これからあるの?」
「……あるかもしれないかな?」
「それって……『予知夢』?」
「えぇ、今年の夏から秋にかけて、コーコナ領で長雨があるみたい。それで、土砂崩れが起きてしまう
 ようなのよ」
「なるほど。急いでいるってことは、死者やけが人が多数出るってことだよね?」
「うん、20軒前後が土砂崩れに巻き込まれるし、亡くなってしまう人もたくさんいる。そうなると、
 けがも行方不明者もってことになるけど……私が見たのは、私が、まだ、コーコナ領にいるとき
 だから、夏の可能性が高いかなって。『予知夢』でみたところは、リアノとアルカに現場を見て
 もらって土砂崩れが起こらないようにどうすればいいかを見てもらおうと思って、アデルに迎えに
 行ってもらったの。ニコライも物資調達をお願いしたところ。リリーにもついて行ってもらったわ!」


 寝ている間に私がすでに動いてしまっていることに少しムッとしているウィル。
 今は、何かと人手が足りないことを痛感する。春の社交へとセバスとナタリーをすでに公都へ向かわせてしまっているから。
 それに、イチアへの負担も相当なものになっているは知っているので、出来ることなら私がやってしまった方がいいだろうと動いたまでだった。
 街道工事にばかり人手が足りないと言っていたが、2領を治める私には、事務方の人手も足りないことが浮き彫りになった。
 パルマがいてくれれば……多少違うのだろうけど、パルマは公の側に付けてある。下っ端文官でも、パルマの能力はそれだけで収まるものではない。いない人を思っても仕方がないだろう……とにかく、今できる最善を尽くさないといけない。幸い、まだ、起こっていないのなら、補強あるのみだ。


「で、リアノとアルカをコーコナにやって、何をどうするか教えて」
「まず、現場を見て、崩れそうな場所の補強してもらう。もし、補強が間に合わないのであれば、
 近場に仮説住宅の建設ね。どのみち追加で百人の近衛を借りようとしてたから、現地の職人の
 力も借りてって思ってる」
「じゃあ、その指揮は俺が取るよ」
「お願いしたいのはやまやまなんだけど……」
「嬢ちゃんか?」
「えぇ、何よりあの子のことがあるから……」
「レオに任せるさ。姫さんもなるべく側でつきそえばいい。公都に行けば、ジョージア様もいること
 だし、それほど危惧することはない。もしもっていうなら、セシリアを側に置くのはどうだろう?」
「セシリアを?それって、ウィルと一緒で借りるってことよね?」
「そうそう。13番隊ってさ、半分くらいアンバーにいるわけだし、みんなこっちに来たがっているわけ
 だし?もう一人くらいひっこぬたところで今は平時だから大丈夫」
「セシリアって、どこかの貴族夫人よね?」
「確かそうだった気がする。でも、姫さんが望めば、喜んで来てくれるよ!姫さんに傾倒しているのは、
 何も俺たちだけじゃないんだし!それにコーコナにいる侍女も確か、デリア並みに強いよね……?
 ディルの子猫だっけ?」


 よく知っているなとウィルを見上げると、俺、ディルと仲良しになったんだよね!なんて笑っている。
 デリア攻略にみなが手こずっている中、ウィルとナタリーだけは、すんなりうまく付き合っていると思えば、そういう裏があったのかと初めて知る。

 最近、屋敷内のことは、デリアに任せっきりになっているので、知らなかった事実に私はこっそり反省することとする。


「さて、向かいますか!俺たちは公都で話をつめるんだろ?姫さんは、公との謁見もあるだろうし、
 俺らも情報収集しないといけない。あとは、そうだな……コーコナへ派遣したほうがいいやつに直接
 声かけてまわるわ!俺の知り合いに大工の息子とか、土木工事やってたやつとかもいるからさ!
 どっちかって言うと近衛の素人よりそういうのがいる方がいいだろ?リアノもアルカもその方が指示
 しやすくってさ」
「そうね、お願いできるかしら?」


 頼もしい援軍を期待しつつ、執務室に入ってきたデリアに声をかける。
 朝食を食べ、公爵仕様に着替えないと、アンバー領からは出してもらえないらしい。
 ウィルと別れ、私は着替えに私室へ戻る。

 デリアによって、私は磨き磨かれ公爵となる。


「いってらっしゃいませ、アンナリーゼ様」


 公都へ向かうアンバー公爵用の馬車に乗り込むときに、侍従たちは見送ってくれる。
 その並びには3商人だけでなく、朝の授業に来た子どもたちも含まれていた。
 こんな光景が、見れるとは思わず、なんだか嬉しくなる。


 いってきます!と馬車の窓から声をかければ、動き出す馬車。
 これから3日かけて公都へ向かう。馬車の中は子どもたちが座り、デリアとリアンもそこに並ぶ。
 今日は私を一人占め出来ると、アンジェラが私の膝の上にちょこんと座れば、和やかに3日間が過ぎる。


 いざ、公都での社交でひと花咲かせましょう!と、赤薔薇と青薔薇、青紫薔薇がキラッとそれぞれ輝くのであった。
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