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あぁ、やっぱり聞こえる……

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 馬車の中ではスキナの話を聞きながらだったので、石切りの町まであっという間についた。
 石切りの町の少し手前から工事が始まっているらしく地面が掘り起こされている。
 そこには、半裸で汗を光らせる近衛がスコップを持って道を掘ったり、その土を違う場所へ移動させたりとせわしなく動いていた。
 元々近衛という職業についている者達だ。体つきはいいのだが、ここ1ヶ月くらいで、さらにいい体になったのではないだろうか?
 所謂、重量感が半端ない。エリックがいっぱいみたいな感じだ。


 馬車でそこを通り過ぎる。町の入口で馬車からおろしてもらう。
 私は今来た方へ向きを変えて、思いっきり叫ぶ。


「みんなぁー!ご苦労様!」


 いきなり女性の声で叫んだもんだから、みんな驚いてこちらを見たが、私が手をブンブン振ると気づいた近衛や石切りの町の職人が手を止め振り返してくれた。


「無理はしないでね!ケガに気を付けて!」


 再度叫ぶと、今度は声もちらほら聞こえてきた。嬉しくて、もう一度手を振ると、後ろからスキナが声をかけてくる。


「アンナリーゼ様、声通るんですね?あんな遠くの人まで手を振っている」
「そう?たぶん、伝言で伝わっていっているだけじゃないかしら?あと、さっき馬車が通ったから、
 私かも?みたいなね?ウィルが横につけてるしね」
「それでも、違う場合もあるじゃないですか?」
「ウィルは、近衛中隊長なのよ。ここにいる近衛の殆どがウィルの部隊だからね、知らない人はいない
 わよ!」


 なるほど……と顎先を指でもんでいるスキナに私は笑いかける。
 さて、行きましょうかとちょうど会話が途切れたとき、イチアが先を促す。
 今日の目的地は、打ち合わせしているであろうリアノの居住場所へと向かう。


「今日は、何をされにいくのですか?」
「街道整備にリアノとアルカが入ってくれたから、今後の進捗を聞いて、視察かな。後は欲しい道具が
 ないかとか、入用なものの確認かしらね?」
「もうひとつ……アクの強い人ばかりですからね……喧嘩になってないといいのですけどと思いを
 込めて、見に来ています」
「あぁ、アルカとか……衝突しそうですよね……」
「血の気の多い人は、多いからね……後は、領地の土木設計士の設計した橋は作れるのかの確認よね!
 その橋が出来ると、災害に強い橋になる予定なのよ!」


 ふふんと自慢気に話していると、ウィルについたぞと声をかけられる。
 しかし、予想を裏切らない……
 中から盛大にこの石切りの町のピュールとリアノ、アルカの大声が聞こえてきた。
 喧嘩というよりかは、意見を言い合っているのだろうが……あの図体のでかい二人に神経質なアルカの間に入るのは辛いなと思って心の準備を始めると、いいとも言っていないのにウィルが扉をあけてしまった。


「あっ……ウィル、まっ……」
「こんちは!」


 玄関からいきなりウィルが入って行けば、中で打ち合わせしている面々は驚くだろう。
 時すでに遅く、私も仕方がないので後ろからひょこっと顔を出した。
 そんな様子にさらに驚く面々に私は苦笑いをする。


「ごめんね、打ち合わせしてるときに……熱く論争しているときに邪魔したわ……」
「いえ、アンナリーゼ様。ようこそいらっしゃいました。むさくるしいですけど、入ってください」


 ピュールにすすめられて私は部屋に入った。
 熱の籠った話し合い最中に、水をさしてしまったようで申し訳ない。


「あの、私のことは気にせず、続けてね!そういうのを聞きに来たのだから!」
「そうは言われましても……気にはなりますから……」
「じゃあ、同じ机についてもいいかしら?」
「はい、それはもちろんです!」


 大き目の円卓に並んだアンバーの地図。そこに描きいれられた見たこともない記号。
 この領地へ来たときに、大きな地図にいろいろ支援やらやらないといけないことやらを書きいれたこと思い出す。


「懐かしいな、姫さん!」
「ウィルもそう思った?」


 私とウィルの会話に集まっている一同が不思議とこちらを見つめる。


「私が初めてこの領地に来たときにね、何人かで現地調査して、領民から話を聞いて、大きな地図に
 必要な支援や今すぐ始めないといけないこととか、感じたことを書き入れていたの……今のこんな
 ふうに。全体的にだったし、何人もの目を通して書き入れたから、もっと真っ黒で、それが、この
 領地改革の始まりだったなって思って」
「ウィル様は、その頃から一緒に回ってらっしゃったんですか?」
「そっか、イチアは知らないんだったな。俺、すっかり馴染んでしまってたから、忘れていたわ……」
「そうですね。ノクト様と私は、砂糖のお話からでしたから!」
「そうだった、そうだった。あれは、してやられたよね……」
「本当ね……ウィルを殺して、私もとか思っちゃったもん!」


 あったねと笑うウィル。あのとき言った言葉は、今も変わっていない。
 ウィルは、私にとってとても大事な仲間だ。他国に取られてこの国に剣を向けないといけなくなるくらいなら、私が首を取るという気持ちは変わっていない。
 それは、ウィルのためでもあり、私のためでもあり、友人たちのためでもあった。
 ウィルの手で、大切な人を傷つけさせたくないというのがあったからだ。


「なんか、懐かしい……今は、こんなに仲間がいるんだな。本当に身内だけみたいな感じだったのに
 って思うと嬉しいな!姫さん」


 そうね!と笑うと、この領地で住まうピュールが鼻をすする。
 この領地改革は、私の願いでもあるが、領民が住みやすいようにと始めたことを知っているからこそだろう。
 なんだか、そういうのも含め、今、嬉しく思うのであった。
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