ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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棒を持って歩く私と後ろを歩くリリー

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 今日は一段と汚い恰好をしている私を見て驚いていたのは、他でもないクレアとタガヤ、そして、人数が必要だからと連れてきた近衛であった。
 お忍び用の服までは想像できただろう。話には聞いていたが、まさか、公爵自らが畑仕事に出かけるだなんて、誰が想像していたか……放心していた。
 領民は当たり前のように、私に声をかけていく。


「アンナちゃん、今日はまた、一段と気合の入った作業着だなぁ?」
「でしょ?ナタリーにお願いして、通気性のいい作業着を作ってもらったの。動きやすいし、生地も
 肌触りがいいから……売り出してみようかしら?買ってくれる?」
「あはは……アンナちゃん、そんな新品の作業着着てたらもったいなくて作業なんてできねぇべ?」
「そうなの?」
「そうだ、そうだ。それなら、しばらくよそ行きに着て、それから作業着だなぁ?」
「そっか……でも、これは、農家さんには試してもらいたいわ!本当に肌触り着心地もいいから!」
「夏ごろにだしてくれっけ?そしたら、買うべ!暑いときでも、長袖で作業することになるから!」
「なるほどね!わかったわ!ナタリーに相談しておくわ!あと、こんなの欲しいなっていうのあったら
 教えてくれる?こんなの通らないだろとか思わないで、何でも言ってくれると助かるわ!」


 私は、集まったみんなと談笑している。
 やはり、その姿も見慣れないようで、クレアとタガヤ、近衛は黙って見ていたようだ。


「クレア、早速始めましょう!日は長くなってきたけど、まだまだ、日が落ちるのは早いから、指示
 してちょうだい!どうしたらいい?」


 呆気にとられていたクレアも私の申出に気が付き説明を始める。


「昨日話したとおり一列に種をまきます。三人グループになって、一人目が棒で線を引いていきます。
 その後ろに二人目がついて行き、種をまきます。三人目が土を被せていく形で進めてください。
 畑が広大なので、しっかり働いてくださいね!領主様にいいところ見せましょう!」


 クレアの呼びかけにおうと野太い声が返事をする。
 始めは、どれくらいの線をひくのか、どれくらいまくのか、どれくらい土をかけるのかと
 何回かに分けて、説明をしていく。横と横の感覚も説明してくれ、なかなか順調な滑り出しであった。

 私はリリーとサラおばさんと組むことになり、何の役割をするのか話し合う。


「アンナちゃんがまずは棒だね!リリーが種、私が土がいいわ!」
「わかった!でも、ずっとはダメだよ?私も他の二つしてみたいから!」
「はいはい、わかったよ!じゃあ、とりあえず、5往復したら、変わろうか」
「やった!サラおばさん、ありがとう!」
「サラさん、聞いてもいい?」
「何だい?リリー」
「この順番なんだけど……」
「あぁ、それには、ちゃんと理由があるのさ!クレアさんと言ったかな?」
「はい!まず初めに、必ず農業経験者に土を被せるように指示を出しておくれ!」
「何故ですか?」
「種をまくのには、深さも考えないといけない。例えば、農業初めてのアンナちゃんが、最初に土を
 かぶせるをするとしたら……」
「種の分量や土のかけ具合がわからないということかしら?」
「正解だよ!さすが教授様は違うね!私ら農家が直感的に見ることで、分量を指示できるってもんだよ!
 どうかな?」


 クレアは少しだけ考えてニコリと笑い、みなに呼びかける。
 そして、サラおばさんが提案した通りの指示を出し、適正なのか判断するように土をかける担当に指示を出す。
 土をかける担当の指示に従って、種まきをするよう最後に伝えると心得たとみなが頷く。
 と、いうことは、領民や近衛をバラバラに編隊しないとこの作戦はうまく行かない。
 その辺も考えた上で、話し合う領民と近衛の姿に私は、なんだか胸が熱くなる。
 こんなふうに、公都からきた近衛と話し合いをしている領民が誇らしかった。


「ここの領民は凄いですね……こういうふうにしたいというと、ちゃんと動いてくれるばかりでなく、
 ちゃんと意図も理解できているようですね。
 近衛を嫌うわけでもなく、対等に話をしているのを見ると、私、胸が熱くなります」


 クレアは目尻にたまる雫をそっと拭きとり、笑いかける。
 私の想像以上にクレアが領民や近衛たちとの摩擦が出来ずに話し合いをしてくれるように促せるのは、凄いと考えてしまう。


「麦の作付けって初めてだから、凄い楽しみ!」
「アンナちゃん、私もなんだよ!どんなふうに成長するか、今からとても楽しみだ!」


 サラおばさんは、クレアのことを大層気に入ったらしい。
 なので、視線を向け微笑んでいるをみやる。
 カルアと年が近いクレアに目を細めていた。私は何も言わず見守る。


「さぁ、みなさん!お昼まで頑張りましょうね!しっかり働いてください!じゃないと美味しい
 パンやパスタが食べられませんよ!」


 パンパンと手を打ち鳴らすとそれが合図になってちりじりになっていく。
 私リリーとサラおばんと作業を始める。


「おばさん、これくらいの深さで大丈夫?」
「いいよ、そのままm!リリーは、もう少しだけ間隔をつめてまいてもいいね!そうそう、そうだよ!」


 私とリリーは、サラおばさんの指導のもと役割をまっとうしていく。
 棒をただ、引きずっていくだけ……そう思っていたが、なかなか重量感のある棒を引いているので体力を消耗する。
 それでも、クレアが計画してくれたとおりに麦畑に麦の種がまかれていくと思うとドキドキとしてしまう。
 アンバー領にこなければ、こんな体験をすることはなかったのではないかと思うと、今この瞬間がとても楽しい。


「おばさん、こんな日が来るとは思わなかったね!」
「それは、私やリリーの言い分だよ?アンナちゃんは、貴族なんだから!」
「貴族って言われても、やっぱり、こういうことができるのが私は楽しいわ!これからが大変なんだ
 けど……」
「アンナちゃんたちの気遣いに助けられているから大丈夫だよ!」


 はっはっはっと豪快に笑うサラおばさんに私は微笑み、リリーも嬉しそうであった。
 畑にこだまするのは、クレアのこらー!タガヤ―!という声だけであり、みながそれを聞いて笑うのであった。
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