上 下
490 / 1,480

10人の魔法使い16

しおりを挟む
 じっとこちらを見つめるロイド。先程までの雰囲気と違い、調香師のことを聞いただけで、雰囲気が変わった。


「あの、それも、リアノがしゃべったのですか?」
「えぇ、そうね!」
「アイツ口軽いな……」
「もしかして、隠してた?」
「いえ、その……あんまり、男だというだけで、調香師っていうといい気にならない人が多いみたいで……」
「そうなの?ヨハンもあなたのこと知っていたから、リアンに聞かなかったとしても、きっと、私は
 ロイドにたどり着くかな?」
「どういうことですか?」
「私の情報網はなかなかのものってことね。国家秘密とかでも、握っちゃったりできるから、ちょっと
 本気出して調べればわかるわよ!」


 ひぇっ!と恐怖の視線を向けられたが、しれっとしておく。
 出来てしまうのだから、仕方がない。私が優秀なのではなく、私の小鳥が優秀なのだ。


「それに、私は何とも思わないわ!誰が言ったか知らないけど、立派な才能だし、伸ばして行きま
 しょう!領地のためにも。そのために、あなたたちを呼び寄せたのだから……領地のために使えるもの
 は使うわ!それだけは、覚悟しておいてね!」
「はぁ……変わった人ですね……普通、気持ち悪いとか言いません?女性ものの香水を作るとかって……」
「どこが?香水作るのに女も男もないと思うのだけど……それをいうなら、香水の瓶を作ってるのは、
 男性ばかりだし、なんでそんなことに拘るのかしら?と思って」
「そこまでいってくれるなら……作ってみてもいいですよ!ただ……」
「ただ?」
「名前を……伏せて」
「それなら、香水に名前をつけたらいいんじゃなくて?」


 どういうことですか?とこちらを見つめてくる。
 今、香水については、作った人の名前が書かれていた。ハニーアンバー店で売るのなら、別にロイドの名前をつけなくても身元がわかっているし、商品に名前をつけないといけないと決まり事もない。
 なら、ロイドが自信満々に作った香水を売れる環境を整えるのが私の仕事であって、ロイドを貶めたり非難をいうのが仕事ではない。
 アンバー領やコーコナ領のいいものを少しでも形にして出せるほうがいいのだから、私はロイドがいうようなことから、ロイドを守ればいい。
 一切合切を秘密にしてしまってもなんら問題はないのだ。


「そこまで言ってくれるなら……やってみます。ただ、片手間という形になりますけど……いいですか?」
「もちろん!生産数を抑えて、値段は吊り上げましょう!」
「ハハハ……フレイゼンのお嬢様は、商売上手なんですね?」
「うーん、そんなことはないわよ!流行の先端をいかないといけないのよね。貴族って、気に入った
 ものをずっとというわけにはいかないのよ!よそ行きの場では。だったら、ハニーアンバー店は今や、
 二国の流行の出発元となりつつあるのよ!広告塔がいいからね!それなら、私がって話だけで……
 領地のためになることなら、私何でもするわよ!少々私財をなげうっているから、回収もしたいの
 よね」


 なるほどと頷くロイド。そういえば、ロイドの研究について、何も知らないことに気が付き、本来の研究について尋ねることにした。


「調香師の話をしてて、本来の話をするのを忘れているわ!」
「何でしたっけ……?」
「ロイド、あなたの研究は何の研究なのかしら?」


 あぁ、そうでしたと苦笑いをしている一同。私が調香師にばかり気を取られていたので、すっかり忘れていたのだが、ロイドも研究者なのだ。

「私は、経済を主に研究しています。アンナリーゼ様の側には、素晴らしい方がついてらっしゃるので
 必要はないかもしれませんが……」
「経済ね!なるほど……ちょうどいいわ!まだ、着手出来ていない税関係の案件、イチア、お願いする
 ことは、可能かしら?」
「えぇ、セバスと二人だと回りませんが、ロイドさんも含め三人なれば、そちらに回す人も増やせますね!」
「何か既に計画があるのですか?」
「えぇ、あるの。税制の改革をしようとしているのだけど、識字率が低いのと計算とかも微妙だった
 から、まず、そこの底上げをしているところなんだけど……あと2年から3年計画で改革が出来たらいい
 なって感じ。それには、決めないといけないことがたくさんあるから……」
「ちょうどいいってことですね。識字率か……どこの領地でもある問題ですね」
「そうね……なんとか、読み書き計算まではできるようになってきているのよ!」
「それは、すごいじゃないですか?領地の識字率って上がっていたり?」


 イチアが、資料を提示してもいいかと聞いてきたので私は頷く。


「これは、私ともう一人、城から派遣されている文官が考えている識字率をあげるための計画書。あと、
 こちらが実際の人数です」
「これは……70%を越えている?」
「はい、今のところ、子どもの遊びをそのまま親や大人にも適用させて、字を覚えさせたり、学校を
 開いて勉強する機会を与えたりしています。基本的に授業はただなので、結構な人が通ってきてくれて
 ます。成果としては、やはり、今まで横行していた、行商のぼったくりがなくなりましたね。
 字が読めることで、物の価値とかにも興味を持ってくれたことで、ハニーアンバー店により、適正な
 価格もわかったようで高く設定された金額の物には手を出さなくなったと領民からは、感謝されては
 います」
「適正価格って……そんなにひどかったのかい?」
「例えばだけど、砂糖はグラムがこれくらいの宝石とほぼ同等価格。蜂蜜に関しても似たり寄ったり
 かな?それぞれ、小麦とかも適正価格の2倍はしていたわ!領地で取れなかったから、買っていたのよ。
 今は、ぐっと価格は押さえてあるから」


 ロイドは、ため息をつき、ここまで改善しているアンバーを褒めてくれた。
 まだまだ、計画途中のものもあるので、ここで、お金のプロが入ってくれることは心強い。
 さてさて、十人の魔法使いが揃ったわけだ。
 アンバーをよりよくしてもらうため、十人にはきりきり働いてもらうこととするのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...