上 下
485 / 1,480

10人の魔法使いⅪ

しおりを挟む
 私は玄関で2台の馬車を見送ることになった。
 今日は、昨日話したとおり、サラおばさんのところへ行く組みとビルのお店があった町へ行く組と分かれて行動を取ることになった。
 それを見送ったのだが……疲れた。

 出て行き掛けにもひと悶着があったのだ。
 クレアとタガヤ、アルカとリアノが一緒に行くことになったのだが……それぞれに問題ができた。
 クレアとタガヤは、言わずもがな……歩くのが嫌だとタガヤが言い始めたのだ。
 それは、クレアによってい一蹴されたのだが、馬車にのらないタガヤに他の三人が揉めた。
 今日の案内役であるリリーがこの場をおさめてくれたのだが、大丈夫だろうか?アルカのいら立ちは、何もタガヤだけではない。がっしり捕まれている左腕も気になっているのだろう。可愛い女の子なら、もしかしたら……とも思わなくはないが、逞しいその腕に少しだけ羨ましさも添えておく。


「くっつくな!暑苦しい!」
「えぇ―くっつかないと、逃げるじゃない?」
「逃げるに決まっている!私はあなたのようなのが嫌いだ!」
「嫌われ……うぅん、大丈夫、私!」


 めげないリアノは、筋肉で盛り上がった胸をぎゅうぎゅう押し付けていた。


「じゃあ、出発しますからね!」


 馬車の扉を閉め、御者台にひょいっと乗っかるリリー


「行ってきます!アンナ様」
「うん、いってらっしゃい!迷惑かけるかもだけど……」
「いえ、大丈夫です。こういうのは、慣れてるんで!」


 手を振りリリーだけは意気揚々と目的地へと向かった。
 もう1台の馬車を見れば、スキナとクーヘンはすんなり馬車に収まる。
 こちらは、昨日のうちにビルにお願いしたらお安い御用だと請け負ってくれ助かった。
 ビルの住んでいる町だからこそ、案内を買って出てくれたようで、若干張り切りすぎている気はしないでもない。
 でも、そういう仕事も嬉しいのだろう。商人として大店にまでなったが、アンバー領が足をずっとひっぱっていた。今は、アンバーの領地改革で仲間になり、これからそこに加わる二人の案内はビルにとって変わりゆくアンバーが案内できることが何よりのようだった。


「アンナリーゼ様、行ってまいります!」
「うん、よろしくね!」
「かしこまりました、おまかせください!」


 商人らしく笑顔を残して出て行った。
 私は馬車を後ろから見送り、ふぅっと一息入れる。


「やっと、行ったの?凄い時間かかってない?」


 ひょこっとあらわれたウィルとレオを見るとなんだかホッとした。


「奇人変人というと怒られるかもだけど……ひとつのことに頭が偏っていると少々おかしい人になるの
 かしらね?」
「姫さんに言われるっと、可哀想だよね。あっ!今日も受け入れあるんだっけ?」
「えぇ……あるわよ?来てくれる?」
「遠慮したい気もするけど……行くわ。レオ、今日は公都に帰る準備をリアンに聞いてしておいてくれ。
 ミアの分もあるし……」
「父様は、どうするのです?」
「俺は、何日分かあれば、公都の屋敷にあるからさ。そんなにいらない」
「わかった!」


 そういって、レオは自分たちの部屋へと向かったようだ。
 ウィルは、私の隣で立っている。


「そういえばさ、次くるヤツはどんなんだ?」
「さぁ、お父様とお兄様がアンバー領に必要そうな人を育ててくれて送り出してくれたのだけど……
 なかなか濃い人選よね……一人一人相対しても疲れると、あんなふうに集団になると、私にはなかなか
 御するのが難しいわね……もぅ、好きにしてくれたいいかって気になるよね……」
「それで、いんじゃない?ヨハン教授ともそんな風に付き合っているんだろ?」
「まぁ、そうね。好きなときに呼び出してお願いしてって感じだから……」
「相手も研究したいんだから、課題だけ出してお願いって可愛くいっといたら、みんな動いてくれるさ。
 俺もセバスもナタリーもそのくちだし」


 頬をポリポリとかきながら、ウィルはそっぽを向く。
 ふふっと笑うとボソボソっとウィルが何事か呟き、さっさと歩いて行ってしまう。


「ねぇ、ウィル。次はどんな人が来るかな?楽しみだね?」
「あぁ、そうだな。なんかさ、姫さんが来てほしい人が今日来るんだろ?」
「そうね!今日くる中にロイドっていう人がいるらしいの。調香師の資格を持っているから楽しみ。
 私ね……ヨハンも出来ると思うのよね!」
「でも、ヨハン教授ばっかりお願いしてたら、ダメだろ?」
「確かにね……この3年くらい、本当に頼りっぱなしだものね。でも、それなりに、便宜は……」
「それでも、今まで領地全体のことを任せ過ぎてたんだ。他にも任せられるものがいるならヨハン教授に
 引継ぎしてもらいつつ、お互いの協力体制を作ってもらったらいいんじゃない?ここにいて、姫さんと
 長い時間一緒にいるから、お互い知り尽くしてるだろうからさ」
「私のお願いは……とってもめんどくさそうなんだけどね……まぁ、信頼関係が出来上がっているって
 思っておいたらいいかしらね?
 公爵なのにおざなりに扱われるのは、私自身と向き合ってくれていることかしらね?」
「あぁ、俺たちは、一応貴族社会の一端にいるからな……姫さんと対等ではいられないけどさ。
 気持ちは対等だぞ?」
「そうなの?」
「あぁ、そうなの。俺はそう思っているよ!」


 執務室についたころ、馬車が着いたようだった。
 七人目の魔法使いはどんな人物なんだろう。ウィルの話を聞いていたら、げんなりしていた気持ちも、楽しみになった。
 新しい出会いに、私は少しだけ心躍らせるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄の場に相手がいなかった件について

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。 断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。 カクヨムにも公開しています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

処理中です...