ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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10人の魔法使いⅧ

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 クレアを連れては来たのだが、居座るつもりらしい。椅子を引いて、イチアの隣に座りだした。
 どう考えても、クーヘンの隣に座るだろうと思っていたのだが、大人しすぎるクーヘンが、多少苦手のようだ。

 私は、自分の席に座り直す。
 今晩にでも、クーヘンの話をナタリーへの手紙に認めて送ろうと考えていた。
 彼女の仕事の丁寧さは、物を見ればわかる。
 クーヘンの編み物に対する情熱は、私よりナタリーの方が上手にくみ取ってくれるのではないかと思えた。
 素敵ね!の言葉しか思いつかない私と違い、ナタリーなら……どこのどこがいいから、ここのこの辺に使うようなこういうものを作ってほしいとか、作る技術を教えて欲しいと頭を下げるだろう。
 刺繍とか……裁縫とか……レース編みなんて、もってのほかだ。
 手先は、器用な方だと思うが、得意ではないので、適任者に任せるのが1番だろう。
 そのほうが、クーヘンも心穏やかに過ごせるに違いない。


「今日の受入れはあと一人ね。お昼前には、つきそうかしらね?」
「どうですかね?最後のやつ……かなり、おっとりしたヤツでしたからね……」
「それは、どういうこと?」
「うーん、なんていうか……のんびりというのを通り越えて、トロイ!です」


 私はその意味がわからず、小首を傾げてしまった。
 その意味を知るのは、もう少し後のことで、ここにいるクレアとスキナが明日の話をしたいと言い始めた。


「最後の人が着くまでならいいよ!私たちの取り組みも聞いてほしいし」
「それ、いいですね!どんなことを主にしたのですか?」
「元々のアンバー領は、とても肥沃な土地だったようよ!ただ、色々あってね……畑に回すお金が
 無くて……私がこの土地にきたときは、枯れた畑だった。
 一部の村、明日行ってもらうところなんだけど……そこの農家さんにお願いして、試験的に改良肥料を
 まくことにしたの。それが去年の冬から春にかけてね!」
「なるほど……結果はどうなりましたか?」
「結果は、見事に麦の収穫量が上がったわ!味も申し分ない程、おいしくなったの!」
「それは、本当ですか?改良した肥料っていうのは……誰が作ったので?」


 クレアとスキナは興味があるようで、若干前のめりになっている。


「肥料は、ヨハン教授が作ってくれたの。元々、フレイゼンにあった肥料を少しだけこのアンバー領の
 痩せた畑用に改良を入れてくれたようよ!」
「ヨハンって……あのへんちくりんの毒の研究者?」
「あぁ、確かに、変だが……知識に関しては、私達よりずっと多いわ!あんなに覚えていられるのかな?
 っていうくらい何でも知っているのよね……」
「確かに……フレイゼンにいるときから、ヨハン教授に並ぶ人はいなかったな……確か、医者でもある
 んだろ?」
「そうね……あの人、変だけど……不思議な人よね。何でも知ってる」


 そうなの?と私は二人の会話に入ると、二人とも驚いてこちらをみた。
 ヨハンを知っている私だけでなく、ウィルやイチアも困惑ぎみに二人を見返した。


「アンナリーゼ様、ヨハン教授はたぶん本当の天才ですよ!たぶんですけど……今回、集められた10人
 より深い知識量を持っているはずです。本人は、ああいう性格ですからね……自分の研究以外どうでも
 いいから、飽きたら見向きもしませんが……のめりこんだら、ずっと、研究をしています」
「ほへぇ……凄いんだ?ヨハンって……」
「姫さんも知らなかったの?」
「うん、お父様に連れていかれて、私のために連れてきた教授だから、何でも好きなことを頼めばいい
 って言われたの。
 ただし、ヨハン教授のパトロンとなるのが、交換条件だったのよね……あの人、どんだけお金いるか
 知ってる?」
「そんな話していいんですか?」
「うん、今、最高額の3分の1くらいしか払ってないし、いいんじゃない?」
「で、いくらなの?」
「年間でいうと、近衛中隊長のウィルを軽く五人くらい雇えるくらい」
「はっ?」
「うん、ウィルが五人も雇えるのよ……勿体ないと思わない?」


 私の提示した『ウィルの五人分』に目を白黒させたのはクーヘン以外のものたちだ。
 ウィルの価値をみなが認識したのと同時に、ヨハンを雇うのには、とんでもない金額が必要なことが、わかってくれたようだ。
 ただし、クーヘンは、そういうところも疎いらしい。


「それって……」
「普通なら、侯爵家が傾くわね……傾国の美女ならぬ、研究者よ!」
「それでも、俺より高いんだ……」
「まぁ、ウィルより、かなり仕事してくれているからね……助手の給金とかも含まれてるし……私の
 主治医でもあるし」
「そ……それで、値切っているのは、何故です?」
「まずは、研究所の提供をしたこと、好きな時にコーコナ領へお散歩に行ってもいいと言ったら、給金
 下げてもいいっていったから……コーコナ領には、貴重な薬草とか昆虫とか……色々あるのよ!
 そういうのも買うお金を節約できるからって。
 本当にコーコナ領をもらえてよかった……まさか、ここまで、私たちの前途を金銭的に明るくして
 くれる領地はないのよね!」


 ニッコリ笑いかけると、みなが引きつった笑顔をこちらに見せてくる。
 今日聞く限りでは、ヨハンはやはり規格外の人間らしい……私は、そんな人を紹介してもらえたのは、未来に向けての先行投資の意味もあったのかもしれない。
 父の先見の明は、とてもじゃないが叶わないなと心の中で感心しておく。

 まさか、明日の話をするつもりが、ヨハンの話になっていったのにも驚いたが……、ちょうど、本日最後の魔法使いが到着したようだ。
 馬車の停まる音がしたので、間違いないだろう。
 私は、そのことを伝え、その人物が来るのを待っていた。
 今度は、どんな人物があらわれるのだろう……比較的、今日はまともそうな人物ばかりだったので、期待に胸を膨らませるのであった。
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