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アンナ様は大人しく

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 誕生日会前日。大きな桶をたくさんに海水をはって、中にアサリがたくさん入っていた。
 これは、今朝採ってきたばかりのアサリ。
 こんなに採れるとは思っていなかったが、大量にあったものは、明日のためにまた領地内の町や村へと運ばれていく。
 その間に身が小さくならないようにと、何かするらしいのだが……私は料理長のすることを見ていた。


「ねぇ、料理長?」
「なんでしょうか?アンナリーゼ様」
「それは、一体何を入れているの?」


 桶に向かって白い粉をどんどん入れていく。
 ずっと気になって見ていたのだが、とうとう何なのか聞いてみることにした。


「これは……アサリが元気になる元です!」
「何?その怪しげな響き……」


 料理長を訝しむと、ははっと笑いながら説明をしてくれるようだった。


「これは、片栗粉といってジャガイモという芋から採れる養分のようなものです。例えば、とろみの
 あるスープはわかりますか?」
「えぇ、私あのとろみのあるスープ好きよ!」
「ありがとうございます!あのとろみをつけているのが、この片栗粉です」
「なるほど……でも、その片栗粉を入れることで何か劇的に変わるの?」


 こんな白い粉で、アサリの何が変わるのだろう?単純に疑問に考えた。
 デリアが先日、何か言っていたように思ったが、私には思い当たることがなかった。


「アンナリーゼ様、こちらのアサリは今朝採ったばかりでまだ生きているのです。
 これから町や村へ移動させるわけですが、アンナリーゼ様は、日に何度も移動すると疲れませんか?」
「えぇ、疲れるかもしれない……もしかしてアサリもなの?」
「そうです。アサリも疲れるのです。だから、食べることで元気になるよう今、こうして片栗粉をエサに
 なるように水に混ぜているのですよ!
 これで、明日、調理するときに丸々太ったアサリでできたボンゴレができるというわけですよ!
 先日お出しした、ボンゴレ。美味しかったと言っていただいたので、今回も腕に寄りをかけて作らせて
 もらいますよ!」


 ニコッと笑う料理長。見た目は強面なのだが、食材に愛情を込め笑うとこんなにも愛嬌のある顔になるのかとまじまじ見てしまった。


「こんなにたくさんあるのだも!私も手伝うわ!」
「いえいえ、アンナリーゼ様に申し訳ないですから、お願いだなんてできませんよ!」
「やらせて!私、いつも調理場に無理ばっかり言っているのも知っているもの」
「そんなことは、ないですよ!毎日楽しく調理させていただいてます!
 私もいろいろな屋敷で料理をさせていただいていますが、アンバー領のこのお屋敷は、他と比べる
 までもありません!どうか、クビにしないでくださいね!」
「そうね……それは、もちろん料理長の働き次第よ!あっ!それっと……後継者は作っておいてね?
 私の無理難題でも答えてくれるような人」
「私もまだ若いんですけどね……まだまだ、アンナリーゼ様やご家族友人たちのために
 美味しい料理を作らせてください。後継はまだまだ先でもいいでしょうか?」
「それもそうね!長生きして、しっかり私たちに美味しい料理作ってね!いつも美味しいものばかりで、
 ほっぺが落ちそうなのよね……太ったらどうしてくれるの?って感じ」
「アンナリーゼ様はもう少しぽちゃっとされても可愛らしいですけどね?」


 そう?と笑うと、はいと応えてくれる。


「はい、じゃあ、半分ちょうだい!」
「諦めたと思っていたのに……」
「それは、ないことをもう知っているでしょ?」


 苦笑いの料理長をよそに、片栗粉を分けてくれ私はアサリの入っている桶に言われた量を入れて軽く掻きまわす。


「おいしくなーれ、おいしくなーれ!」
「アンナリーゼ様にそういってもらうと、美味しくなりそうですね!」


 小さな子どもを見守るような温かい視線を向けられ、私は恥ずかしくなった。
 話を逸らそうと、パスタの出来について聞く。


「麺の方はどうかしら?」
「えぇ、去年の小麦は匂いも味もいいものでしたので、きっと美味しいですよ!量も今、みなで作って
 いるところですが、今晩には終わる予定です。
 夜から移動になるので……馬車の中での仮眠となるでしょうが、みな張り切っていますからね!
 去年も今年もこんな催しをしていただいて、みなが楽しみにしているのです。
 みなに代わってお礼を……」
「お礼だなんて……こちらこそ、期待に応えてもらってありがたいと思っているの。
 今回は他領にも宣伝を出しているから……少しでもアンバー領をよく思ってもらえる
 ようならいいわね……人間、何が1番かというと、お腹を満たされることが幸せを感じると思うの。
 料理人たちの腕にかかっているのだから、頑張ってと言っておいてくれる?」
「えぇ、もちろんです!さぁ、そろそろ終わりですから、お戻りください!お子様たちのおねむの時間
 ではありませんか?」
「もう、そんな時間?じゃあ、先に……いつもありがとう。感謝しているわ!」


 私は余った片栗粉を料理長へ渡し、その場を立ち去る。
 耳にほのかに聞こえた料理長の声。


「助けていただいているのは、私の方です……ありがとうございます」


 その声に微笑むのであった。


 子ども部屋へ行くと、明日の主役たちが私を待っていた。


「ママ、これ、読んで!」


 いつものようにジョージが絵本を私に持ってくると、アンジェラもよじよじといつものソファの場所に座る。
 いつのまに、こんなに大きくなったんだろう?私は、ちゃんとこの子たちの母親が出来ているだろうか?慕ってくれているのはわかっていても、この二人がくれる愛情に私は返して……それ以上を渡せているのかなと不安になる。


「ジョージは、このお話が好きね?」
「はい、好きです!」


 ニッコリ笑って私の後についてきて、ちょこんと座る。
 今日は、レオとミアがいないので三人だけだ。


「そうだ!明日はアンジェラとジョージのお誕生日だからね!領地のみんながお祝い
 してくれるんだよ!明日は、二人とも一緒にお庭に出て遊びましょうね!」


 はい!と手をあげて返事をする二人。
 両方の頭を撫で、私はジョージが持ってきた絵本を読み始めるのであった。
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