上 下
457 / 1,480

ボンゴレの材料収集

しおりを挟む
 春先の海はまだまだ寒い。


「海って寒いわね……風邪を引きそうだわ!」
「そりゃ遮るものが何もないからな?寒かったら、あっちであったまってこいよ!
 それにしたって、姫さんが風邪?」
「バカは風邪を引かないって?引くわよ!風邪ぐらい……」
「俺、出会ってから風邪ひいて寝込んでたってきいたことないけどな?」


 ウィルに言われ、むくれながらコートの前を合わせブルブル震え焚き火に近寄っていく。
 火の側くるだけで、じんわりと体が温まるのがわかる。


「ご苦労さま。まだ、寒いのに悪いわね?」
「いえ、アンナリーゼ様のお役に立てるなら……それに、アンナリーゼ様もこんな寒いところ……
 屋敷で待っていてくださっても良かったのですよ?」
「そうね、でも、私が言い出したことだから、どんなところか見てみたかったし!」


 ニコリと私は笑うが、海に入ってアサリ採りをしていた近衛たちは、顔を青くしながら震えていた。
 領地の警備隊も中にはいるが、しれっと未だに任務をこなしているのは圧倒的に警備隊の方が多い。
 これは、なんの差なのだろうかと思えば、領地や私に対する想いの差だとウィルに教えてもらった。
 近衛は、あくまで派遣や近衛の任務としてこっちに来ている人が多い。
 対して警備隊は、惨状であった領地改革の一端と捉え、領主である私の指示に従っていること、警備隊もこの領地の一員であり、領主に見放された領地から少しずつでもいい方に改善されていっている今、私を本当の意味で慕わない隊員がいないとウィルは言っていた。
 領地改革が、少しずつでもうまくいき、領民に認められているからこそ、警備隊の協力は近衛の倍以上の馬力で、ボンゴレ用のアサリ収穫を手伝ってくれている。

 アサリの山を見て、そろそろいい頃合いだろう。
 3時間も冷たい海に入っていたのだ。警備隊の体も冷えきってしまい、今度は体調を崩してしまいそうであった。
 私は、海に再度近づき、海にいる隊員に声をかける。


「もうそろそろいいわ!みんな、協力してくれてありがとう!」
「もう、いいので?」
「えぇ、十分!それにあんまり取りすぎると、アサリがいなくなってしまうわ!
 今後もお世話になるんだから……残して置かないと!」


 かなりの量をとって、それはないんじゃないかと思うが……大事なことだ。
 まだ、これからもこの海にはお世話にならないといけない。大量のコンクリートを作るには必要な材料なのだから……


「じゃあ、海から上がってちょうだい!そのまま、ヨハン教授の研究所まで歩かないといけないから……」
「わかりました!」
「あなたたちは、先にそのまま向かって!」
「でも、あれは……」


 山のよう積まれたアサリを見ながらどうするのかと問うてくる視線を感じ、ニコリと笑う。


「先に上がった人に、運ぶのは任せましょう!もう体も温まったでしょう!
 名前と所属は覚えているから、大丈夫。まず、今いる人は私のところに集まって!」


 そういうと、おもむろに赤いリボンを集まった隊員の腕につけていく。


「ウィル!」
「何?姫さん」
「今から赤いリボンをつける人は、先に帰すわね!ヨハンに診療を頼んであるの。あとお風呂も」
「わかった。向こうのやつが紛れないように見張れってことだな?」
「当たり!」
「じゃあ、向こうに行ってくる!」
「待って!ウィル。わからなくなるから、はい、同じようにこれつけてあげて!」


 ウィルに青いリボンを渡すと、なるほどなぁーと笑う。
 そのまま火のそばで雑談している近衛に次々と青いリボンをつけていくウィル。


「みんな、赤いリボンつけた?」
「はい!赤いリボンをつけました!」
「じゃあ、赤いリボンをつけている人は私に続いて!ヨハン教授のところは向かいます!」


 私たちは、火で温まっている近衛たちの横を歩いて行く。


「お先にね!」
「えっ!アンナリーゼ様?」
「えーっと、十分体が温まったでしょ?先に今まで海にいた人を引き上げるからあなた
 たちはウィルの指示であっちをお願いね!」


 あっちを指さすと、山のように積んであるアサリにみながウンザリしていた。
 それもそうだろう……荷馬車3台分はある。
 ここから、荷馬車は使えないので、最悪地底湖を抜けたところまではみんなで持って行かないといけない。


「ウィル、お願いね!バケツリレーみたいにすれば、早いと思うわ!」
「了解。こっから地底湖を抜けたところまで、一列に並べ!言っておくが、青いリボンが
 目印になっているから、この作業から抜け出そうってしたら、ただじゃ置かないからな?」


 ウィルのアイスブルーの瞳が光ったところで、私たちはヨハンのところへ向かった。
 一人一人診察を受け、ゆっくり温めのお風呂に入るよう指示を出す。
 急激に体温をあげるのは良くないので、ここまで歩かせたわけだが、やはり寒かっただろうなと顔色を見てたら思える。
 ただ、お風呂に入ったあとは、血色もいい顔に戻っていた。
 ちょうど、そのころになってウィルが率いる近衛がヨハンの研究所まで来たので、入れ替わりに、ヨハンに診察とお風呂を頼み、今、持ってきてもらったアサリを先に警備隊で領地の屋敷へと運ぶことにした。


「今日の仕事は、これでおしまい!冷たい海の中、ご苦労様!本当に助かったわ!
 明日の誕生日会、このアサリでボンゴレを作るの!楽しみにしていてね!
 あっ!今回はお金とるけど?」


 すると笑いが起こる。よかった、みんな元気そうで……そう思いながら駐屯地へ帰る警備隊を見送った。



 ◆・◆・◆



 調理場へと足を運ぶと、公都からも呼び寄せている料理人も含め、所狭しと動き回っていた。


「みんあ、苦労をかけるわね!」
「いいえ、こちらも……こんなにたくさんの調理ができるなんて、張り合いがありますから!
 おまかせください!」


 料理長は汗をかきながら、手を動かし、私の相手までしてくれる。
 ここにいるのは悪いと思い、私はそっとその場を後にした。


 見たところ、大量のパスタが出来上がっていた。
 これを作るだけでも大変だな……と横目で見ている。
 このパスタも、アンバー領で採れた小麦で出来ているので、おいしいのは折り紙付き。
 これを、領地や領地外の人にも美味しく食べてもらえると嬉しいな……と、私は明日のことを考えた。

 ニコライに相談して、近辺の領地へ宣伝は終わっている。
 他の領地の人が来ることで、お金を落としていってくれることはもちろん、今までのアンバーの印象が変わればいい……それが、また別の人へと伝わって、訪れる人が増えれば、領地も安定的に収入が得られる場合もある。
 まだまだ、発展途中だからかこそ、目をつける私のような投資家もいるかもしれない。
 何はともあれ、明日の誕生日会が無事、みなの心に残るような1日になればいいと願うのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...