ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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ボンゴレの材料収集

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 春先の海はまだまだ寒い。


「海って寒いわね……風邪を引きそうだわ!」
「そりゃ遮るものが何もないからな?寒かったら、あっちであったまってこいよ!
 それにしたって、姫さんが風邪?」
「バカは風邪を引かないって?引くわよ!風邪ぐらい……」
「俺、出会ってから風邪ひいて寝込んでたってきいたことないけどな?」


 ウィルに言われ、むくれながらコートの前を合わせブルブル震え焚き火に近寄っていく。
 火の側くるだけで、じんわりと体が温まるのがわかる。


「ご苦労さま。まだ、寒いのに悪いわね?」
「いえ、アンナリーゼ様のお役に立てるなら……それに、アンナリーゼ様もこんな寒いところ……
 屋敷で待っていてくださっても良かったのですよ?」
「そうね、でも、私が言い出したことだから、どんなところか見てみたかったし!」


 ニコリと私は笑うが、海に入ってアサリ採りをしていた近衛たちは、顔を青くしながら震えていた。
 領地の警備隊も中にはいるが、しれっと未だに任務をこなしているのは圧倒的に警備隊の方が多い。
 これは、なんの差なのだろうかと思えば、領地や私に対する想いの差だとウィルに教えてもらった。
 近衛は、あくまで派遣や近衛の任務としてこっちに来ている人が多い。
 対して警備隊は、惨状であった領地改革の一端と捉え、領主である私の指示に従っていること、警備隊もこの領地の一員であり、領主に見放された領地から少しずつでもいい方に改善されていっている今、私を本当の意味で慕わない隊員がいないとウィルは言っていた。
 領地改革が、少しずつでもうまくいき、領民に認められているからこそ、警備隊の協力は近衛の倍以上の馬力で、ボンゴレ用のアサリ収穫を手伝ってくれている。

 アサリの山を見て、そろそろいい頃合いだろう。
 3時間も冷たい海に入っていたのだ。警備隊の体も冷えきってしまい、今度は体調を崩してしまいそうであった。
 私は、海に再度近づき、海にいる隊員に声をかける。


「もうそろそろいいわ!みんな、協力してくれてありがとう!」
「もう、いいので?」
「えぇ、十分!それにあんまり取りすぎると、アサリがいなくなってしまうわ!
 今後もお世話になるんだから……残して置かないと!」


 かなりの量をとって、それはないんじゃないかと思うが……大事なことだ。
 まだ、これからもこの海にはお世話にならないといけない。大量のコンクリートを作るには必要な材料なのだから……


「じゃあ、海から上がってちょうだい!そのまま、ヨハン教授の研究所まで歩かないといけないから……」
「わかりました!」
「あなたたちは、先にそのまま向かって!」
「でも、あれは……」


 山のよう積まれたアサリを見ながらどうするのかと問うてくる視線を感じ、ニコリと笑う。


「先に上がった人に、運ぶのは任せましょう!もう体も温まったでしょう!
 名前と所属は覚えているから、大丈夫。まず、今いる人は私のところに集まって!」


 そういうと、おもむろに赤いリボンを集まった隊員の腕につけていく。


「ウィル!」
「何?姫さん」
「今から赤いリボンをつける人は、先に帰すわね!ヨハンに診療を頼んであるの。あとお風呂も」
「わかった。向こうのやつが紛れないように見張れってことだな?」
「当たり!」
「じゃあ、向こうに行ってくる!」
「待って!ウィル。わからなくなるから、はい、同じようにこれつけてあげて!」


 ウィルに青いリボンを渡すと、なるほどなぁーと笑う。
 そのまま火のそばで雑談している近衛に次々と青いリボンをつけていくウィル。


「みんな、赤いリボンつけた?」
「はい!赤いリボンをつけました!」
「じゃあ、赤いリボンをつけている人は私に続いて!ヨハン教授のところは向かいます!」


 私たちは、火で温まっている近衛たちの横を歩いて行く。


「お先にね!」
「えっ!アンナリーゼ様?」
「えーっと、十分体が温まったでしょ?先に今まで海にいた人を引き上げるからあなた
 たちはウィルの指示であっちをお願いね!」


 あっちを指さすと、山のように積んであるアサリにみながウンザリしていた。
 それもそうだろう……荷馬車3台分はある。
 ここから、荷馬車は使えないので、最悪地底湖を抜けたところまではみんなで持って行かないといけない。


「ウィル、お願いね!バケツリレーみたいにすれば、早いと思うわ!」
「了解。こっから地底湖を抜けたところまで、一列に並べ!言っておくが、青いリボンが
 目印になっているから、この作業から抜け出そうってしたら、ただじゃ置かないからな?」


 ウィルのアイスブルーの瞳が光ったところで、私たちはヨハンのところへ向かった。
 一人一人診察を受け、ゆっくり温めのお風呂に入るよう指示を出す。
 急激に体温をあげるのは良くないので、ここまで歩かせたわけだが、やはり寒かっただろうなと顔色を見てたら思える。
 ただ、お風呂に入ったあとは、血色もいい顔に戻っていた。
 ちょうど、そのころになってウィルが率いる近衛がヨハンの研究所まで来たので、入れ替わりに、ヨハンに診察とお風呂を頼み、今、持ってきてもらったアサリを先に警備隊で領地の屋敷へと運ぶことにした。


「今日の仕事は、これでおしまい!冷たい海の中、ご苦労様!本当に助かったわ!
 明日の誕生日会、このアサリでボンゴレを作るの!楽しみにしていてね!
 あっ!今回はお金とるけど?」


 すると笑いが起こる。よかった、みんな元気そうで……そう思いながら駐屯地へ帰る警備隊を見送った。



 ◆・◆・◆



 調理場へと足を運ぶと、公都からも呼び寄せている料理人も含め、所狭しと動き回っていた。


「みんあ、苦労をかけるわね!」
「いいえ、こちらも……こんなにたくさんの調理ができるなんて、張り合いがありますから!
 おまかせください!」


 料理長は汗をかきながら、手を動かし、私の相手までしてくれる。
 ここにいるのは悪いと思い、私はそっとその場を後にした。


 見たところ、大量のパスタが出来上がっていた。
 これを作るだけでも大変だな……と横目で見ている。
 このパスタも、アンバー領で採れた小麦で出来ているので、おいしいのは折り紙付き。
 これを、領地や領地外の人にも美味しく食べてもらえると嬉しいな……と、私は明日のことを考えた。

 ニコライに相談して、近辺の領地へ宣伝は終わっている。
 他の領地の人が来ることで、お金を落としていってくれることはもちろん、今までのアンバーの印象が変わればいい……それが、また別の人へと伝わって、訪れる人が増えれば、領地も安定的に収入が得られる場合もある。
 まだまだ、発展途中だからかこそ、目をつける私のような投資家もいるかもしれない。
 何はともあれ、明日の誕生日会が無事、みなの心に残るような1日になればいいと願うのであった。
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