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領地視察に行こう

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「うぅ……まだ、寒いわね……」
「そうですね、もう春は近づいて来ているとはいえ、まだ、冬よりですからね?」
「こんな時間だしね、仕方ないよね」


 セバスと二人、馬の背に揺られ朝方まだ暗い中を移動中である。
 春に近くなってきたとはいえ、まだまだ、冷える冬のような外気に晒されブルブルと震えている。
 今は、警備隊の駐屯地に向かっている最中で、リリーとアデルと待ち合わせをしていた。
 領地視察へとウィルを誘ったのだが、ノクトと練兵の構成を考えているらしく忙しいので断られてしまったのだ。


「もう、1年くらいになりますか?初めて領地の視察にきてから……」
「そんなになるかしら?」
「えぇ、あと2ヶ月もすれば、アンジェラ様の2歳のお誕生日でしょ?」
「そうね、そうすると……そうなのね。この1年はいろいろなことがありすぎて、あっという間に過ぎて
 いってしまったわ!セバスから見て、今の領地ってどう?私、領地改革をすると言い出しっぺではある
 のだけど、なかなか腰を据えて関わってこれなかったから……」


 セバスもこの1年を振り返ってくれているのだろう。
 きっと、セバスの身にもいろいろとあったはずだ。自身が男爵位を得られたこともひとつではあるだろうし、イチアというおもしろいパートナーを得られたことも大きいだろう。
 領地改革は、まだまだ始まったばかりで、殆ど形をなしていないが、セバスたちが考え動かしてくれていることもたくさんあった。


「そうですね、1年前に比べたら……すごく変わりました。苦しかっただろう領民の暮らしも、苦しい
 から普通になりつつあるように思います。
 ハニーアンバー店が出来たことで、そこに出すための商品を領地全体で作っているので、商品の対価が
 領民へお金という形で回り始めましたし、高かった物価も秋の収穫が良かったおかげで、主食である
 小麦の値が下がったので飢えることがなくなりつつあります。
 今年もそれ以上をと期待して、農耕はかなり気合を入れてますし……
 何より、この領地にアンナリーゼ様がいてくれることが、僕を含め領民にとって心強いことだと思って
 ますよ!」
「そんなこと……」
「ありますよ!ここにきて、領民との距離が近く話す機会も増えました。そのおかげで、やはり領主に
 見捨てられた領地だというのが根強く領民の心には残っています。
 それが、領地にいてくれるだけでなく、嬉々として領民たちと同じように領主自らが走り回っている
 姿を目にしてるのです。
 領民たちは、自分たちの生活向上ももちろん考えていますけど、アンナリーゼ様の興す事業を成功させ
 たいとみなが一丸となっているのです。
 それにおもしろいと次は何をするんだ?とみんな楽しみにしています」


 セバスから聞く話に驚いた。
 私は、このアンバー領が豊かな領地になればいいと思って、見切りで始めてしまった領地改革に反省ばかりしていたのに、そんな評価をしてくれていたのだと思うと胸が熱い。
 目尻に光るものがあり、そっと拭う。


「アンナリーゼ様が思うより、ずっと……領地も領民も期待しています。
 重い期待かもしれませんけど、僕たちも一生懸命支えていくので、一緒に頑張りましょうね!」
「うん、ありがとう!」
「あと、領民が少しずつですが、増えてきています。豊かになるかもしれないと自領に見切りをつけて
 移動している人がいるみたいですね。住民票を作ったことは、正解ですね!こういう小さな領民の
 動きも把握できる。それに、浸透してきているらしく、隣の家の人に手続きするよう言われたと、
 わざわざ手続きにきてくれるようになりました!」
「本当!それは、とても嬉しいわね!税改革には、必要だから……少しずつでも浸透してくれるとあり
 がたいわ!」


 そうですねとセバスが笑っている。
 まだまだ、進めたいことはたくさんあるが、急にはできないことも多い。識字率も低かった領地だ。
 そこも解決しないといけない。山のような課題は多い。


「あとは、学校も少しだけ浸透し始めました。農業系の話が聞けるのはやっぱりいいみたいですね。
 イチアが少しだけ教鞭をとることがあるのですが、かなり人気です。
 ただ、字が書けたり読めたりしないと、なかなか難しいのでってことで、文字を教える時間もとって
 いるようで、段々勉強している領民も多くなってきました」
「本当に?なんだか、目指しているところが少しずつ形になってきてる感じかしら?
 春には、きちんと教鞭をとれる人を呼んであるから……それまでに、読み書きできるようになると
 いい感じに学校が始められるね?」
「そうですね!これは、かなり期待できます。
 あと……今年は、アンジェラ様のお誕生日会は開かないのですか?」
「えっ?」


 私はセバスの言わんとすることがわからなかった。
 去年の誕生日だけと思っていたので、驚いてしまう。


「何か今年もした方がいいかしら?」
「できれば、そうですね!してほしいような要望は来ています。
 ただ、今年は全面的に領主主導ではなくていいと思いますよ?例えば、露店とかは各自に許可さえ
 出せば問題ないかと……」
「でも、領主の子の誕生日なんだから、何かしないといけないよね?結構、お金がかかるのよね……
 どうしたものかな?」
「例えば、なんですけど……コストに似合う1コインで何か食べれるものを提供すればいいのでないですか?」
「うーん、何かか……」
「ボンゴレとかどうですかね?貝殻も手に入るから、ちょうどよくないですか?」
「それ、いいわね!小麦も領地でとれているし……あっ!あの地底湖の奥の海はどうなったかしら?」


 私の質問にセバスは、ニコリと笑う。
 いい報告が聞けそうである。


「城で調べてもらった限りでは、アンバー領で良いようです。領地にあった地図とは少し違うようです
 ね!なので、あの海の漁業権は、アンバー領にあるということです」
「本当?じゃあ……」
「貝をとることができますよ!」
「そうなると……貝がとれるかの調査が必要ね。あと、とれるなら、人も……
 でも、リリーにたちも春の種まきの時期にも入るから……忙しいのよね」
「近衛に出張ってもらうことになりそうですね」
「そうね、そこは、帰ってからウィルにも相談してみましょう。
 余っている人がいるなら……そちらに回してもらえないか、聞いてみましょう」


 真っ暗な中、そろそろ警備隊の駐屯地へと着くころだろう。
 セバスとこれほど長く話をできる時間をとれたのは久しく、たくさん話をしたなと考えていた。
 おかげで、私が関われていないところも含めて嬉しい話が聞けた。私は、次なる改革もみなが心躍る領地へと改革できるものになればいいなと微笑むのであった。
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