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手合わせ
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近衛や警備隊と踊ったあと、リリーとも踊った。
それは、やはり楽しく、心躍る。模擬剣をギュっと握って次なる踊る相手を誘いに行く。
「じゃあ、いこうか!」
小さなレオの手を取り、私は訓練場の真ん中へと歩いて行く。
まるで、夜のダンスの練習でもするかのようにだ。
「アンナ様は、あれほど多くの近衛や警備隊の人たちと模擬戦をしたのに、疲れていないのですか?」
「疲れたわよ?でも、100人もいないからね……たいしたことないよ」
「えっ?100人……僕そんなに相手したら、倒れてしまいます」
「そうね、でも、見えてる敵を倒すのに、全て全力で対応していたらばててしまうわ。
常に70%くらいの力で戦うつもりで。
余力は不測の事態を考えても、きちんとおいておくことね。
例えば、心通じる相手が背中を守ってくれるようなことがあれば、その相手の力量も踏まえて考え
ないとダメよ?私が先に潰れてしまっても、相手が先に潰れてしまっても均衡が崩れた時点で、
負けることになるのよ。でも、安心して任せられる人がいるのといないのとでは違うわ。
そういう、背中を預けられる人がレオにもできるといいよね!」
私を見上げながら、少し考えているようだった。
「アンナ様にはそういう人がいるのですか?」
「うーん、しいて言うなら……」
チラッとウィルの方を見る。
「……父様ですか?」
「うん、ウィルなら、背中を預けられるわ!そういうのに関しては意思疎通が出来ていると自負して
いるもの。当のウィルがどう思っているのかはわからないけどね……」
「僕も父様に背中を預けてもいいと思ってもらえるようになりたいです!なれるでしょうか?」
真摯にこちらを見上げてくるレオに私は微笑んだ。
もちろん、レオならそれに似合う努力もするだろう。ウィルもきっとそのつもりでいるに違いない。
自分の背中を預けられる人物が、レオであってほしいと願っていることだろう。
「そうね、レオがうんと努力すれば、いずれはウィルに並ぶ、もしくは、追い越すでしょうね。
そうすれば、きっと、ウィルはレオに背中を預けてくれるようになると思うわ。私が、戦場に立つ
ことはないから……」
「わかりました!父様が安心して預けられる背中を目指します!
では、アンナ様、よろしくお願いします!」
えぇと言いつつ、さらに20歩程レオから離れる。
それを遠目で確認したウィルが始めの合図を出す。
セオリー通りの戦い方。
ウィルにまずは基本的な動きを叩き込まれているのだろう。
私なんて、基本を覚えたのは、祖父の新兵練度のときだった気がする。
基本的に私は母から剣術や体術やらなんやら教えてもらった。
基本なんて、本当に最初にちょっと教えてくれただけで、後は母にぶちのめされる毎日だった気がする。
ただ、それは、今思えば、私のことを思ってだろう。
難しいことは考えられない私をいかに効率よく育てるか……それに尽きた結果、何もかもすっ飛ばしてしまった……そうとしか思えなかった。
なので、レオの動きが新鮮な感じがする。
「ウィルに教えてもらっているの?」
「公都にいたときに少しだけ……あの……」
「男爵が教えてくれた?」
「いえ、あの……指南役の人を雇ってくれて……」
「そこで基礎を覚えたの?」
はい……と、レオが少しだけしょげた気がする。
レオはウィルにも教えてもらいたいのだろう。
この様子だと、まだ、ウィルも本格的には教えていないようである。
「ウィルに教えてもらいたいの?」
「いえ、父様は忙しいので……」
「そんなこと言ってたら、いつまでたっても上達しないわよ!ほら!」
私はレオの剣をいなすと、スルッと内側に入って間合いを詰めた。
「!」
「剣だけで戦うわけではないのよ!柔軟とか何もかも身に着けている全てが、戦うときに必要なのよ!
知っていれば、今の間合いからでも抜け出すことはできるわ!さて、どうする?」
「……わかりません」
「じゃあ、教えてあげる。こういうときは、耳元で叫んで押し返してしまいなさい。耳って人間の
平衡感覚をつかさどるところだから、片耳だけ鼓膜を破るくらい大きな声で叫ばれたら、怯むから
そのすきにってことも1つね!あっ!今は……しないでね!
それは、まぁ、熟達したものには難しいかもしれないし、多様するものではないけどね……本当に
どうしても活路を見いだせないときにほんの一瞬隙を作るためだけだよ?」
私から逃げ出せなかったレオを背負い投げてやる。
ケホケホっと受け身を取れなかったようで蹲っていた。
「受け身とかは習ってないの?」
「……なんですか?」
「さっきみたいに地面に投げ飛ばされたときに、少しでも衝撃とか体に与えるダメージの軽減させる
ためにの動作っていうか……」
「習ってません」
「そっか……受け身は、ちゃんと覚えておくべきよ!戦うことにおいて、1番ダメなのは、味方を置いて
逃げるだと思うのね。それと、けがをすること。
ケガをすれば、足手まといになる。命のやり取りをしているような状況で、自分の生に必死なとき
でもあるのに、庇いながらはなかなか骨がおれるのよね。
訓練では、領主を庇いながらとかもあるんだけど、戦場で使えない領主が先頭に立つことはないから、
盗賊とかをイメージしている訓練はある。
近衛を目指しているなら、本格的な戦場をイメージした練習をしたほうがいいわ!
相手との力量はちゃんと測れるようにしておくこと、剣だけに頼らず体全身で戦えること、ケガを
しないこと。これは、重要だと思うのよね!小さな切り傷でも致命傷になる場合もあるから、過酷な
戦線での戦いをイメージしながらケガをしないことを念頭に入れてみて。ウィール!こっち着て!」
「何?姫さん」
少し離れたところで見守っていてくれたウィルが私たちのところへやってきた。
背中を打っているので、痛いだろうがレオは泣き言も言わず、私たちの相談を聞いている。
「レオに戦い方って教えてるの?」
「いや、まだ……型はできてる感じがしたから……」
「そっか。でも、肝心の受け身ができないみたい。剣は振れてもって感じね。
貴族の坊ちゃんの手習い程度のものしか、たぶん、身についていないと思うわ!
受け身の練習、させたほうがいい!」
「わかった、姫さんありがとう!」
そういうと、レオの背中をそっとさすってあげている。
「痛いか?」
ウィルに聞かれた瞬間に、レオの目からは涙が溢れる。
「悪かったな……これからは、ちゃんと基礎から教えるからさ。受け身も知らなかったって、気づいて
やれなくて、悪かったな」
抱きついてフルフルと顔を横に振るレオ。
ウィルには素直に甘えて、いるようだった。
「姫さんさ、朝、柔軟してるんだろ?」
「そのときに教えてもいいよ!多少なり、私が知るものであれば」
「頼む……俺もなるべく時間はとるけど、レオにケガばかりさせるわけにはいかないから!」
「えぇ、わかったわ!レオ、明日から柔軟の後は、少しだけ体術とか教えてあげるよ!
ケガをしにくい体づくりしよう!」
はいと返事をくれるレオ。
私たちはお互いまだまだ、知らないことが多いようである。
対話を繰り返していくしかない。それで、レオが強くなり、レオの望むようにウィルに背中を預けてもらえるような近衛になってほしい。
『予知夢』に出てきたレオを思い浮かべる。不敵に笑うレオは、まるでウィルのようであった。
それは、やはり楽しく、心躍る。模擬剣をギュっと握って次なる踊る相手を誘いに行く。
「じゃあ、いこうか!」
小さなレオの手を取り、私は訓練場の真ん中へと歩いて行く。
まるで、夜のダンスの練習でもするかのようにだ。
「アンナ様は、あれほど多くの近衛や警備隊の人たちと模擬戦をしたのに、疲れていないのですか?」
「疲れたわよ?でも、100人もいないからね……たいしたことないよ」
「えっ?100人……僕そんなに相手したら、倒れてしまいます」
「そうね、でも、見えてる敵を倒すのに、全て全力で対応していたらばててしまうわ。
常に70%くらいの力で戦うつもりで。
余力は不測の事態を考えても、きちんとおいておくことね。
例えば、心通じる相手が背中を守ってくれるようなことがあれば、その相手の力量も踏まえて考え
ないとダメよ?私が先に潰れてしまっても、相手が先に潰れてしまっても均衡が崩れた時点で、
負けることになるのよ。でも、安心して任せられる人がいるのといないのとでは違うわ。
そういう、背中を預けられる人がレオにもできるといいよね!」
私を見上げながら、少し考えているようだった。
「アンナ様にはそういう人がいるのですか?」
「うーん、しいて言うなら……」
チラッとウィルの方を見る。
「……父様ですか?」
「うん、ウィルなら、背中を預けられるわ!そういうのに関しては意思疎通が出来ていると自負して
いるもの。当のウィルがどう思っているのかはわからないけどね……」
「僕も父様に背中を預けてもいいと思ってもらえるようになりたいです!なれるでしょうか?」
真摯にこちらを見上げてくるレオに私は微笑んだ。
もちろん、レオならそれに似合う努力もするだろう。ウィルもきっとそのつもりでいるに違いない。
自分の背中を預けられる人物が、レオであってほしいと願っていることだろう。
「そうね、レオがうんと努力すれば、いずれはウィルに並ぶ、もしくは、追い越すでしょうね。
そうすれば、きっと、ウィルはレオに背中を預けてくれるようになると思うわ。私が、戦場に立つ
ことはないから……」
「わかりました!父様が安心して預けられる背中を目指します!
では、アンナ様、よろしくお願いします!」
えぇと言いつつ、さらに20歩程レオから離れる。
それを遠目で確認したウィルが始めの合図を出す。
セオリー通りの戦い方。
ウィルにまずは基本的な動きを叩き込まれているのだろう。
私なんて、基本を覚えたのは、祖父の新兵練度のときだった気がする。
基本的に私は母から剣術や体術やらなんやら教えてもらった。
基本なんて、本当に最初にちょっと教えてくれただけで、後は母にぶちのめされる毎日だった気がする。
ただ、それは、今思えば、私のことを思ってだろう。
難しいことは考えられない私をいかに効率よく育てるか……それに尽きた結果、何もかもすっ飛ばしてしまった……そうとしか思えなかった。
なので、レオの動きが新鮮な感じがする。
「ウィルに教えてもらっているの?」
「公都にいたときに少しだけ……あの……」
「男爵が教えてくれた?」
「いえ、あの……指南役の人を雇ってくれて……」
「そこで基礎を覚えたの?」
はい……と、レオが少しだけしょげた気がする。
レオはウィルにも教えてもらいたいのだろう。
この様子だと、まだ、ウィルも本格的には教えていないようである。
「ウィルに教えてもらいたいの?」
「いえ、父様は忙しいので……」
「そんなこと言ってたら、いつまでたっても上達しないわよ!ほら!」
私はレオの剣をいなすと、スルッと内側に入って間合いを詰めた。
「!」
「剣だけで戦うわけではないのよ!柔軟とか何もかも身に着けている全てが、戦うときに必要なのよ!
知っていれば、今の間合いからでも抜け出すことはできるわ!さて、どうする?」
「……わかりません」
「じゃあ、教えてあげる。こういうときは、耳元で叫んで押し返してしまいなさい。耳って人間の
平衡感覚をつかさどるところだから、片耳だけ鼓膜を破るくらい大きな声で叫ばれたら、怯むから
そのすきにってことも1つね!あっ!今は……しないでね!
それは、まぁ、熟達したものには難しいかもしれないし、多様するものではないけどね……本当に
どうしても活路を見いだせないときにほんの一瞬隙を作るためだけだよ?」
私から逃げ出せなかったレオを背負い投げてやる。
ケホケホっと受け身を取れなかったようで蹲っていた。
「受け身とかは習ってないの?」
「……なんですか?」
「さっきみたいに地面に投げ飛ばされたときに、少しでも衝撃とか体に与えるダメージの軽減させる
ためにの動作っていうか……」
「習ってません」
「そっか……受け身は、ちゃんと覚えておくべきよ!戦うことにおいて、1番ダメなのは、味方を置いて
逃げるだと思うのね。それと、けがをすること。
ケガをすれば、足手まといになる。命のやり取りをしているような状況で、自分の生に必死なとき
でもあるのに、庇いながらはなかなか骨がおれるのよね。
訓練では、領主を庇いながらとかもあるんだけど、戦場で使えない領主が先頭に立つことはないから、
盗賊とかをイメージしている訓練はある。
近衛を目指しているなら、本格的な戦場をイメージした練習をしたほうがいいわ!
相手との力量はちゃんと測れるようにしておくこと、剣だけに頼らず体全身で戦えること、ケガを
しないこと。これは、重要だと思うのよね!小さな切り傷でも致命傷になる場合もあるから、過酷な
戦線での戦いをイメージしながらケガをしないことを念頭に入れてみて。ウィール!こっち着て!」
「何?姫さん」
少し離れたところで見守っていてくれたウィルが私たちのところへやってきた。
背中を打っているので、痛いだろうがレオは泣き言も言わず、私たちの相談を聞いている。
「レオに戦い方って教えてるの?」
「いや、まだ……型はできてる感じがしたから……」
「そっか。でも、肝心の受け身ができないみたい。剣は振れてもって感じね。
貴族の坊ちゃんの手習い程度のものしか、たぶん、身についていないと思うわ!
受け身の練習、させたほうがいい!」
「わかった、姫さんありがとう!」
そういうと、レオの背中をそっとさすってあげている。
「痛いか?」
ウィルに聞かれた瞬間に、レオの目からは涙が溢れる。
「悪かったな……これからは、ちゃんと基礎から教えるからさ。受け身も知らなかったって、気づいて
やれなくて、悪かったな」
抱きついてフルフルと顔を横に振るレオ。
ウィルには素直に甘えて、いるようだった。
「姫さんさ、朝、柔軟してるんだろ?」
「そのときに教えてもいいよ!多少なり、私が知るものであれば」
「頼む……俺もなるべく時間はとるけど、レオにケガばかりさせるわけにはいかないから!」
「えぇ、わかったわ!レオ、明日から柔軟の後は、少しだけ体術とか教えてあげるよ!
ケガをしにくい体づくりしよう!」
はいと返事をくれるレオ。
私たちはお互いまだまだ、知らないことが多いようである。
対話を繰り返していくしかない。それで、レオが強くなり、レオの望むようにウィルに背中を預けてもらえるような近衛になってほしい。
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