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だって暇なんだもん!

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 ナタリーから話を聞いて、私はゆっくり動き出した。
 公妃のおいたくらいの規模の出来事なら、公でもなとかおさめることもできるし、大事にする必要もない。
 むしろ、それくらいおさめられないような公であれば、そもそも誰も味方になってくれないだろう。

 それに、筆頭公爵といえど、国内で全て意のままになるわけではない。
 年若い私やジョージアを良く思っていない貴族もたくさんいることは知っている。
 公妃のおいたくらいで、大事にするのは忍びない。
 裏付けを取ったり、証拠を集めたりと風呂敷を広げてしまえば大変なのだ。
 できれば、公がきちんと考えてくれていれば、私に出番はないのだが……そうも言ってられない。
 売られた喧嘩は、きっちり買って差し上げましょう。
 だって暇なんだもん!
 公妃くらいのアホなら遊び程度で十分懲らしめられる。
 むしろ、公妃が私に喧嘩を売って、頭を悩ませるのは公なのだが、そういうところまで、頭が回らないだろう。
 残念な頭なのだから……蝶よ花よと育てられるから、ろくな令嬢にならなかったのだ。
 前公も少しくらい、考えて政略結婚は進めるべきだったと私は思う。
 あれのお守をしろって言われても、たぶん、私には無理だわ……と身震いした。


 まず当初の通り、エマが4着のドレスと共にアンバー領をたった。
 ニコライも一緒に行くことになり、公都でパルマとも合流する。
 そこから、トワイス国のフレイゼンの屋敷まで行く手筈になった。

 ディルへの手紙があるので、滞りなく進むであろう。

 公都からであれば、フレイゼンの屋敷まで数日でつくので時間はかからないだろう。
 ただし、滞在して、経過を確認したのちに帰ってくるように伝えてある。
 あと、兄には、ハニーアンバー店2号店の話を殿下に話してほしいこと、ニコライを一緒に連れて行き、顔合わせをしてほしいことをこと付けてある。
 ドレスもそのときにお近づきの印として、最高級のドレスをそれぞれの奥様方に贈ることにした。
 殿下へは、シルキー様とメアリ―様のドレスを。ハリーには、イリアのドレスを。兄には、エリザベスのドレスを。
 ナタリーはみなのことを知っているので、1番似合うドレスをしつらえた。
 年明けの夜会は近いので、そこで着てほしいとお願いをしたのだ。
 既に、その日用のドレスはもう用意されているだろうが、きっと、私の願いは聞き入れてくれるだろう……祈るような想いも込め、それぞれに手紙も書いておいた。
 着る着ないは、あとは本人たちの意志に任せることとしたのだった。


「アンナ様、執務はダメだと言ってあったはずです。
 少しの期間だけですので、もう少しの間大人しくしていてください!」


 デリアにこの調子で、執務の全てをさせてもらえない状態で、子どもたちと遊ぶ以外することもないので、公妃のおいたに全力以上の返しをすることは恰好の遊びとなっている。
 果報は寝て待てなんていうけど、寝て待つほどお人よしではない。

 持て余す時間で、公への手紙を認めた。
 もちろん、公文書ではなく私的に送る季節のお手紙だ。
 それも、一緒に公都に持って行ってもらったので、そろそろ返事が来る頃だと待ち望んでいたのだったが、どうも、公からは手紙でのお返事が届かなかったようだ。


 私室の窓から外を眺めていると、見たことがある馬車が玄関に停まった。
 前触れもなかったので、私は誰かが呼びに来てくれるまで、部屋から出ないで置く。
 じゃないと、デリアに叱られるから……
 ネイトが起きたようだったので、私は抱きに行きあやしていた。
 そこへ、扉を控えめにノックされる。
 入出許可をすれば、リアンが入ってきた。


「アンナリーゼ様、お客様です……あの、公だとデリアが言っているんですけど……
 本物でしょうか?」
「えぇ、本物でしょうね。御者台にエリックがいるのが見えたから!」


 私は、抱きかかえたばかりのネイトをリアンに預け、何食わぬ顔をして私室から出ていく。
 デリアに叱られることは、ないだろう。
 公が来ているのだから、私が行かないわけにもいかないだろうとほくそ笑む。



 ◆◇◆◇◆



 廊下でジョージアとデリアに出会った。
 デリアは私を呼びに来ず、ジョージアに対応させようとしていたようだった。


「どこに行かれるのです?」


 少し拗ねたようにジョージアに言うと、デリアと視線を合わせた。
 仕方なさそうにデリアが私に口を開く。


「見ていらしらのでしょ?公がいらっしゃいましたので……ジョージア様に対応をと思いましたが、
 アンナ様のそんな顔をみたら、私、行くなとは言えませんわ!」
「ありがとう、デリア。大好きよ!」
「くれぐれも、無茶はしないでくださいね?」
「ちょっと、お茶を飲むくらいで、無理なんてしないわよ!ねぇ?ジョージア様?」


 覗き込むようにジョージアを見ると、視線を逸らされた。
 たぶん、私のことを考えて、無茶なことを言い出すだろうと思っているのだ。
 言わないとは限らないので、それが正しい態度だとは思うけど、あからさまに二人の態度は、正直寂しい。


「では、行きましょうか?」


 私は、意気揚々と客間の扉を開けてもらい中に入っていく。


「アンナリーゼ!」


 開口一番、私の姿を見つけると、座っていた公が立ち上がった。
 その顔色はとても悪く、悩みに悩んでいますと顔に書いてある。
 さて、今は、公都でどんな噂が流れているのだろうか?
 少し、心躍らせながら、公の向かいに座ることにした。


「公もお座りください!」
「あ……あぁ、そうさせてもらおう。それより!」
「なんですか?女性にせっつくと嫌われますよ?」
「そなたは、もうどっちかっていうと、国を繁栄させるための同士のようなものだから少々いいのだ!」
「私は良くないです!せっかく、公都の喧騒を離れ、領地でのんびりと過ごしているのですから!」
「それは、そなたの趣味みたいなものだろう?あの手紙の内容は、誠なのか?」
「早速、話の核心ですか?はぁ、おもしろくない!」
「おもしろくないと……なんだ?」
「私、とっても退屈をしていたのです!領地改革に首を突っ込むことを、あと一月程禁止されていて、
 何もできないのです!
 ちょうど、そのときに、おもしろいお話が聞こえてきたので、早速、公に事の次第を教えてもらおうと
 手紙を書いたのに、本人が来てしまったらおもしろくないではないですか!
 もう少し、私への配慮が必要だと抗議します!」
「抗議されても、俺はしらん!それより、公妃のおいたの件だが、本当のことなのか?
 俺に隠れてしているお茶会があることはなんとなく掴んではいたが……」
「本当ですよ!ナタリーが行ってましたし、ジョージア様も噂話くらいは入手してます。
 さて、どう、落とし前つけてくださいます?お宅の奥様、少々おいたがすぎるんでないですか?」
「それは……」
「それは?」
「アホだから……」
「仕方なくはないですよ?あまり、野放しにしておくと……筆頭公爵の私やジョージア様が、失脚しま
 すね?そしてら、公の後ろ盾がなくなっちゃいますけど、いいんですか?
 私たちは、いいですよ?失脚しても!
 アンバーを全て奪われたとしても、フレイゼン領に帰る場所がありますから!
 しっかり、ローズディアって国の内側からも外側からも、蝕われることになるでしょうけどね?」



 私は、公にニコリと笑いかけると苦笑いをする。
 なにかしら思うことがあるらしく、膝に置かれた公の拳は堅く握られていることに私は気づくのであった。
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