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「なんですか?この騒ぎは!」
目の前に仁王立ちしている淑女……ナタリーがコーコナ領から帰ってきたようだ。
後ろにはライズが付き従い、騒ぎを見て驚いていた。
そして、その騒ぎの真ん中に私がいるのを見つけたナタリーは、とても御立腹のようだった。
「アンナリーゼ様!」
「は、はい!なんでしょう?」
「なんでしょうではありません!これは、一体どうなっているのです?出産なさって、日も浅いのに
なんですか!」
ナタリーに一括され、それまで熱の籠った視線をくれていた領民たちは、関わらないようにと蜘蛛の子を散らすように去っていく。我先にと……
「えっと、レオに今度ダンスを教えるのに、見本をと思って……」
「踊ったのですか?その体で?」
「……はい、申し訳ございません」
私は肩を落とし、しょぼん項垂れる。
その様子を見て、ジョージアはフォローに入ろうとしたのに、ナタリーに睨まれ口を噤んだ。
ナタリーの後ろでは、私の様子を見て、クスクスと笑っているライズがいた。
ライズには腹が立ったが、今は、何も言わず、反省をしていますという意思表示が大事なので、黙って項垂れたままだった。
「ライズ!」
「なんですか?ナタリー様。アンナリーゼ様が叱られていいざまです!」
ますます、怒りが込み上げてくるが、ぐっと……ぐっと、抑える。
「笑っていいとは、誰も言ってませんよ!
だいたい、アンナリーゼ様は、こんなことは日常茶飯事のこと。
でもね、笑っていい人は、身分的には誰一人いないのよ!あなたでさえ、今は、アンナ
リーゼ様の侍従に過ぎないのだから、控えなさい!」
ナタリーが、ライズに面と向かって叱り飛ばす。
私より、よっぽど教育というものがわかっているのだろう。
その姿に感心してしまった。
ナタリーは私にあやまるようライズに促す。
すると、あのライズが私を笑ったことを謝ったのだ。とても驚いた。
「あの、ナタリー?」
「なんですか?」
「その、ごめんなさい」
「いいのですよ!いつものことですから!ただ、アンナリーゼ様は、もっと体を大事にしてください!
アンナリーゼ様の体であると同時に、アンバー領、コーコナ領の領主でもあるのです。
あなたが、倒れたら、今進めている改革も頓挫してしまうことをきちんと理解してください。
いいですか?」
「はい、わかりました」
「でも、私は、今のままのアンナリーゼ様も大好きですよ!」
ナタリーに抱きつかれ、耳元で囁かれる。
帰ってきたら楽しそうなことをしていて、自分が仲間外れにされていたことに拗ねていたようだった。
「おかえり、ナタリー!」
「ただいま戻りました!もう、今日のマナーレッスンは終わりですか?」
「えぇ、そうね!そろそろ、ミアもお昼寝の時間だし!」
「わ……忘れてた!ミア、悪い!」
ウィルは、ナタリーと私の言葉で手を繋いでいたミアを見る。
すると、ミアは眠そうに瞼をぱちくりしていた。
「姫さん、悪かったね!ミアを寝かせてくるよ!ありがとう!レオも今日は、このまま引き取るよ!」
「えぇ、わかったわ!レオ、またね!」
「ありがとうございました!」
ペコっと頭を下げて、ウィルの後ろについていくレオ。
親子三人を見送り、私たちも執務室へと移動することにした。
「ナタリーは、長旅だったでしょ?疲れてない?」
「えぇ、大丈夫ですよ!でも、馬できたので、服を着替えてきますわ!」
後で執務室へ行くと約束し、ナタリーとは別れた。
「アンナは、ナタリー嬢にも叱られるんだね?」
「も?」
「デリアにもよく叱られてるし、リアンにも窘められているだろ?」
ジョージアの言葉に視線を逸らす。
耳の痛いことこの上ない。確かに、私を叱らないのは、ジョージアくらいだろう。
ベタベタに甘やかしてくれる唯一の存在だ。
強さを求めてくるウィル。知識を引き出してくるセバス。新しい道標を示せというナタリー。そして、結果を出せとせまるノクト。
特にこの四人に関しては、爵位や地位は曖昧で、常に執務机をはさめば対等である。
私の考えに是か否かを言える人物たちだ。その中でも、私はひとつ頭を抜けないといけないこともわかっているので、常に背中を追われている感覚ではあるのだが……なかなか、大変ではある。
「ジョージア様は、私の安息地ですからね!変わらずいてください」
執務室の前まできた。
ふぅっと一息いれ、扉のノブに手をかける。
ここからは、領主としての戦場であろう。何かしらナタリーが報告したいことがあるからこそ、時間が欲しいと促してきたのだから……
「さて、仕事をしましょう!」
「まだダメだろ?デリアに……」
言いかけたジョージアの口を人差し指をあて塞ぐ。
「叱られても、仕方ありません。これが、私の仕事ですから!
もちろん、母親も私の仕事ではありますよ?でも、今は、私への報告が必要な案件があるのだと
判断したのです。領主として、この椅子に座りましょう!ジョージア様もどうぞ、かけてください!
ナタリーが来たら、話を始めましょう。何か、悪いことがおこっていたら、大変です
からね!私たちは、領民の暮らしが少しでもいいものになるようにするのが、大事なのですから!」
私は執務室に設えられている打ち合わせ用のテーブルに付く。
左隣にジョージアが座り、ナタリーが来るのを待っていた。
どんな報告をくれるのか……緊張をする私。
いい報告が多いことを祈るばかりであった。
目の前に仁王立ちしている淑女……ナタリーがコーコナ領から帰ってきたようだ。
後ろにはライズが付き従い、騒ぎを見て驚いていた。
そして、その騒ぎの真ん中に私がいるのを見つけたナタリーは、とても御立腹のようだった。
「アンナリーゼ様!」
「は、はい!なんでしょう?」
「なんでしょうではありません!これは、一体どうなっているのです?出産なさって、日も浅いのに
なんですか!」
ナタリーに一括され、それまで熱の籠った視線をくれていた領民たちは、関わらないようにと蜘蛛の子を散らすように去っていく。我先にと……
「えっと、レオに今度ダンスを教えるのに、見本をと思って……」
「踊ったのですか?その体で?」
「……はい、申し訳ございません」
私は肩を落とし、しょぼん項垂れる。
その様子を見て、ジョージアはフォローに入ろうとしたのに、ナタリーに睨まれ口を噤んだ。
ナタリーの後ろでは、私の様子を見て、クスクスと笑っているライズがいた。
ライズには腹が立ったが、今は、何も言わず、反省をしていますという意思表示が大事なので、黙って項垂れたままだった。
「ライズ!」
「なんですか?ナタリー様。アンナリーゼ様が叱られていいざまです!」
ますます、怒りが込み上げてくるが、ぐっと……ぐっと、抑える。
「笑っていいとは、誰も言ってませんよ!
だいたい、アンナリーゼ様は、こんなことは日常茶飯事のこと。
でもね、笑っていい人は、身分的には誰一人いないのよ!あなたでさえ、今は、アンナ
リーゼ様の侍従に過ぎないのだから、控えなさい!」
ナタリーが、ライズに面と向かって叱り飛ばす。
私より、よっぽど教育というものがわかっているのだろう。
その姿に感心してしまった。
ナタリーは私にあやまるようライズに促す。
すると、あのライズが私を笑ったことを謝ったのだ。とても驚いた。
「あの、ナタリー?」
「なんですか?」
「その、ごめんなさい」
「いいのですよ!いつものことですから!ただ、アンナリーゼ様は、もっと体を大事にしてください!
アンナリーゼ様の体であると同時に、アンバー領、コーコナ領の領主でもあるのです。
あなたが、倒れたら、今進めている改革も頓挫してしまうことをきちんと理解してください。
いいですか?」
「はい、わかりました」
「でも、私は、今のままのアンナリーゼ様も大好きですよ!」
ナタリーに抱きつかれ、耳元で囁かれる。
帰ってきたら楽しそうなことをしていて、自分が仲間外れにされていたことに拗ねていたようだった。
「おかえり、ナタリー!」
「ただいま戻りました!もう、今日のマナーレッスンは終わりですか?」
「えぇ、そうね!そろそろ、ミアもお昼寝の時間だし!」
「わ……忘れてた!ミア、悪い!」
ウィルは、ナタリーと私の言葉で手を繋いでいたミアを見る。
すると、ミアは眠そうに瞼をぱちくりしていた。
「姫さん、悪かったね!ミアを寝かせてくるよ!ありがとう!レオも今日は、このまま引き取るよ!」
「えぇ、わかったわ!レオ、またね!」
「ありがとうございました!」
ペコっと頭を下げて、ウィルの後ろについていくレオ。
親子三人を見送り、私たちも執務室へと移動することにした。
「ナタリーは、長旅だったでしょ?疲れてない?」
「えぇ、大丈夫ですよ!でも、馬できたので、服を着替えてきますわ!」
後で執務室へ行くと約束し、ナタリーとは別れた。
「アンナは、ナタリー嬢にも叱られるんだね?」
「も?」
「デリアにもよく叱られてるし、リアンにも窘められているだろ?」
ジョージアの言葉に視線を逸らす。
耳の痛いことこの上ない。確かに、私を叱らないのは、ジョージアくらいだろう。
ベタベタに甘やかしてくれる唯一の存在だ。
強さを求めてくるウィル。知識を引き出してくるセバス。新しい道標を示せというナタリー。そして、結果を出せとせまるノクト。
特にこの四人に関しては、爵位や地位は曖昧で、常に執務机をはさめば対等である。
私の考えに是か否かを言える人物たちだ。その中でも、私はひとつ頭を抜けないといけないこともわかっているので、常に背中を追われている感覚ではあるのだが……なかなか、大変ではある。
「ジョージア様は、私の安息地ですからね!変わらずいてください」
執務室の前まできた。
ふぅっと一息いれ、扉のノブに手をかける。
ここからは、領主としての戦場であろう。何かしらナタリーが報告したいことがあるからこそ、時間が欲しいと促してきたのだから……
「さて、仕事をしましょう!」
「まだダメだろ?デリアに……」
言いかけたジョージアの口を人差し指をあて塞ぐ。
「叱られても、仕方ありません。これが、私の仕事ですから!
もちろん、母親も私の仕事ではありますよ?でも、今は、私への報告が必要な案件があるのだと
判断したのです。領主として、この椅子に座りましょう!ジョージア様もどうぞ、かけてください!
ナタリーが来たら、話を始めましょう。何か、悪いことがおこっていたら、大変です
からね!私たちは、領民の暮らしが少しでもいいものになるようにするのが、大事なのですから!」
私は執務室に設えられている打ち合わせ用のテーブルに付く。
左隣にジョージアが座り、ナタリーが来るのを待っていた。
どんな報告をくれるのか……緊張をする私。
いい報告が多いことを祈るばかりであった。
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