ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
438 / 1,514

席につく

しおりを挟む
「なんですか?この騒ぎは!」


 目の前に仁王立ちしている淑女……ナタリーがコーコナ領から帰ってきたようだ。
 後ろにはライズが付き従い、騒ぎを見て驚いていた。
 そして、その騒ぎの真ん中に私がいるのを見つけたナタリーは、とても御立腹のようだった。


「アンナリーゼ様!」
「は、はい!なんでしょう?」
「なんでしょうではありません!これは、一体どうなっているのです?出産なさって、日も浅いのに
 なんですか!」


 ナタリーに一括され、それまで熱の籠った視線をくれていた領民たちは、関わらないようにと蜘蛛の子を散らすように去っていく。我先にと……


「えっと、レオに今度ダンスを教えるのに、見本をと思って……」
「踊ったのですか?その体で?」
「……はい、申し訳ございません」


 私は肩を落とし、しょぼん項垂れる。
 その様子を見て、ジョージアはフォローに入ろうとしたのに、ナタリーに睨まれ口を噤んだ。
 ナタリーの後ろでは、私の様子を見て、クスクスと笑っているライズがいた。
 ライズには腹が立ったが、今は、何も言わず、反省をしていますという意思表示が大事なので、黙って項垂れたままだった。


「ライズ!」
「なんですか?ナタリー様。アンナリーゼ様が叱られていいざまです!」


 ますます、怒りが込み上げてくるが、ぐっと……ぐっと、抑える。


「笑っていいとは、誰も言ってませんよ!
 だいたい、アンナリーゼ様は、こんなことは日常茶飯事のこと。
 でもね、笑っていい人は、身分的には誰一人いないのよ!あなたでさえ、今は、アンナ
 リーゼ様の侍従に過ぎないのだから、控えなさい!」


 ナタリーが、ライズに面と向かって叱り飛ばす。
 私より、よっぽど教育というものがわかっているのだろう。
 その姿に感心してしまった。
 ナタリーは私にあやまるようライズに促す。
 すると、あのライズが私を笑ったことを謝ったのだ。とても驚いた。


「あの、ナタリー?」
「なんですか?」
「その、ごめんなさい」
「いいのですよ!いつものことですから!ただ、アンナリーゼ様は、もっと体を大事にしてください!
 アンナリーゼ様の体であると同時に、アンバー領、コーコナ領の領主でもあるのです。
 あなたが、倒れたら、今進めている改革も頓挫してしまうことをきちんと理解してください。
 いいですか?」
「はい、わかりました」
「でも、私は、今のままのアンナリーゼ様も大好きですよ!」


 ナタリーに抱きつかれ、耳元で囁かれる。
 帰ってきたら楽しそうなことをしていて、自分が仲間外れにされていたことに拗ねていたようだった。


「おかえり、ナタリー!」
「ただいま戻りました!もう、今日のマナーレッスンは終わりですか?」
「えぇ、そうね!そろそろ、ミアもお昼寝の時間だし!」
「わ……忘れてた!ミア、悪い!」


 ウィルは、ナタリーと私の言葉で手を繋いでいたミアを見る。
 すると、ミアは眠そうに瞼をぱちくりしていた。


「姫さん、悪かったね!ミアを寝かせてくるよ!ありがとう!レオも今日は、このまま引き取るよ!」
「えぇ、わかったわ!レオ、またね!」
「ありがとうございました!」


 ペコっと頭を下げて、ウィルの後ろについていくレオ。
 親子三人を見送り、私たちも執務室へと移動することにした。


「ナタリーは、長旅だったでしょ?疲れてない?」
「えぇ、大丈夫ですよ!でも、馬できたので、服を着替えてきますわ!」


 後で執務室へ行くと約束し、ナタリーとは別れた。


「アンナは、ナタリー嬢にも叱られるんだね?」
「も?」
「デリアにもよく叱られてるし、リアンにも窘められているだろ?」


 ジョージアの言葉に視線を逸らす。
 耳の痛いことこの上ない。確かに、私を叱らないのは、ジョージアくらいだろう。
 ベタベタに甘やかしてくれる唯一の存在だ。
 強さを求めてくるウィル。知識を引き出してくるセバス。新しい道標を示せというナタリー。そして、結果を出せとせまるノクト。
 特にこの四人に関しては、爵位や地位は曖昧で、常に執務机をはさめば対等である。
 私の考えに是か否かを言える人物たちだ。その中でも、私はひとつ頭を抜けないといけないこともわかっているので、常に背中を追われている感覚ではあるのだが……なかなか、大変ではある。


「ジョージア様は、私の安息地ですからね!変わらずいてください」


 執務室の前まできた。
 ふぅっと一息いれ、扉のノブに手をかける。
 ここからは、領主としての戦場であろう。何かしらナタリーが報告したいことがあるからこそ、時間が欲しいと促してきたのだから……


「さて、仕事をしましょう!」
「まだダメだろ?デリアに……」


 言いかけたジョージアの口を人差し指をあて塞ぐ。


「叱られても、仕方ありません。これが、私の仕事ですから!
 もちろん、母親も私の仕事ではありますよ?でも、今は、私への報告が必要な案件があるのだと
 判断したのです。領主として、この椅子に座りましょう!ジョージア様もどうぞ、かけてください!
 ナタリーが来たら、話を始めましょう。何か、悪いことがおこっていたら、大変です
 からね!私たちは、領民の暮らしが少しでもいいものになるようにするのが、大事なのですから!」


 私は執務室に設えられている打ち合わせ用のテーブルに付く。
 左隣にジョージアが座り、ナタリーが来るのを待っていた。


 どんな報告をくれるのか……緊張をする私。
 いい報告が多いことを祈るばかりであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

貴方誰ですか?〜婚約者が10年ぶりに帰ってきました〜

なーさ
恋愛
侯爵令嬢のアーニャ。だが彼女ももう23歳。結婚適齢期も過ぎた彼女だが婚約者がいた。その名も伯爵令息のナトリ。彼が16歳、アーニャが13歳のあの日。戦争に行ってから10年。戦争に行ったまま帰ってこない。毎月送ると言っていた手紙も旅立ってから送られてくることはないし相手の家からも、もう忘れていいと言われている。もう潮時だろうと婚約破棄し、各家族円満の婚約解消。そして王宮で働き出したアーニャ。一年後ナトリは英雄となり帰ってくる。しかしアーニャはナトリのことを忘れてしまっている…!

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

処理中です...