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教育ママ

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「ミア、迎えにきたぞ?」
「父様!」
「って、今、何してるの?」


 部屋に入ってきたウィルが私を見ながら、頭の上に本を乗せている二人の子どもをさしている。


「歩く練習。ウィルもやらなかった?」
「俺は……ほら、さ?剣で食ってくって決めてたから、みんなが諦めてたし……」
「そうなの?」
「姫さんとこは、厳しそうだよな。剣も社交も、領地や家守ることも全て叩き込まれてそうだよなぁ」
「そんなに厳しくはないわよ?ただ、社交界の華になれとは言われてたから、礼儀作法に情報収集能力
 は、これでもかってくらいお母様に叩き込まれたわ!」
「教育ママだな?」
「そうなの?私は全然、そんなこと思いもしなかった。
 この年になって……違うわね、この国に来ることを決めたときには、お母様の教えは私にとって、
 最高の教育だったから……父も何かにつけていろいろと教えてくれていたのよね!今、こうして
 領地改革に踏み切れているのは、父の深い知識を知らないうちにもらっていたからかもしれないわ!」


 へぇーっとウィルが感心しているが、レオもミアも目を輝かせてこちらを見ている。
 座ったとしても、まだ、私の方が背が高いので二人とも見上げたおかげで、頭の上にあった本が落ちた。


「もう、ダメじゃない!集中しないと……!」
「アンナ様!」
「何?レオ」
「僕もアンナ様みたいになれる?」
「えぇー?私?ウィルじゃなくて?」
「父様は強すぎて……」


 ウィルは慌てて、コホンコホンと咳払いしているが、聞こえている。


「私、ウィルより強いよ?」


 そう笑いかけると、前も話していたが、レオはどうも信じていないようだった。


「体を動かしてもいいって言われて、少し鍛えてからなら手合わせもしてあげるわ!
 じゃあ、レオには1つ目標を決めようか」
「何ですか?」
「私に勝つこと。勝ったら……アンジェラを任せてあげるわ!今は、まだ、ダメ」
「アンジェラ様をですか?」
「えぇ、アンジェラの側で、アンジェラを守ってあげて欲しいわ!まぁ、私に勝てたらだけどね!
 それに、アンジェラもきっと強くなるだろうしね!」
「わかりました……アンナ様が動けるようになったとき、手合わせしてください!」
「レオ……言っておくが、姫さんは手加減しないぞ?子どもでも容赦なく……」
「そんなことしないわよ!ちゃんと、手加減はするわ!」
「いいえ、手加減なんていりません。全力でお願いします。
 僕もそれまで、父様に強くしてもらいますから!」


 しっかりこちらを見つめてくるレオの頭をクシャッと私は撫でる。
 そして、ウィルに視線を合わせてニコリと笑う。


「体壊さない程度にしなさいよ!前も話したけど……」
「わかってます!父様が考えてくれた以上のことは、今はしません。
 父様が僕を……僕の成長を思って作ってくれているメニューに文句などありませんから!」
「ずいぶん、信頼関係が強くなったわね!あなたたちを親子にしてよかった!」
「アンナ様?ミアも何かする!」
「ふふ、そうね!ミアにも……」
「ミアは、そのままでいい!姫さんみたいになったら、困る。いつまでもかわいいミアでいてくれ!
 なっ?」
「父様、嫌っ!」


 あらあら……お気の毒にと視線を送ると、こちら睨みつけてきた。
 いや、私が何かしろって言ったわけじゃないからね?自主的にですからね?それに、ウィルは知らないけど……軍師のイチアも唸らすこともあるくらいおもしろいこともやってのける未来が待っているのだから、好きにさせてあげてほしい。


「嫌われたね!ウィル。好きなようにさせてあげたらいいと思うわ!
 それが、ミアにとって成長に繋がるから!」
「姫さんみたいにお転婆になったら……嫁の貰い手なくなるじゃん!」
「そしたら、ウィルが責任持ってもらってあげればいいじゃない?親子と言えども他人なんだし?」
「あのね、姫さん……他人といえ、もう、ミアは可愛い俺の娘ね?」
「変な相手を連れてくるより、よっぽど信頼できると思うけど……」
「親子ほど年の違う子を嫁にとか……どんだけ、俺、ロリコンなわけ?」
「いいじゃん!世の中そんな人で溢れているわよ!自分好みに……」
「それ以上は、本当に待った!」


 私の口元を手で抑えて話せなくしてしまったウィル。
 レオとミアは私たちの話をじっと聞いていたようで、こちらをわけもわからず見上げていた。


「姫さんはさ、もう少し考えた方がいいよ?ミアの未来は、ミアのものだ。
 俺が、どうこういうつもりはないけど、幸せな暮らしをしてほしいんだよ……わかってくれる?」
「もちろん!私もそのためにキリキリ働いているんだから、わからないつもりはないよ。
 ミア、あなたが今後何をしたいかは、ウィルとよく話し合ってから進めていきましょう。
 あなたが将来、必要なことなら、私の全てを教えてあげるから!
 例えば……社交界の華になる方法とかね!」
「姫さんの華はヤバいけどな……俺、初めて見たとき、ビックリしたし」
「まぁ、でも、引く手あまたのお嬢さんにはなるでしょう!それに……」


 レオにも視線を向ける。
 ウィルは、ゲッて顔をしてこちらを見ている。


「レオも引く手あまたでしょうね!聞きたいことがあったら、何でも聞いてちょうだい!
 私にできることなら、何でも教えてあげる!」


 ほくそ笑むと、ウィルは肩を落とし、レオは本当ですか?と喜んでいた。
 この差は、私の本質を知るウィルと知らないレオの違いなのだろう。


「あっ!そうそう、ウィル」
「何……俺、ミアを迎えにきただけで、こんなに疲れたんだけど……?」
「そうなの?そんなお疲れなところ悪いんだけど、一曲踊ってくれるかしら?」
「はっ?」
「一曲踊ってくれるかしら?」
「剣もって?な、わけないよな?」
「わけないわね!レオの次のマナーレッスンの一環にそろそろダンスを取り入れた方がいいのかなって。
 デビュタントのときには、踊れないとダメでしょ?」
「まぁ、確かに……あれは、ダンスあるからな……」
「うん、で、ウィルは、踊れないと思われてるから、踊れるよってことを見せてあげないといけない
 のよ!」
「だからか……俺、一応子爵家の息子だから、踊れるぞ?普段踊る機会なんてないから、レオもミアも
 知らないかも知れないけど……」
「父様、踊れるの?」


 ミアの身長に合わせて屈むウィルは、ニカッと笑って頷いている。


「ミアも踊れるようになったら、練習付き合ってやるからな!」
「身長差、ありすぎて踊れないんじゃない?」
「そこ、夢崩さない!」
「僕、アンナ様と踊りたい!」
「レオ、姫さんとだなんて、メチャクチャ大変だぞ?」
「私、運動音痴のお兄様とずっと練習してたから、大丈夫よ!そこまで、酷くない」
「でも、ハリー君とか、ヤバいじゃん!」
「あれは、ハリーだからあぁであって、他の人のときは、ちゃんとその人に合わせてるわよ!
 これも、立派な社交のマナーよ!下手な人には下手に合わせるの!
 女性側がリードしているのは、マナー違反なのよ!ウィルのときも合わせてたでしょ!」
「胸張って下手に合わせるとか言うなよ……その踊った男どもが可哀想だ」


 ものすごく哀れみのある目で私を見てくるが、それは、相手が練習を怠ったせいだ。私には非がないはずなのに、ウィルからの視線が冷たい。


「あぁ言われないように、レオもがんばれよ!姫さんと対等に踊れるようになったら、国で一番の踊り
 てになれるからな!」
「モテるわよ!それだけで」
「レオは、容姿だけでもモテるだろ……」
「親ばか発揮したわね!」
「へんだ!息子がモテるのは、親の自慢だからね!姫さんも味わうといいさ!」
「……そうね!ネイトもモテるでしょうね!ジョージア様の子どもだから」
「姫さん?」


 なんでもないと、私は立ち上がり、ウィルへと近づいて行くのであった。
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