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押し売り小麦の大騒動?
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ひょこっと執務室に顔を出すと、セバスが驚いていた。
今、お茶会中の私がいきなり現れたからだ。
「アンナリーゼ様、どうかなさいましたか?」
「セバスに聞きたいことがあって……」
「なんでしょうか?答えられることなら!」
「えぇ、大丈夫よ!アンバー領で取れる小麦を例えば、バニッシュ領へ売ろうとすると、どれくらい
関税がかかるかしら?」
「いまなら、13%かかりますね。何か妙案でも?」
「それ、関税を下げてって交渉ってできるかしら?難しい?」
「どうでしょう?物々交換ではありませんが、何かそれに似合うだけのものの関税を下げるなら、
大丈夫でしょうけど……例えば、魚類とか先日言ってらっしゃったオレンジとか……オレンジも
なかなか他領への売り上げがよくないとも聞いていますし」
「なるほど、対価になるものがあれば、可能性はなくはないってことね?」
「ただ、先日もお話していたように……」
「バニッシュ子爵夫人ね?」
「そうです。もし、バニッシュ子爵がいいといっても、彼女がダメだと言えば、どうしようもない
でしょう。春までに一度話し合いの場を設けるのはいかがですか?そうすれば、夫人と直接交渉が
できるじゃないですか!」
「そうね!その方がいいかもしれないわ!」
私は、今考えていたことをセバスに伝えれば、必要なことは答えてくれるので助かる。
「アンナリーゼ様、よろしいですか?」
「えぇ、いいわ!先ほどの話なのですが、国が最低限の通行料程度の関税まで、下げるとした場合、
我々にも相手側にもメリットがあるかと……」
「どういうこと?イチアは何か掴んでいるの?」
「先程、交通費が多いとバニッシュ子爵は言われてませんでしたか?」
「言ってた!」
「バニッシュ領は、いわば山と海に囲まれているんです。確かではありませんが、小麦を買い付ける
のに相当な金額の払っているはず。それも平たい道ではなくて、整備のなされていない山道で運ぶから
危険は増し、更に料金を吹っ掛けられることもシバシバあるらしいです。
それよりかは、アンバーへ払う関税の方が安くなりますから、納得してもらいやすいんじゃなない
ですか?」
「さすが、イチアね。目の付けどころが私とぜんぜん違うわね!」
そういって、笑いかけると、真面目な二人からは、ニコニコと悪意無い笑顔が返ってくるのであった。
笑顔の眩しさを確認して、私は部屋を出た。
◇◆◇◆◇
「お待たせ!」
「何、いきなり……?」
「ウィル様、そういうのは、女性にきくものではありませんよ!」
なんともいえない雰囲気の中、私は元居た席に座る。
「さっきの話の続きしてもいいかしら?」
「さっきといいますと、小麦の話ですか?」
「えぇ、そう」
「どういう話になりますか?私の一存で決められることではないので」
やっぱり実権は夫人が握っているのか……と思うと、手ごわそうだなと身構える。
「私、今回のお茶会でお話したいことは2つあったの。
ひとつはさっきの貝殻の話ね!もうひとつは、オレンジの輸入を考えているの。
ただ、国を挟むでしょ?だから関税を最低限まで引き下げたいと思っているのだけど、その場合、
何か不都合はあるかしら?」
「なるほど……オレンジをですか?アンナリーゼ様、何故、オレンジに目を?」
「採れる量対して、売れる量が減っていると聞いているわ!さっき言っていたように、交通費がかかる
から、単価が高くなって売れにくい。他の産地が参入してきたのもひとつよね?」
「なんでも、ご存じですか……」
エールは、顎に手を置き、考え始めた。
たぶん、自分一人では、解決できないであろう話だと考えているのだろう。
今日、帰って夫人と話すにしても、それなりの成果は必要だ。
「例えば、オレンジの関税を下げたとしましょう。アンバーに入るときには安い料金で取引ができる。
他の品物も同じようにする取り決めにしたりはできますか?」
その言葉を待っていた。
他の品物とは、ズバリ、小麦のことだろう。他領から仕入れるより、隣国であっても、陸続きで平地を馬車でいける利便を考えれば、断然こちらの方がいいに決まっている。
税金として払うのか、交通費で払うのかとなった場合、交通費の方がバカ高い。
「他の品物というと?」
わざとらしく聞いてやると、不敵な笑みを零すエール。
「わかってらっしゃるくせに……小麦です。主食であるからこそ、なるべく安価で手に入れたい。
その話し合いをするために、是非、妻も交えて話し合いの席を作っていただくことはできないだろう
か?」
私が欲しい答えをきちんとくれる人は、嫌いじゃないわと心の中で呟く。
そう、先程の話で待ち望んだ答えを一瞬で導き出したのだ。
まぁ、もしかしたら、夫人に入知恵されていたのかもしれないが……そんなことは、どうだっていい。
結果、夫人を交えて交渉できることになるのなら、何の問題もないだろう。
「いいわ!日にちについては、おって連絡することに……
そのときは、私の方もちゃんとアンバー領のブレーンたちを揃えておくことにするから、楽しみに
していて!」
「お手柔らかにお願いします……」
二人で微笑み合えば、なかなか有意義な話し合いになったのではないだろうか?
こちらも、関税を下げられるものに対しては考えないといけないが……夫人はどんなカードを切ってくるのか、楽しみで仕方がない。
「……ママ?」
いきなり扉がキィーっとあいて驚いた。小さな訪問者だったようで、後ろについている侍女が申し訳なさそうにしている。
「アンナリーゼ様、申し訳ございません。すぐ、連れて……」
「いらっしゃい、ジョージ!」
両脇を捕まれても、私のところにきたかったのか暴れているので、手招きしてやると、侍女は、その手を離した。
ホテホテと歩いて私の座るところまできた。
抱き上げてあげたいが、どうしようと思うとウィルが立ち上がって私の隣に座らせてくれる。
「ジョージ、挨拶して」
「こちわ!」
挨拶らしいことを発しているジョージの頭を撫でてあげると、嬉しそうに私に甘えてくる。
「可愛いですね?アンナリーゼ様のお子様ですか?」
私は、エールのこの言葉には何も答えずニコリと笑うと、察したようだ。
「私の……」
「ジョージア様と私の子だよ。とても、甘えんぼさんな男の子なの。可愛いでしょ?」
「あの、よく顔を見せてくれますか?」
「いいわよ!」
知らない人にじっと見られたジョージは、少し怯えて私にしがみつく。
私が少しだけ後ろから押すと、更にぎゅっとドレスを握ってしまった。
「名前はなんていうのですか?」
「ジョージだよ。ジョージ、こちら私のお友達のエール。こわくないよ!」
そういうと、真っ黒な瞳で、エールをじっと見つめていた。
こうして見ると、ジョージにはエールの面影がある。
エールもジョージをじっと見つめ、急に抱きかかえた。
驚いたジョージは泣くのかなと思ったが、泣かずに、ただ、エールをじっと見つめ続けるだけ。
「ジョージ様、初めまして。アンナリーゼ様のお友達でエール・バニッシュと申します。
また、遊びに来るので、そのときは一緒に遊びましょうね?」
コクンと頷いているジョージの頭を撫でるエールは、父親の顔をしている。
私は、その二人の姿を微笑んで見ていた。
◇◆◇◆◇
「今日は、楽しい時間をありがとうございました。まだ、近いうちにでも、よらせてもらいますよ!」
「えぇ、楽しみに待っているわ!まだ、お店の話も新しい領地の話もできていないから!」
「アンナリーゼ様、すでに、私はお腹いっぱいです。妻へのお土産もありがとうございました。
それでは、また……」
私は玄関横に積まれた貝殻を眺めつつ、エールを乗せた馬車が去っていくのを手を繋いでジョージと一緒にじっと見送った。
「この貝殻、明日、石切の町まで持って行ってくれるよう、お掃除隊に頼んでくれるかしら?」
「ん、わかった、姫さん。明日、俺も一緒に行って手伝ってくるよ!」
「お願いね!」
ウィルの背中に手を添わせた瞬間、お腹に激痛が走る!
「いたたたた……う……生まれる……かもぉ!」
その一言で、領地の屋敷内では、慌ただしい夜を向かえることとなった。
ウィルに抱きかかえられ、自室のベッドまで運んでもらったのである。
今、お茶会中の私がいきなり現れたからだ。
「アンナリーゼ様、どうかなさいましたか?」
「セバスに聞きたいことがあって……」
「なんでしょうか?答えられることなら!」
「えぇ、大丈夫よ!アンバー領で取れる小麦を例えば、バニッシュ領へ売ろうとすると、どれくらい
関税がかかるかしら?」
「いまなら、13%かかりますね。何か妙案でも?」
「それ、関税を下げてって交渉ってできるかしら?難しい?」
「どうでしょう?物々交換ではありませんが、何かそれに似合うだけのものの関税を下げるなら、
大丈夫でしょうけど……例えば、魚類とか先日言ってらっしゃったオレンジとか……オレンジも
なかなか他領への売り上げがよくないとも聞いていますし」
「なるほど、対価になるものがあれば、可能性はなくはないってことね?」
「ただ、先日もお話していたように……」
「バニッシュ子爵夫人ね?」
「そうです。もし、バニッシュ子爵がいいといっても、彼女がダメだと言えば、どうしようもない
でしょう。春までに一度話し合いの場を設けるのはいかがですか?そうすれば、夫人と直接交渉が
できるじゃないですか!」
「そうね!その方がいいかもしれないわ!」
私は、今考えていたことをセバスに伝えれば、必要なことは答えてくれるので助かる。
「アンナリーゼ様、よろしいですか?」
「えぇ、いいわ!先ほどの話なのですが、国が最低限の通行料程度の関税まで、下げるとした場合、
我々にも相手側にもメリットがあるかと……」
「どういうこと?イチアは何か掴んでいるの?」
「先程、交通費が多いとバニッシュ子爵は言われてませんでしたか?」
「言ってた!」
「バニッシュ領は、いわば山と海に囲まれているんです。確かではありませんが、小麦を買い付ける
のに相当な金額の払っているはず。それも平たい道ではなくて、整備のなされていない山道で運ぶから
危険は増し、更に料金を吹っ掛けられることもシバシバあるらしいです。
それよりかは、アンバーへ払う関税の方が安くなりますから、納得してもらいやすいんじゃなない
ですか?」
「さすが、イチアね。目の付けどころが私とぜんぜん違うわね!」
そういって、笑いかけると、真面目な二人からは、ニコニコと悪意無い笑顔が返ってくるのであった。
笑顔の眩しさを確認して、私は部屋を出た。
◇◆◇◆◇
「お待たせ!」
「何、いきなり……?」
「ウィル様、そういうのは、女性にきくものではありませんよ!」
なんともいえない雰囲気の中、私は元居た席に座る。
「さっきの話の続きしてもいいかしら?」
「さっきといいますと、小麦の話ですか?」
「えぇ、そう」
「どういう話になりますか?私の一存で決められることではないので」
やっぱり実権は夫人が握っているのか……と思うと、手ごわそうだなと身構える。
「私、今回のお茶会でお話したいことは2つあったの。
ひとつはさっきの貝殻の話ね!もうひとつは、オレンジの輸入を考えているの。
ただ、国を挟むでしょ?だから関税を最低限まで引き下げたいと思っているのだけど、その場合、
何か不都合はあるかしら?」
「なるほど……オレンジをですか?アンナリーゼ様、何故、オレンジに目を?」
「採れる量対して、売れる量が減っていると聞いているわ!さっき言っていたように、交通費がかかる
から、単価が高くなって売れにくい。他の産地が参入してきたのもひとつよね?」
「なんでも、ご存じですか……」
エールは、顎に手を置き、考え始めた。
たぶん、自分一人では、解決できないであろう話だと考えているのだろう。
今日、帰って夫人と話すにしても、それなりの成果は必要だ。
「例えば、オレンジの関税を下げたとしましょう。アンバーに入るときには安い料金で取引ができる。
他の品物も同じようにする取り決めにしたりはできますか?」
その言葉を待っていた。
他の品物とは、ズバリ、小麦のことだろう。他領から仕入れるより、隣国であっても、陸続きで平地を馬車でいける利便を考えれば、断然こちらの方がいいに決まっている。
税金として払うのか、交通費で払うのかとなった場合、交通費の方がバカ高い。
「他の品物というと?」
わざとらしく聞いてやると、不敵な笑みを零すエール。
「わかってらっしゃるくせに……小麦です。主食であるからこそ、なるべく安価で手に入れたい。
その話し合いをするために、是非、妻も交えて話し合いの席を作っていただくことはできないだろう
か?」
私が欲しい答えをきちんとくれる人は、嫌いじゃないわと心の中で呟く。
そう、先程の話で待ち望んだ答えを一瞬で導き出したのだ。
まぁ、もしかしたら、夫人に入知恵されていたのかもしれないが……そんなことは、どうだっていい。
結果、夫人を交えて交渉できることになるのなら、何の問題もないだろう。
「いいわ!日にちについては、おって連絡することに……
そのときは、私の方もちゃんとアンバー領のブレーンたちを揃えておくことにするから、楽しみに
していて!」
「お手柔らかにお願いします……」
二人で微笑み合えば、なかなか有意義な話し合いになったのではないだろうか?
こちらも、関税を下げられるものに対しては考えないといけないが……夫人はどんなカードを切ってくるのか、楽しみで仕方がない。
「……ママ?」
いきなり扉がキィーっとあいて驚いた。小さな訪問者だったようで、後ろについている侍女が申し訳なさそうにしている。
「アンナリーゼ様、申し訳ございません。すぐ、連れて……」
「いらっしゃい、ジョージ!」
両脇を捕まれても、私のところにきたかったのか暴れているので、手招きしてやると、侍女は、その手を離した。
ホテホテと歩いて私の座るところまできた。
抱き上げてあげたいが、どうしようと思うとウィルが立ち上がって私の隣に座らせてくれる。
「ジョージ、挨拶して」
「こちわ!」
挨拶らしいことを発しているジョージの頭を撫でてあげると、嬉しそうに私に甘えてくる。
「可愛いですね?アンナリーゼ様のお子様ですか?」
私は、エールのこの言葉には何も答えずニコリと笑うと、察したようだ。
「私の……」
「ジョージア様と私の子だよ。とても、甘えんぼさんな男の子なの。可愛いでしょ?」
「あの、よく顔を見せてくれますか?」
「いいわよ!」
知らない人にじっと見られたジョージは、少し怯えて私にしがみつく。
私が少しだけ後ろから押すと、更にぎゅっとドレスを握ってしまった。
「名前はなんていうのですか?」
「ジョージだよ。ジョージ、こちら私のお友達のエール。こわくないよ!」
そういうと、真っ黒な瞳で、エールをじっと見つめていた。
こうして見ると、ジョージにはエールの面影がある。
エールもジョージをじっと見つめ、急に抱きかかえた。
驚いたジョージは泣くのかなと思ったが、泣かずに、ただ、エールをじっと見つめ続けるだけ。
「ジョージ様、初めまして。アンナリーゼ様のお友達でエール・バニッシュと申します。
また、遊びに来るので、そのときは一緒に遊びましょうね?」
コクンと頷いているジョージの頭を撫でるエールは、父親の顔をしている。
私は、その二人の姿を微笑んで見ていた。
◇◆◇◆◇
「今日は、楽しい時間をありがとうございました。まだ、近いうちにでも、よらせてもらいますよ!」
「えぇ、楽しみに待っているわ!まだ、お店の話も新しい領地の話もできていないから!」
「アンナリーゼ様、すでに、私はお腹いっぱいです。妻へのお土産もありがとうございました。
それでは、また……」
私は玄関横に積まれた貝殻を眺めつつ、エールを乗せた馬車が去っていくのを手を繋いでジョージと一緒にじっと見送った。
「この貝殻、明日、石切の町まで持って行ってくれるよう、お掃除隊に頼んでくれるかしら?」
「ん、わかった、姫さん。明日、俺も一緒に行って手伝ってくるよ!」
「お願いね!」
ウィルの背中に手を添わせた瞬間、お腹に激痛が走る!
「いたたたた……う……生まれる……かもぉ!」
その一言で、領地の屋敷内では、慌ただしい夜を向かえることとなった。
ウィルに抱きかかえられ、自室のベッドまで運んでもらったのである。
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