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貝殻を集めるには

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「みなさん、そろそろお食事にしませんか?」


 デリアが部屋に入ってきたところで、お昼になっていることに気が付いた。
 私が知らない話ばかりで、どれもこれも興味はわく話ばかりで、夢中になって聞いていたのだ。
 それにしても、カノタの専門的な話に、セバスやイチアがなんの遜色もなく受け答え、それも私に教えながら会話を弾ませていくことにとても驚いている。
 もし、ここに兄がいれば……収集のつかない楽しい座談会が続いたのだろう。


「もう、そんな時間か……すっかり、長居をしてしまったね」
「ワンダ、いいのよ!まだ、話は終わっていないのだし、気にせずにいてちょうだい!」
「そういうわけにもいきません。お昼だというのであれば……私たちは一旦引いて食事をしてきます
 ので、どうぞごゆるりとなさってください!」
「いいえ、あなたたちもここで食べていって!」
「いえ!滅相もない!公爵様であるアンナちゃんと席を同じくするだけでも光栄なことなのに、食事まで
 とは、まいりませんから……」


 席を立とうとするワンダたちを引き留めたのは、私以外にもいる。
 ノクトはワンダとピュールの親子が気に入ったようだし、セバスとイチアはカノタが大層気に入ったようだったので、引きとめも用意であった。


「あの、本当にお言葉にあまえても?」


 三人がこちらを見て不安そうにしている。親子はもちろん同じ顔でこちらを見ていたが、カノタまで同じ顔でこちらを見てくるので思わずクスっと笑ってしまった。


「えぇ、もちろんよ!ここの三人もだけど、私ももっと話を聞きたいわ!
 だから、たいしたものは用意できないのだけど、食べて行ってくれると嬉しいわ!」


 そいうと、デリアに頷いた。
 次の瞬間、パンパンとデリアが合図すると、リアンを始め侍女やメイド、ライズが中に入ってきて給仕をする。


「本日は、バニッシュ領からとても新鮮なあさりが入ったので、ボンゴレにしています。
 皆様のお口にあえばいいのですが……お替りもたくさん用意させていただいてますので、ごゆっくり
 食事をなさってください!」


 デリアが一言をすると、まず、私の元へとボンゴレとサラダが運ばれてくる。


「パスタにつきましては、今年領地での収穫された小麦より作られています。
 こちらのサラダについても、領地内で採れたものになります」
「あさり……貝……貝殻……ねぇ、カノタ?」
「ふぁんでしょう?」


 口にいっぱいパスタを詰め込んで返事をするカノタ。
 よっぽど美味しかったのか、頬が緩んでいるのを確認すると私も嬉しくなった。


「カノタ、食べるかしゃべるかどっちかにせい。アンナちゃんに対して失礼だぞ!」
「すみません……」


 ごくんと飲み込んで私に向き合う。
 呼びかけた私は、カノタになんだか申し訳なくて愛想笑いを浮かべてしまった。


「なんでしょうか?」
「えっと……なんだっけ……」


 今までのやり取りを見ていてド忘れしたのだが、あさりを食べるセバスを見て思い出した。


「そうそう、貝殻なんだけど……料理に使われていたものとかでも大丈夫なのかしら?」
「えぇ、大丈夫ですよ!どうせ粉末にするので、洗えばいいですし、特に問題は……って、まさに、
 これですか?」
「そう、これなの。例えば、ここは内陸地になる領地なのだけど、バニッシュ領には海があるわよね?」
「えぇ、ありますね?」
「最初、バニッシュ領から大量に貝を輸入すればいいと思っていたの。
 でも、身は美味しくいただいた後でもいいのなら、領地に通知をして、食べ終わった貝殻の回収を
 お願いすることも可能よ!
 バニッシュ領から、食べるためにそれなりの量の輸入があったはずだから……」
「なるほど、それなら、2度おいしいってわけですね?」
「そう、食べてうまい、捨てずに再利用ってな具合にどうかしら?」
「いいですね!そうしましょう!バニッシュ領に関しては、魚介類の産地でもありますからね!
 魚介類を専門に出すレストランも多いと聞いたことがありますから、ゴミをくれといったところで、
 片付けなくていいならと何も考えずくれそうですね!」


 先程、書いたばかりのバニッシュ子爵へのお手紙とは別に、レストランや家庭で出る貝殻の回収をしたい旨の手紙を別に認めることにした。


「誰も損した気持ちにはならないですものね!いい案だと思います!さすが、アンナリーゼ様。
 それにして、このボンゴレ、本当に美味しいですね?」


 そういいながら、食事を再開するカノタと、2杯目をお替りしようとしている親子を見ながらクスっと笑う。
 親子は無言でお皿を差し出し、黙々と食べ続けているのだ。
 よほど、おいしかったのだろう。


「今日のあさりは、身も大きくふっくらしているのね?」
「あさりの説明は、私から……」


 デリアがおもてなしの心得として、料理の話をしてくれるようだ。
 公爵家の細部まで把握していないといけないとディルに教育されたらしい。
 ここでは、デリアが侍従の中で一番位が高いので、そういうことも任される。


「先程、アンナリーゼ様がおっしゃったように、このあさりは隣国バニッシュ領から取り寄せている
 ものになります。ただ、今は輸送にも時間がかかったりで、身が細くなりがちです」
「えっ?だって、こんなに殻からはみ出やんとするくらい大きいのに?」
「はい、それには仕掛けがありまして……砂を吐かせるために食塩水につけておくですが、片栗粉という
 芋から採れる成分をあさりの入っている食塩水に混ぜるだけで、あさりがそれらを食べて萎れた体を
 大きくぷるぷるにすることができるのです!」
「そうなんだ!知らなかった!いつも、ボンゴレって身が小さいイメージだったんだけど、いいね!
 大きかったら美味しそうだし、じっさいよくだしが出てておいしわ!
 みんなは、どうかしら?って、言葉にしなくてもわかるわね!小食のセバスでさえ2杯目が終わりそうよ!」


 セバスの皿を見て、私がいうと、少しばつの悪そうにしているが、無言の美味しいは、調理場にも知らせるべきだ。


「料理長にも言っておいて!とっても、おいしかったと」


 私も一皿ペロッと食べ、満足する。
 すると、デリアが微笑んでいた。


「料理長なら、空になったお皿を見れば、わかりますよ!
 あと、貝殻は捨てないように言っておきますね!今日の私たちの賄いもボンゴレなので」


 少しだけ嬉しそうにしているデリアを見れば、好物なのがわかる。
 公都にいる間は、殆ど魚介類は出てくることがなかったが、アンバー領ならバニッシュ領も近いこともあり、魚介類を食べられることもあるのだ。


「デリアはボンゴレが好きなのね?」
「いいえ、アンナ様。魚介類全般が好きです!」


 頬を緩ませボンゴレをじっとり見るデリアは、恋に恋する乙女のようであった。
 美味しいものを食べられる幸せは、大切ねと一緒に食べていた面々とその前に置かれた食べ終わったお皿を見て微笑んだのである。
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