上 下
414 / 1,480

大歓迎されてない?

しおりを挟む
 久しぶりに訪れた訓練場に私が現れたら、鳴りやまないはずの剣戟の音が止んだ。
 音が止むのと同時にこちらに視線が向いてくるのがわかる。


「えっと……久しぶり……?訓練続けてくれるかしら?」


 私を見た瞬間にウィルの中隊の隊員がまず近寄ってきた。
 その中で一際颯爽と歩くセシリアが私の前まできて膝をつく。


「お久しぶりです、アンナリーゼ様。戴冠式では、素敵なものをたくさん見せていただきましたわ!」
「戴冠式は、戴冠式だけよ……セシリアも元気そうで何よね!みんなも元気だった?」


 後ろにいる隊員たちにも声をかけると、それぞれに返答がくる。
 私は、それを満足そうに頷いていたが、ドレスの裾が重い……
 チラッとみると、ジョージがドレスの裾を握ってビクビクと震えている。
 人見知りするようで、目の前の隊員たちが怖いようだ。
 まぁ、大人が100人……いや、もっと集まってきているのだから、小さい子どもとしては怖いのだろう。
 うちの子は……と見ると、全然物怖じしていない。
 むしろ、人が集まってきて、喜んでいることに将来大物になると感じずにはいられない。
 一緒に来ていたレオやミアはと見れば、こちらも似たり寄ったり。
 レオは堂々とウィルの隣に立っているし、ミアは少しウィルの後ろに隠れてズボンを握っているが、そこまで怯えた感じではない。


「えっと、ウィルが抱いている子どもがアンナリーゼ様のお子様で、アンナリーゼ様の後ろで隠れて
 いる子はジョージア様のお子様ですか?」
「えぇ、そうよ!ジョージ、ほら、ご挨拶してごらん?」


 少し後ろから押してやるが、ジョージは首を横に振って嫌々するだけだった。


「アンジェラはご挨拶できるかしら?」
「こんちは!」


 大物姫よ……こんにちはだよ?と心で呟き、頭を撫でてあげると嬉しそうに笑う。


「何、その天使……」


 おぉー見事に誑し込んだ!中隊のみんながデレデレしているのを私はため息をついて見守る。
 セシリアも思ったようで、小さくため息をついていた。


「あと、二人は……どちら様のお子様ですか?」


 話題を変えようとセシリアがレオとミアへと話を振っていく。
 自分たちのことを言われているのがわかったのか、ウィルの方を向いている。


「俺の子ども!」
「はぁー?この裏切者!」
「なんで、こんな大きな子どもが!」
「いつの間に!」


 口々に驚きと嘆きが響き渡る訓練場になんだなんだと更に人が集まってくる。
 あまりの熱量に、ウィルが若干引き気味であるのだが……ガンバレ!ここは独身男性ばかりだから、いきなり子ども連れて現れたら、まぁ、そうなるよねと私は気の毒そうにウィルのほうを見やった。


「あ……えっと、養子だよ、養子。こっちの男の子がレオでこっちの女の子がミア」


 うちの子可愛いよね!とミアの頭をクシャッと撫でると、これまた天使が舞い降りたと隊員たちは騒いでいる。
 ミア、可愛いよね。その、ちょっと控え目の感じがまた……


 入口で話していたので、セシリアがコホコホっと咳払いをして、とりあえず私たちを訓練場の中へと招いてくれる。


「すみません、気が付きませんで……」
「いいのよ!私たちが急に来たのが悪いのだから……そろそろ、領地へ戻ろうとしているから、
 エリックに会いにきたの!今日は非番だって聞いたから!」
「エリックですか?確か、朝方ソワソワと歩き回っていたように思いますけど……
 誰か、エリックを見かけた?」
「呼んでくるので、いつものところで待っていてください!」


 私は、セシリアに言われた通り、いつも休憩しているベンチに腰掛けた。
 すると、段々、みながアンジェラやミアにいいところを見せたいのか、さっきよりいい音が響き渡るようになる。
 みな頑張ってるところ悪いんだけど……この子たちのお気に入りはウィル一択だからねと笑ってしまう。


「あぁーアンナリーゼ様、もう、来ていたのですか?」


 セシリアに探されてやってきたエリックに私は笑いかける。


「さっききたところよ!どこに行ってたの?」
「どこにも。なんだか久しぶりに会うのでって、この前も会いましたね。公との謁見のときは、
 大体僕がいるので……」
「会ったというより、見かけたって感じかな?」


 苦笑いすると、そうですよね?そう思いますよね?とエリックはブツブツ呟いている。


「あの、いつものいいですか?」
「アンナ、いつものって何?危ないことじゃないよね?」


 ジョージアはよくわからないので心配して聞いてくるが、みなからしたらいつものことなので生暖かい目で見てくる。


「全然ですよ!ハグだけですから!おいで、エリック!」
「えっ?ハグだけって……?」


 驚いたジョージアをそっちのけで、私は立って腕を広げると甘えるようにエリックがおずおず抱きしめてくる。
 よしよしと背中を叩くと、嬉しそうにしているのがわかる。


「アンナさん……普段からこんな感じなの?」
「いつもこんな感じですよ?エリックは、昔からこうだよね?」


 回りに目を向けると、うんうんと頷いている。


「だいぶお腹大きくなりましたね?すみません、長いこと立たせたままで……」
「いいのよ!」


 大きな子どものようなエリックとのやり取りをポカンと見ているジョージア、ジョージ、レオにミア。
 紹介しようと連れてきたエリックの行動に驚き過ぎて、固まっているようだ。


「レオ、ミア。この子がエリックだよ!」
「この方がですか……?」
「そう、公の近衛だよ。イメージ違ったかな?」
「いえ、なんていうか……」


 レオは言葉を探しているのか、視線を空に彷徨わせ考えている。
 そんな気を使われてるエリックに、私はお尻をパンっ!っと叩く。


「なんですか?」
「子どもに気を使われているわよ!」
「やっぱり、姫さんもそう思った?」
「えぇ……」
「そうなんですか?まぁ、いいじゃないですか。えっと……レオ?とミア?」
「そう、レオノーラとミレディアだ」
「なるほど……僕もレオをミアって呼んでいいかな?」


 エリックの大きな体で上から話しかけると怖いのではないかと思ったが、そこはきちんと配慮出来たようで、膝をおり、視線を下げる。
 それでも、ミアには大きいのだが、さっきのやり取りをみて幾分か怖くなくなったようで、さっきよりウィルの後ろから出てきた。


「はい、大丈夫です。いいよな?ミア」


 コクンと頷くミアを見て、二人に手を出してきた。


「エリックだ。公の近衛をしている元平民だよ。そんな怖がらなくてもって……
 この図体じゃ怖いかな?」
「ノクトを見てるから、慣れれば大丈夫じゃない?ダメかな?」


 レオとミアは首を横に振っているので大丈夫だろう。
 おずおずと、エリックの大きな差し出された手を二人が握り返していた。
 残るはジョージだけど……完全に怯えている。
 ノクトにも未だに怯えているのだから、仕方がないだろう。
 無理に近づけるのもダメだと判断して、私とジョージアの間に座らせる。
 相変わらず、物怖じしないアンジェラは、新しい人物に興味をもったようで、ウィルから手を伸ばしている。

 子どもの反応も4者4様でおもしろい。


「アンナリーゼ様のお子様ですか?なんていうか……積極的ですね?」


 ウィルとエリックに手を繋がれご機嫌なアンジェラである。


「俺より、大歓迎されてない?」


 そんな様子を見て、ジョージアが少し拗ねたようにいっているが、アンジェラ本人はご機嫌なので、エリックは大歓迎なのだろう。


「僕、この子の指南役ですか?好かれたようで何よりです。何年も先のことだけど、楽しみですね!」


 小さな手を握って微笑んでいる。
 大きな子どもと小さな子どもには通ずるところがあったのか、笑いあっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...