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訓練場へ行こう

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「それじゃあ、行ってくるわ!」


 予定通り、ウィルに迎えに来てもらい子どもたちを連れ、ジョージアと共に城へと向かう。
 私の領地移動の準備もあるため、付き添いは断り、私たち親子四人とウィル親子三人で移動中だ。
 一応、私もジョージアも城門では顔パスではあるのだけど、護衛という形でウィルが今日は付いてくれることになった。
 ウィルは久しぶりに制服を着て鼻歌交じりに馬車の隣で馬に揺られている。
 パカパカと馬に揺られているのが羨ましい。
 そして、ウィルの前には、何故かアンジェラが収まっていて、こちらもご機嫌に馬の鬣を触っている。


「もし、襲われたとしても、馬に揺られているアンジェラのことを誰も公爵の娘とは思わないでしょう
 ね。どう見てもミアの方がお嬢様な感じがするわ!」
「それ、アンナが言うことじゃないから……」


 私のため息を一蹴してしまうジョージアを恨めしく睨んでやる。
 確かに、もし、妊婦でなければ、私も馬車の隣でレナンテに揺られていただろう。
 そっち方が私には、あっているから……仕方がない。


「アンナ様は、馬にも乗れるのですか?」
「えぇ、乗れるわよ!馬を駆って、トワイスではお母様と狩りにも出たりしてたから!」
「すごい、すごい!」


 私の話を聞き、馬車の中はミアの興奮気味の声が響く。
 たしか、ミアも未来では馬に乗っていたのだから、馬に乗れるようになるはずだった。
 でも、何をきっかけで、そうなるのかまでは知らなかったのだが……どうも私がきっかけだったのじゃないかと今の会話から考えていた。

 ミアは馬車の窓からいきなりウィルのいる方へ身を乗り出した。
 私は、咄嗟にミアのドレスを掴む。


「ミア!急に動いたら危ないわ!」


 そんな私の言葉は、聞こえていないのか、ウィルを呼んでいる。


「父様!私もお馬に乗れるようになりたい!アンナ様みたいに!」


 ミアの急な申し出にウィルは、私の方を睨んできた。
 でも、それは、私の責任ではないし、馬に乗れないと将来困るので、是非とも習得してほしいものだ。


「ミアは、可愛いミアでいいんだから……そのままで、いいんだよ?
 どっかのじゃじゃ馬みたいにならなくても……」
「やだ!アンナ様みたいになるんだから!」


 ウィルに窘められたのでミアは鼻息荒く、馬車に引っ込んで座り直すと足をぶらぶらさせていた。


「姫さんの影響は、悪影響だ……もっと、お淑やかな人が側に……」
「結婚すれば、いいんじゃない?お淑やかな女性と。ウィルなら引くて数多でしょ?」


 さっきの仕返しとばかり言ってやると、ミアが今度は私に怒り始める。


「アンナ様、ダメなの!父様は、ミアの父様なの!」
「ウィリュは、あーの!」


 アンジェラも参戦しウィルを取り合っているその光景に苦笑いもしつつ、嬉しそうにしているウィル。
 よっぽど、二人ともが可愛いのだろう。


「ミア、静かに!」
「お兄様、嫌い!」


 年嵩のレオがミアを嗜めるが、プンスカ怒ったミアをおさめることができなかった。
 困った様子のレオの代わりにジョージアが優しく言い聞かせることになった。


「ミア、心配しなくても、ウィルはいつまでもミアの父様だよ。
 アンナみたいに馬に乗りたいなら、練習するしかないからね!
 レオと一緒にウィルに乗り方を教えてもらって、少しずつ練習するといいよ!」


 ミアの頭をジョージアの手でぽふっとすると目を細め喜んでいる。
 その様子を見る限り、ジョージアが父として成長しているのを目の当たりにした。
 私は……どうだろう?母親として、成長出来ているのだろうか?
 ほったらかしで、あちこち飛び回っているのだ……ダメだなと肩を落とすとママ?とジョージが声をかけてきてくれる。
 少しの気持ちの変化も気づいてくれるのかと思うと込み上げてくるものがあった。


「どうしたの?」
「痛い痛いの?」
「うぅん、大丈夫よ!ありがとう!」


 隣に座るジョージの頭を撫でる。黒髪がサラサラとしていた。


「もうすぐ着くぜ!」
「あっ!本当?」


 しばらくすると馬車が停まる。


「サーラー中隊長、お疲れさまです!可愛らしいお嬢ちゃんもこんにちは!」


 門兵がアンジェラに話しかけている。
 うちの子は物怖じしないので、ニコッと天使のような笑顔を振りまいていた。
 むしろ、門兵たちの顔が赤いのはなんでだろうか……?


「か……可愛すぎる……お嬢ちゃんは将来、ものすっごい別嬪になるな!
 おじさん楽しみにしてるから、大人になったらお城にも遊びに……いてっ!」
「冗談はその辺にしておけって。アンバー公爵の令嬢だぞ?」
「ひぇー!あのアンバー公爵の令嬢様ですか。そりゃ美人になりますわな!
 アンナリーゼ様みたいに可愛らしい子に育つんですよ!」


 子どもに言っているのだが、可愛らしいなんて言われると照れる。
 頬がポッと赤くなっているだろうことは、あえて門兵の話を聞き入っているみなから見えないように顔を逸らす。


 そうだ!忘れてたと手にあたった包みを引き寄せる。


「ウィル、これを門兵のお兄さんに渡してくれる?」
「あ?えっ?アンナリーゼ様も乗ってらっしゃったんですか!僕、メッチャ恥ずかしい!」


 慌てふためく門兵をよそにウィルは私から包みを受け取り渡してくれた。


「いつもありがとうございます!みなで美味しくいただきます!」
「こちらこそ、いつも守ってくれてありがとう!じゃあ、またね!」


 私は窓からひょこっと顔を出して手を振った。
 そこから、訓練場まで、すぐなので次に馬車が停まったときには馬車から降りる準備をする。


 久しぶりに来る訓練場。
 体は動かせないけど、私は楽しみで仕方がなかったのである。


「お姫様、つきましたよ!」


 そういって、私を馬車から降ろしてくれるウィルにお礼を良い、ジョージの手を引き訓練場へと足を踏み入れるのであった。
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