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前日は忙しい!Ⅱ

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 意外と丁寧に見てくれている公に感謝しながら、私たちは気の向くまま店の中を歩く公について歩く。


「あっ!あの瓶は、見たことあるぞ?」
「そうです!裸体のお姉さんシリーズの今年分ですね!」
「やっぱり、色合いがちょうどいいな……これも、追加で。『赤い涙』はないのか?」
「ありますけど……特注品しか、今回は出してないですよ?」
「特注品?」
「ニコライ、出してくれる?」


 畏まりましたと、奥からニコライが出してきたものは、飾り彫りされた台座に設置された大きなフラスコのような瓶に入った葡萄酒であった。


「これは、また珍妙な……」
「珍妙って……これは、今年、この店では2つしか売らないものですからね!
 良かったら、買ってください!絶対、損した……とは、言わせません。
 あっ!っと驚きますし、買ってよかったってなりますから!」


 私の説明に訝しむ公だったが、葡萄酒の愛飲者でもあるので素直に買ってくれた。


「ちなみになんだが、これ、南のオークションに出したりするのか?」
「えぇ、そのつもりです!中身は『赤い涙』ですし、台座や瓶など考慮して、いつもより高値から
 始めさせる予定ですよ!正規の値段で買えるなんて、お得ですよね!」
「ふむ。そう言われると、そうだな……それに何か仕掛けもあるようだし……」
「これ、裏を見てもらうとわかるんですけど……番号入りなんです!」
「ほぉ……これは、2か。何本出す予定なのだ?」
「11個しか作っていないので……世に出るのは10個だけですね!
 試作で作った1個は、領地の店に飾らせてありますから!」
「中身なしでか?」
「はい、中身がなくても目で見て楽しめる……そんな一品となっているのです!
 付加価値をつけているので普通の瓶のものより値が高いのは、それでですよ!」


 私の説明に付加価値とはなんだ?と考えているが、考えても仕方がない。
 台座や瓶の形状だけでも珍しいなと呟いてそれで満足した公。
 飲み切ったときに、感動してもらえるとほくそ笑んでおく。
 兎にも角にも、手に入れられたことが嬉しいようで、鼻歌交じりに公も喜んでいる。


「じゃあ、次にいきましょうか!そちらの葡萄酒も後程一緒にお届けしますから!」
「あぁ、頼む。他にもこの店には何かあるのか?」
「公が好むかどうかはわかりませんが……どうぞ、こちらに」


 二階へ案内すると、カフェになっていることに驚いていた。
 窓際の一番いい席へと案内する。


「これも、何か領地のものがあるのか?」
「えぇ、そうですよ!」


 ウエイターを呼び、例のクッキーとケーキを出すよう指示をする。


「ジョージア様も座ってください!お店に入るのも初めてですし、これは秘密だったのでジョージア様も
 知らない事業ですからね!」


 ジョージアを私の隣の席に座らせる。
 すると、ウエイターとウエイトレスがやってきて、ことっと目の前にクッキーとお茶を置いて行く。


「どうぞ、召し上がってください!
 アンバー公爵領が誇る、最高級の茶葉で出来た紅茶とアンバー領で取れた小麦と砂糖を使ったクッキー
 です。あとケーキもでてきますからね!今日は、なんだったかしら?」
「今日は、シフォンでございます!」
「ケーキはシフォンケーキらしいですよ!後から着ますから、先にクッキーをどうぞ、召し上がって
 ください!」


 ニコリと微笑むと少し身構えた男性二人が、おずおずとクッキーに手を伸ばす。
 甘さ控えめにしてあるのを提供したから、食べやすいはずだ。


「サクサクするな……うまい!甘みもそれほど強くないから、食べやすいな」


 二人ともが驚いているのだが、キティの手にかかれば、美味しいお菓子はいくらでも提供出来る。
 舌の肥えた二人が満足そうに食べていることを考えても、これは、なかなかよかったみたいだ。


「シフォンケーキでございます」


 ウエイトレスがそっと差し出したものを見て、公は思わず声が出たようだ。
 ほんのり甘い香りに見た目にもふわふわしていることがわかる生地。
 美味しくないわけがないだろう。


 フォークで切り分け口に入れると、公は目を見開いて驚いていた。


「美味い!なんだ、このふわっふわのものは……これは、是非、二妃にもプラムにも食べさせてやり
 たい。持って帰れるものはないのか?」


 私はクスっと笑うと、ありますよ!と答えると、嬉しそうにしている公。


「そんな嬉しそうな顔、初めて見ますね!よっぽど、シフォンが美味しくて、お子様にも食べさせて
 あげたくなったんですかね?」
「あぁ、こんなうまいもの、久方に食べた気がした。素朴なのに優しい……プラムにもこういうものを
 食べさせてやりたい!」
「ご用意しますから、帰りにお持ちください!」
「アンナ、俺も持って帰ってもいいかい?」
「ジョージア様もですか?」
「あぁ、アンジーとジョージ、レオとミアにも食べさせたい」
「おいおい、ジョージア、子供が増えてないか?」
「増えてませんよ!アンジェラとジョージは私たちの子どもで、レオとミアはウィルの子どもです。
 一緒にいることが多いので」
「なるほどな……ジョージアが子煩悩だとは……俺も負けてられんな!」


 優しいシフォンに舌鼓をしたおかげか、父親の顔をする公とジョージアは、それぞれの子に手土産として、シフォンケーキを持って帰った。
 二人とも嬉しそうに……


 結局、砂糖の話をすることを忘れてしまったのだが……あまり気にすることでもないだろう。
 来年あたり、販売することになるだろう砂糖のことは隅に置いて、明日、いよいよ開店する店のことを考える。
 公が帰ってから、最後の準備に取り掛かっている。

 明日からの開店。


「ニコライ、準備はもう大丈夫かしら?」
「はい、先程、公が来られたのには驚きましたけど……おかげで、店を覗いて行く人が増えましたね!
 目が合った人には、明日開店することを伝えました。
 来てくれるといいんだけど……さすがに、こればかりは、わかりませんからね」
「そうね……明日から1週間、どんな具合になるか観察しましょう。
 その後、また1週間、その後1ヶ月……客足については、ニコライ中心にノクト、
 ビルたちを含めて相談していかないといけないわね!
 お客あったアンバーとコーコナの商品の提供が不可欠だから……」
「そうですね。なんだか、緊張してきました……」


 ニコライは胃のあたりを撫でている。
 そんな様子を見て私は微笑む。
 貴族相手でも物怖じすることなく、商売が出来るようになったのに、店の開店に緊張するだなんて。


「ニコライ、今日まで出来ることはやってきたわ!
 改良すべき点は、日に日にあると思うけど……そこは、始めて見ないとわからないもの。
 ニコライだけのお店じゃないの。困ったときは、私やノクト、ビルたちにも相談すれば
 いいのよ!そんなに責任をぐっとのしかけなくても大丈夫。私たちもいるのだから。
 がんばりましょう!」


 はいと返事をくれたニコライは、左薬指に嵌っているアメジストを出してきた。


「アンナリーゼ様。アメジストにかけて、僕はこの店の成功をみなと共に迎えられるよう努力します。
 どうか、お力添えいただきますよう、お願い申し上げます」


 畏まっていうニコライに、私はクスっと笑い、肩に手を置く。


「こちらこそ、よろしくね!ニコライ」


 お互いに頑張ろうと心に誓い、今日のところは、最終確認だけして帰ることになった。

 予定通り、紙袋も領地から出来上がったものが届いた。
 私たちが考えうることは、全て出来たのだと、明日の開店への逸る気持ちを押さえつける。

 明日、たくさんの人が『ハニーアンバー店』へ来てくれることを、願うばかりであった。
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