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最大級のご褒美

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 私のおめでとうをかわきりに、私の友人や屋敷の侍従たちからもおめでとうの声がかかる。
 それで、やっと、泣き止んだデリアに側についていたナタリーがさっと魔法をかけた。


「化粧ってさ、すごいよな?」


 後ろから聞こえてくるウィルの声に振り返り、ニコニコと微笑むと静かになった。
 今日は、せっかくの結婚式なのだ。ウィルのいらないヤジは、黙らせておく。


「父様、ミアもあれ着たい!」
「ミアは、まだはえーよ!姫さんくらいに年になったら着れるぞ?」
「ホント?」
「あぁ、かわいいお姫様になれる!」


 後ろでミアがデリアのドレスを見て羨ましそうにしていたらしい。
 ウィルが少しだけ複雑そうな声音で話しているのが、なんだかおかしい。
 そして、隣をチラッと見ると、ジョージアもミアの言葉を受けて複雑そうにしていた。


「二人とも……いつかは二人の手を離れるときがくるんだよ?
 そのときは、ちゃんと笑顔で送り出してあげないと!未来の旦那様が可哀想」
「そうはいってもさ?こんなに可愛いミアが、見ず知らずの男と結婚するとか……」
「そうだ!どこの馬の骨か知らないやつとアンジェラが結婚するなんて……」
「二人とも……気が早い。まだ、1歳と4歳になったばかりの子に……それに、アンジェラにもミアにも
 選ぶ権利はあるわよ!
 政略結婚なんて……させないでくださいね!自分が望む人と幸せになってほしいわ!」


 デリアに視線を戻す。
 私は、デリアにも幸せになってほしいと思っている。
 でも、本当に良かったのか……悩まない日はなかった。
 私を好きだと言ってくれたナタリーとデリアを同時にみやる。
 デリアは、私を好きなデリアを受入れてくれる人がいればと言っていたし、ディルはわかった上で、デリアを選んだ。
 デリアも同じくだが……私に人の幸せをはかることはできない。


 可哀想な公爵夫人と言われていたときですら、アンジェラらウィルを始め友人たち、屋敷の侍従たちに囲まれ幸せな日々を過ごしていたのだから。
 私の見つめる先をみて、零れる言葉。


「デリア、幸せかしら?」
「幸せだと思うよ!アンナの側にいて、それを理解してくれる人が側にいてくれる。
 それだけでも、満たされるはずだよ!」


 ジョージアも同じようにデリアを見ながら私の零れ落ちた言葉を拾ってくれた。


「難しく考えなくていい。デリアが笑っていられるよう、俺たちができうることをすればいいだけの
 ことだから……出来ていなかった俺がいうのは、むしがいいかもしれないけど、アンナはずっと
 領地や領民に寄り添ってきているんだから……わかるだろ?」


 胸にストンと落ちてきた。そういうふうに思えればいいのか……デリアも私の掌に入る人だ。
 領地だけでなく領民に寄り添える改革を進めることが私の願うところである。


 ナタリーに化粧を直してもらい、恥ずかしそうにおずおずと階段の下までディルにエスコートされ降りてきた。
 ナタリーが選んだデリアのウェディングドレスは、生成りのエンパイアドレス。
 良く似合っていて、とても綺麗だった。
 ショートベールになっていて、ベールを押さえる髪留めは、青紫薔薇であった。


「ジョージア様、あの薔薇……」
「あれは、俺からアンナをいつも支えてくれるデリアと補佐をしてくれているディルに対するほんの
 お礼だよ」


 私の二つ名は、青紫薔薇。
 青みがかったアメジストで出来た薔薇が咲き誇っている。


「ジョージア様、私が渡すアメジストが霞んでしまいます……」
「そうはいっても、アンナが渡すアメジストに比べたら、宝石以外の価値のないものだよ?」
「そうですけど……」
「アンナが渡す、そのアメジストの薔薇は、デリアにとって何物にも代えがたいものだよ。
 ディルもそのアメジストの意味は知っているんだ。だからこそ、ピアスホールを開けたのだろう?」


 そうですねと笑うと、そうだと返される。
 私が渡すアメジストには、信頼の証としての意味がある。
 ハリーにもらったこの真紅の薔薇と同じように、宝石職人のティナにしか作れないものなのだ。


 階段の下まで降り、二人がお辞儀をしている。
 私は拍手をして、二人を祝福するとあちこちから侍従たちがヤジを飛ばしていた。
 今日は、貴族とか侍従とか関係なく、二人を祝おうと言ってあったため、みなが自由に声をかけてくれていた。


「さて、私の出番ですよ!よいしょっと」


 椅子から立ち上がると、いそいそと階段の方へ回る。


「アンナ様?」


 急に現れた私に驚くデリア。
 ディルは、私が来たことに気付いていたらしく何も言わないでいた。


「じゃあ、結婚の宣誓するよ?」


 急に始まる、宣誓。
 終始、私のおかしなタイミングである。


 階段を一段登り、みなにも聞こえるように声を響かせる。


「今から、結婚の宣誓を始めます。コホン……」


 ごそごそと本を取り出し私は読みだす。
 もちろん、その本は経典でもなんでもなく、私が毎日読んでいるハニーローズの王配手記であった。
 ちょっと豪華そうな本をと思って探したのだけどなかったため、代用することにしたのだ。
 王配もまさか未来で、経典の代用にされるなど思ってもみなかっただろう。


「新郎、ディル。
 あなたは、病めるときも健やかなるときも、死が二人を別つまで、デリアを妻とし愛しますか?」


 私のオリジナルの宣誓である。ここで誓いますとか言われたらおもしろくないなとか考えながら、茶目っ気いっぱいで考えてみた。


「はい、もちろん、死んでからもデリアを愛します」


 おぉーディル、ナイスな返事である。
 私は、その答えに満足して、うんうんと大げさに頷いた。
 それにしても、恥ずかしそうにしているデリアは、なんと可愛らしいことなんだろう。
 これは、ディルでなくても……嫁に欲しいものである。


「新婦、デリア。
 あなたは、病めるときも健やかなるときも、死が二人を別つまで、ディルを夫とし愛しますか?」


 デリアにも同じように宣誓の言葉を投げかけた。
 少し考える素振りをして、ニコリと私に笑いかける。


「はい、ディルのことはお慕いしています。私は、アンナ様が1番大切な方ですから、誓えませんけど、
 本当に私でよろしいですか?」
「あぁ、構わない。デリアが側に居てくれる今日が明日が幸せなのだから」
「あっ!ディル、ごめんね、たぶん、もう少ししたら、私、アンバー領へ行くから、それほどここには
 長居出来ないと思うの……デリアももちろん連れて行くから、領地まで、通ってくれるかしら?」


 宣誓の最中に起こった突然のデリアの誓えませんからのディルがそれでもいいに加え、近いうちに領地へデリアを連れていくから領地まで通ってくれという私。
 無茶苦茶な宣誓にディルは苦笑いし、デリアは準備が必要ですねといい、会場は大笑いの渦に巻き込まれる。

 私やディル、デリアの人柄を知っている、気心知れたものばかりの集まりだからこその結婚式だった。


「ごめんね……しまらなくて。改めまして……デリア、どうかしら?」
「はい、結婚はいたします!よろしくお願いします!」


 デリアからの承諾は得たので、よしよしと頷き、近くに小箱を持って寄ってきてくれたナタリーから小箱を渡されたので、王配の手記を替わりに渡した。


「では、誓いのキスを……」


 目の前で人のキスなんて見ることないわね……なんて言っていたら、瞬間で終わった。
 えっ?もう終わり?
 悠長に構えていた私は慌てて言葉を探す。


「……結婚指輪の交換をと思っていたけど、二人には私から信頼の証として……ピアスを渡します。
 片方ずつに付けて……」


 小箱を開くと一対のアメジストで出来た薔薇のピアスが収まっていた。
 デリアが今しているものでもウィルやノクトにあげたものでもない。薔薇を半分にしてあるようなデザインになっている。


「どちらも欠けることなく、アンバーのために尽力を尽くしてください!」


 渡したピアスをお互いの左耳に付けて笑いあっている。
 きっと、こういう夫婦の形もいいのだろう……


「二人の幸せな未来に拍手を!」


 アンバー公爵家公都の屋敷の玄関は割れんばかりの拍手が響いた。
 これにて、結婚式は終わり。
 ハプニングはあったけど……つつがなく終わったのだ。
 あとは、屋敷で頑張ってくれている侍従たちに日頃の感謝を込め、宴をすることになっている。
 玄関を開け馬車の通る石畳の上で、みなが集まり飲み食いを楽しんだ。
 結婚式というめでたいことだけでなく、屋敷全体で今日はどんちゃんと騒ぎ笑いが絶えなかった。


 幸せの形は人それぞれ。
 でも、こんなふうに楽しく過ごせることは、何よりだと私はこの宴を楽しんだのであった。
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