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緊張してる?
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「……別に、レタンを脅すつもりは、これっぽっちもなかったのよ?」
「アンナリーゼ様、目が泳いでますよ!」
広場へ向かう馬車の中、昨日、執務室に入ったとき、やけにレタンが怯えていたことについて、セバスが聞いてきた。
事情の知らないノクトとディル、それからココナは、興味ありげに聞き耳を立てている。
「穏便に済ませようとはしました。
傷ひとつつけてないし……貴族っていうもを教えておいてあげないと、今後取引とかするときに
いきなり命を取られたら可哀想かなって思ったのと……」
「あろうことか、アンナ様を手込めにしようと無遠慮にも触ったのです!」
隣から、怒りの籠ったたデリアの声が聞こえてきた。
昨日のことを思い出して、デリアは沸々と怒りがぶり返しているようだ。
どうどうと、デリアを宥めていると、レナンテの背で揺られているノクトが、腹を抱えて笑いだした。
想像はしてたけど、おもしろおかしそうに笑われると腹も立つので、睨んでしまった。
「だいたい、最初から脅すつもりなら、ノクトを配置したわよ!
どれほどのものか、見てみたかっただけなんだけどね。
有力者としては、評価するなら普通以下ね。ただし、布を見る目は、一級品よ!
あの後、セバス登場で忘れてたんだけど、布当ての質問をしたの。
たまたま、ナタリーに教えてもらってたものだから……
有名どころから、あまり出回っていないところのものまで、全て当てていったわ。
あれにはお見それしました……って感じだった」
「それは、どういうこと?」
布には、土地柄的に編み方が違ったりするらしいのよ。
今は、ほとんどが同じ編み方なんだけど、綿花の品質は均等ではないから、わかるんですって。
国内なら、コーコナで取れる綿花が、1、2を争えるくらい上質らしいよ。
ただ、宣伝すらしていないから領地外からの買い付けもない、販路がないって言うので、ずっと放置
されているんだって。もっと早くに男爵が……って言ってたけど、男爵は目をつけていたわ!
そこに回す資金がなかっただけで……
公世子妃擁立さえしてなければ、もしかしたら、男爵領の繁栄があったのかもしれないわね!
でも、これだけ良質なものを毎日着ていたら、よその領がどんな服や布を使っているか、
知らない可能性もあるわよね。当たり前って……怖いね」
私は、今日もナタリーに作ってもらった緩めのワンピースを着ている。
コーコナ領の布は本当に肌触りがよくて着心地がいい。
「他の領地での布の出来栄えっていうのを男爵が把握してなかったということ?」
「そういうこと。他領から私達が入ったことで気付いたことよ!
ニコライも知らなかったんだから、知っている商売人もごくわずかな気がするわ!」
「たしかに、それなら、販路さえ作れれば……顧客を付けることができるね」
「そのためのハニーアンバーであり公御用達看板なのよ!
しっかり、公にも癪だけど公妃にも宣伝用の広告塔になってもらうわ!」
悪い笑顔を向けるとセバスまで悪い顔で笑っている。
これは、私やニコライの影響なのかしら?と思わず笑う。
「どうされました?」
「セバスもとうとうこちら側の人間になったのねと思うと嬉しくなったのよ!」
私の言葉の意味がわからず、首を傾げているセバスだが、広場が近づくと和やかな雰囲気は抜けてくる。
「緊張してる?」
「えぇ、まぁ……」
「大丈夫よ!セバスなら。それに、人だと思うから緊張するの!
目の前にあるのは、スープの具材たち!僕が君たち全員、美味しいスープに調理してやるから、
覚悟しておけ!なんて思っていればいいのよ!」
何それとおかしそうに笑い始めたセバス。
おかげで緊張も何処かへとんで行ったようで、少し前の顔よりよっぽどいい顔になった。
セバスは、城で働いていた頃と比べ、よく笑い、よく話すようになった。
窮屈な城より、領地のあれやこれやを考える方が楽しいようだ。
でも、それもきっとセバスの今後の文官としての糧になっているのだろう。
城へいつの日か戻ったときには、大いにそれらは発揮されるに違いない。
領地改革なんて、まず、一介の文官には体験できないことである。
セバスは、爵位はあれど領地はない一代限りの男爵位なのだ。
自分を中心に領地運営を考える機会なんて、巡ってこないのだから楽しくて仕方ないのだろう。
「いい顔、するよね!」
「僕がです?」
「うん、そう。久しぶりあったとき、こーんな感じで目は吊り上がっているし、神経すり減らして
セバスらしい膨大な知識を無駄にしていそうな顔してた」
「そうでしたか……今は、アンナリーゼ様に拾ってもらえて良かったと思っていますよ。
なんたって、領地を回れるのは、楽しいですから!」
作ったばかりの交付書類を握りしめ、そろそろ……とセバスがいうと馬車は停まる。
広場からセバスの活躍を見る私達を先に降ろすのだ。
「気を付けてくださいね!」
「うん、わかった!セバスもしっかりお願いね!」
馬車から降り、広場へと私とデリア、ココナの三人が向かう。
まるで、何か始まるらしいと町娘たちが、そぞろ歩きしているように歩く。
私を真ん中に二人が囲んでくれた。
「あんまり、前にいかなくていいわ!セバスが見えるくらいの位置でいいの!」
セバスが立つ台を見つめながら、ここから見ようかと声をかけた。
◇◆◇◆◇
「私は、ローズディア公国王宮にて文官職を賜っています、セバスチャン・トライド。
本日は、この領地の新しい領主に変わり、領地名の報告を行う。
領地名変更については、先のダドリー一家が死罪となる犯罪を犯したことによる領地取り上げによる
ものである。先日、公より承認がおり、新しい領主と領地名が決まった。
新しい領主には、アンバー公爵であるアンナリーゼ・トロン・アンバーが治めることになった」
私の名前を聞いた瞬間、領民はざわつき始めた。
一番耳に聞こえてくる言葉は、男爵様を殺したやつが領主なんてありえない!だった。
それもそうだろう。
そういう批判があることをわかった上で、セバスが私の代わりにあの場に立っていてくれるのだから……
次々に物や石を投げつける領民たち。
私は、その姿をいざ見て、項垂れるしかなかった。
「お辛いですか?」
「えぇ、そうね……でも、これが現実ですもの。仕方ないわ!」
寄り添ってくれるデリアに向かって呟いた。
「静粛に!静粛に!!
石や物を投げるのは構わない!ただし、この決定は、公が決めたこと。
国家反逆とみなされることだけは、覚えておいてほしい。
あと、公爵位アンナリーゼについて、僕が知りうることを話そう」
すると、いままで、ざわついていた領民が黙ったのだ。
私という者に興味を抱いたからなのか、国家反逆とみなされるのが困るからなのかは判断がつかなかった。
でも、私は、それどころではない!
セバスが私のことを語ってくれるのだ。楽しみで仕方がない。
「みなが知るアンナリーゼとは、ダドリー一家を死罪にした罪深い女というところだろう。
それは、彼女の一面であり、業になっているはたしかだ。
みなが、ここでどのようにダドリー一家により生活をしていたのかは、僕は知らない。
ただ、アンバー公爵領は、ダドリーの野望により個々の生活よりずっと苦しい生活をしてきていた。
ときには飢えを凌げず道端で亡くなった者、あるいは、寒さに耐えられず凍死した者、生活の基盤を
失ってしまった人が溢れかえっていた。
僕は実際、その領地を目の当たりにしてきている。
汚物やごみにまみれた町や村を公爵夫人自らが汚い服を着、汚泥にまみれ、領地改革へ足を運んで
いる。
今では、一定の水準になるまでには回復しつつあるが、まだ、疲弊しきったアンバー領地が復活する
には時間が足りていない。
この原因を作ったのが、他ならぬダドリー一家であった。
たくさんのアンバー領の人が亡くなった上にダドリー一家の贅沢は成り立っていたわけだ。
それを、正した。ただ、それだけのこと。
言葉にすれば、簡単なことだが、全てを調べあげ、証拠と犯人をあげることは難しい。
この領地に償いをしろという意味で、公爵アンナリーゼがこの領地を賜ったわけではない」
「じゃあ、何故、この地なんだ!他にも直轄地になったところがあったはずだ!」
ヤジが飛ぶ。
セバスは、そちらを見て微笑み、怒鳴るのではなく優しく言葉を紡ぐ。
「この領地は、船長を無くした船のようなもの。
行先もわからなければ、帰ることも出来ないわけだ。
その舵取りをアンナリーゼ様は、アンバー領と共に一緒に取り組もうとしている。
直轄地になることも可能だ。ただし、直轄地になれば、僕のような文官が、この領地を管理することに
なる。
ただし、管理するとは名ばかりで、よくもしなければ、悪くもしない。
現状維持をその文官は目指すだろう。領地を思わない文官に自分の命を賭けられるか?
生活が苦しくても一緒には悩んでくれはしない。
この領地、新しい名前は『コーコナ領』、意味は、繭。
領地の紋章は、綿花、蚕、繭をあしらうことになっている。
この地を見捨てないという意思表示として、アンバー公爵家の家紋である女王蜂。
アンナリーゼとは、多くの中から捨てるのではなく、多くの中から出来るだけすくいあげるのを
モットーとし、領地の産業である綿花栽培、養蚕、布工場、染めを拾い上げたのだ。
領民たちが、何を思うか不安がってはいたが、領地のみなが安心して暮らせる領地運営を目指して、
今現在も活動をしている。
今、否定することは、簡単だ。
だけど、少しだけ待ってほしい。アンナリーゼ様があなたたち領民へ寄り添うだけの時間は与えて
あげてほしい」
セバスの話が終わり、静まり返る広場。
少しずつひそひそという声が聞こえてきた。
あぁ、悪口かしら?と耳をすませると、綿花農場で働いているらしい男同士ではなしているようだ。
他にもあちらこちらでヒソヒソと話をしているらしく、はっきりと聞こえないが感じることはできた。
すると、拍手が疎らにあり、諦めたころには、拍手喝采であった。
「私、期待されててもいいのかな?」
目に涙が浮かぶ。
まだ、受入れられない人もいるだろう……それでも、この拍手の意味は、期待の現れだと考えてもいいのだろうか?
目の前の光景は、一生忘れまいと心に刻む。
アンバー領やコーコナ領のため、そして、未来の女王のため、これからの発展を私も考えていきたい。
だって、たくさんの人が私に期待をしてくれているのだから、全力で答えるのが私だと思う。
「また、忙しくなりそうね!」
「ほどほどに体は休めてくださいね!
アンナリーゼ様は、もっと体も労わることも覚えてもらわないといけませんよ!
胸躍らせているところで、デリアの愛あるダメだしをされる。
それでも、特徴の違う領地の管理が2つになったのだ。
気を引き締めていかないとと声には出さず心の中で気合を入れるのであった。
「アンナリーゼ様、目が泳いでますよ!」
広場へ向かう馬車の中、昨日、執務室に入ったとき、やけにレタンが怯えていたことについて、セバスが聞いてきた。
事情の知らないノクトとディル、それからココナは、興味ありげに聞き耳を立てている。
「穏便に済ませようとはしました。
傷ひとつつけてないし……貴族っていうもを教えておいてあげないと、今後取引とかするときに
いきなり命を取られたら可哀想かなって思ったのと……」
「あろうことか、アンナ様を手込めにしようと無遠慮にも触ったのです!」
隣から、怒りの籠ったたデリアの声が聞こえてきた。
昨日のことを思い出して、デリアは沸々と怒りがぶり返しているようだ。
どうどうと、デリアを宥めていると、レナンテの背で揺られているノクトが、腹を抱えて笑いだした。
想像はしてたけど、おもしろおかしそうに笑われると腹も立つので、睨んでしまった。
「だいたい、最初から脅すつもりなら、ノクトを配置したわよ!
どれほどのものか、見てみたかっただけなんだけどね。
有力者としては、評価するなら普通以下ね。ただし、布を見る目は、一級品よ!
あの後、セバス登場で忘れてたんだけど、布当ての質問をしたの。
たまたま、ナタリーに教えてもらってたものだから……
有名どころから、あまり出回っていないところのものまで、全て当てていったわ。
あれにはお見それしました……って感じだった」
「それは、どういうこと?」
布には、土地柄的に編み方が違ったりするらしいのよ。
今は、ほとんどが同じ編み方なんだけど、綿花の品質は均等ではないから、わかるんですって。
国内なら、コーコナで取れる綿花が、1、2を争えるくらい上質らしいよ。
ただ、宣伝すらしていないから領地外からの買い付けもない、販路がないって言うので、ずっと放置
されているんだって。もっと早くに男爵が……って言ってたけど、男爵は目をつけていたわ!
そこに回す資金がなかっただけで……
公世子妃擁立さえしてなければ、もしかしたら、男爵領の繁栄があったのかもしれないわね!
でも、これだけ良質なものを毎日着ていたら、よその領がどんな服や布を使っているか、
知らない可能性もあるわよね。当たり前って……怖いね」
私は、今日もナタリーに作ってもらった緩めのワンピースを着ている。
コーコナ領の布は本当に肌触りがよくて着心地がいい。
「他の領地での布の出来栄えっていうのを男爵が把握してなかったということ?」
「そういうこと。他領から私達が入ったことで気付いたことよ!
ニコライも知らなかったんだから、知っている商売人もごくわずかな気がするわ!」
「たしかに、それなら、販路さえ作れれば……顧客を付けることができるね」
「そのためのハニーアンバーであり公御用達看板なのよ!
しっかり、公にも癪だけど公妃にも宣伝用の広告塔になってもらうわ!」
悪い笑顔を向けるとセバスまで悪い顔で笑っている。
これは、私やニコライの影響なのかしら?と思わず笑う。
「どうされました?」
「セバスもとうとうこちら側の人間になったのねと思うと嬉しくなったのよ!」
私の言葉の意味がわからず、首を傾げているセバスだが、広場が近づくと和やかな雰囲気は抜けてくる。
「緊張してる?」
「えぇ、まぁ……」
「大丈夫よ!セバスなら。それに、人だと思うから緊張するの!
目の前にあるのは、スープの具材たち!僕が君たち全員、美味しいスープに調理してやるから、
覚悟しておけ!なんて思っていればいいのよ!」
何それとおかしそうに笑い始めたセバス。
おかげで緊張も何処かへとんで行ったようで、少し前の顔よりよっぽどいい顔になった。
セバスは、城で働いていた頃と比べ、よく笑い、よく話すようになった。
窮屈な城より、領地のあれやこれやを考える方が楽しいようだ。
でも、それもきっとセバスの今後の文官としての糧になっているのだろう。
城へいつの日か戻ったときには、大いにそれらは発揮されるに違いない。
領地改革なんて、まず、一介の文官には体験できないことである。
セバスは、爵位はあれど領地はない一代限りの男爵位なのだ。
自分を中心に領地運営を考える機会なんて、巡ってこないのだから楽しくて仕方ないのだろう。
「いい顔、するよね!」
「僕がです?」
「うん、そう。久しぶりあったとき、こーんな感じで目は吊り上がっているし、神経すり減らして
セバスらしい膨大な知識を無駄にしていそうな顔してた」
「そうでしたか……今は、アンナリーゼ様に拾ってもらえて良かったと思っていますよ。
なんたって、領地を回れるのは、楽しいですから!」
作ったばかりの交付書類を握りしめ、そろそろ……とセバスがいうと馬車は停まる。
広場からセバスの活躍を見る私達を先に降ろすのだ。
「気を付けてくださいね!」
「うん、わかった!セバスもしっかりお願いね!」
馬車から降り、広場へと私とデリア、ココナの三人が向かう。
まるで、何か始まるらしいと町娘たちが、そぞろ歩きしているように歩く。
私を真ん中に二人が囲んでくれた。
「あんまり、前にいかなくていいわ!セバスが見えるくらいの位置でいいの!」
セバスが立つ台を見つめながら、ここから見ようかと声をかけた。
◇◆◇◆◇
「私は、ローズディア公国王宮にて文官職を賜っています、セバスチャン・トライド。
本日は、この領地の新しい領主に変わり、領地名の報告を行う。
領地名変更については、先のダドリー一家が死罪となる犯罪を犯したことによる領地取り上げによる
ものである。先日、公より承認がおり、新しい領主と領地名が決まった。
新しい領主には、アンバー公爵であるアンナリーゼ・トロン・アンバーが治めることになった」
私の名前を聞いた瞬間、領民はざわつき始めた。
一番耳に聞こえてくる言葉は、男爵様を殺したやつが領主なんてありえない!だった。
それもそうだろう。
そういう批判があることをわかった上で、セバスが私の代わりにあの場に立っていてくれるのだから……
次々に物や石を投げつける領民たち。
私は、その姿をいざ見て、項垂れるしかなかった。
「お辛いですか?」
「えぇ、そうね……でも、これが現実ですもの。仕方ないわ!」
寄り添ってくれるデリアに向かって呟いた。
「静粛に!静粛に!!
石や物を投げるのは構わない!ただし、この決定は、公が決めたこと。
国家反逆とみなされることだけは、覚えておいてほしい。
あと、公爵位アンナリーゼについて、僕が知りうることを話そう」
すると、いままで、ざわついていた領民が黙ったのだ。
私という者に興味を抱いたからなのか、国家反逆とみなされるのが困るからなのかは判断がつかなかった。
でも、私は、それどころではない!
セバスが私のことを語ってくれるのだ。楽しみで仕方がない。
「みなが知るアンナリーゼとは、ダドリー一家を死罪にした罪深い女というところだろう。
それは、彼女の一面であり、業になっているはたしかだ。
みなが、ここでどのようにダドリー一家により生活をしていたのかは、僕は知らない。
ただ、アンバー公爵領は、ダドリーの野望により個々の生活よりずっと苦しい生活をしてきていた。
ときには飢えを凌げず道端で亡くなった者、あるいは、寒さに耐えられず凍死した者、生活の基盤を
失ってしまった人が溢れかえっていた。
僕は実際、その領地を目の当たりにしてきている。
汚物やごみにまみれた町や村を公爵夫人自らが汚い服を着、汚泥にまみれ、領地改革へ足を運んで
いる。
今では、一定の水準になるまでには回復しつつあるが、まだ、疲弊しきったアンバー領地が復活する
には時間が足りていない。
この原因を作ったのが、他ならぬダドリー一家であった。
たくさんのアンバー領の人が亡くなった上にダドリー一家の贅沢は成り立っていたわけだ。
それを、正した。ただ、それだけのこと。
言葉にすれば、簡単なことだが、全てを調べあげ、証拠と犯人をあげることは難しい。
この領地に償いをしろという意味で、公爵アンナリーゼがこの領地を賜ったわけではない」
「じゃあ、何故、この地なんだ!他にも直轄地になったところがあったはずだ!」
ヤジが飛ぶ。
セバスは、そちらを見て微笑み、怒鳴るのではなく優しく言葉を紡ぐ。
「この領地は、船長を無くした船のようなもの。
行先もわからなければ、帰ることも出来ないわけだ。
その舵取りをアンナリーゼ様は、アンバー領と共に一緒に取り組もうとしている。
直轄地になることも可能だ。ただし、直轄地になれば、僕のような文官が、この領地を管理することに
なる。
ただし、管理するとは名ばかりで、よくもしなければ、悪くもしない。
現状維持をその文官は目指すだろう。領地を思わない文官に自分の命を賭けられるか?
生活が苦しくても一緒には悩んでくれはしない。
この領地、新しい名前は『コーコナ領』、意味は、繭。
領地の紋章は、綿花、蚕、繭をあしらうことになっている。
この地を見捨てないという意思表示として、アンバー公爵家の家紋である女王蜂。
アンナリーゼとは、多くの中から捨てるのではなく、多くの中から出来るだけすくいあげるのを
モットーとし、領地の産業である綿花栽培、養蚕、布工場、染めを拾い上げたのだ。
領民たちが、何を思うか不安がってはいたが、領地のみなが安心して暮らせる領地運営を目指して、
今現在も活動をしている。
今、否定することは、簡単だ。
だけど、少しだけ待ってほしい。アンナリーゼ様があなたたち領民へ寄り添うだけの時間は与えて
あげてほしい」
セバスの話が終わり、静まり返る広場。
少しずつひそひそという声が聞こえてきた。
あぁ、悪口かしら?と耳をすませると、綿花農場で働いているらしい男同士ではなしているようだ。
他にもあちらこちらでヒソヒソと話をしているらしく、はっきりと聞こえないが感じることはできた。
すると、拍手が疎らにあり、諦めたころには、拍手喝采であった。
「私、期待されててもいいのかな?」
目に涙が浮かぶ。
まだ、受入れられない人もいるだろう……それでも、この拍手の意味は、期待の現れだと考えてもいいのだろうか?
目の前の光景は、一生忘れまいと心に刻む。
アンバー領やコーコナ領のため、そして、未来の女王のため、これからの発展を私も考えていきたい。
だって、たくさんの人が私に期待をしてくれているのだから、全力で答えるのが私だと思う。
「また、忙しくなりそうね!」
「ほどほどに体は休めてくださいね!
アンナリーゼ様は、もっと体も労わることも覚えてもらわないといけませんよ!
胸躍らせているところで、デリアの愛あるダメだしをされる。
それでも、特徴の違う領地の管理が2つになったのだ。
気を引き締めていかないとと声には出さず心の中で気合を入れるのであった。
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