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新しい遊び場へようこそ!
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1週間後、私は新しく手に入れた領地を訪れた。
多少アンバー領からなら距離があるのだが、行き来できない距離ではないことを確認できたので、これなら、馬に乗れるようになれれば、然程困らないだろう。
「ココナ、この辺は気候がいいわね!」
「ここらは、1年中ずっとこんな温暖な気候ですよ!」
ココナの故郷でもあるダドリー男爵領は、とても暖かな気候に恵まれていて過ごしやすい。ダドリー男爵の屋敷に到着して1日が経とうとしている。
気を抜くと、暖かいのでうとうとと居眠りしてしまいそうだ。
黒髪に薄い灰色の瞳のココナは、ディルが私のために新しく用意してくれた侍女だ。
ダドリー男爵領では、黒髪は比較的多いのだとココナに聞かされ少し驚いた。
町を少し歩いたがどこを見ても黒髪ばかり。
瞳の色が少し色味が違うが、黒に属する色味を持つものが多いようである。
「アンナリーゼ様は、こちらに来られるのは初めてですか?」
「そうね!私、公都とアンバー領とそこまでの道すがらのところしか行ったことないの!」
「いつか、僕はアンナリーゼ様にもローズディアを一周旅をしてほしいです!」
「ニコライ、それは何故?」
「アンナリーゼ様が見る景色は、僕らと同じでも捉え方や発想が違うから面白いことになるから
ですよ!」
「ニコライよ!それは、おもしろい!領地が見事治まったら少しずつ、アンナを連れまわしてやろう!
きっと、楽しいだろうし、喜ぶぞ?」
「ふふ、ノクトはわかっているのね!その時は、ジョーやこの子も一緒がいいわ!」
お腹を一撫ですると、後ろからため息が聞こえてきた。
「アンナ様を野放しにしたら、どこに飛んでいくかわからないですからダメです!」
「デリア、そこをなんとか……」
主従のはずの私とデリアは立場が逆転して、拝み倒しているのが私、仕方ないですねと腕を腰に当てているのがデリアである。
「その時は、デリアも一緒に行くのよ!」
「私もですか?」
「当たり前です!多分、ナタリーも行きたいって言うと思うのよね!」
「二人して……ついて行くしかないですね……」
やれやれと、いう仕草をしながらも、デリアはまんざらでもないような感じである。
「その前に!この、荒れた屋敷をなんとかすることを考えないと!」
胸躍る話は楽しいのだが……、今、目の前の屋敷は、荒れに荒れていた。
ダドリー男爵が住んでいた屋敷なのだが、ひどい有様である。
「家にあった貴金属類は……ほぼ盗まれたと考えていいでしょうね……」
うんざりですというデリアと、残念ですと肩を落とすニコライ。
確かに屋敷は荒らされており、金目のものは何もない。
むしろ、使用人すらおらず、私たちが来たときはもぬけの殻であった。
「そうね……だいぶ、ひどいわね!デリアとココナに任せてしまうのも申し訳ないし、
人を雇いましょうかね?」
「待ってください!こんな適地の真ん中で、誰かわからない者を雇って、アンナ様に万が一でも
あったら、どうするのですか?」
「どうって……」
ノクトとココナの方を見ると頷いてくれるが、きっと、デリアに賛同の意味だろう。
「わかったわ!ディルに連絡して、何人か人を送ってもらうよう連絡して頂戴。
ノクトは、大工仕事。ニコライは、住むための必要なものを集めて来て。
デリアとココナは、悪いんだけど、食事の用意と食器の用意をしてくれる?」
みながそれぞれ仕事に向かう。
私は、何もすることがなく、ダドリー男爵の執務室へと向かうことにした。
ここにも金目のものはなく、床には本やら書類がばらまかれていた。
何もしないのも暇だったので、その一つ一つを拾い、本棚に戻す作業をしていく。
本棚に近づいて、持っていた本を置くと、ぎぎぃ……と隠し扉が開いた。
誰もいない部屋でのことで、私はその扉をそれ以上開くことは躊躇われたが、見ていても仕方がないので扉を開き中に入る。
すると、地下に続く階段があった。
きちんと、明かりが用意されており、ろうそくに火を灯してゆっくり階段を下りていく。
すると、ぎぎぃ……と、扉が鳴き、完全にしまってしまった。
「これって……戻れないとかはないわよね……男爵は頻繁に使っていたようだし……」
階段を見ればわかる。
男爵らしき男性の靴の分だけ埃が溜まっていないからだ。
その足跡を頼りに歩いて行くと、さらに扉があった。
ゆっくりその扉を押す。
中にあったのは、ベッドが1つと小さな机、後は本が何十冊と所せましで置いてある。
「すごいわね……何の本かしら?」
埃の被った本を手に取り、私はベッドに腰掛ける。
何処かから空気の入れ替わっているのか、少し埃っぽい本ではあったが、黴た感じはしなかった。
1ページ目を開く。
すると、目に入ったのは、男爵の日記であった。
何年も何年も書いた日記の1冊を手に取ったようで、見回すとイロイロな本が置かれていることが分かった。
例えば、領地運営に関する書物、投資に関する資料、他にも私が両親に叩き込まれた全ての資料が揃っていた。
「すごいわね……この量は、お父様も読んだのかしら?
確か、このあたりの本は家にあった気がするわ……
もしかして、私、ダドリー男爵が1番の理解者だったのかもしれないわね」
独り言ちて、日記を読み進めることにした。
領地運営の苦悩が書かれており、なかなか読み物としてはおもしろかった。
時折出てくる女性の名前を指でなぞりながら、あぁ、この女性がダドリー男爵を支えていた人なのだと悟った。
他の文章から読み取ると実に事務的である言葉も、この女性のこととなると、一際甘い恋文を読まされているかのような気持ちになる。
ソフィアが生まれる少し前のことのようで、男爵が夫人をとても心配していることが分かった。
ソフィアは、こんなにも愛されていたのね……
その愛を知る前に、男爵夫人に実の母を殺されてしまったのかと思うと胸が苦しくなる。
その後の男爵の変貌ぶりは、知らないのだろう。
物心ついたころには、男爵は、私たちが知る男爵たりえたのだから。
でも、この女性がもし生きていれば……ソフィアも幸せな生活をしていたのではないだろうか?
わがままだった、ソフィアは両親や兄を振り回しながらも愛情をたっぷり受けて育っただろう。
やがて、素敵な人と出会って結婚して子供を産んで……幸せな生涯を終えていたのかもしれない。
私、出会い方さえ違えば、男爵ともソフィアとも仲良くできていたかもしれないのね。
男爵の残していた資料を見れば見るほど、自分が思い描くものに近い気さえしているのだ。
「こんな素敵な考えがあるなら、ぜひ聞かせてほしかったものね、男爵」
私は、他の本にも手を伸ばし読み始める。
これも実におもしろい考察が書かれているので、あっという間に読んでしまった。
何が書かれていたかというと、男爵領地での特産品とその売り方、販売経路など書かれている。
今現在、知りえていることと言えば、この資料には書かれているような産業はないのだが……これは、実験的に進めて行ってもいいのではないだろうか?
確かに男爵に発想はあったが、そこにたどり着くための経費や人脈、人手が圧倒的に足りなかった。
私なら……、出来るだろうか?
私は、他にも2,3冊をパラパラっと読み、この計画に必要なものを数冊持って執務室へと帰ることにした。
「こんな素敵な遊び場があるだなんて……秘密にしたいけど、せっかくだから、領地運営に活用させて
もらうわね!」
部屋へ言葉だけ残し、階段を上る。
ろうそくを消し、さっきの扉付近を押してみる。
するとぎぎぃっと音がして、扉が開いた。
暗いところにいたため、光溢れる執務室はとても眩しかった。
思わず手をかざしていたが、光の前に仁王立ちしているお仕着せをきたデリアが見えた。
あぁ、これは、心配かけたんだなと心で反省し、叱られる体制をとる。
「アンナ様!急にいなくならないでください!私は……とても、怖かった……」
はらはらと涙を流しながら私に抱きついてきたデリアを私は本を近くの棚に置き、抱きしめる。
「ごめんね、心配かけたね……」
「本当です!敵地にいるんですよ!勝手に居なくならないでください!
みんな、探しています!」
デリアの声が聞こえたのか、私がいるのかノクト達が執務室に入ってくる。
いつもと様子の違うデリアにみなが戸惑いながら、私が悪い!と視線で訴えられるのであった。
多少アンバー領からなら距離があるのだが、行き来できない距離ではないことを確認できたので、これなら、馬に乗れるようになれれば、然程困らないだろう。
「ココナ、この辺は気候がいいわね!」
「ここらは、1年中ずっとこんな温暖な気候ですよ!」
ココナの故郷でもあるダドリー男爵領は、とても暖かな気候に恵まれていて過ごしやすい。ダドリー男爵の屋敷に到着して1日が経とうとしている。
気を抜くと、暖かいのでうとうとと居眠りしてしまいそうだ。
黒髪に薄い灰色の瞳のココナは、ディルが私のために新しく用意してくれた侍女だ。
ダドリー男爵領では、黒髪は比較的多いのだとココナに聞かされ少し驚いた。
町を少し歩いたがどこを見ても黒髪ばかり。
瞳の色が少し色味が違うが、黒に属する色味を持つものが多いようである。
「アンナリーゼ様は、こちらに来られるのは初めてですか?」
「そうね!私、公都とアンバー領とそこまでの道すがらのところしか行ったことないの!」
「いつか、僕はアンナリーゼ様にもローズディアを一周旅をしてほしいです!」
「ニコライ、それは何故?」
「アンナリーゼ様が見る景色は、僕らと同じでも捉え方や発想が違うから面白いことになるから
ですよ!」
「ニコライよ!それは、おもしろい!領地が見事治まったら少しずつ、アンナを連れまわしてやろう!
きっと、楽しいだろうし、喜ぶぞ?」
「ふふ、ノクトはわかっているのね!その時は、ジョーやこの子も一緒がいいわ!」
お腹を一撫ですると、後ろからため息が聞こえてきた。
「アンナ様を野放しにしたら、どこに飛んでいくかわからないですからダメです!」
「デリア、そこをなんとか……」
主従のはずの私とデリアは立場が逆転して、拝み倒しているのが私、仕方ないですねと腕を腰に当てているのがデリアである。
「その時は、デリアも一緒に行くのよ!」
「私もですか?」
「当たり前です!多分、ナタリーも行きたいって言うと思うのよね!」
「二人して……ついて行くしかないですね……」
やれやれと、いう仕草をしながらも、デリアはまんざらでもないような感じである。
「その前に!この、荒れた屋敷をなんとかすることを考えないと!」
胸躍る話は楽しいのだが……、今、目の前の屋敷は、荒れに荒れていた。
ダドリー男爵が住んでいた屋敷なのだが、ひどい有様である。
「家にあった貴金属類は……ほぼ盗まれたと考えていいでしょうね……」
うんざりですというデリアと、残念ですと肩を落とすニコライ。
確かに屋敷は荒らされており、金目のものは何もない。
むしろ、使用人すらおらず、私たちが来たときはもぬけの殻であった。
「そうね……だいぶ、ひどいわね!デリアとココナに任せてしまうのも申し訳ないし、
人を雇いましょうかね?」
「待ってください!こんな適地の真ん中で、誰かわからない者を雇って、アンナ様に万が一でも
あったら、どうするのですか?」
「どうって……」
ノクトとココナの方を見ると頷いてくれるが、きっと、デリアに賛同の意味だろう。
「わかったわ!ディルに連絡して、何人か人を送ってもらうよう連絡して頂戴。
ノクトは、大工仕事。ニコライは、住むための必要なものを集めて来て。
デリアとココナは、悪いんだけど、食事の用意と食器の用意をしてくれる?」
みながそれぞれ仕事に向かう。
私は、何もすることがなく、ダドリー男爵の執務室へと向かうことにした。
ここにも金目のものはなく、床には本やら書類がばらまかれていた。
何もしないのも暇だったので、その一つ一つを拾い、本棚に戻す作業をしていく。
本棚に近づいて、持っていた本を置くと、ぎぎぃ……と隠し扉が開いた。
誰もいない部屋でのことで、私はその扉をそれ以上開くことは躊躇われたが、見ていても仕方がないので扉を開き中に入る。
すると、地下に続く階段があった。
きちんと、明かりが用意されており、ろうそくに火を灯してゆっくり階段を下りていく。
すると、ぎぎぃ……と、扉が鳴き、完全にしまってしまった。
「これって……戻れないとかはないわよね……男爵は頻繁に使っていたようだし……」
階段を見ればわかる。
男爵らしき男性の靴の分だけ埃が溜まっていないからだ。
その足跡を頼りに歩いて行くと、さらに扉があった。
ゆっくりその扉を押す。
中にあったのは、ベッドが1つと小さな机、後は本が何十冊と所せましで置いてある。
「すごいわね……何の本かしら?」
埃の被った本を手に取り、私はベッドに腰掛ける。
何処かから空気の入れ替わっているのか、少し埃っぽい本ではあったが、黴た感じはしなかった。
1ページ目を開く。
すると、目に入ったのは、男爵の日記であった。
何年も何年も書いた日記の1冊を手に取ったようで、見回すとイロイロな本が置かれていることが分かった。
例えば、領地運営に関する書物、投資に関する資料、他にも私が両親に叩き込まれた全ての資料が揃っていた。
「すごいわね……この量は、お父様も読んだのかしら?
確か、このあたりの本は家にあった気がするわ……
もしかして、私、ダドリー男爵が1番の理解者だったのかもしれないわね」
独り言ちて、日記を読み進めることにした。
領地運営の苦悩が書かれており、なかなか読み物としてはおもしろかった。
時折出てくる女性の名前を指でなぞりながら、あぁ、この女性がダドリー男爵を支えていた人なのだと悟った。
他の文章から読み取ると実に事務的である言葉も、この女性のこととなると、一際甘い恋文を読まされているかのような気持ちになる。
ソフィアが生まれる少し前のことのようで、男爵が夫人をとても心配していることが分かった。
ソフィアは、こんなにも愛されていたのね……
その愛を知る前に、男爵夫人に実の母を殺されてしまったのかと思うと胸が苦しくなる。
その後の男爵の変貌ぶりは、知らないのだろう。
物心ついたころには、男爵は、私たちが知る男爵たりえたのだから。
でも、この女性がもし生きていれば……ソフィアも幸せな生活をしていたのではないだろうか?
わがままだった、ソフィアは両親や兄を振り回しながらも愛情をたっぷり受けて育っただろう。
やがて、素敵な人と出会って結婚して子供を産んで……幸せな生涯を終えていたのかもしれない。
私、出会い方さえ違えば、男爵ともソフィアとも仲良くできていたかもしれないのね。
男爵の残していた資料を見れば見るほど、自分が思い描くものに近い気さえしているのだ。
「こんな素敵な考えがあるなら、ぜひ聞かせてほしかったものね、男爵」
私は、他の本にも手を伸ばし読み始める。
これも実におもしろい考察が書かれているので、あっという間に読んでしまった。
何が書かれていたかというと、男爵領地での特産品とその売り方、販売経路など書かれている。
今現在、知りえていることと言えば、この資料には書かれているような産業はないのだが……これは、実験的に進めて行ってもいいのではないだろうか?
確かに男爵に発想はあったが、そこにたどり着くための経費や人脈、人手が圧倒的に足りなかった。
私なら……、出来るだろうか?
私は、他にも2,3冊をパラパラっと読み、この計画に必要なものを数冊持って執務室へと帰ることにした。
「こんな素敵な遊び場があるだなんて……秘密にしたいけど、せっかくだから、領地運営に活用させて
もらうわね!」
部屋へ言葉だけ残し、階段を上る。
ろうそくを消し、さっきの扉付近を押してみる。
するとぎぎぃっと音がして、扉が開いた。
暗いところにいたため、光溢れる執務室はとても眩しかった。
思わず手をかざしていたが、光の前に仁王立ちしているお仕着せをきたデリアが見えた。
あぁ、これは、心配かけたんだなと心で反省し、叱られる体制をとる。
「アンナ様!急にいなくならないでください!私は……とても、怖かった……」
はらはらと涙を流しながら私に抱きついてきたデリアを私は本を近くの棚に置き、抱きしめる。
「ごめんね、心配かけたね……」
「本当です!敵地にいるんですよ!勝手に居なくならないでください!
みんな、探しています!」
デリアの声が聞こえたのか、私がいるのかノクト達が執務室に入ってくる。
いつもと様子の違うデリアにみなが戸惑いながら、私が悪い!と視線で訴えられるのであった。
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