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ダドリー男爵領へ行こう!

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 城での裁可は、全て終わりやっと解放された。
 さすがに連日詰めていたので疲れもあったが、しないといけないことがあるので私は、重い体を起こした。


「デリア……」
「どうされました?アンナ様」
「うーん、午後からニコライを呼んでくれる?」
「ニコライをですか?わかりましたが、その前に少し体調を整えることをお勧めします。
 ヨハン教授も呼びましたので、一度診察を受けてください!」


 デリアに心配をかけてしまったことを反省して、私は、昼からニコライと打ち合わせを終え次第しばらく休むことにした。
 今日は、それ以外何もないので、のんびりベッドの上で過ごすことにしよう。
 久しぶりにゆっくりゴロゴロと転がることができ、至福の時間を過ごす。



 ◆◇◆◇◆



 お昼も過ぎた頃、呼び出していたニコライが屋敷にやってきてくれた。


「アンナリーゼ様、お呼びいただきありがとうございます」
「ニコライ、来てくれてありがとう。何か変わったことはある?」
「そうですね……ジョージア様からお手紙が来ていたので預かっています。
 領地からの情報も入ってきてますが、出来れば早く戻ってきてほしいと話ですよ。
 例のガラス瓶のコンテストもしたいそうですし、見ていただきたいところがたくさん
 あるようです」
「特に何か困っていることはないかしら?」
「そうですね……ジョージア様が少々困っているくらいじゃないですか?
 ジョージ様がアンナリーゼ様がいなくてとても寂しがっているという話を聞いてます。
 たぶん、そのお手紙の内容はそういうことなんだと思います」
「そうなの?私、そんなに好かれて……大丈夫なのかしら?
 ジョーは元気にしているって聞いているかしら?」
「ジョー様は元気にされていると聞いていますよ!レオ様やミア様と一緒に過ごしている
 らしく、段々言葉も覚えているようですね。
 ウィル様が、意外と?子煩悩らしく、三人の面倒をリアンと一緒に見ているらしいです」


 そっか、ウィルたち親子もうまくいっているようで何よりだ。
 ウィルはまだしばらく、結婚しないと言っていたが……これは、リアンとあるのだろうか?とか考えてニマニマしているとニコライに話しかけられて驚いた。


「あの、それで、御用はなんでしょうか?」
「うん、呼んだのは、ダドリー男爵の領地へ行こうと思うの。
 それで、ついてきてほしいのだけど、ニコライはいつなら大丈夫?」
「それでしたら、いつでも大丈夫ですよ!明日からでも」


 そうと返事したが、さすがにデリアとの約束もあるので、1週間はお休みしようと思っていた。
 領地を出てから1ヶ月半も経ってしまっていて、早く帰りたい気持ちもあるが、こちらはこちらできちんと治めておかないと後々禍根が残る場合もある。
 領地の屋敷もどうなっているかわからないので、確認も必要だ。
 荒らされていることは、予想されているのだがどれほどのものなのか、今後のことをふまえて考える必要があるのだ。


「ウィルをこちらに呼び寄せたいのだけど……そうすると、領地が心もとないわね。
 もう一人くらい護衛できる人が欲しいところね……自分が身重だとろくに動けないのが
 口惜しいわ!」
「それなら、私の方で準備いたしましょう。ノクト様と一緒にアンナリーゼ様を守るので
 あれば、子飼いのものでも大丈夫でしょう。デリアと共に侍女として側につけますよ」


 ディルの提案で手元にあっさり護衛がつくことになった。
 これは、ありがたい。
 普段、公爵家の裏の仕事……情報収集などを主にしてくれている子たちがディルに仕えているのだが、なかなか優秀な子たちであることは、織り込み済みだ。


「じゃあ、貸してくれる?」
「貸すもなにも、公爵であるアンナリーゼ様の手足のようなものですよ!」


 ディルの言葉に少し影を落とすと、優しく微笑んでくれる。


「アンナリーゼ様、彼らはあなたに仕えるのを今か今かと待っているのです。
 その機会をお与えください。
 何しろ、我が家の情報網よりよっぽど優秀な小鳥が1羽、自由に国内外を飛び回って
 いるいることをみなが知っているのです。
 その小鳥に負けじと頑張っている彼らを頼ってくれると嬉しいです」
「ごめんね……今まで、全然頼ってなかったね……これからは、お手伝いしてくれる?」
「もちろんです!彼らには、私から声をかけておきます。
 近衛の小隊長くらいには鍛えてありますので……是非に!」
「頼もしいね!よろしくね!」


 私はディルに頼むと、早速動いてくれるようだ。
 話を戻そうとニコライの方を見ると、私たちの話に若干引いているようであった。


「どうしたの?」
「いえ、アンナリーゼ様って、どこにいてもアンナリーゼ様なのだなって」
「どういうこと?」
「ディルさん、完全に掌握しているなって……」
「そんなわけないよ!ディルを掌握できるなら、この国をひっくり返すこともたやすい
 わ!私に仕えてくれると言われたけど、まだまだ、私が掌で転がされているわね!」
「そうなんですか?」
「そうなのです!」


 コロコロと笑うと、ニコライはそうなんですかねぇ?と不思議そうにこちらを見ている。
 きっと、私たちはたぬきとキツネの化かしあいをしているようなもので、どちらも厚い皮をかぶっているのだろう。
 全幅の信頼は置いてるけど、疑う目は常に持っていようとは思っているのだ。
 ディルに関しては……後ろにいるのが、公であれば、警戒のひとつやふたつしておいてもいいものだろう。


「ニコライ、帰りにノクトのところによって旅の準備をお願いできる?
 準備は任せるわ……」
「さすがにアンナリーゼ様は動きすぎですからね……ご自愛ください。
 では、準備が整い次第、ご連絡いたします。出発は1週間後を予定して準備を整えます
 ので、どうぞ、よろしくお願いします」


 商人らしい挨拶と共に客間を退出するニコライを見送った後、私は、私室のベッドへと向かう。
 あまりぐうたらした生活は……と思っていたら、アンバー領地よりヨハンが着いたとデリアから伝言を受ける。



 ◇◆◇◆◇



「調子はどうですか?」
「すこぶる元気よ!」
「まぁ、無理はなさらないように……じゃないと遠路はるばる呼び出されることになる
 こっちの身にもなってください!」
「私、一応、ヨハン教授のパトロンよね?」
「えぇ、そうですね!研究をおおいに邪魔する資金提供者は、研究者としては困りもの
 ですからね!」


 なんとも、ヨハンのいい方はいつものこととはいえ、何とも言えない気分だ。
 まぁ、これがヨハンだと割り切ればいいだけの話なのだけど。


「1週間後にダドリー男爵の領地に向かうのだけど、一緒に来て!」
「は?」
「一緒にきて!」
「お断りすることは……もちろんできませんよね……」


 そういってため息をつくヨハンにこちらもため息をついてしまう。
 資金提供者ってもっと大事にしないと、資金もらえなくなるよ?と思うのだけど……いいのだろうか?
 私が、ヨハンを手放すわけがないので、安心しきっているのかもしれないのだが……


「できないわね!
 そのかわり、ダドリー男爵の領地で取れる薬草を研究材料にしてもいいわよ!
 あの領地は、結構おもしろい薬草があるって聞いているのだけど……」
「そうなのですか?ぜひ、お供します!」


 現金なヤツめ……毒草だけでなく、解毒草など、たくさんあるらしく、毒の研究者にしてみれば、第二の夢の領地と言われているらしい。
 ヨハンは、知らなかったのかしら?


「もしかして……毒の研究者にとっての桃源郷のことを指していたとは……
 思いもしませんでした!手に入れられたのですね!さすが、アンナリーゼ様です」
「欲しくて手に入ったわけじゃないけどね……何か、お金になりそうな研究をして、私の
 役にたってちょうだい!」
「それは……」
「めんどくさそうにしないでちょうだいね!」
「あの地であれば、いわゆる媚薬を作ることができますな……」
「うーん、それ、危なくない?揉め事に巻き込まれるのはごめんこうむりたいわ!」
「他には、香水なんかできそうですけどね?」
「香水……?」
「アンバーでもできなくはないですけどね、たしか、暑すぎず寒すぎずで香りにいい花
 などが、たくさん咲くのですよ!」
「それ、いいわね!じゃあ、次は、香水作りに励むかなぁ?」
「いいですけど、調合師がいた方がいいでしょう。
 確か、アンナリーゼ様がこちらに呼ぶ人間の中にいましたから、声をかけるといい
 ですよ。
 専門外のことは、ごめんこうむりたい!」
「研究がしたいだけでしょ?」
「わかっているなら、煩わしいことをさせないでほしいものだ!」
「飼い主には、あまり噛みつかない方がいいわよ!」


 おっと、それは失礼……とか、ちょっと大げさに驚いているが、無事診察も終わったようだ。


「特に異常もありませんね。領地でお産ですか?こちらで?」
「戻るつもりよ?そのときは、また、お願いね!」


 そういうととてもめんどくさそうに返事が返ってきたのである。
 一度、お金のありがたみを教えた方がいいのかしら?なんて思ってしまったのであった。
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