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裁可終了、恨みは買うけど、あんまり面倒なこと言うと後には何も残さないよ?

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 公世子からの答えをもらったあとは、ひたすら残っている裁可をしていく。
 かれこれ、ダドリー男爵家処刑の日から3週間がたとうとしていたが、日に日に多くなってきた異議申立書にうんざりしてきたところである。


「よし、できた!」
「何ができたのだ?」


 ひょこっと私の書いた裁可書をみてギョッとしていた。


『以降、他に異議申立をする場合は、自身の心と体に後ろめたいことがないか聞いてから
 提出するようにしてください。
 社会的地位だけでなく、失うものがたくさんあるかもしれませんから……』


 添え状が、あまりにも丁寧に書かれていたことより、喧嘩売るなら買ってやるけど、これ以上に最悪な未来が待っているかもしれませんよと書かれていた文面に公世子は驚愕しているようだ。


「アンナリーゼ、これは、まずくないか?」
「一人一人に追加で罪を1つくらい書いておいた方がいいですか?」
「そういうことでなくて……」
「あぁ、証拠になるようなものは残すなってことですか……?
 確かにお手紙は残ってしまいますね。気が付きませんでした……」


 そういうことじゃないんだけどな……と呟く公世子をそっちのけで、どうすることがいいのか……考える。
 やはり、公爵の処遇で反応が変わるだろうか?
 男爵程度の爵位なら、公爵でもなんとでもできてしまいそうなのだ。
 印象に欠けると言えば、そうだったかもしれない。

 それなら……同じことを公爵でするしかない。


「そういえば、公世子様」
「なんだ?また、物騒なことじゃないだろうな?」
「なんですか!いつも物騒みたいな……!
 公爵の処遇についてですけど……この前の話で大丈夫でしたか?」
「あぁ、あれな。いいぞ!」
「では、大々的に公開しましょう!公爵夫人も公爵をお探しのようですしね!」


 ヒラヒラと公爵夫人からの手紙を見せると、なるほどと頷いていた。
 私は、公世子をチラッと見てから、またスラスラと紙に筆を滑らせていく。


『公世子及び公世子妃・第二妃等殺害未遂事件について』とタイトルをつけていく。
 こういうのは、誰と誰が狙われたのか分かった方がいいので、タイトルの頭に書き入れていく。
 ダドリー男爵の事件を紐解いていくと、今回、このような事件が背後にあったことがわかったというように出だしを書く。


 ダドリー男爵の娘を自身の娘と偽り、公世子の側室として公家に連なる計画をたてた。
 公世子のお手付きがあり、男子が生まれた場合、公世子一家を殺害し、自身が摂政として公爵が孫を使ってこの国を思うがまま動かく計画であったことが判明した。
 数々の証拠もあり、それらに関わったものは、死罪もしくは爵位取り消しとする。


「再掲という形で、また、城以外にも出しましょう。
 あとは、公爵と公爵の息子を服毒刑とし、見せしめにすることになりますけど、
 いいですか?」
「あぁ、それで、いい。謀反として取り扱ってもいい案件であることを書き足すことに
 しよう。そうすれば、正当性も増すからな」
「わかりましたっと……できた!
 これで、清書をお願いします!最後にサインは書きますから!」


 わかったと隣の部屋に顔を出すと、向こうは大慌てて何事か起こっていた。
 それは、どうでもいいので、私はソファで脱力する。


「アンナよ」
「何かしら?」
「あの公爵にも協力者やなんやらがいるはずだ。表に出す前に……」
「絡め取っておけでしょ?済んでるわよ!9割程。
 泥水啜ってせいぜい生きるがいいわって、一度言ってみたかったのよ!なんて思って
 たら、まさかそんな機会が来るとは思ってなかったけどね?」
「それなら、いいんだが……迅速にことを進めるだけがいいことじゃない」
「そうなのよ!根回しは大事!ハリーが教えてくれたことよ!大きなことを成すためには
 小さなことから回り道をしてでも準備はしておかないと!」
「コツコツ努力は苦手だと思っていたが……」
「基本的にみんながコツコツ努力はしてくれるものね。
 でも、こういうのは、私がしないといけないから、これは、みんなを巻き込まないわ!
 それに、私が始めたことだから、最後まで責任はとることにしているの」
「小生意気な!」


 ノクトに軽口をたたかれると、エリックが近寄ってくる。


「アンナリーゼ様」
「エリック、どうしたの?」
「いえ、アンナリーゼ様はどこからそんな答えを導くのですか?」
「どこって言われても……経験から?」
「そなたの経験なぞ、たがだかしれておろう!」
「ノクトに言われると、そうかも。
 どこからかな?ふわっと浮かんでくるかな?ああしたいこうしたいって。
 それは、きちんとしたものではないから、それを伝えて形にしてくれるのが、セバスや
 ニコライの仕事ね!」
「それも自分でできるようになって満点だがな?」
「満点なんて目指さないわよ!欠点だらけの私を補ってもらうために優秀そうな人を
 集めているのだから!」
「俺も入れてますか?」
「もちろん、入っているからこそのでしょ?」


 キラッと光るエリックの左耳のアメジストの薔薇。


「エリックももらっているのか……そろそろ、俺も欲しいところだがな……」
「ノクトもイチアも欲しいんですって!それ!」
「あげませんよ!俺の大事な宝物なんですから!」
「宝物だとよ!可愛いこといってら!」


 ノクトにからかわれているエリックをみて微笑んでいると、公世子がこちらに戻ってきた。
 清書が終わったようで、私を手招きしている。


「ここにサイン書いて」
「わかりました!」


 これにて、公爵の処刑が決まる。
 覆せるのは、公のみとなったが、それはないだろう。


「2日後に貼りだすことにした」
「わかりました。処刑の日はいつですか?」
「4日後。異議申し立てがあるなら、その日までなら受け付けるが、以降の裁可について
 覆ることはないと明記してある。
 あと、何度もあると面倒だから、公にも一筆もらうことにする。
 そうしたら、これ以上の混乱は起こらないだろう」
「わかりました。では、そのようにお願いします」


 私は、残っていた裁可を全て終わらせ、公世子に渡し、席を立つ。
 今日も長い1日となった。



 ◇◆◇◆◇


 それから2日後、公示される。
 さらに2日後、公爵及びその子息の処刑と夫人たちが平民へと成り下がった。
 財産は没収され、国庫に収納し、残された領地は公直轄地となる。
 それをみていたのであろう、爵位の低い者たちから、最後の足掻きが数人、異議申立を出そうとしているようだ。
 命あっての物種だとは思うが、貴族として権力や財力をかざしてきたものたちからしたらいきなり奪われると困る人も中にはいるわけだ。


「公世子様!」


 呼び止められ、振り返ると年老いた男性がいた。


「今回の件、納得いきません!」
「納得も何も、そなたが手を出したものは、そういうものだったということだが?」


 すると、公世子の少し後ろを歩く私を睨みつけてきた。


「公世子様は、よほどそこのご婦人を大切にしていると見える!
 最近、いつも側においておるからなぁ……」


 殺気の籠った目つきにかわれば、私はもちろん身構えたが、自分が動くわけにもいかず、ノクトを呼ぼうとした。


「呼ばれなくてもわかっておる!」


 すでに抜剣されいる切っ先が老人の首元にあった。
 それもひとつだけではなく、反対側にもだ。


「やりおるなぁ、エリック。アンナが認めているだけのことは、ある!さすがだ!」
「将軍こそ、領地で気ままに暮らしていると聞いていたので腕が鈍ったかと思っており
 ましたが……いやはや……僕なぞ、まだまだ若輩ものですね!」


 二人が何故か睨みあっているのは放置して、呆然としている老人の手からナイフを取り上げた。


「先にこっちを取り上げて、舌を噛み切って死なないように意識を刈る必要があるわね!
 残念ながら、二人とも不合格!」


 老人の腹を思いっきり蹴っ飛ばす。
 すると、後ろに尻餅をついて咳き込んいるのですかさず馬乗りになり、手元にあったハンカチで猿轡を簡易的にする。
 流れるような一連を見ていた三人と城の近衛たちは、ポカンとしながら次を待っているようだ。


「私じゃこれ以上はどうすることもできないから、エリック、後をお願い!
 ノクト!」


 呼ぶと手を差し出してくれ、私を立たせてくれる。


「よいっせっと……
 売られた喧嘩と恨みは買うけど、あんまり面倒なこと言うと後には何も残さないよ?
 私は、ただの公爵ですけど、裏工作は意外と得意なの!」


 ニッコリ笑うと、その場に留まっていた貴族たちは握っていた書状をそっと内ポケットにしまう。


「今の裁可を私は間違っているとは思ってないわ!
 叩けば埃が立つようなことをしていたのだから、パンパンとするだけで……
 どれほどのものがあるのか知っているかしら?」


 老人は私を睨んだままだった。
 たぶん、周りにいるのも、そうだろうから釘をさす意味でも一押ししておいてやろう。


「ねぇ、そこのあなた!」


 えっ!俺?と指をさして驚いているが、今回のリストでも名前が挙がっていた侯爵だった。


「そう、侯爵よね!
 この国では、人身売買はご法度だったはずよ!特に奴隷として買って痛めつけた上に
 殺してしまうなんて……ダメよね?
 それも女子供ばかりの弱いものを虐げるのがお好きなようで……
 そんなに虐げられるのがお好きなら、私が剣で刺してあげますわよ?」


 ニッコリ笑うと、引きつった顔をしてへなへなとへたり込んでしまった。
 他にはいないのかとキョロキョロとすると私とは目を合わせたくないのかみな目を逸らす。


「あら……みなさん、目を逸らすだなんて、寂しいわ!
 私、好奇心旺盛だから、みなさんのことももちろん知っていますよ!
 困った趣味とか、性癖とか、怪しい儲け話とかね。
 お話したくなったら、いつでも来てくださいね!」


 笑いかけると、蜘蛛の子を散らすように裁可を下した貴族や高官だったものや近衛が逃げていく。
 もちろん、へなへなっとなっている侯爵に手を差し伸べる人は誰一人おらず、エリックにより近衛が縄をかけ連れていかれた。


「アンナリーゼには、逆らうな!これは教訓だな……この国の」
「失礼ですね!私だって叩けば埃くらいたちます。
 その埃は、デリアによって綺麗に処理されますからね!なかったことになっているので、
 誰もそこにはたどり着かないでしょう!さあ、裁可は全て終わりました!
 私は、もう解放でいいですか?」
「あぁ、悪かったな……長々と付き合わせて」
「本当ですよ!これで、少しだけ政治のやりやすい環境は整ったんじゃないですかね!
 若い優秀な貴族や城に仕えるものを育てましょう!」


 あぁと公世子は答え、私は意気揚々と城の廊下を闊歩する。
 ダドリー男爵の悪夢は、全て終わったと言ってもいいだろう。
 あとは、目下の目標である領地の改革を地道に進めていくだけとなったのである。
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