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アンバー領へ来てくれる?
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小さな工房の扉を開く。
何の匂いだろう……?その工房は、独特な臭いがした。
「いらっしゃい!」
元気に奥から女の子が飛び出てきた。
年の頃は、私より少し下だろうか?
「おじさん、久しぶり!」
「あぁあ、久しぶりだ!大将いるか?」
「今、ちょうど形成してるところだから、手離せないよ!」
店主は、残念がり私の方を見てくるが……私は、今、それどころじゃない!
この工房……飾りガラスがとても多いのだ。
さっきもあった、裸体のお姉さんの別バージョン……果物の形をしたもの、ハートのような形になっているもの。
私には、宝の宝庫に見える、とういうか、宝庫にしか見えない!
「すごいね、これ。さっきの裸体とは、違うわね……こっちは、りんご?
瓶の口のところがなるほど……これは、可愛らしいわね……
ハート形で、こっちは雫?どれもこれもいいわね!」
「アンナリーゼ様、勝手に触らない方が……」
「いいよ!触っても。私が作ってるやつだから……親方から許可がないから売れないし。
たまにおじさんのとこにこそっと出してもらってるんだけど、需要がなくて……
好きなのあったら、持って帰ってくれて構わないよ!」
「本当?じゃあ、全部欲しいわ!」
さすがに無遠慮かと思ったが……どれもこれも目が引かれる。
何故売り出さないのかというと、瓶だけでは顧客に恵まれないからだろう。
確かに、瓶だけを飾る人など、コレクター以外にいないだろうし、中身の入っていないものを高値で買う人は、少ない。
コレクターも何かしら価値があるから、収集するのであって、何の価値もなければただのガラクタであるのだ。
「あの……お姉さん?」
「何かしら?」
「本当にいいの?こんなので……」
「こんなのって、これを作った人にも失礼だし、この作品たちにも失礼じゃなくて?」
「それは、私が作ったから……失礼ではないはずだよ?」
「あなたから手が離れた作品は、失礼だって怒っているかもしれないわよ?」
なんて、覗き込むように女の子に笑いかけるとそんなことないよ……と尻つぼみになっていく。
「お……親方のグラスのほうが、いいに決まってる!
……お……おじさん、今日はそれの仕入れだろ?終わってるか見てくるよ!」
「いや、今日は違うぞ?紹介し忘れていたが……
こちら、フレイゼン侯爵家のアンナリーゼ様だ。ラズは、もちろん知っているだろ?
ずっと、認めてもらいたい人だって言っていたのだから……」
「えっ!?本物?」
「本物よ。今は、フレイゼンではなく、隣国のアンバー公爵なのだけど」
「あっ!さようでございました」
おじさんは、失念しておりましたと笑うし、ラズと呼ばれた女の子は、私を見てばつの悪そうな顔をしている。
「なんだ、お嬢様に認めてもらいたいって言ってたのに、顔を知らなかったのか?」
「………………お貴族様なんて、会えることすらないんから……知るわけない!」
「そうね、私は、わりと小さいときから、この城下町を練り歩いてはいたけど……
フレイゼンの娘っていうより、悪ガキ大将アンナの方が有名かもしれない」
「あっ!その話なら、聞いたことがあります……それが、アンナリーゼ様だったのですか?」
「そうなの。それが私よ!それで、どうして、私に認められたかったの?」
私の質問に若干赤くなりながら……話していいものか悩んでいるようだ。
それにしたって、私に認められたいって、こんな変わった子もいるのねと思ってしまう。
意を決したのか、話始めることにしたらしいラズ。
「あの……ティアってご存じですか?」
「えぇ、もちろん。ティアは私の友人でありお抱え宝飾職人ですからね!」
「ティアと私……年が5つ離れているのですけど……よく若手職人仲間として集まる所で話をする
相手だったのです。
いつだったか、アンナリーゼ様という方に認めてもらえてすごく喜んでいた話を聞いたのです……
漠然と、私もアンナリーゼ様に取り立てていただけたらなと思ってしまって……
浅はかだって、親方には言われていたんですけど、それが1番作品を多くの人に知ってもらえる
ようになるのではないか、有名になれるのではないかと……お恥ずかしい」
「間違っては、いないわね!
上級貴族の間で流行れば……必然とモノが売れるもの。
ただし、私は、ティア本人の熱意と職人として腕もいいことが気に入っているの。
ティアには下心もなければ、金勘定もないわよ!
ただ、私が、ティアの宝飾品を付けて歩くのが楽しみだって言ってたくらいだから。
ティアは、あなたと違い、無欲すぎるのが玉に瑕よね。
だから、下心大ありの商人と結婚できたことは、私はとても喜んでいるのだけどね!」
商人であるニコライと結婚したティアは、思う存分好きな宝飾品を作ることに情熱を傾けている。
金勘定は、ニコライが、好きなようにしているのだ。
持ちつ持たれつの職人と商人の夫婦ではあるが、ティアの両親のようにとても仲がいい。
私の話を聞き、項垂れるラズ。
でも、待ってほしい。私は、今、裸体のお姉さんがきっかけで、ラズと出会えたのだから。
「ラズと言ったかしら?」
「はい……アンナリーゼ様」
「親方の仕事がひと段落したら、フレイゼンの屋敷へ二人で訪ねてきてくれないかしら?」
「それは、何故ですか?」
「ここにあるラズが作ったものを屋敷に届けに来てほしいのよ。
必ず二人で来てね!あっ!ちなみに、親方って……お父さんだったりする?」
「はい……父です」
私の質問に小首をかしげて、とりあえず訪問の話を終える。
そこで店主と別れ、満足した私は屋敷へと帰ることにした。
「何故、あのガラス瓶を全てもらい受けたんですか?」
「アンバーには、あんなおもしろいものがないからよ!」
「アンバーにないからですか?」
「そう。発案は、私、したのだけど……見たことも聞いたこともないって感じだったから。
それなら……ね?他所から取り入れてしまえばいいのよ!」
なるほどと、パルマは頷いた。
◆◇◆◇◆
2時間後、一張羅をきた父娘が私を屋敷へと尋ねてきた。
招きいれると、恐縮しきっている。
これでも、侯爵家の一員であったことと、今は公爵であるのだ。
私の身分は、目の前にいる父娘にとって、雲泥の差、月と鼈くらい違いすぎる。
「あの、この度……ラズベリーの作ったものをご所望いただき、ありがとうございます。
これ、お……わ……」
「父が……親方が作ったグラスです。お納めください」
親方である父は口ごもったが、娘がその代わりはっきりと話す。
それに、まず、ラズに対して好感をもった。
目の前に置かれた木箱を空けると、中にグラスが入っている。
表面がツルっとしていて、とても綺麗だ。
「素敵ね!これは、いい品物ね!」
褒めたことに気をよくしたのか、父が少し緊張を解き話始める。
「私もガラスの世界に入ってもう30年とたちますが、いまだ修行の身でございます。
ただとは言え、娘の未熟なものを、侯爵様宅へ置くことは……」
「うちに置くとは言ってませんよ?確かに、あなたのグラスは、素晴らしいです。
でも、私が、欲しいといったのは、ラズが作ったものとその発想力。
こんな瓶、見たことがないので興味をひかれたの。
ここからは、相談なんだけど……」
「相談だなんて!滅相もございません!」
「うぅん、相談させて。
私は、今、嫁ぎ先の領地で新規事業としていろいろと立ち上げているところなの。
それで、ラズの作品が気に入ったから、欲しいのだけど……
ラズをうちの領地に貸し出してくれないかしら?」
「はい……?貸し出す?」
「そう、ラズの発想が素晴らしいの。
だから、その技術を領地の職人に教えてあげてほしい。
逆にラズは、うちの職人たちから技術を学べばいいと思うの。
女性であることで、なかなか他の工房で働くことは難しいはずだけど、ラズには、挑戦してほしいと
思っているのだけど……どうかしら?アンバー領へ来てくれる?」
私の提案に目を輝かせているのはラズ。困惑極まりないのは父である。
「すぐにお返事が必要ですか?
そうね……明日の朝には、領地に向けて出発するつもりだから……」
「わかりました。
親子でお世話になることが可能でしょうか?一人では、さすがに危なっかしくて」
「えぇ、いいわよ!
ただ、王都みたいに綺麗な場所ではなかいから……その辺は覚悟してきてくれると助かるのだけど?
王都の工房は、そのままにしておきましょう。
もし、帰ってきたくなったときに帰る場所がないことほど、辛いものはないから」
交渉成立と握手を求めると、おずおずと父の方が手を出してくる。
しっかり握り返し、微笑むのであった。
何の匂いだろう……?その工房は、独特な臭いがした。
「いらっしゃい!」
元気に奥から女の子が飛び出てきた。
年の頃は、私より少し下だろうか?
「おじさん、久しぶり!」
「あぁあ、久しぶりだ!大将いるか?」
「今、ちょうど形成してるところだから、手離せないよ!」
店主は、残念がり私の方を見てくるが……私は、今、それどころじゃない!
この工房……飾りガラスがとても多いのだ。
さっきもあった、裸体のお姉さんの別バージョン……果物の形をしたもの、ハートのような形になっているもの。
私には、宝の宝庫に見える、とういうか、宝庫にしか見えない!
「すごいね、これ。さっきの裸体とは、違うわね……こっちは、りんご?
瓶の口のところがなるほど……これは、可愛らしいわね……
ハート形で、こっちは雫?どれもこれもいいわね!」
「アンナリーゼ様、勝手に触らない方が……」
「いいよ!触っても。私が作ってるやつだから……親方から許可がないから売れないし。
たまにおじさんのとこにこそっと出してもらってるんだけど、需要がなくて……
好きなのあったら、持って帰ってくれて構わないよ!」
「本当?じゃあ、全部欲しいわ!」
さすがに無遠慮かと思ったが……どれもこれも目が引かれる。
何故売り出さないのかというと、瓶だけでは顧客に恵まれないからだろう。
確かに、瓶だけを飾る人など、コレクター以外にいないだろうし、中身の入っていないものを高値で買う人は、少ない。
コレクターも何かしら価値があるから、収集するのであって、何の価値もなければただのガラクタであるのだ。
「あの……お姉さん?」
「何かしら?」
「本当にいいの?こんなので……」
「こんなのって、これを作った人にも失礼だし、この作品たちにも失礼じゃなくて?」
「それは、私が作ったから……失礼ではないはずだよ?」
「あなたから手が離れた作品は、失礼だって怒っているかもしれないわよ?」
なんて、覗き込むように女の子に笑いかけるとそんなことないよ……と尻つぼみになっていく。
「お……親方のグラスのほうが、いいに決まってる!
……お……おじさん、今日はそれの仕入れだろ?終わってるか見てくるよ!」
「いや、今日は違うぞ?紹介し忘れていたが……
こちら、フレイゼン侯爵家のアンナリーゼ様だ。ラズは、もちろん知っているだろ?
ずっと、認めてもらいたい人だって言っていたのだから……」
「えっ!?本物?」
「本物よ。今は、フレイゼンではなく、隣国のアンバー公爵なのだけど」
「あっ!さようでございました」
おじさんは、失念しておりましたと笑うし、ラズと呼ばれた女の子は、私を見てばつの悪そうな顔をしている。
「なんだ、お嬢様に認めてもらいたいって言ってたのに、顔を知らなかったのか?」
「………………お貴族様なんて、会えることすらないんから……知るわけない!」
「そうね、私は、わりと小さいときから、この城下町を練り歩いてはいたけど……
フレイゼンの娘っていうより、悪ガキ大将アンナの方が有名かもしれない」
「あっ!その話なら、聞いたことがあります……それが、アンナリーゼ様だったのですか?」
「そうなの。それが私よ!それで、どうして、私に認められたかったの?」
私の質問に若干赤くなりながら……話していいものか悩んでいるようだ。
それにしたって、私に認められたいって、こんな変わった子もいるのねと思ってしまう。
意を決したのか、話始めることにしたらしいラズ。
「あの……ティアってご存じですか?」
「えぇ、もちろん。ティアは私の友人でありお抱え宝飾職人ですからね!」
「ティアと私……年が5つ離れているのですけど……よく若手職人仲間として集まる所で話をする
相手だったのです。
いつだったか、アンナリーゼ様という方に認めてもらえてすごく喜んでいた話を聞いたのです……
漠然と、私もアンナリーゼ様に取り立てていただけたらなと思ってしまって……
浅はかだって、親方には言われていたんですけど、それが1番作品を多くの人に知ってもらえる
ようになるのではないか、有名になれるのではないかと……お恥ずかしい」
「間違っては、いないわね!
上級貴族の間で流行れば……必然とモノが売れるもの。
ただし、私は、ティア本人の熱意と職人として腕もいいことが気に入っているの。
ティアには下心もなければ、金勘定もないわよ!
ただ、私が、ティアの宝飾品を付けて歩くのが楽しみだって言ってたくらいだから。
ティアは、あなたと違い、無欲すぎるのが玉に瑕よね。
だから、下心大ありの商人と結婚できたことは、私はとても喜んでいるのだけどね!」
商人であるニコライと結婚したティアは、思う存分好きな宝飾品を作ることに情熱を傾けている。
金勘定は、ニコライが、好きなようにしているのだ。
持ちつ持たれつの職人と商人の夫婦ではあるが、ティアの両親のようにとても仲がいい。
私の話を聞き、項垂れるラズ。
でも、待ってほしい。私は、今、裸体のお姉さんがきっかけで、ラズと出会えたのだから。
「ラズと言ったかしら?」
「はい……アンナリーゼ様」
「親方の仕事がひと段落したら、フレイゼンの屋敷へ二人で訪ねてきてくれないかしら?」
「それは、何故ですか?」
「ここにあるラズが作ったものを屋敷に届けに来てほしいのよ。
必ず二人で来てね!あっ!ちなみに、親方って……お父さんだったりする?」
「はい……父です」
私の質問に小首をかしげて、とりあえず訪問の話を終える。
そこで店主と別れ、満足した私は屋敷へと帰ることにした。
「何故、あのガラス瓶を全てもらい受けたんですか?」
「アンバーには、あんなおもしろいものがないからよ!」
「アンバーにないからですか?」
「そう。発案は、私、したのだけど……見たことも聞いたこともないって感じだったから。
それなら……ね?他所から取り入れてしまえばいいのよ!」
なるほどと、パルマは頷いた。
◆◇◆◇◆
2時間後、一張羅をきた父娘が私を屋敷へと尋ねてきた。
招きいれると、恐縮しきっている。
これでも、侯爵家の一員であったことと、今は公爵であるのだ。
私の身分は、目の前にいる父娘にとって、雲泥の差、月と鼈くらい違いすぎる。
「あの、この度……ラズベリーの作ったものをご所望いただき、ありがとうございます。
これ、お……わ……」
「父が……親方が作ったグラスです。お納めください」
親方である父は口ごもったが、娘がその代わりはっきりと話す。
それに、まず、ラズに対して好感をもった。
目の前に置かれた木箱を空けると、中にグラスが入っている。
表面がツルっとしていて、とても綺麗だ。
「素敵ね!これは、いい品物ね!」
褒めたことに気をよくしたのか、父が少し緊張を解き話始める。
「私もガラスの世界に入ってもう30年とたちますが、いまだ修行の身でございます。
ただとは言え、娘の未熟なものを、侯爵様宅へ置くことは……」
「うちに置くとは言ってませんよ?確かに、あなたのグラスは、素晴らしいです。
でも、私が、欲しいといったのは、ラズが作ったものとその発想力。
こんな瓶、見たことがないので興味をひかれたの。
ここからは、相談なんだけど……」
「相談だなんて!滅相もございません!」
「うぅん、相談させて。
私は、今、嫁ぎ先の領地で新規事業としていろいろと立ち上げているところなの。
それで、ラズの作品が気に入ったから、欲しいのだけど……
ラズをうちの領地に貸し出してくれないかしら?」
「はい……?貸し出す?」
「そう、ラズの発想が素晴らしいの。
だから、その技術を領地の職人に教えてあげてほしい。
逆にラズは、うちの職人たちから技術を学べばいいと思うの。
女性であることで、なかなか他の工房で働くことは難しいはずだけど、ラズには、挑戦してほしいと
思っているのだけど……どうかしら?アンバー領へ来てくれる?」
私の提案に目を輝かせているのはラズ。困惑極まりないのは父である。
「すぐにお返事が必要ですか?
そうね……明日の朝には、領地に向けて出発するつもりだから……」
「わかりました。
親子でお世話になることが可能でしょうか?一人では、さすがに危なっかしくて」
「えぇ、いいわよ!
ただ、王都みたいに綺麗な場所ではなかいから……その辺は覚悟してきてくれると助かるのだけど?
王都の工房は、そのままにしておきましょう。
もし、帰ってきたくなったときに帰る場所がないことほど、辛いものはないから」
交渉成立と握手を求めると、おずおずと父の方が手を出してくる。
しっかり握り返し、微笑むのであった。
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