309 / 1,513
明け方に起こる出来事
しおりを挟む
殿下が準備できたということで、私を執務室まで呼びにきた。
豪奢な青紫薔薇のドレスを揺らしながら、殿下にベッタリ甘えて廊下を歩く。
殿下に対して、そんなことをしたことがなかったから妙に恥ずかしいが、廊下ですれ違う侍従やら文官やら……には、しっかり印象付けられただろう。
「こんなことは、もっと前にしてほしかったなぁ……」
「何か言いましたか?」
「いや、アンナとこんな恋人と歩くように一緒に歩いたことがなかったなと思って」
「シルキー様に言います?」
「言わんでいい!」
仲のよさそうなふうに、周りから見えるようにくっつきながら、殿下の部屋に二人で入っていく。
後ろにいた兄は、部屋の前で追い返されているのを何人もの城の侍従たちが見ていた。
それを確認して、私は殿下の部屋の中から兄に手を振っておく。
部屋に入ってすることは、殿下とベッドで仲良くすることではなく、用意された服に着替えることだ。
「殿下、見ないでくださいね!」
「あぁ、見ない、見ない!」
「下着もあるんですね!わぁー気が利きますね!」
「俺が選んだわけじゃないからな!」
「ふふ、わかってます。じゃあ、ありがたく、下着も使わせていただきますね!」
私は来ていたドレスも下着もぺいぺいっと脱いでいく。
そして、用意してもらったお仕着せと下着に着替えるのだった。
「殿下、出来ました!あっ!ドレスはそのままにしておきましょう!
もし、メイドや侍女が入ってきたときを考えて……うーんと……確かこの辺に……」
うんしょっと……出してきたのは、頃合いよろしいツボである。
「今晩は、これを抱いて寝てください。
あと、これを私だと言い張って布団をかぶせておいてくださいね!
じゃあ!私はシルキー様の側に行ってきますから、ごきげんよう!」
「あ……アンナ!これは……どう考えたって、浮気じゃないか?」
「何をおっしゃいます!第二妃がいて、さらに妊娠までしているのに、今更ですよ!
シルキー様には、誤解は解いておきますから!
あと、もし、ジョージア様から何かしらきたら、無視しておいてください!
アンナから別居していたと聞いているとかなんとか言ってやってください!」
「いやいや……ちょっと……!」
殿下の話は聞く耳持たず、イロイロ仕込んだお仕着せを着て、とっとととんずらしてシルキーの部屋に意気揚々と滑り込む。
幸い部屋には誰もいなかった。
きっと、隣にはちゃんと侍女がいるのだろうけど……今は夜も深まる時間なのだから、静かな方が助かる。
気が気じゃない殿下は、ツボを抱いて寝てくれるはずだからほったらかしにして大丈夫だろう。
うなされているシルキーの側による。
「シルキー様、大丈夫ですか?」
うなされているのだから、起こしても大丈夫だろうと少し揺さぶる。
すると、気が付いたのか、うっすら目を開けた。
「誰じゃ……?死神かえ?」
「シルキー様、アンナリーゼですよ!」
確かにお仕着せを着ているので服装は真っ黒で見えなくもないが……死神とは、言われた方は寂しい。
「気分はどうですか?」
「あぁ、ほんの少しだけ、あの薬を飲んだからかいい気がする」
「それは、よかったです。私、朝までここにいますから、ゆっくり休んでください」
「あぁ、ありがとなのじゃ……アンナリーゼ、世話をかけるな……」
「何をおっしゃいます!殿下にはたっぷり報酬を払ってもらいますから大丈夫です。
気になさらずにゆっくり眠ってください」
「アンナリーゼ……わらわは、眠るのが、怖い。
もう、目覚めないのじゃないかと思って……眠れぬのじゃ……」
涙を瞳にいっぱい貯めたところで決壊して頬を伝う。
その涙を、お仕着せに入っていたハンカチで拭ってやる。
「シルキー様、大丈夫です。必ず、明日は来ますし、明日もちゃんと起きられます。
何なら、今晩は、手をずっと握っていてあげますよ?」
そういうと、動きにく手を必死に動かして私の前まで持ってきた。
握ってくれということなんだろう。シルキーの手を取る。
毒によって手が冷たく紫色に変色している。
解毒が間に合わなければ、もって数日だっただろう。
ヨハン教授の万能解毒剤は、シルキーの小さな体を救うと私は確信している。
「シルキー様、生きることを決して諦めてはダメですよ!
ジルアート様が、シルキー様をお待ちですから!
私にも、シルキー様からジルアート様を紹介してくださいね!」
頷いている。私の手の体温が伝わっているのか、少し眠そうに眼を閉じる。
「ゆっくりお休みなさいませ!」
さて、私はシルキーの手を握りながら床にぺたんと座る。
春とはいえ、冷えるので下に毛布を引いているのだが、それでも寒い気がする。
お客さんが来るまですることがないので、領地に思いを馳せる。
本来なら、昨日、商人や職人への説明会に参加しているはずだったのだ。
私不在でもなんの問題もないことは、わかっていてもどうなったのか、気になるものは仕方がない。
どれくらい領地の商人や職人から賛同はもらえたのだろう。
私の案に、それぞれ思つく限りのことを詰め込んでくれた。
アンバーで生まれ育った商人を中心にしているので、それなりに共感をえやすだろうが……うまくいっていることを祈るばかりだ。
静かにシルキーの寝息が響くこの部屋に、こっそり入ってきた人物がいる。
その人物は、部屋が真っ暗なため、私には気づいていないようで、そぉーっとシルキーに近づいてきた。
私はずっと、真っ暗の中にいたため目が慣れているので、近づいてきたその人物を視線で補足する。
すると、少し開いたカーテンから入ってきた月光に鈍く光るものが見える。
それは、ナイフだった。
じっくりその人物を観察していると、先ほどと同じように月光に照らされ、その人物が見えた。
暗殺に関して全くの素人のようで、握るナイフも震えているし、顔もすごく強張っていた。
これは、また、うちの侍女と同じ案件なんだろうか?と私は心底嫌な気持ちになったが、この侍女を止めない限り、シルキーは命を狙われる。
なので、私もお仕着せの裾を上げ、脛に仕込んだディルにもらった公爵家の身分証明にもなるナイフの柄を握り、そっと抜き身にした。
握っていたシルキーの手をそっと離し、私はゆっくり音をたてないように少しベッドの裾に身を移動させる。
すると、侍女なのかメイドなのか、扱いなれていないナイフを逆さに持ち体をグッと仰け反らせて頭上まで持ち上げるのである。
プルプル震えながら、シルキーに狙いを定めて振り下ろそうとする。
ただ、この人物、人を殺したことがないのだろう。
また、その覚悟も決まっていないのだろう。
その動作のまま、戸惑うように固まってしまった。
私はサッとその人物の後ろに体を添わせるようにピタっとくっついて、持っていたナイフを目の前の人物の首に宛がう。
「動かない方がいいと思うけど、どうする?」
「……」
「……だんまり?」
「…………」
「……私、好きじゃないなぁ?だんまり」
「…………」
「な……」
さすがにのんびりすぎたのか、逃げようとして私の方に体重を預け、私のナイフと自分のクビの間に持っていたナイフを滑り込ませたようで、私から逃げてしまった。
なかなかどうして機転がきくようだ。
それなら、もっと早く、シルキーを狙うべきだと思うのだが……自分の命可愛さゆえの逃げだったのだろう。
「あなたは……アンナリーゼ様?」
「あら、私を知っていて?」
「殿下と今頃ベッドにいるんじゃなかったのですか?」
私は、ふふっとさもおかしそうに艶やかに笑う。
久しぶりに刃物を握ったことで、若干、私は高揚しているようである。
なんだか、危ない人みたいだと思うと笑えてくる。
「残念ね……殿下じゃ、私を満足させられなかったのよね?」
距離を取られたので、私は、わざと月光が入る窓の方へと歩いていく。
それをじっと見つめるお客人。
客の後ろには、目的であるシルキーが眠っているが、私のことを知っているということは背中を向けた瞬間にどうなるかの想像も織り込み済みのようだ。
なので、シルキーでなく私をじっと見ているのだろう。
「大人しく、殿下と夜を共にしていればいいものを!!」
その瞬間、私に向かって駆けてくる。
様子を見ればわかる。
私に一直線に駆けてくるのだ……接近戦で勝てると思っていてよっぽどの自信があるのか、捨て身なのか……そのどちらかだけど、後のが彼女の答えだろう。
「あなた、なら……楽しませてくれるかしらね?」
目の前に迫るナイフを私は自分のナイフで右にいなす。
ナイフとナイフがこすれ、火花のようなものが飛ぶがお構いなく、彼女が通り過ぎる瞬間を狙って左手で襟ぐりを掴み、右側の膝を差し出し蹴り上げる。
彼女が駆けてきた力と私が蹴り上げたタイミングが良かったのか腹に食い込むように入った。
手ごたえありだ。
そして後ろに倒れた彼女は、夕飯だろう、吐いている。
うーん……汚い。
まぁ、こういうもんだよね……きっとプロじゃないし。
なんて、彼女を見下しながら、死なれては困るのでまずナイフを取り上げることにした。
よっぽど苦しかったのか、四つん這いになってまだはいているのだが、しっかり握られたナイフの平を思いっきり踏んずけ、握っていたナイフを落とさせる。
床とナイフの柄に挟まった指が痛かったのとビックリして、ナイフを手離してしまったようだ。
こういうとき、武器というのは、何があろうとも手放してはいけないのが鉄則なハズだ。
驚いているところ悪いんだけど、もう一度、顎のあたりを蹴り飛ばしてやるとくたっとしている。
そして、私は自分のお仕着せをナイフで切り裂き、ケホケホと咳き込んでいる客の口をふさいでやる。
「ひゃひふぉふるうふぅ……」
「うるさい!」
しゃべられると、面倒なので意識もかっておこう、うん。
首元に手刀をトンっとすると、おもしろいほどあっさり倒れた。
「動かれるの面倒ね……こんなことなら、もっといろいろ準備してもらうんだった。
まさか、こんなに早く来ると思ってなかったからなぁ……はぁ……バカなのかしら?」
気絶した女を縛るために自分のお仕着せをまたまたナイフで割くとそれを繋げていってロープの代わりにする。
「これ、切れないわよね?まぁ、この子なら……大丈夫でしょ」
よしっと!グルグルと縛って満足した私は、見下ろした女を連れて、殿下の部屋まで行くことにした。
もぅそろそろ私の変わりが着てくれるころだろう。
シルキーが浅い寝息をたてていることを確認し、思いのほか重たい女を引きずって殿下の部屋を目指していくのであった。
豪奢な青紫薔薇のドレスを揺らしながら、殿下にベッタリ甘えて廊下を歩く。
殿下に対して、そんなことをしたことがなかったから妙に恥ずかしいが、廊下ですれ違う侍従やら文官やら……には、しっかり印象付けられただろう。
「こんなことは、もっと前にしてほしかったなぁ……」
「何か言いましたか?」
「いや、アンナとこんな恋人と歩くように一緒に歩いたことがなかったなと思って」
「シルキー様に言います?」
「言わんでいい!」
仲のよさそうなふうに、周りから見えるようにくっつきながら、殿下の部屋に二人で入っていく。
後ろにいた兄は、部屋の前で追い返されているのを何人もの城の侍従たちが見ていた。
それを確認して、私は殿下の部屋の中から兄に手を振っておく。
部屋に入ってすることは、殿下とベッドで仲良くすることではなく、用意された服に着替えることだ。
「殿下、見ないでくださいね!」
「あぁ、見ない、見ない!」
「下着もあるんですね!わぁー気が利きますね!」
「俺が選んだわけじゃないからな!」
「ふふ、わかってます。じゃあ、ありがたく、下着も使わせていただきますね!」
私は来ていたドレスも下着もぺいぺいっと脱いでいく。
そして、用意してもらったお仕着せと下着に着替えるのだった。
「殿下、出来ました!あっ!ドレスはそのままにしておきましょう!
もし、メイドや侍女が入ってきたときを考えて……うーんと……確かこの辺に……」
うんしょっと……出してきたのは、頃合いよろしいツボである。
「今晩は、これを抱いて寝てください。
あと、これを私だと言い張って布団をかぶせておいてくださいね!
じゃあ!私はシルキー様の側に行ってきますから、ごきげんよう!」
「あ……アンナ!これは……どう考えたって、浮気じゃないか?」
「何をおっしゃいます!第二妃がいて、さらに妊娠までしているのに、今更ですよ!
シルキー様には、誤解は解いておきますから!
あと、もし、ジョージア様から何かしらきたら、無視しておいてください!
アンナから別居していたと聞いているとかなんとか言ってやってください!」
「いやいや……ちょっと……!」
殿下の話は聞く耳持たず、イロイロ仕込んだお仕着せを着て、とっとととんずらしてシルキーの部屋に意気揚々と滑り込む。
幸い部屋には誰もいなかった。
きっと、隣にはちゃんと侍女がいるのだろうけど……今は夜も深まる時間なのだから、静かな方が助かる。
気が気じゃない殿下は、ツボを抱いて寝てくれるはずだからほったらかしにして大丈夫だろう。
うなされているシルキーの側による。
「シルキー様、大丈夫ですか?」
うなされているのだから、起こしても大丈夫だろうと少し揺さぶる。
すると、気が付いたのか、うっすら目を開けた。
「誰じゃ……?死神かえ?」
「シルキー様、アンナリーゼですよ!」
確かにお仕着せを着ているので服装は真っ黒で見えなくもないが……死神とは、言われた方は寂しい。
「気分はどうですか?」
「あぁ、ほんの少しだけ、あの薬を飲んだからかいい気がする」
「それは、よかったです。私、朝までここにいますから、ゆっくり休んでください」
「あぁ、ありがとなのじゃ……アンナリーゼ、世話をかけるな……」
「何をおっしゃいます!殿下にはたっぷり報酬を払ってもらいますから大丈夫です。
気になさらずにゆっくり眠ってください」
「アンナリーゼ……わらわは、眠るのが、怖い。
もう、目覚めないのじゃないかと思って……眠れぬのじゃ……」
涙を瞳にいっぱい貯めたところで決壊して頬を伝う。
その涙を、お仕着せに入っていたハンカチで拭ってやる。
「シルキー様、大丈夫です。必ず、明日は来ますし、明日もちゃんと起きられます。
何なら、今晩は、手をずっと握っていてあげますよ?」
そういうと、動きにく手を必死に動かして私の前まで持ってきた。
握ってくれということなんだろう。シルキーの手を取る。
毒によって手が冷たく紫色に変色している。
解毒が間に合わなければ、もって数日だっただろう。
ヨハン教授の万能解毒剤は、シルキーの小さな体を救うと私は確信している。
「シルキー様、生きることを決して諦めてはダメですよ!
ジルアート様が、シルキー様をお待ちですから!
私にも、シルキー様からジルアート様を紹介してくださいね!」
頷いている。私の手の体温が伝わっているのか、少し眠そうに眼を閉じる。
「ゆっくりお休みなさいませ!」
さて、私はシルキーの手を握りながら床にぺたんと座る。
春とはいえ、冷えるので下に毛布を引いているのだが、それでも寒い気がする。
お客さんが来るまですることがないので、領地に思いを馳せる。
本来なら、昨日、商人や職人への説明会に参加しているはずだったのだ。
私不在でもなんの問題もないことは、わかっていてもどうなったのか、気になるものは仕方がない。
どれくらい領地の商人や職人から賛同はもらえたのだろう。
私の案に、それぞれ思つく限りのことを詰め込んでくれた。
アンバーで生まれ育った商人を中心にしているので、それなりに共感をえやすだろうが……うまくいっていることを祈るばかりだ。
静かにシルキーの寝息が響くこの部屋に、こっそり入ってきた人物がいる。
その人物は、部屋が真っ暗なため、私には気づいていないようで、そぉーっとシルキーに近づいてきた。
私はずっと、真っ暗の中にいたため目が慣れているので、近づいてきたその人物を視線で補足する。
すると、少し開いたカーテンから入ってきた月光に鈍く光るものが見える。
それは、ナイフだった。
じっくりその人物を観察していると、先ほどと同じように月光に照らされ、その人物が見えた。
暗殺に関して全くの素人のようで、握るナイフも震えているし、顔もすごく強張っていた。
これは、また、うちの侍女と同じ案件なんだろうか?と私は心底嫌な気持ちになったが、この侍女を止めない限り、シルキーは命を狙われる。
なので、私もお仕着せの裾を上げ、脛に仕込んだディルにもらった公爵家の身分証明にもなるナイフの柄を握り、そっと抜き身にした。
握っていたシルキーの手をそっと離し、私はゆっくり音をたてないように少しベッドの裾に身を移動させる。
すると、侍女なのかメイドなのか、扱いなれていないナイフを逆さに持ち体をグッと仰け反らせて頭上まで持ち上げるのである。
プルプル震えながら、シルキーに狙いを定めて振り下ろそうとする。
ただ、この人物、人を殺したことがないのだろう。
また、その覚悟も決まっていないのだろう。
その動作のまま、戸惑うように固まってしまった。
私はサッとその人物の後ろに体を添わせるようにピタっとくっついて、持っていたナイフを目の前の人物の首に宛がう。
「動かない方がいいと思うけど、どうする?」
「……」
「……だんまり?」
「…………」
「……私、好きじゃないなぁ?だんまり」
「…………」
「な……」
さすがにのんびりすぎたのか、逃げようとして私の方に体重を預け、私のナイフと自分のクビの間に持っていたナイフを滑り込ませたようで、私から逃げてしまった。
なかなかどうして機転がきくようだ。
それなら、もっと早く、シルキーを狙うべきだと思うのだが……自分の命可愛さゆえの逃げだったのだろう。
「あなたは……アンナリーゼ様?」
「あら、私を知っていて?」
「殿下と今頃ベッドにいるんじゃなかったのですか?」
私は、ふふっとさもおかしそうに艶やかに笑う。
久しぶりに刃物を握ったことで、若干、私は高揚しているようである。
なんだか、危ない人みたいだと思うと笑えてくる。
「残念ね……殿下じゃ、私を満足させられなかったのよね?」
距離を取られたので、私は、わざと月光が入る窓の方へと歩いていく。
それをじっと見つめるお客人。
客の後ろには、目的であるシルキーが眠っているが、私のことを知っているということは背中を向けた瞬間にどうなるかの想像も織り込み済みのようだ。
なので、シルキーでなく私をじっと見ているのだろう。
「大人しく、殿下と夜を共にしていればいいものを!!」
その瞬間、私に向かって駆けてくる。
様子を見ればわかる。
私に一直線に駆けてくるのだ……接近戦で勝てると思っていてよっぽどの自信があるのか、捨て身なのか……そのどちらかだけど、後のが彼女の答えだろう。
「あなた、なら……楽しませてくれるかしらね?」
目の前に迫るナイフを私は自分のナイフで右にいなす。
ナイフとナイフがこすれ、火花のようなものが飛ぶがお構いなく、彼女が通り過ぎる瞬間を狙って左手で襟ぐりを掴み、右側の膝を差し出し蹴り上げる。
彼女が駆けてきた力と私が蹴り上げたタイミングが良かったのか腹に食い込むように入った。
手ごたえありだ。
そして後ろに倒れた彼女は、夕飯だろう、吐いている。
うーん……汚い。
まぁ、こういうもんだよね……きっとプロじゃないし。
なんて、彼女を見下しながら、死なれては困るのでまずナイフを取り上げることにした。
よっぽど苦しかったのか、四つん這いになってまだはいているのだが、しっかり握られたナイフの平を思いっきり踏んずけ、握っていたナイフを落とさせる。
床とナイフの柄に挟まった指が痛かったのとビックリして、ナイフを手離してしまったようだ。
こういうとき、武器というのは、何があろうとも手放してはいけないのが鉄則なハズだ。
驚いているところ悪いんだけど、もう一度、顎のあたりを蹴り飛ばしてやるとくたっとしている。
そして、私は自分のお仕着せをナイフで切り裂き、ケホケホと咳き込んでいる客の口をふさいでやる。
「ひゃひふぉふるうふぅ……」
「うるさい!」
しゃべられると、面倒なので意識もかっておこう、うん。
首元に手刀をトンっとすると、おもしろいほどあっさり倒れた。
「動かれるの面倒ね……こんなことなら、もっといろいろ準備してもらうんだった。
まさか、こんなに早く来ると思ってなかったからなぁ……はぁ……バカなのかしら?」
気絶した女を縛るために自分のお仕着せをまたまたナイフで割くとそれを繋げていってロープの代わりにする。
「これ、切れないわよね?まぁ、この子なら……大丈夫でしょ」
よしっと!グルグルと縛って満足した私は、見下ろした女を連れて、殿下の部屋まで行くことにした。
もぅそろそろ私の変わりが着てくれるころだろう。
シルキーが浅い寝息をたてていることを確認し、思いのほか重たい女を引きずって殿下の部屋を目指していくのであった。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。
石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。
ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。
ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。
母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる