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明け方に起こる出来事
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殿下が準備できたということで、私を執務室まで呼びにきた。
豪奢な青紫薔薇のドレスを揺らしながら、殿下にベッタリ甘えて廊下を歩く。
殿下に対して、そんなことをしたことがなかったから妙に恥ずかしいが、廊下ですれ違う侍従やら文官やら……には、しっかり印象付けられただろう。
「こんなことは、もっと前にしてほしかったなぁ……」
「何か言いましたか?」
「いや、アンナとこんな恋人と歩くように一緒に歩いたことがなかったなと思って」
「シルキー様に言います?」
「言わんでいい!」
仲のよさそうなふうに、周りから見えるようにくっつきながら、殿下の部屋に二人で入っていく。
後ろにいた兄は、部屋の前で追い返されているのを何人もの城の侍従たちが見ていた。
それを確認して、私は殿下の部屋の中から兄に手を振っておく。
部屋に入ってすることは、殿下とベッドで仲良くすることではなく、用意された服に着替えることだ。
「殿下、見ないでくださいね!」
「あぁ、見ない、見ない!」
「下着もあるんですね!わぁー気が利きますね!」
「俺が選んだわけじゃないからな!」
「ふふ、わかってます。じゃあ、ありがたく、下着も使わせていただきますね!」
私は来ていたドレスも下着もぺいぺいっと脱いでいく。
そして、用意してもらったお仕着せと下着に着替えるのだった。
「殿下、出来ました!あっ!ドレスはそのままにしておきましょう!
もし、メイドや侍女が入ってきたときを考えて……うーんと……確かこの辺に……」
うんしょっと……出してきたのは、頃合いよろしいツボである。
「今晩は、これを抱いて寝てください。
あと、これを私だと言い張って布団をかぶせておいてくださいね!
じゃあ!私はシルキー様の側に行ってきますから、ごきげんよう!」
「あ……アンナ!これは……どう考えたって、浮気じゃないか?」
「何をおっしゃいます!第二妃がいて、さらに妊娠までしているのに、今更ですよ!
シルキー様には、誤解は解いておきますから!
あと、もし、ジョージア様から何かしらきたら、無視しておいてください!
アンナから別居していたと聞いているとかなんとか言ってやってください!」
「いやいや……ちょっと……!」
殿下の話は聞く耳持たず、イロイロ仕込んだお仕着せを着て、とっとととんずらしてシルキーの部屋に意気揚々と滑り込む。
幸い部屋には誰もいなかった。
きっと、隣にはちゃんと侍女がいるのだろうけど……今は夜も深まる時間なのだから、静かな方が助かる。
気が気じゃない殿下は、ツボを抱いて寝てくれるはずだからほったらかしにして大丈夫だろう。
うなされているシルキーの側による。
「シルキー様、大丈夫ですか?」
うなされているのだから、起こしても大丈夫だろうと少し揺さぶる。
すると、気が付いたのか、うっすら目を開けた。
「誰じゃ……?死神かえ?」
「シルキー様、アンナリーゼですよ!」
確かにお仕着せを着ているので服装は真っ黒で見えなくもないが……死神とは、言われた方は寂しい。
「気分はどうですか?」
「あぁ、ほんの少しだけ、あの薬を飲んだからかいい気がする」
「それは、よかったです。私、朝までここにいますから、ゆっくり休んでください」
「あぁ、ありがとなのじゃ……アンナリーゼ、世話をかけるな……」
「何をおっしゃいます!殿下にはたっぷり報酬を払ってもらいますから大丈夫です。
気になさらずにゆっくり眠ってください」
「アンナリーゼ……わらわは、眠るのが、怖い。
もう、目覚めないのじゃないかと思って……眠れぬのじゃ……」
涙を瞳にいっぱい貯めたところで決壊して頬を伝う。
その涙を、お仕着せに入っていたハンカチで拭ってやる。
「シルキー様、大丈夫です。必ず、明日は来ますし、明日もちゃんと起きられます。
何なら、今晩は、手をずっと握っていてあげますよ?」
そういうと、動きにく手を必死に動かして私の前まで持ってきた。
握ってくれということなんだろう。シルキーの手を取る。
毒によって手が冷たく紫色に変色している。
解毒が間に合わなければ、もって数日だっただろう。
ヨハン教授の万能解毒剤は、シルキーの小さな体を救うと私は確信している。
「シルキー様、生きることを決して諦めてはダメですよ!
ジルアート様が、シルキー様をお待ちですから!
私にも、シルキー様からジルアート様を紹介してくださいね!」
頷いている。私の手の体温が伝わっているのか、少し眠そうに眼を閉じる。
「ゆっくりお休みなさいませ!」
さて、私はシルキーの手を握りながら床にぺたんと座る。
春とはいえ、冷えるので下に毛布を引いているのだが、それでも寒い気がする。
お客さんが来るまですることがないので、領地に思いを馳せる。
本来なら、昨日、商人や職人への説明会に参加しているはずだったのだ。
私不在でもなんの問題もないことは、わかっていてもどうなったのか、気になるものは仕方がない。
どれくらい領地の商人や職人から賛同はもらえたのだろう。
私の案に、それぞれ思つく限りのことを詰め込んでくれた。
アンバーで生まれ育った商人を中心にしているので、それなりに共感をえやすだろうが……うまくいっていることを祈るばかりだ。
静かにシルキーの寝息が響くこの部屋に、こっそり入ってきた人物がいる。
その人物は、部屋が真っ暗なため、私には気づいていないようで、そぉーっとシルキーに近づいてきた。
私はずっと、真っ暗の中にいたため目が慣れているので、近づいてきたその人物を視線で補足する。
すると、少し開いたカーテンから入ってきた月光に鈍く光るものが見える。
それは、ナイフだった。
じっくりその人物を観察していると、先ほどと同じように月光に照らされ、その人物が見えた。
暗殺に関して全くの素人のようで、握るナイフも震えているし、顔もすごく強張っていた。
これは、また、うちの侍女と同じ案件なんだろうか?と私は心底嫌な気持ちになったが、この侍女を止めない限り、シルキーは命を狙われる。
なので、私もお仕着せの裾を上げ、脛に仕込んだディルにもらった公爵家の身分証明にもなるナイフの柄を握り、そっと抜き身にした。
握っていたシルキーの手をそっと離し、私はゆっくり音をたてないように少しベッドの裾に身を移動させる。
すると、侍女なのかメイドなのか、扱いなれていないナイフを逆さに持ち体をグッと仰け反らせて頭上まで持ち上げるのである。
プルプル震えながら、シルキーに狙いを定めて振り下ろそうとする。
ただ、この人物、人を殺したことがないのだろう。
また、その覚悟も決まっていないのだろう。
その動作のまま、戸惑うように固まってしまった。
私はサッとその人物の後ろに体を添わせるようにピタっとくっついて、持っていたナイフを目の前の人物の首に宛がう。
「動かない方がいいと思うけど、どうする?」
「……」
「……だんまり?」
「…………」
「……私、好きじゃないなぁ?だんまり」
「…………」
「な……」
さすがにのんびりすぎたのか、逃げようとして私の方に体重を預け、私のナイフと自分のクビの間に持っていたナイフを滑り込ませたようで、私から逃げてしまった。
なかなかどうして機転がきくようだ。
それなら、もっと早く、シルキーを狙うべきだと思うのだが……自分の命可愛さゆえの逃げだったのだろう。
「あなたは……アンナリーゼ様?」
「あら、私を知っていて?」
「殿下と今頃ベッドにいるんじゃなかったのですか?」
私は、ふふっとさもおかしそうに艶やかに笑う。
久しぶりに刃物を握ったことで、若干、私は高揚しているようである。
なんだか、危ない人みたいだと思うと笑えてくる。
「残念ね……殿下じゃ、私を満足させられなかったのよね?」
距離を取られたので、私は、わざと月光が入る窓の方へと歩いていく。
それをじっと見つめるお客人。
客の後ろには、目的であるシルキーが眠っているが、私のことを知っているということは背中を向けた瞬間にどうなるかの想像も織り込み済みのようだ。
なので、シルキーでなく私をじっと見ているのだろう。
「大人しく、殿下と夜を共にしていればいいものを!!」
その瞬間、私に向かって駆けてくる。
様子を見ればわかる。
私に一直線に駆けてくるのだ……接近戦で勝てると思っていてよっぽどの自信があるのか、捨て身なのか……そのどちらかだけど、後のが彼女の答えだろう。
「あなた、なら……楽しませてくれるかしらね?」
目の前に迫るナイフを私は自分のナイフで右にいなす。
ナイフとナイフがこすれ、火花のようなものが飛ぶがお構いなく、彼女が通り過ぎる瞬間を狙って左手で襟ぐりを掴み、右側の膝を差し出し蹴り上げる。
彼女が駆けてきた力と私が蹴り上げたタイミングが良かったのか腹に食い込むように入った。
手ごたえありだ。
そして後ろに倒れた彼女は、夕飯だろう、吐いている。
うーん……汚い。
まぁ、こういうもんだよね……きっとプロじゃないし。
なんて、彼女を見下しながら、死なれては困るのでまずナイフを取り上げることにした。
よっぽど苦しかったのか、四つん這いになってまだはいているのだが、しっかり握られたナイフの平を思いっきり踏んずけ、握っていたナイフを落とさせる。
床とナイフの柄に挟まった指が痛かったのとビックリして、ナイフを手離してしまったようだ。
こういうとき、武器というのは、何があろうとも手放してはいけないのが鉄則なハズだ。
驚いているところ悪いんだけど、もう一度、顎のあたりを蹴り飛ばしてやるとくたっとしている。
そして、私は自分のお仕着せをナイフで切り裂き、ケホケホと咳き込んでいる客の口をふさいでやる。
「ひゃひふぉふるうふぅ……」
「うるさい!」
しゃべられると、面倒なので意識もかっておこう、うん。
首元に手刀をトンっとすると、おもしろいほどあっさり倒れた。
「動かれるの面倒ね……こんなことなら、もっといろいろ準備してもらうんだった。
まさか、こんなに早く来ると思ってなかったからなぁ……はぁ……バカなのかしら?」
気絶した女を縛るために自分のお仕着せをまたまたナイフで割くとそれを繋げていってロープの代わりにする。
「これ、切れないわよね?まぁ、この子なら……大丈夫でしょ」
よしっと!グルグルと縛って満足した私は、見下ろした女を連れて、殿下の部屋まで行くことにした。
もぅそろそろ私の変わりが着てくれるころだろう。
シルキーが浅い寝息をたてていることを確認し、思いのほか重たい女を引きずって殿下の部屋を目指していくのであった。
豪奢な青紫薔薇のドレスを揺らしながら、殿下にベッタリ甘えて廊下を歩く。
殿下に対して、そんなことをしたことがなかったから妙に恥ずかしいが、廊下ですれ違う侍従やら文官やら……には、しっかり印象付けられただろう。
「こんなことは、もっと前にしてほしかったなぁ……」
「何か言いましたか?」
「いや、アンナとこんな恋人と歩くように一緒に歩いたことがなかったなと思って」
「シルキー様に言います?」
「言わんでいい!」
仲のよさそうなふうに、周りから見えるようにくっつきながら、殿下の部屋に二人で入っていく。
後ろにいた兄は、部屋の前で追い返されているのを何人もの城の侍従たちが見ていた。
それを確認して、私は殿下の部屋の中から兄に手を振っておく。
部屋に入ってすることは、殿下とベッドで仲良くすることではなく、用意された服に着替えることだ。
「殿下、見ないでくださいね!」
「あぁ、見ない、見ない!」
「下着もあるんですね!わぁー気が利きますね!」
「俺が選んだわけじゃないからな!」
「ふふ、わかってます。じゃあ、ありがたく、下着も使わせていただきますね!」
私は来ていたドレスも下着もぺいぺいっと脱いでいく。
そして、用意してもらったお仕着せと下着に着替えるのだった。
「殿下、出来ました!あっ!ドレスはそのままにしておきましょう!
もし、メイドや侍女が入ってきたときを考えて……うーんと……確かこの辺に……」
うんしょっと……出してきたのは、頃合いよろしいツボである。
「今晩は、これを抱いて寝てください。
あと、これを私だと言い張って布団をかぶせておいてくださいね!
じゃあ!私はシルキー様の側に行ってきますから、ごきげんよう!」
「あ……アンナ!これは……どう考えたって、浮気じゃないか?」
「何をおっしゃいます!第二妃がいて、さらに妊娠までしているのに、今更ですよ!
シルキー様には、誤解は解いておきますから!
あと、もし、ジョージア様から何かしらきたら、無視しておいてください!
アンナから別居していたと聞いているとかなんとか言ってやってください!」
「いやいや……ちょっと……!」
殿下の話は聞く耳持たず、イロイロ仕込んだお仕着せを着て、とっとととんずらしてシルキーの部屋に意気揚々と滑り込む。
幸い部屋には誰もいなかった。
きっと、隣にはちゃんと侍女がいるのだろうけど……今は夜も深まる時間なのだから、静かな方が助かる。
気が気じゃない殿下は、ツボを抱いて寝てくれるはずだからほったらかしにして大丈夫だろう。
うなされているシルキーの側による。
「シルキー様、大丈夫ですか?」
うなされているのだから、起こしても大丈夫だろうと少し揺さぶる。
すると、気が付いたのか、うっすら目を開けた。
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「シルキー様、アンナリーゼですよ!」
確かにお仕着せを着ているので服装は真っ黒で見えなくもないが……死神とは、言われた方は寂しい。
「気分はどうですか?」
「あぁ、ほんの少しだけ、あの薬を飲んだからかいい気がする」
「それは、よかったです。私、朝までここにいますから、ゆっくり休んでください」
「あぁ、ありがとなのじゃ……アンナリーゼ、世話をかけるな……」
「何をおっしゃいます!殿下にはたっぷり報酬を払ってもらいますから大丈夫です。
気になさらずにゆっくり眠ってください」
「アンナリーゼ……わらわは、眠るのが、怖い。
もう、目覚めないのじゃないかと思って……眠れぬのじゃ……」
涙を瞳にいっぱい貯めたところで決壊して頬を伝う。
その涙を、お仕着せに入っていたハンカチで拭ってやる。
「シルキー様、大丈夫です。必ず、明日は来ますし、明日もちゃんと起きられます。
何なら、今晩は、手をずっと握っていてあげますよ?」
そういうと、動きにく手を必死に動かして私の前まで持ってきた。
握ってくれということなんだろう。シルキーの手を取る。
毒によって手が冷たく紫色に変色している。
解毒が間に合わなければ、もって数日だっただろう。
ヨハン教授の万能解毒剤は、シルキーの小さな体を救うと私は確信している。
「シルキー様、生きることを決して諦めてはダメですよ!
ジルアート様が、シルキー様をお待ちですから!
私にも、シルキー様からジルアート様を紹介してくださいね!」
頷いている。私の手の体温が伝わっているのか、少し眠そうに眼を閉じる。
「ゆっくりお休みなさいませ!」
さて、私はシルキーの手を握りながら床にぺたんと座る。
春とはいえ、冷えるので下に毛布を引いているのだが、それでも寒い気がする。
お客さんが来るまですることがないので、領地に思いを馳せる。
本来なら、昨日、商人や職人への説明会に参加しているはずだったのだ。
私不在でもなんの問題もないことは、わかっていてもどうなったのか、気になるものは仕方がない。
どれくらい領地の商人や職人から賛同はもらえたのだろう。
私の案に、それぞれ思つく限りのことを詰め込んでくれた。
アンバーで生まれ育った商人を中心にしているので、それなりに共感をえやすだろうが……うまくいっていることを祈るばかりだ。
静かにシルキーの寝息が響くこの部屋に、こっそり入ってきた人物がいる。
その人物は、部屋が真っ暗なため、私には気づいていないようで、そぉーっとシルキーに近づいてきた。
私はずっと、真っ暗の中にいたため目が慣れているので、近づいてきたその人物を視線で補足する。
すると、少し開いたカーテンから入ってきた月光に鈍く光るものが見える。
それは、ナイフだった。
じっくりその人物を観察していると、先ほどと同じように月光に照らされ、その人物が見えた。
暗殺に関して全くの素人のようで、握るナイフも震えているし、顔もすごく強張っていた。
これは、また、うちの侍女と同じ案件なんだろうか?と私は心底嫌な気持ちになったが、この侍女を止めない限り、シルキーは命を狙われる。
なので、私もお仕着せの裾を上げ、脛に仕込んだディルにもらった公爵家の身分証明にもなるナイフの柄を握り、そっと抜き身にした。
握っていたシルキーの手をそっと離し、私はゆっくり音をたてないように少しベッドの裾に身を移動させる。
すると、侍女なのかメイドなのか、扱いなれていないナイフを逆さに持ち体をグッと仰け反らせて頭上まで持ち上げるのである。
プルプル震えながら、シルキーに狙いを定めて振り下ろそうとする。
ただ、この人物、人を殺したことがないのだろう。
また、その覚悟も決まっていないのだろう。
その動作のまま、戸惑うように固まってしまった。
私はサッとその人物の後ろに体を添わせるようにピタっとくっついて、持っていたナイフを目の前の人物の首に宛がう。
「動かない方がいいと思うけど、どうする?」
「……」
「……だんまり?」
「…………」
「……私、好きじゃないなぁ?だんまり」
「…………」
「な……」
さすがにのんびりすぎたのか、逃げようとして私の方に体重を預け、私のナイフと自分のクビの間に持っていたナイフを滑り込ませたようで、私から逃げてしまった。
なかなかどうして機転がきくようだ。
それなら、もっと早く、シルキーを狙うべきだと思うのだが……自分の命可愛さゆえの逃げだったのだろう。
「あなたは……アンナリーゼ様?」
「あら、私を知っていて?」
「殿下と今頃ベッドにいるんじゃなかったのですか?」
私は、ふふっとさもおかしそうに艶やかに笑う。
久しぶりに刃物を握ったことで、若干、私は高揚しているようである。
なんだか、危ない人みたいだと思うと笑えてくる。
「残念ね……殿下じゃ、私を満足させられなかったのよね?」
距離を取られたので、私は、わざと月光が入る窓の方へと歩いていく。
それをじっと見つめるお客人。
客の後ろには、目的であるシルキーが眠っているが、私のことを知っているということは背中を向けた瞬間にどうなるかの想像も織り込み済みのようだ。
なので、シルキーでなく私をじっと見ているのだろう。
「大人しく、殿下と夜を共にしていればいいものを!!」
その瞬間、私に向かって駆けてくる。
様子を見ればわかる。
私に一直線に駆けてくるのだ……接近戦で勝てると思っていてよっぽどの自信があるのか、捨て身なのか……そのどちらかだけど、後のが彼女の答えだろう。
「あなた、なら……楽しませてくれるかしらね?」
目の前に迫るナイフを私は自分のナイフで右にいなす。
ナイフとナイフがこすれ、火花のようなものが飛ぶがお構いなく、彼女が通り過ぎる瞬間を狙って左手で襟ぐりを掴み、右側の膝を差し出し蹴り上げる。
彼女が駆けてきた力と私が蹴り上げたタイミングが良かったのか腹に食い込むように入った。
手ごたえありだ。
そして後ろに倒れた彼女は、夕飯だろう、吐いている。
うーん……汚い。
まぁ、こういうもんだよね……きっとプロじゃないし。
なんて、彼女を見下しながら、死なれては困るのでまずナイフを取り上げることにした。
よっぽど苦しかったのか、四つん這いになってまだはいているのだが、しっかり握られたナイフの平を思いっきり踏んずけ、握っていたナイフを落とさせる。
床とナイフの柄に挟まった指が痛かったのとビックリして、ナイフを手離してしまったようだ。
こういうとき、武器というのは、何があろうとも手放してはいけないのが鉄則なハズだ。
驚いているところ悪いんだけど、もう一度、顎のあたりを蹴り飛ばしてやるとくたっとしている。
そして、私は自分のお仕着せをナイフで切り裂き、ケホケホと咳き込んでいる客の口をふさいでやる。
「ひゃひふぉふるうふぅ……」
「うるさい!」
しゃべられると、面倒なので意識もかっておこう、うん。
首元に手刀をトンっとすると、おもしろいほどあっさり倒れた。
「動かれるの面倒ね……こんなことなら、もっといろいろ準備してもらうんだった。
まさか、こんなに早く来ると思ってなかったからなぁ……はぁ……バカなのかしら?」
気絶した女を縛るために自分のお仕着せをまたまたナイフで割くとそれを繋げていってロープの代わりにする。
「これ、切れないわよね?まぁ、この子なら……大丈夫でしょ」
よしっと!グルグルと縛って満足した私は、見下ろした女を連れて、殿下の部屋まで行くことにした。
もぅそろそろ私の変わりが着てくれるころだろう。
シルキーが浅い寝息をたてていることを確認し、思いのほか重たい女を引きずって殿下の部屋を目指していくのであった。
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