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ハニーアンバー1号店

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 砂糖を入れる容器と葡萄酒を入れる容器について考えていたら、そういえば、領主が後ろ盾となって商売をしようとしていることを思い出し、急遽その話をまとめないといけないことに気付いた。
 もっと、早く気づくべきだったのだが……私って、いつも詰めが甘い。
 それに、誰か気付いてもいいのではないかと思ったが、きっと新しいことを手広くしているおかげで、誰もが見落としていたのだろう。

 ここに集めたのは、ノクト、セバス、ニコライだ。
 まずは、私の思いの丈を述べるべきだろう。
 そうしないと、どういう風に動くのが効率的で、納得がいく話にできるのか、領地の頭たちが考えられない。
 本当に私は、思いつきを言って旗をブンブン振り回すだけが仕事なのだ。
 優秀な頭の持ち主がいることはとても助かる。
 ジョージア様は、これを一人でしていたのか……そう思うと辛くなってきた。
 私には、到底無理な話である。
 ジョージアも義父もとても成功していたとは……言い難いのだが、それでも頑張っていたことは認めよう。
 私は、本当に人に恵まれているな、改めて集まった三人を見ると微笑んでしまった。


「ニコライ、結構前に領主主導で領地全体を商会としたいと言っていたことは覚えていて?」
「はい、あのとんでもない話ですよね。それを始めるのですか?」
「そう、この前、砂糖を入れる容器の話をしてて、その話をしていなかったことを思い出して……
 そろそろ、始動させたいのだけど……意見くれるかしら?」
「僕は、賛成します。
 別に僕を中心にしてもらえるからっていうわけでなく、アンナリーゼ様が求める三国で
 商売を展開したいと言うのであれば、領地一丸として打って出ないとだめだと感じています」


 ノクトは、その話をニコライから少し聞いていたらしく、腕を組みながら片手で顎を撫でている。
 実際問題、ノクトは領地運営の経験者であり、将軍であり、大商人でもあるのだ。
 国の中枢にいてもおかしくないような人物が、アンバー領という辺鄙な片田舎で領主の片腕として働いてくれるのは、正直勿体ないのだがありがたい。
 ただ、やはり、難しい顔をしているのは、先が見えないからだろう。
 領地自体が疲弊しているのだから、それを補うために商売を一本化にしていいのだろうかと疑問が残っているようだ。

「アンナよ?」
「何かしら?」
「それ、本当にするのか?」
「ダメかしら……?」
「いや、初めて聞いたもんだから、よくわからないんだが……」
「私も初めてするから、どこに落ち着くかはわからないけど……
 アンバー領をひとつの商店とした場合、領地で採れたもはもちろん領地内で消費もするけど、
 どうしても余剰分ってあると思うの。
 聞いた話だけど、それをうまく捌けていないのよ。
 例えば、葡萄酒ね。
 今回、ローズディアの公世子様とトワイスの王太子を宣伝の広告として使った。
 全く需要がなくてやめてしまっていた葡萄酒が、今では入手困難で実は高値で出回っているのを
 ご存じ?」


 三人とも知らなかったようで、首を横に振る。
 これは、私が値を吊り上げたわけだが……公国で葡萄酒を持っているのは、アンバー領地を除くと公世子とカレンのみなのだ。
 二人ともが愛飲者となってしまったので、元々少ないのに安い葡萄酒まで買い占めた。
 すると、必然的に価値が上がって値もあがる。
 今回は、上がり方が異常というか、想像のさらに上をいく形になってしまっているのだ、嬉しい誤算は大歓迎なので傍観しているところだ。
 プレミアものの『赤い涙』であれば、今は、安くても相場の5倍はしているらしい。
 手元に樽があるので、実は小出しでオークションなるものをしている南の領地で売りさばいているところだ。
 この情報は、エルドアで運輸業を始めているエレーナが教えてくれた情報なのだが、荷物を運ぶ仕事柄、その荷物が違法なものでないこと、届ける場所で何が行われているか事前調査をするらしい。
 そのおかげで、手に入れたオークションという売り場の情報なのだが……エレーナを介して2週間に1本売ってみたら、えらい額で売れたので、正直私自身が驚いている。
 ちなみに、『赤い涙』1本10000するのだが……今、安くて50000、高くて500000だそうだ。
 そのときのせり具合で値段が変わってしまうが、公世子の宣伝効果は途轍もなった。
 もう、捨てるかユービスがチビチビと買っていたくらいで利益の出なかったものがこのままだと酒蔵をもう1つあっという間に建てられるくらい稼いでいるのだ。


「と、いうことなのよ。
 これを個人でやろうとすると限界が来るけど、品替え人替えやり方替えしながら、上手に領地全体で
 補っていけば成り立つのよ。
 小麦も有り余っている土地と足りない土地があったけど、領地内だけでも上手に情報伝達ができて
 いなかった。
 これを一手に倉庫を持ては、余剰のところから買い取れて、不足のところへは供給ができるように
 なる。
 領地全体では、小麦や麦は、実は余剰なのかもしれない。
 領地でも何があるかわからないから、貯えることもするけど……多すぎるものは、他領の足りない
 ところへ売っちゃえば、アンバー領地へお金が流れるようになる。
 あと、アンバーって物価が高いでしょ?」


 ノクトは、思い当たるところがあるのか頷いてくれる。
 ニコライは、それが当たり前なので気づきにくようだ。


「他領から一括で大量に仕入れれば、安く手に入るようになるの。
 そうすれば、領内の物価が下がるから、領民も商品を手に取りやすくなる」
「領地内の経済が回るようになるということですか?」


 黙って聞いていたセバスが、導いた答えは正解だ。
 私が出した最終目的は、領地内の経済活動を活性化させること。
 そのためには、まず、物価を下げる必要がある。
 どこを見ても何を見ても高いのだ……こんな辺鄙な領地で今の値段だと、とてもじゃないけど、生活を圧迫しているのは目に見えている。
 今は、まだ、私が発注している仕事のおかげで回っている町や村があるが、それだけじゃ立ち行かなくなる。


「私が考えていることは、最終的にセバスが言った通り。
 領地内の経済活動の活発化を目指しているの。
 そうすることによって、生活が豊かになることを望んでいるわ。
 私が初めてこの地に来たときに、目指すところのみんながなるべく笑顔で過ごせる領地っていうのは、
 そういうこと。
 自分が稼いだお金で、好きな食べ物を好きな服を買えること。
 それも、今より安い値段で……服もオートクチュールである必要はないのよ。
 大量生産しているものを自分らしく着れば、自分だけの着方になるわけだから」
「それで領地をひとつの商店として扱うか……やっと納得はしたが、小さい商店がたくさんあるはずだ。
 それらは、どうするのだ?」
「それを今から考えるのよ……例えばなんだけど……考えられることは2つあるの。
 1つ目は領地全体から買い付けたものを、小商店が買い取って売る方法。
 この場合、手数料として10%~15%の上乗せをした状況で売り渡す。
 2つ目は、商店を子会社化してそのままの額で流すの。
 売上金は、全部本店である領地へ献上することになるけど、お給金という形でその人たちを雇っても
 いいかなって思っているわ。
 どちらが得か……一目瞭然だと思うのだけど、私なら後者を選ぶけど、この領地の領民は、どちらを
 選ぶかしら?
 領民の職人たちには、なるべく良心的な値段設定で仕事をしてもらって、他領は、多少買い叩く
 くらいでって思っているの。
 どうせ、今の料金を見る限りでは、他領の商人に吹っ掛けられているのでしょうからね!」


 私、何かおかしなことを言ったかしら?
 とても驚いてますと言う顔を私に向けてくる商人二人と公都の文官。
 私がこの領地で公都で生まれた国で感じたことをまとめてみただけだ。
 ただ、それだけだったのに、驚き感心されるのは、バカにされているような気がする。
 いや、実際おバカさんなんだけど……ね?
 それにしてもだよ……と思って、三人に心の中で文句を言いながら見つめ返すのであった。
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