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設計、設計、設計

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「じゃあ、先に住むところの設計してもらってもいいかしら?
 イメージは、警備隊の宿舎なんだけど、気持ち部屋を大きくしてあげてほしいわ!
 あと、家族を連れてきている人用に二部屋を一部屋にしたりしてほしいの。
 せっかくアンバーに、きてくれたのだもの。そのまま、できれば、住みついてほしいの」
「わかりました。では、こちらは、設計ができ次第、お屋敷にお持ちします。
 あとは、砂糖を作るための工場の設計でしたか?」
「そうね、イチア、工場の設計は、だいたいこんな感じのものと教えてくれるかしら?
 それを土台に作業してくれる人に見せて、使い勝手とかを確認してほしいのだけど」
「わかりました、では、私がそちらの設計に関して、関わらせていただきます」


 お願いねとイチアに一任してしまう。
 設計士と頭を突き合わせるようにしながら、話始めている。
 その姿を見ると、イチアって軍師もしてたし、本当に物知りなのねと感心してしまう。
 兄がいるようなものかと思ったが、兄はいわゆる図書館みたいなもので知識を詰め込んであるだけだ。
 それもすごいのだけど……イチアは、所謂図書館にいる司書だ。
 どこでどの知識が必要なのかをきちんと把握している。
 図書館の本を好きなときに、必要なものを引っ張り出せることが素晴らしい。
 セバスは……どちらかというと、兄に近いだろう。
 まだまだ若いセバスなら、イチアの頭の中の図書館と司書業務を受け継ぐことができるだろう。
 それは、とてもとても貴重なことだ。
 さらに、それを引き継いでくれる下の人材がパルマになるのだろうか?
 次代も考えていかないといけないなと、イチアを見る。


「次は、砂糖を作る道具よね……それは、えっと……イチアがいないと進まない!」


 今、工場建設の話をし始めたばかりなのだ。
 こちらに呼び寄せるべきではないので……とりあえず、別の話をすることにした。


「じゃあ、先に砂糖を入れる容器の話をしましょう。そしたら、運ぶようの箱も決められるものね!
 瓶や陶器の器を作ってる工場って、アンバーにどれくらいあるのかしら?」
「瓶は3軒、陶器の器を作っているのが2軒ありますよ!」


 私の問いに答えたのは、他の誰でもないインゼロ帝国出身のイチアで正直驚いた。
 もう、アンバーのことをそれほど把握しているのかと。
 きっと頭もいいのだろうし、アンバー領地の先生役をしているセバスの教え方もいいのだろう。
 私なんて年単位で勉強していてもまだ覚え切れてないのに……と、悔しく思う。
 今は、私を補うためにみんながいるんだと言ってくれたセバスの言葉に甘えようと思っている。
 前だけを見て、歩こう。うん。


「イチア、ありがとう。
 それじゃあ、どんな容器が理想かしら?
 例えばなんだけど、容器ごと売る場合と、中身だけを売る場合で容器を変えられる思うのよね。
 容器ごと売れば、そのままその容器を砂糖入れとしても使えるでしょ?
 その後は、中身だけ紙袋とかに入れて売るようにすれば、容器の使いまわしができるわよね。
 あとは、葡萄酒の入れ物に砂糖って入れることは可能かしら?」
「それで、何するわけ?」


 ウィルは、不思議そうに話に入ってくる。
 確かに、葡萄酒の瓶に砂糖を入れるって聞いたこともないはずだ。


「商店側が量り売りするときに便利かなって。
 売るまでの持ち運びは、容器に入れてした方がいいと思うのよ。
 ネズミやアリに狙われないとも限らないから、保管するには紙袋では不安が残るの。
 売ったその後、店先から容器だけを回収して使い回すとか……ダメ?」
「それ、いいですね?領地のゴミ問題もありますからね。
 回収すると瓶代を返すとかしたら、領民でも持ってきてくれそうですよ」


 イチアは、離れたところで工場の話をしつつもこちらの話にも入ってくる。
 さすがだ……同時進行もバッチリアイデアを盛り込んでくる。
 なるほど、おもしろい発想だ。


「それなら葡萄酒もそうしたら、どう?」
「それ、いいかも!使いまわせば……入れ物を作る手間が省ける。
 例えば……コップで提供するような酒場なら普通の量産できる瓶にラベルを貼ればいいし、
 他領に出す分で、瓶の回収ができないことを見越して、瓶を少し凝ったものにして、
 ほんの少し割高にしてしまうの!
 瓶は、中身のお酒さえ飲んでしまったら邪魔なものだったけど、価値あるものに変えれば、
 コレクターとかでないかしら?
 毎年、プレミアのものだけ特殊な形の瓶にするとかしたら、職人さんも腕がなったりしないかしら
 ねぇ?」



 私の提案に、ノクトが問うてくる。
 砂糖も葡萄酒もどこまで販路を広げるつもりかと。


「とりあえず、ここ2年くらいは領地や公都周辺を目途にしたいわ!
 葡萄酒に関しては、すでにトワイスにも流しているからもっと広い範囲で販路はできているの。
 砂糖は、まだ、できてもいないから領地内で細々とって感じかしら?」
「そうだな。砂糖は、まだ、どうなるかわからないからな……
 とにかく、早いうちに肥料をまいて、いつでも種をまける状態にしておかないと……
 蒔かん種は生えんからな!」


 ノクトの言う通り、確かにそうだ。
 こんなところで、種をまかずに足踏みしている暇はない。


「ノクト、明日からでも砂糖農家の人にお願いできるかしら?」
「おぅ、いいぞ!今日は帰ったら一走り警備隊の宿舎にいってくらぁー!」
「お願いね!」
「今から行ってきてもいいけど……俺を除け者になるのか?」
「そんなつもりは、ないわ!」
「じゃあ、姫さん、俺、行ってくるよ。
 ちょっと、警備隊のところにレオとミアも連れて行きたかったし」
「わかった、ウィルにお願いするわね!それより、農家の人ってウィルのこと知ってるの?」


 私の質問は、真っ当だと思う。
 領地に来てから、ずっとウィルは私の側で色々動いてくれていたはずなのだから。


「あぁ、姫さんが公都にいる間に顔は合わせてるから大丈夫」
「そっか。1週間あったものね」
「まぁ、それ以外でもちょくちょくリリーと一緒に宿舎には行ってたから、仲は悪くないはず」
「わかった、じゃあ、お願いね!」


 心得たとウィルは返事してくれ、先に帰ることになった。
 馬で来ていたので、そのまま帰っていく。



 見送ったところで、私たちは容器を作る職人とそれを売る商会を次々と尋ねることにした。
 まずは、見本と見積もりが必要だった。
 予算は、大事だ。
 どんぶりでできることもあるけど、しっかり予算と見積もりと計上していかないとあっというまにお金って無くなっていく。
 泡のようだとはよくいったものだ。

 今度、容器を作るにあたって、説明会をしたいから領地の屋敷に来てほしい旨を手紙にして伝えることにした。


 しばらくしてから、ほとんどが色良い返事をくれたので、それでよしとした。
 一軒だけは、返事すらしてもらえなかった。
 職人さんって……難しい。

 私が女だっていうのも気に入らなかったみたいで……それは仕方がないことだ。
 性別が変わるわけでもないし、男性である意味が私には理解出来なかった。
 他の職人に聞いたら、その職人はこういったそうだ。
『女神が嫉妬するからダメ』って……私、褒められてる?いやいや、そういうことじゃないんだろう。
 確かに、火の神様って……この国では、女神様だった気がするけど、同じ土台にのってくれないと話ができないので困った。


 とりあえず、返事がなかったから、説明会の話だけしに行ったのだ。
 あとは、本人が、どう判断するかだ。
 みんながこの話にのってくれることを期待するばかりである。
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