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軽いおじさんと普通の話

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「それで、来てもらって早々で悪いのだけど、こちらでの用事を少し済ませてから、私達と公都へ行って
 ほしいの!」


 この前は、してやられたので私の話から先に持っていく。


「俺が、公都を闊歩していてもいいのか?」
「さすがに、そういうところはわかっているのね?まず、ここにいるのもまずいと思うわよ?」
「それもそうだが……」
「帯剣せずに私達と一緒に公に謁見してほしいのよ!」
「それが1番ダメな気がするが……?」


 ノクトは、私を試すように見てくる。
 でも、ノクト将軍としてインゼロの使者として公に会いに行くわけではない。
 あくまで、私の従者として、アンバー公爵領の領民として私についてきたということならなんの問題もないだろう。
 しかも、こんなガタイのいいおじさんなら、兼帯しなくても近衛相手なら十分戦える。
 唯一対等なのは、やはり近衛隊長かな?とあたりを付けるが、ウィルもエリックも善戦するだろう。


「そうかしら?ノクトは、私の従者になるのでしょ?
 なら、アンバー公爵領の領民であり、私に反旗を翻さない限りは守ってあげるわ!
 一応、ウィルたちは、従者でなくて友人よ?
 もう一度確認するけど、ノクトは本当に従者でいいの?」
「あぁ、ウィルたちは、そういっていたな?俺は、従者で構わない。
 もうインゼロに戻るつもりもないし、アンナの元でのびのび生活がしたい」


 私の答えに満足したのかニヤニヤ笑っている。
 このおじさん、くえないから嫌なのだが……味方でいてくれるならしっかり働いてもらう。


「のびのびと生活できると思わないで頂戴。なんたって、今のアンバー領はただの箱だもの。
 箱庭として楽しむには、何にも用意できていないからこれから私たちが作るのよ?」
「あぁ、確かそうだったな。いや、それこそが、俺の求める最高ののびのび生活だと思っておるのだが。
 幾日も幾日も家に帰らず、野営地で星を眺めるのもいいんだが、人を傷つける仕事というのは、
 心もすり減る。もう、引退してもいい頃だと思っていたところ……」
「飛んで火にいる夏の虫とは、私のことですか……?なんで、ノクトなんだろ。
 他に私たちに知り合いがいなかったのだけど、それにしても公にも言われたけど、エビで鯛を釣るって
 ことなのでしょ?あなた、それにしたって大物すぎるわ!
 しかも、軍師までついてくるだなんて……すでに、お腹いっぱいで胸やけしそうよ!」


 私は、家にいる気安さも手伝って愚痴ってしまう。
 でも、目の前にいる人物は、本当に大物も大物なのだ。
 人生経験も豊富である上に、公爵として領地も治めていた。
 将軍として、軍も動かして……人の命まで預かって……おまけに商人として、各国に出向いているのだ。
 この人、皇弟でもあるんだった。

 何……このすごすぎるおじさんって、恨み節も出る。
 私が目指すべきものすべてを経験してきたのだ。
 だからこそ、今回の領地改革に味方としていてくれる心強さもある。
 裏切られたとしても……何もないアンバー領なんて、誰が欲しがるのだって話だ。


「胸やけって……どっか悪いのか?」
「悪いわけないわよ!すこぶる元気!」
「じゃあ、いっちょ手合わせしないか?」
「嫌です!私、今、とっても大事なときなので、遊んで差し上げません!」


 従者のお願いを聞くのが主だとかなんとか言っているが……今、そういうことは、出来ない。
 まぁ、あと2年くらいは、無理だと思う。
 とにかく、今は、はぐらかしておくことにした。


「ウィルと遊べばいいじゃない?公都には爵位だけをもらいに行くわけではないのだから」
「ウィルをもらうってことか?」
「そうよ!もらうっていうか、無期限で借りるが正解」


 ちなみに私とノクトが話しているが、隣で黙ってジョージアとイチアはのんびりお茶を飲んでいる。
 私達の話には、我関せずという体である。
 そして、よっぽどなことを言わない限り、何も言わないでくれるようだ。


「少し領地の話をしてもいいかしら?」
「おう、いいぞ!」
「アンバー領は、10の町村でできているの。
 3つの町を、それぞれ仕切ってくれている大商人がいて、私の改革を手伝ってくれているわ」
「ほう、商人を使うとな?」
「えぇ、元々、私の友人の父親がアンバー領の大店だったのだけど、そこを通じて仕事の話をして
 いるの。
 近いうちにに紹介するけど、3つの照会のトップには、私の配下になってもらう予定よ!」
「それで?何をしようとしているのだ?」
「うん、まだ、そこまできっちり考えてないのよ。
 漠然とこういうことをしたいというのは考えているのだけど、まだ、形になっていないそんな感じね。
 ノクトには、私の配下になる人との繋がりをつけてほしいわ。
 まずは、さっきの商人3人とこの前会わせた私の友人たち、後は、この領地の人ね」
「繋がりねぇ?できるか?」
「心配いらないでしょ?ノクトには、領地運営の補佐と領地が経営する商会の補佐をしてほしいの!」


 なかなかおもしろそうだと、顎をかきながら含み笑いをしている。
 その姿が心底楽しんでいるようで、羨ましい。
 ノクトのように領地改革自体を私も楽しんでしないと、長くは続かないだろう。
 この人は、こんなことだけで無意識のうちに私の意識を引っ張り上げるのかと感心してしまう。


「ノクトなら、この領地の人たちにもすぐに好かれるでしょう!
 その性格なら、まさか、敵国の公爵だなんて誰も思わないもの」
「そうか?
 まぁ、拒否されることは少なかったが、皇弟で公爵だから無視できないってことだと思っていたのだ
 がな?」
「そうなの?むしろ、公爵だっていう方が、不思議なくらいよ!」


 私の評価が気に入ったようである。
 はっと笑い、話の続きを求めてくる。


「領地のほうは、公都から帰ってきてから本格的に回るとして、とにかく、砂糖栽培の研究を
 進めたいの。
 明日は、教授兼私の主治医を紹介するから……少し待っていてくれる?」
「あぁ、いいけど、2つ聞きたいんだが?」


 私は、何を聞かれるのだろうと身構える。
 その様子を見たイチアは、ノクトの服の裾を引っ張っている。
 私からはそれが見え、思わず笑ってしまった。


「何かしら?」
「んじゃ、なんで砂糖なんだ?この土地では育つか微妙だぞ?」
「やっぱりそうなのね!
 ヨハン教授が、種か苗かを手に入れたら作ってやるって言ったから、私本気にしちゃっただけよ!
 できるとは、思ってないし……でも、夢はあるの」
「未練が残っておるぞ?」
「そりゃそうよ!砂糖が作れるとなったら、領地でやりたいことも広がるのよ!
 まず、値段が高い砂糖を自領で作れるようになったら、原価も下がるから、砂糖を使った甘味が
 作れる。
 すると、もちろん売ることもできるし、何より甘味で喫茶店が作れるの。
 どれくらい、利益が出るかわからないけど……原材料が安くなれば、甘味も少し安く売れる。
 高級志向のお客ももちろん多いけど、この国も含め三国考えてみても庶民が8割をしめるのよ?
 そういうお客をターゲットに買い物に来て少し休むところの提供とおしゃべりできる場所の提供を
 すれば……」
「売り上げに貢献してくれるか……アンナの頭の中は一体どうなっておることやら……」
「すぐにうまくいくとは、思っていないけど、軌道に乗れば……」
「莫大な利益に繋がるか。
 今は、インゼロから他国を経由して自国へ輸入しておるのだったな?」
「そうよ!私が、甘いもの好きっていうのは知っていると思うけど……
 もちろん私も嬉しいし、領民の仕事に繋がって領地への収入にもなって、研究好きのヨハン教授も
 楽しめる。
 公都で受け入れられれば、利益も大きくなるだろうし、他所の領地でも支店が出せる。
 アンバー領地への還元を考えるには、だいぶ甘い考えだけど……決して悪い案ではないと思っている
 のよ。
 これは、全て、ヨハン教授が、砂糖の原材料を安定的に収穫できるよう品種改良なりをしれくれて、
 たくさんの砂糖が作れるようになったら……という夢物語でもあるのだけど……私は、楽しみで仕方が
 ないの!!」


 私のホクホクした顔を見て、ノクトも頷いている。
 道のりは、遠いかもしれないが、決して無駄になることはないと私は信じている。
 ヨハンが言い始めたのだ、何か勝算もあるのだろう。
 手放しで信じる。そして、疑うことも見極めることも。それが、私の仕事である。


 バラバラのようで実は、繋がっているのだ。
 公爵に必要なのは、邁進する領民を信じ、疑い、見極めることだ。
 判断1つで、領地運営は好転もすれば悪くなることもある。
 それをこれから、私が判断するのだ。
 ノクトはすでにずっとこの判断をしてきているのから、賞賛に値する。
 そして、私の姿を我が子に見せたいのだ。
 アンバー領だけでなく、三国をまとめ上げる女王には必要になる。
 ノクトという手本は、本当にありがたいものだったのかもしれない。
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