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侍女とは

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 目の前には、私の専属侍女デリアと新しく侍女になってもらうリアン。
 隣には、ジョージアがジョーを抱いて座っている。
 ジョーは、うつらうつらの舟をこぎ始める。
 寝かせてあげたいが、今からの話を考えてしばらくジョージアの腕の中でいてもらおう。


「さて、まずお互い顔は合わせたわね!じゃあ、リアン」


 私が呼びかけると少し背筋を伸ばして返事をしてくれる。
 それに私は微笑む。
 それほど緊張してもらわなくても大丈夫なのだが……デリアからの視線というか雰囲気に気おされている感じがする。


「私の専属侍女のデリアよ。
 仕事は、デリアから教わって頂戴。
 なんたって、あのノクトの侍女をお願いしないといけないから……
 我がままではないと思うけど、押しが強いのと豪快。
 いつの間にか、向こうのペースに巻き込まれるから……」


 私は、当の本人を思い浮かべため息が出てきた。
 それに反論したのは、デリアである。


「あの、ノクト様はそんな感じではなかったですよ?
 とても、丁寧な感じでこちらの言い分もきちんと聞いてくださる紳士でした。
 おかげで、とても、働きやすいのですけど……アンナ様との印象が違いすぎますね」
「えぇ……今、驚いた。
 私、会った人は……誰?と思ってしまったわ。
 それもこれも、交渉相手としての私と身の回りの世話をしてくれるデリアへの対応の違いね」


 デリアへ対する扱いが、あんな様子でなくてよかった。
 元々、ノクトは、争いごとが好きなようではないし、爵位があるからできないことが多いからこっちに逃げてきたいというような口ぶりでもあった。
 皇弟も公爵も将軍もと肩書が多すぎて、疲れたのだろうか?
 何はともわれ、デリアに対する扱いが丁寧だったことにホッと安心する。


「それと、先日からこちらで預からせてもらっているダドリー男爵の第三夫人のリアンよ!
 ノクトの侍女としてついてもらうから、指導よろしくね!」
「あの……アンナ様?」
「何かしら?」
「ダドリー男爵の第三夫人と聞こえたのですけど……聞き違いでしょうか?」
「いいえ、聞き違いではないよ!
 私が、必要な存在だと思ったので、引き抜きしたの。
 あと、夫人と言えど、元メイドなので役に立つとは思うわ!」
「あ……あの、デリアさん……よろしくお願いします!」


 おずおずとっという感じででデリアにリアンは挨拶をする。
 デリアは、納得できなかったのか、少し考えがあるのですが……と話始める。


「しばらく、リアン様には、アンナ様の侍女をしてもらうのはどうでしょう。
 お客様にたいして、外から来た人をすぐに宛がうのは、アンバー公爵家として、品位に問われます。
 それに、アンナ様の無茶……いえ、無理……うーん……ご要望をきっちりこなせるようになって
 初めて、お客様をお任せできると思いますので、まずは、アンナ様に振り……ご指導してもらって
 ください。
 アンナ様の要望がすべてこなせるようになれば、どんな相手であろうと主となる人の要望は最高の形で
 提供できます。
 失礼ですが、たかだか男爵家のメイドでは、公爵家の侍女はかなり難しいです。
 仕事量もさることながら、主人が何を求めているのか、好みの把握、必要なもの、必要としているもの
 手配、その他の侍従に対する根回し。
 他にもアンナ様は、命を狙われておりますから、そちらのフォローも必要です。
 こちらにいる分には、気を抜いていても大丈夫ですが、本宅では、常に何が混ざっていてもおかしく
 ないと思ってください。
 ありとあらゆるものに気を使い、360度、アンナ様が触るもの着るもの食べるもの、何もかもに注意を
 しなくてはいけません。
 それができてこそ、お客様への対応が可能です。
 私が、アンナ様の側にいたいのはやまやまですが、力不足な方が側にいては、お客様に申し訳ないです
 から、私がいいと判断するまでそちらを全うしてください!
 いいですか?化粧1つとっても、今の流行りがあり、そこにアンナ様らしいものにしなくてはいけ
 ません。
 着るものの手配も然り。アンナ様は、どういうわけか、ドレスを着て優雅に奥様をされる方では
 ありません。
 汚い服を着て嬉々として、すっぴんで出歩き、泥まみれになり下町で男性たちにまぎれ、動き回られ
 ます。
 私としては、お部屋で大人しくしていてほしいところですけど、目を離すと模擬剣を持って、すぐ、
 どこかへ飛んで行ってしまいます。
 いいですか!主である前に、手綱のない暴れ馬と思ってください。
 それを制御するのが、リアン様……いえ、リアンの仕事です!
 わかりましたか?
 かなりのじゃじゃ馬ですからね!
 制御することがあなたの仕事であり、ついて回らないといけないのです。
 先手を考え、先回りをして、アンナ様よりアンナ様がどのように動かれるかをしっかり把握する必要が
 あるのですよ!」


 私は、デリアがリアンへの引継ぎ……もとい、注意を言っているのに唖然としてしまった。
 いや、私だけでなく、ジョージアもリアンもポカンとしている。
 最初は、やんわりお客様へ新人を付けるのはダメだと窘めてくれていた。
 それは、頷ける。
 だんだん、私のことに話が移行していったのはわかった。
 えっと……デリアにも私はじゃじゃ馬だと思われていたらしい……
 そんなこと、1度も言われたことなかったし、そんな風に思っているとも露知らず……
 本人目の前に置いて、私の取り扱い説明をし始めた。


「えっと……デリア?」
「はい、アンナ様」
「私って……じゃじゃ馬……?暴れ馬……?手綱は必要かしら……?」
「何を今更ですか?
 それくらいの人でなければ、アンバー公爵家の奥様が務まる思っておられるのですか?
 アンバー領の今後を担うのはアンナ様だけですからね!」
「デリアの言い分に、俺は同意だよ。
 アンナくらいじゃないと、この領地改革は無理だ……」
「あのジョージア様、領地じゃなくて……ジョージア様もじゃじゃ馬って……
 あっ!目逸らした!
 私のこと、そんなふうに思ってるんですね!
 こっち見てくださいよ!ねぇ!!」


 ぷはははは……
 いきなりの笑い声に、私は驚いた。
 笑っている人を見ると、リアンであった。


「アンナリーゼ様、失礼しました。
 デリアのいうことが、あまりにも当てはまっていて……おかしくて……」


 笑いを抑えようとしているのだが、なかなかうまくいかないようである。
 そんな様子を見て、ジョージアが私の方へ視線を向けてくる。


「アンナは、みんなから同じように思われているみたいだね……?
 俺は、学生の頃のアンナも知っているから、デリアの言葉は納得してしまったけど、改めて、しっかり
 した女性じゃないとこの窮地は乗り越えられないよ」
「アンナリーゼ様、私はあなたの言葉で子供たちの将来を真剣に考えることができました。
 離婚してあの子たちを立派な大人にできるよう、私も努力したいと思っています。
 デリアに言われたとおり、アンナリーゼ様に侍らせていただきたく思います。
 デリア程、目端は利かないかもしれませんが、努力させていただきますので、どうかよろしく
 お願いいたします」


 煙に巻かれたかのように話が進んでしまい、なんとなくこれ以上は言えない雰囲気だ。
 仕方がないし、私自身、デリアを振り回しまわっている自覚はあるので、言われたことは認めるしかない。


「はぁ……デリア、苦労かけてごめんね。
 私、なるべく大人しくなるように努力するけど……」
「無理ですね!」
「無理だろう……」
「できないかと……」


 三者三様に言われる。
 私、どんだけ行動的なのだろう……?
 ちゃんと、行先とか言ってから出てくるんだけどなぁ?


「むしろ、そんなできない努力はせずに、どんどん外で好きなことをしたらいいさ。
 俺がアンナのフォローをするし!」
「そうです!
 アンナ様を慕っている方々が待っているのですから、好きなことをされればいいのですよ!」


 なんだか、慰められているのだけど……嬉しいのかよくわからない。
 私、これでも……公爵夫人で、これから公爵位までもらうのだから、それにふさわしい立ち居振る舞いも必要だと思うのだけど、それを求められていない。
 おかしいな……?と思いながら、私は私でいいと言ってくれることに少し安堵もする。


「わかったわ!
 これからも、楽しく出歩くから私のフォローをお願いします!
 それと、もうすぐ悪阻がくるだろうから、お世話よろしくね!」
「悪阻ですか……?おめでとうございます!」 
「まだ、ヨハンに診てもらってないけど、また、迷惑かけるわ!
 ただ、まだ内緒でお願いね!馬も乗っちゃダメになるのね……
 はぁ……嬉しいのだけど、嬉しいのだけど……レナンテ……」
「では、ヨハン教授を明日にでも呼び出しましょう!
 レナンテは、2年くらいなら待ってくれていますよ!
 大丈夫ですから、まずは、体を大事にしてください!」


 はい……とデリアに返事する。
 こうなると、やはり出産経験のあるリアンが側にいる方がいいということになった。
 私達の話し合いが終わり、侍女の引継ぎの話にをするようである。
 邪魔な私たち親子は、デリアに声をかけたうえで、久しぶりに訪れた領地の屋敷を散歩することにした。
 久しぶりにのんびりした日だ。
 ぐぅーっと体を伸ばすと、ジョーも気持ちよさげにしている。
 私達母娘は、こちらの空気の方が肌に合うようで、二人でキャッキャッと騒げば、優しくジョージアがそれを見守ってくれるのであった。
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